第101話/これもまた良い誕生日
朝宮だけを連れて、二階の部屋へやってきた。
部屋が薄暗いままだが、俺はこれからすることが恥ずかしくて、電気を付けずに話を始めた。
「どうしました?」
「ずっと隠しててごめんな」
「さっき謝ってもらえたので大丈夫です!」
「よかった。それでさ、まだ大学は卒業できないけど、朝宮は今日で二十歳だ」
「そうですね!」
「だからさ、誕生日プレゼントってことで渡したいものがある」
「ワクワク! ワクワク!」
「子供かよ」
俺は、ずっと自分のカバンの底板の裏に隠していた、一枚の封筒を取り出した。
「た、誕生日おめでとう」
「ありがとうございます! 現金ですか?」
「そんな夢のないもの渡すかよ!」
「だって、毎月のお小遣いが五千円は大学生にはキツすぎます。毎月三千円貯金してますし」
「バイトしろよ。って、よく生活できてるな」
「いつか、掃部さんにお金を返すためです!」
「そういうとこはしっかりしてるよな。とにかく、そんなのいいから早く開けてくれ。俺の心臓が持たん」
「分かりました!」
朝宮は封筒を開き、一枚の紙を取り出して広げた。
「これって」
「婚姻届。俺の分は全部書いてある。俺はその気だから、卒業して、朝宮が書く場所を埋めたその紙を、次は俺にプレゼントしてくれたら嬉しい」
俺がそう言うと朝宮は、勢いよく俺を抱きしめ、その勢いで俺達二人はベッドに倒れてしまった。
なんだか、このまま‥‥‥もういいかなと思ってしまう。
そして、そのまま朝宮を強く抱き寄せると、朝宮は恥ずかしそうに俺の顔を見つめた。
「し、下にみんな居ますよ?」
「なんか、今なら気持ち的に大丈夫そうだから」
「掃部さんがいいなら、私も大丈夫です‥‥‥」
俺は朝宮に意識がいってしまい、そのまま朝宮の服を脱がし、朝宮が下着姿になって、キスをしようとしたその時、部屋の扉が開いた。
「あっ」
「‥‥‥」
「‥‥‥」
島村と目が合って、数秒の沈黙が流れた後、島村は階段の方を向いて言った。
「二人が夜の営みしてます!」
「え!?」
「マジぃ!?」
「行くぞー!!」
三人が勢いよく二階に駆け上がってきて、朝宮は下着姿を見られてしまった。
「で、出ていってください!!」
「和夏菜ちゃ〜ん♡!」
「きゃ!」
咲野は朝宮に飛びついて、谷間に顔を埋め始めた。
なんて羨ましい。
「柔らかい!」
「やめなさい!」
「一輝もやることやってんだねー」
「一輝くん! ファイト!」
「み、見られてできるか!! とにかく無し無し!! 子供が欲しくなるまで無し!! リビング行っとくわ」
「あべっ!!」
咲野の変な声と共に、背後から凄まじい殺気を感じて振り向くと、倒れた咲野と、下着姿のまま立って、ゆっくり俺に向かって歩いてくる朝宮がいた。
「ふ、服着た方が‥‥‥」
「気持ちを踏みにじるんですか?」
「まぁまぁ和夏菜! おめでとーう!」
「あっ!!」
明らかに怒っている朝宮を宥めようと、絵梨奈がお酒を飲ませてしまった。
「にっ、苦いです!」
「バカ!! 朝宮に酒なんか飲ませたら!!」
「へ? 別に普通じゃん。ほれ、飲め飲め〜」
「ん〜!」
「どうなっても知らないからな‥‥‥」
絵梨奈は一缶全てを飲ませてしまい、朝宮はピトッと女の子座りで床に座り込んだ。
「なんだか暑いです‥‥‥」
「あぁー! 脱ごうとしないの!」
見ちゃダメ見ちゃダメ。
「掃部さぁ〜ん♡」
朝宮が絵梨奈に抱きついて、絵梨奈は這いつくばりながら必死に廊下に出ようとするが、朝宮に引っ張られて逃げられなくなっている。
「私は一輝じゃないって!」
「えへへー♡ さっきの続きしましょー♡」
「やめてやめて!」
「和夏菜ちゃんって、酔うと可愛くなるんだね」
「しかも記憶無くすからな、こいつ」
「え、未成年の時に経験済みですか?」
「チョコレートボンボンでな。てか、咲野はいつまでベッドの上で気絶してんだ? ベッド洗わなきゃいけないじゃん」
「ちょっとあんたら! 呑気に話してないで助けてよ!」
「女との浮気は認める!!」
「それどうなの!?!?!?!?」
「掃部さん、おっぱいあるー♡ うへへ〜♡」
「いやぁ〜!!!!」
俺達三人は、朝宮と絵梨奈と咲野を部屋に残して、リビングに戻ってきた。
「あんま片付いてないけど、まぁ今はいいや。んで、なんでみんな集まったんだ?」
「浮気した一輝くんを詰めるついでに、和夏菜ちゃんの誕生日をお祝いしよってなって」
「な、なるほどな」
「それより、一階に私達がいるのに始めようとしないでくださいよ」
「な、なんかあれだよ‥‥‥ご、ごめん」
「朝宮さん、全然そういうことが起きないから、嫌われてるんじゃないかって不安がってましたよ」
「私とそういう雰囲気になったことはあるのにね」
「あったか? って、朝宮の前で言うなよっ!?」
「ムキー!!」
「朝宮!?」
俺はいつのまにか背後にいた朝宮に背中を蹴られ、島村が小さな身体で朝宮を押さえつけた。
「なんで私とはしないんですか!! 私もしたい!!」
「言ってること分かってるか!?」
「服を着ましょうね」
「絶対してやる!! 今日の夜するもん!!」
朝宮は島村に連れて行かれ、日向は顔を引き攣らせながら「ごめんね」と謝ってきた。
「朝宮、欲求不満なのかな」
「今までそういうことなかったんだっけ?」
「うん」
「欲求不満っていうか、愛を感じたいだけじゃない?」
「‥‥‥まぁいいや。酒が抜ければ落ち着くだろうし、誕生日会はそれからでも大丈夫か?」
「明日大学行かなきゃだから、私はこの辺で帰るよ!」
「そうか」
「みんなによろしくね!」
「おう!」
日向は帰って行き、意識を取り戻した咲野が、島村と一緒にリビングへやってきた。
「おぉ、大丈夫か?」
「和夏菜ちゃんになら、なにされても平気だよ♡ でも私、明日も仕事だから帰らなきゃ」
「なんの仕事してるんだ?」
「IT系かな!」
「はぁ!? 咲野が!?」
「うん! リサイクルショップでパソコン打つ仕事!」
「あぁ、なるほどね。買取コーナーね」
「そうそう! 二十四時間営業だから、夜勤とか辛いよ。夜中に来るお客さん、アダルトコーナーに行くか、怖そうなカップルだけだし」
「へー。まぁ頑張れよ」
「うん! ありがとう! いつまでも幸せにね!」
「ありがとうな!」
「それじゃバイバーイ! の前に、和夏菜ちゃんの椅子をクンクン♡」
「きもっ‥‥‥」
「バイバーイ!」
「はーい‥‥‥」
咲野もあっさり帰ってしまった。
みんな大学やら仕事で、高校の時みたいな自由さは無くなってしまったな。
「しーちゃんは帰らなくて大丈夫か?」
「はい、明日休みなので」
「そうか。陽大とはどうだ? 最近連絡取れてなくてさ」
「陽大さんはまったく変わりませんよ」
「よかったよかった。キスぐらいしたか?」
「いえ、手を繋ぐとこまでです」
「まだその段階!?」
「掃部さんだって、こんな長く毎日ラブラブなのに、キス止まりなんですよね」
「たしかに人のこと言えないか。それよりさ」
「なんですか?」
「高校の頃に撮った俺達の写真とかって、まだあったりするのか?」
「ありますよ? プリントしていないものも、USBメモリにしっかりと」
「実はさ、多分、数年以内に結婚かなって考えてるんだ」
「いいじゃないですか」
「結婚式するってなったら、スライドショーとかよろしくな」
「依頼料」
「陽大の好きな女の容姿」
「承ります。では先に教えてください」
「坊主」
「嘘ですよね。でも分かりました。スライドショー楽しみにしててください」
「なんか怖い!!」
「あはははははは」
「顔笑ってないよ!?」
その時、二階から朝宮と絵梨奈の笑い声が聞こえてきて、島村と一緒に二階乃部屋に戻ってくると、朝宮はちゃんと服を着て、絵梨奈とお酒を飲みながら雑談を楽しんでいた。
「仲良くやってんな」
「掃部さんは未成年だから残念ですね!」
「誕生日が来たらみんなで飲もう! しーちゃんは?」
「私も未成年です」
「おぉ! しーちゃんは仲間だったか!」
俺がそう言うと、朝宮はムッとした顔で頬を膨らませながら島村に顔を近づけた。
「早く大人になってください!」
「嫉妬しないでください。明日なります」
「明日なのかよ!!」
「それじゃあさ! 十二時回った瞬間にお酒解禁しようよ!」
「それならいいですけど」
「そんな時間まで居る気かよ! 二人はもう帰ったぞ!」
「なんだ、帰っちゃったんだー」
「それと、朝宮はほどほどにしろよ?」
「大丈夫だもーん!」
「俺が居る時以外は飲むなよ」
「分かってますよ! 掃部さんを不安になんてさせませんよ!」
「そりゃどうも」
※
あれから朝宮の誕生日を祝いつつ、日を跨いで時刻は午前一時。
「酒持ってこーい!」
「いいぞー! しーちゃん最高!」
島村は完全に酔っぱらって性格が変わり、絵梨奈もまだノリノリだ。
朝宮はというと、ずっと俺にベタベタしてきて暑くてしょうがない。
「掃部さぁ〜ん♡ 好きですよー♡」
「はいはい。ありがとう」
結局その日は二人とも泊まることになり、三人仲良くギューギュー詰めになってベッドで寝て、俺は母親の部屋のベッドに入った。
家を荒らされたけど、朝宮には渡したかったもの渡せたし、こういう誕生日会も良しとしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます