第97話/まだ想いがあるなら
朝宮と受験勉強をして、勉強の休憩時間に、それなりにカップルらしくイチャついたりしているうちに年が明けてしまった。
今日は朝宮と二人で、陽大のとこの神社に初詣に行き、合格祈願のお守りを買う予定だが、今は部屋のこたつに入り、寛いでいる。
「年越し蕎麦食べたいです!」
「夜中に食ったろ」
「寝て起きたらお腹空くじゃないですか! 朝ごはんですよ!!」
「また蕎麦でいいのか? なんなら、昼じゃなくて今から初詣行って、豚汁でも良いかなって思ってたんだけど」
「豚汁ですかー」
「珍しく嫌そうだな」
「陽大さんの目の前で食べたら怒られませんかね」
「ずるいとは思われるだろうな」
「仲間を食べられたら怒りますよね」
「言ってやろ」
「やめてください! 冗談です! ちなみに、掃部さんがタコさんウインナー食べてる時に共食いだって思ってるのは本当です!」
「初耳なんですけど!?!?!?!?」
「比べるものがないので、実際は小さいか大きいかは知りませんが」
「は? マジ? 実際くそデカいぞ」
「平均はどれくらいなんです?」
「丸まったダンゴムシぐらい」
「なるほどです‥‥‥」
朝宮は何故か不安そうな表情を浮かべた。
「どうした?」
「最初は激痛って聞くじゃないですか」
「そうだな」
「平均がダンゴムシサイズなら、掃部さんのは大型トラックですよね。私、痛くて死ぬんじゃないかと」
「たしかにトラックってたまに、トンネルの天井にぶつかって進まなくなるもんな」
「例えが上手くて変態っぽいです! 謝ってください!」
「なんで!? てか、新年早々なに話してんだよ」
「掃部さんが話し出したんじゃないですか」
「朝宮だろ。それに、最近下ネタ増えたよな。絶対欲求不満だろ。たまには家に一人にしてやろうか?」
「生々しい気遣いやめてください! そもそも、それでどうして彼氏である掃部さんが抱こうとしないんですか!」
「子供が欲しくなってからって話でまとまっただろ!? いって!!」
コタツの中で脚にかかと落としをされ、思わず脚を外に出してしまった。
「なにすんだよ」
「私だって‥‥‥普通の女の子です。好きな人とそういうことをって考えたりもします。す、好きだからです」
「そ、それは悪かったよ」
「分かればいいんです! さぁ、どうします?」
「‥‥‥し‥‥‥してみる‥‥‥?」
「へーい! 騙されましたね! バーカバーカ!」
「さーて! 人生初の体験! 女を殴るぞー!」
「わー!!」
朝宮は走って一階へ降りて行き、俺は一気に体の力が抜けてコタツに脚を戻して横になった。
***
私はリビングに逃げてきて、激しく内側から胸を叩く心臓に手を当てて、呼吸を整えた。
素直に言ってみたけど、私の方が心の準備できてないや。
やっぱり、ちゃんと結婚してからにしよう!
きっと掃部さんは恥ずかしいってのもあるだろうけど、いざとなったら私の気持ちを尊重してくれてるし、私を汚いとは思ってない。
多分、子供が欲しくなったらって言ってるのは、計画性があるってことだもんね。って、子供?
当たり前のように結婚したらなんて考えちゃったけど、掃部さん、私と結婚する気満々!?
それに気づいた瞬間、また心臓が激しく胸を叩き、私の足は動き出していた。
***
横になって天井を見つめていると、階段を駆け上がってくる音が聞こえて、朝宮が勢いよく部屋に入ってきた。
「なんだ? 自ら殴られにっ」
朝宮は俺の顔の横に座り、そのまま唇にキスをして、頬を赤らめて俺を見つめた。
「愛してます」
「‥‥‥お、俺も」
恥ずかしそうに笑みを浮かべて、俺の頭を太ももの上に乗せた。
「初詣の準備しますか?」
「なんか、もう少しこのままがいいわ」
「はい! 喜んで!」
それからしばらく、膝枕をされながらたわいもない話をして、俺が満足してから初詣に行き、お揃いの合格祈願のお守りを買った。
※
気づけば三月。
俺は朝から試験の緊張でおかしくなり、朝宮との立場が逆転してしまっている。
「へーい! もうどうにでもなれー!」
「さっきからうるさいんですけど」
「なんでそんなこと言うんだよ〜、朝宮ぁ〜」
「肩揺らさないでください。そんなことより、早くしないと遅れますよ? お守りは持ちましたか?」
「嫌だぁ〜!! 行きたくなーい!!」
「まったく。子供みたいなこと言わないでください」
「嫌だ嫌だぁー!!!!」
「もう、先に行きますからね」
「俺も行く!!」
「なんなんですか。朝から疲れさせないでください」
「冷たくしないでくれよ〜」
「はいはい」
俺達は一緒に家を出て、試験会場へ向かって歩き始めた。
***
その頃、時を同じくして紫乃と陽大は待ち合わせ場所の駅に集合していた。
「お待たせしました」
「おはよう!」
「おはようございます。勉強はしましたか?」
「バッチリだよ! 絶対受かって、大学でも一緒に新聞作ろうね!」
「はい。それと、もしも二人で受かったら‥‥‥」
「受かったら?」
「陽大さんの気持ちを受け入れます。受け入れたいです」
「僕の気持ち?」
「はい。わ‥‥‥私は‥‥‥」
「うん」
「なんでもないです」
「え!? 気になるよ!」
「受験が終わったら言います」
「絶対だよ?」
「はい。約束します」
「それじゃ行こうか!」
「はい」
紫乃は、大学のレベルを落としたことにより、受験の不安や緊張はまるで無かったが、陽大にずっと隠していた想いを打ち明けることだけは、緊張して、なかなか言葉に出来ずにいた。
***
「それじゃ掃部さん? 終わったら入り口集合ですよ?」
「あぁ‥‥‥」
「緊張と寒さでお腹壊すといけないので、お腹にカイロ貼ってください」
「貼ってくれ‥‥‥」
「急にバブちゃんになるのやめてくださいよ」
「はぁ‥‥‥」
「大丈夫ですって、たくさん勉強したんですから」
朝宮は俺の腹にカイロを貼り、優しく手を握った。
「頑張りましょ!」
「そうだな。頑張る」
「試験が終わればストレスからも解放されますから、今日はケーキでも買って帰りましょうね!」
「おう」
俺達は別の部屋で試験を受けることになっていて、一度朝宮と離れ、俺は知らない人達の予習復習の勢いに飲まれて、俺も必死に予習復習を始めた。
※
「お疲れ様です!」
「終わった終わったー!」
「急に元気になりましたね」
「やっと解放されたからな!」
やっと試験が終わり、手応えもあった。
絶対大丈夫だ!
「それじゃケーキ奢りますから、ケーキ屋さんに寄っていきましょ!」
「俺はプリン買ってやるよ!」
「焼きプリンがいいです!」
「任せろ! そんじゃ、春にはここの生徒として、また二人で来よう」
「はい!」
あとは残すとこ、卒業と合格発表だけになり、新しい未来にワクワクしながら朝宮と手を繋いでケーキ屋に向かった。
※
「あれ? 陽大じゃん! しーちゃんも!」
「一輝! それに和夏菜さん!」
「こんにちは」
「こんにちは! 二人も今日が試験だったの?」
「あぁ、無事終わったぜ! 陽大は? 手応えあったか?」
「やれることは全部やったからね! きっと大丈夫!」
「私が勉強を教えたので大丈夫です」
「私も掃部さんに勉強を教えたので、落ちることは許されません」
「凄いプレッシャーだな。てか、二人もケーキか?」
「今日まで頑張ったお祝いに、ケーキを買って部室で食べようって話になったんだよ! 一輝達は家でパーティー?」
「似たようなもんだ」
「いいね! それじゃ僕達は行くね!」
「おう」
卒業まであと十日。
陽大や島村と会うのも、当たり前じゃなくなるんだろうな。
そう思うとなんか、寂しくなってくる。
でも、陽大となら卒業しても、たまに遊んだりはするだろう。
少し距離を置きながらも、いつも優しい奴だし、俺はずっと陽大と仲良くしていたい。
それに二人が付き合えれば、ダブルデートとかもできそうだしな。
「掃部さん?」
「あっ、シュークリームも買うか」
「はい!」
俺達も食べたいものを買いたいだけ買って家に戻ってきた。
***
私は今、新聞部の部室で陽大さんと一緒にケーキを食べている。
もう部活の活動は終わっているけど、先生の優しさで、卒業まで部室を使っていいことになってる。
「このシュークリーム美味しいね!」
「ですね」
「そういえば、僕が試験受けた教室で、しーちゃんみたいな、ちょんまげの人が居たよ!」
「珍しいですね。この歳でちょんまげとか、やめた方がいいと思いますけど」
「それ、しーちゃんが言うんだ」
「その人、似合ってました?」
「うん! なんかボーイッシュ? スタイリッシュ? 明るそうな人で似合ってたよ!」
「‥‥‥」
「しーちゃん?」
「なんでもありません。あと全部食べていいですよ」
「本当!? ありがとう!」
「それで、無事にお互い受かっていたらの話なんですけど」
「うん! なに?」
「申し訳ないんですが、やっぱり私の口からは言えません。は、恥じらいというやつです。なので、陽大さんがまだ私に何かかしらの想いがあるなら、その‥‥‥待ってますね」
「わ‥‥‥分かった! 受かってるといいなー!」
「きっと受かってますよ」
誰かを大切に思うのは怖いけど、陽大さんならきっと大丈夫ですよね。
***
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