一生貴方を

第95話/毎日が幸せ


朝宮の誕生日当日、朝から朝宮に電話をかけたが、電話に出てくれない。

そもそも、ここ数日話していない。

とにかく、おめでとうのメッセージだけ送り、残りの夏休みの宿題に取り掛かった。





昼過ぎに全ての宿題が終わり、達成感を感じながら床に寝そべっていると、家のチャイムが鳴り、朝宮の『またすぐに会えます』と言う言葉が頭によぎった。

だが、すぐに玄関へ行きとびらを開けると、そこに立っていたのは寧々だった。


「なんだ、寧々か」

「その反応は失礼じゃない?」

「なんの用だ?」

「普通に遊びにきたのと、一つお願いがあって来たの!」

「お願い?」

「とりあえず入っていい? 暑いよ」

「あ、あぁ、俺の部屋に行こう」


先に寧々を二階に行かせて、俺は冷蔵庫から自分の分と寧々の分のアイスを持って部屋に入った。


「ほら、食え」

「ありがとう!」

「で? お願いってなんだ?」

「心して聞いてね?」

「うん」

「一輝お兄ちゃんは、新学期に入ってから告白される」

「へ?」

「そこでね、私はずっとその子に相談されてて、一輝お兄ちゃんに彼女がいることを言えてないの」

「言えば解決だろ」

「なんか言いにくくて。それで、しーちゃん先輩が」

「なにその呼び方」

「しーちゃんでいいって言われたけど、一応先輩付けてるの」

「なるほど。偉いな」

「うん、しーちゃん先輩がね、その話を嗅ぎつけて面白がっちゃって、公開告白して断りにくい空気を作りましょうとか言い出しちゃって」

「うん、なんか想像できる。もちろん断ったよな?」

「オッケーしちゃった‥‥‥」

「はぁ!? 俺、公開告白されるの!?」

「うん、体育館で」

「咲野のヤバさ知ってるだろ? その寧々の友達、タダじゃ済まされないぞ?」

「それはしーちゃん先輩が説得するって」

「‥‥‥断りにくい空気の中で、しかもみんなの前で振られたら、その友達大丈夫なのか?」

「振るの?」

「振るよね!? 朝宮と付き合ってるんだぞ!?」

「できれば数日間付き合ってあげて、それから個人的に振るとかできない?」

「数日間浮気しろと?」

「和夏菜先輩はいないんだし、なんとかバレずにできないかな」

「バレて俺が振られたら絶望なんだけど」

「そこは私が頑張るから!」

「いやー‥‥‥朝宮も怖いぞ?」

「確かに怖い瞬間とかあるけど、それ以上に優しいから分かってくれるよ!」

「その場の空気感で決めるじゃダメか? 俺と朝宮が付き合ってることを知ってる奴もいるんだ。そもそも浮気したくないし、その時になってから決める」

「んー、分かった。でも、一輝お兄ちゃんを狙ってるバレー部の後輩は他にも居るし、これから卒業する前に告白しようって子も多いと思うよ?」

「すげーな俺」

「身内として鼻が高いよ」

「朝宮が知ったら、嫉妬して学校に行かせてもらえなそうだけどな」

「和夏菜先輩も、付き合ってるってハッキリ言ってから転校すればよかったのに。そうすれば新しく入ってきた一年生にも、自然と噂話流れたと思うんだけど」

「朝宮は恥ずかしがり屋だからな」

「なのにクールぶってて可愛いよね」

「そうだな!」


それから寧々には、朝宮とのことで質問攻めをくらい、長い間恋話に花を咲かせた。





「また明日ね」

「おう」


寧々は日が暮れてから帰っていき、カップ麺でも食べるかとリビングへやってきた時、朝宮からメッセージの返事、『ありがとうございます』とだけ返ってきた。

冷たい。いや、メッセージだと前からこんな感じか。

そう思ってスタンプで返事をしようと、スタンプを選んでいる時、『プレゼント期待してます』とメッセージが届いた。

やっぱり冬休みと言わずに、金曜日の夜に家を出て会いに行くか。





翌朝、新学期が始まって、学校に行きたくないと思いながら自転車に跨った時、朝宮から電話がかかってきた。


「もしもし?」

「今、貴方の家の前にいるの」

「残念、俺も家の前でしたー」

「今、貴方の後ろにいるの」


そう言われて、あり得ないと分かっていながらも振り向いてしまった。


「いないじゃんかよ」

「振り向いたんですか?」

「う、うん」

「ププッ!」

「なんなんだよ。俺はこれから学校なんだ」

「私はまだ家でのんびりしてまーす!」

「今日で夏休み終わりじゃないのか?」

「まぁまぁ、細かいことはいいじゃないですか!」

「要件は?」

「声が聞きたくなりました!」

「ったく。んじゃ歩きで行くから、しばらく話すか?」

「はい!」


朝宮と電話するために、自転車ではなく歩きで登校することにした。


「最近、連絡少なくて心配だったぞ」

「本当に忙しかったんですよ!」

「遊びが?」

「ただの遊びじゃありません! 感謝を込めて遊びました!」

「なにやらかした」

「どうして私がやらかしたことになるんですか!!」

「違うのか?」

「違いますよ。それより、一つ質問いいですか?」

「なんでも聞いてくれ」

「‥‥‥いえ、やっぱりまた後でにします!」

「逆に気になる」

「気にせず眠れ。安らかに‥‥‥」

「勝手に殺すな!!」

「あっ、私もそろそろ準備するので、さよなら!」

「え、まだ半分も歩いてないんだけど、チャリでよかったくね?」

掃部かもんさん」

「なんだ」

「好きですよ」

「おい、誤魔化すな」

「ブーッ!」

「えっ」


唾を吹きかけるような音を出されて、電話を切られてしまった。

子供かよ。





夏休みが終わったと言っても、まだまだ暑い中歩きで学校にたどり着き、廊下ですれ違った寧々にガッツポーズをされ、その次に、島村に「期待してます」と言われた。

新学期早々に告白されるやつか。

悪いけど、やっぱり俺は浮気なんてできない。

遠距離恋愛中なのに裏切ったことがバレたら、許してもらえても不安な気持ちにさせてしまうだろうし、なにより気分が悪い。

俺みたいな男が一丁前に振るのも、申し訳ない気持ちになるけど、振る覚悟をしておこう。


そんなこんなで教室にやってきて、みんなと久しぶりの再会で雑談に花を咲かせていると、咲野がA組にやって来て、俺の席の目の前に立った。


「ひ、久しぶり」


俺がそう言うと、刃を最大まで伸ばしたカッターを俺に向けて、ニコッと不気味な笑みを浮かべた。


「言いたいこと分かるよね♡?」

「は、はい‥‥‥」

「寧々ちゃんの頼みだからって、さすがにね♡?」

「はい‥‥‥」


島村、絶対咲野のこと説得してない‥‥‥。

告白を断るって決めてるのに、すげー怖いよ。


咲野はカッターをしまってくれ、絵梨奈が咲野に聞いた。


「一輝、なにかしたの?」

「なにかするかもしれないから、釘刺しておいたの!」

「唯なら実際に釘刺しそうなのに、偉いじゃん」

「あっ、それもいいね! 私がしたことで一輝くんが悶え苦しむのは見てて興奮するかもぉ♡」

「やめてくれよ?」

「しないよ!」

「うん。ストレス溜まってるなら、爽真にしてくれ」

「僕!?」

「んじゃ陽大」

「僕、逃げ足だけは早いよ」

「身軽なポッチャリっているよな」

「動けるデブだからね!」

「デブの自覚あったんだ」

「明るいデブは好かれるらしいから、開き直ってる!」

「痩せればいいだけなのに」


絵梨奈の正論で、陽大は大仏のような顔をして黙ってしまった。





話も程々に、朝のホームルームが始まる前に体育館へ移動し、始業式が始まった。

体育館の右側で、何故か島村が生徒会長達と一緒に並んでるのが嫌な予感するけど、さすがに始業式では告白しないだろ。





そう思っていた時が俺にもありました。


「新聞部部長! 島村紫乃さん主催の新学期一発目のイベントはー! 公開告白! しーちゃん、説明をどうぞ!」


島村ぁ〜!!!!

生徒主催のイベントに寛大な教師しかいないのも問題だろ!!

こんな全生徒と教師がいる前で告白かよ!!


「三年A組、掃部一輝さん、一年C組、大塚紗雪おおつかさゆきさん、ステージへ上がって来てください。みなさん拍手」


拍手されながら、ステージの上へ移動して来たが、大塚とやらが上がって来ない。


「おい島村」

「はい」

「やっぱりやめよう」

「もう後に引けません」


くそ。

俺は断るからな。そもそも、俺の気持ちの前に、朝宮みたいな圧倒的美少女と付き合っていて、他の子と浮気ってのがあり得ない話なんだ。


注目を浴びてソワソワしていると、友達に背中を押されて、顔を赤くした女子生徒がステージへ上がってきた。

まさかの、ポニーテールで爽やか系の正統派清楚かわい子ちゃんが現れ、こんな子に好かれていると知った俺は、正直嬉しくなってしまった。


「さぁ、運命の時です。みなさんで見守りましょう」


島村が大塚の口元にマイクを近づけると、大塚は一瞬脚を震わせて口を開いた。


「い、一輝先輩!」

「は、はい」

「ずっと前から、先輩のことが‥‥‥すっ、すすっ!」

「‥‥‥」

「‥‥‥好きです!」


本当に告白されちゃったよ!!!!


「よかったら、私と付き合ってください!!」


それを見ていた生徒達が盛り上がる中、ここまで来て、この子がみんなの前で恥をかくのが、可哀想とか思ってしまっている。

みんなも、この場のノリで浮気とかどうでも良くなってるっぽいし。

なんて言えばいいんだ‥‥‥。


「せ、先輩?」

「‥‥‥えっと‥‥‥」


俺が返事をすると察したみんなが静かになったその時、体育館の大きな扉が開き、俺は目を疑った。


「‥‥‥朝宮!?」

「転校初日から最悪な気分です」

「和夏菜!」

「和夏菜さーん!」

「朝宮さん!」

「誰あのクールな美人」

「めちゃくちゃ綺麗じゃない?」


朝宮を知る者は喜び、知らない一年生はただただ朝宮に見惚れた。

でも俺には分かる‥‥‥朝宮は怒っている。

そして転校ってなに!?!?!?!?

聞いてないんだけど!!


朝宮はゆっくりステージに上がって来て、大塚からマイクを奪った。


「初めまして。私は掃部かもんさんの恋人です」

「あーあ、修羅場だね」


芽衣子先生の声が聞こえて、無言で助けを求めるが、すぐに目を逸らされてしまった。


「こ、恋人?」

「はい。訳あって宮城の学校へ転校していましたが、今日から戻ってきました。朝のホームルームでサプライズしようかと思って、職員室で待機していたのですが、なにやら良くない状況でしたので」

「こ、こんな綺麗な恋人がいたんですか?」

「う、うん、ごめん」

「大塚さんでしたか?」

「はい‥‥‥」

掃部かもんさんの好きなところを言ってみなさい」

「え、えっと、優しそうで、勉強もできて爽やかで、みんなに平等に接してるのが、す、好きです!」

「優しいのは認めます。ですが、勉強は私がいないとできなくて、爽やかどころか、家にいる時は髪の毛ボサボサで、みんなに平等と言いました?」

「は、はい‥‥‥」

「私だけには甘々の甘えん坊。私に会いたくて頭が回らなくなる人です」

「あ、朝宮?」

「先輩が甘えん坊?」

「はい、バブちゃんです。赤ちゃんプレイが好きです」

「なに嘘ついてんの!?」

「いつもオムツを履いています」

「そんな‥‥‥一輝先輩が‥‥‥」

「信じるな!! みんなも騙されるな!!」

「でも、和夏菜さんが嘘つくとは思えないよ」

「一輝、意外だったな‥‥‥」

「爽真! 陽大! お前らが信じてどうする!!」

「もう一つ言うと」

「朝宮! もうやめてくれ!」

掃部かもんさんは私以外に触れることができません」

「え?」

「そして、私を信じてくれています。だから、私達の関係を邪魔しないでほしいです。貴方が掃部かもんさんを好きになったのは、見る目がある人だなと確信していますが、私は、誰にも掃部かもんさんを渡すつもりはありません」

「‥‥‥」

「何故なら、心の底から愛しているからです」


あぁー!!恥ずかしい!!

こんな公開告白、恥ずかしぬ!!


「‥‥‥わ、分かりました‥‥‥。二人の関係を応援します!」

「なら、私と貴方は今日から友達です。掃部かもんさんが浮気をしたら、掃部かもんさんを埋める穴を一緒に掘る権利を与えます」

「物騒な友達増やすな」

「はい!!」

「君も『はい』じゃねぇよ」


こうして公開告白は終わって教室に戻ってくると、芽衣子先生が苦笑いで言った。


「もうバレバレですが、転校生を紹介します! 入ってきて!」


朝宮が帰ってきた‥‥‥。

この教室に朝宮がいる。


朝宮は黒板の前に立って言った。


「また、よろしくお願いします」

「やったー!」

「おかえりー!」

「和夏菜ちゃん!」

「おかえり!」


みんなが喜ぶ中、廊下から日向と咲野の声が聞こえてきて、島村もカメラを構えて、朝宮を撮影していた。

本当、朝宮は色んな人に好かれてるな。


そして、朝宮は俺の隣の席に座り、淑やかな笑みを浮かべて俺を見つめた。


「ただいま」

「おかえり」





今日は朝宮が戻ってきて、一日中大騒ぎだった。

一年生が教室の前に群がったり、朝宮はいろんな生徒に話しかけられて、俺はあまり話すことができずに帰宅してきた。


家に帰ってきてしばらくしてチャイムが鳴り、朝宮を玄関に入れた。


「おかえり」

「ただいまです」


何故か朝宮は靴を脱ごうとしない。


「どうした?」

「朝にしようとした質問です」

「あれか、なんだ?」

「私は自分の家で暮らすことが苦痛じゃなくなりました」

「それはよかった」

「それを知った上で、掃部かもんさんは私にどうしてほしいですか?」

「そうだな‥‥‥わがまま言うぞ?」

「は、はい」

「またこの家で一緒に暮らしたい」


朝宮は嬉しそうに頬を赤くして俯いた。


「朝宮が俺の家に住んでから毎日が楽しくて、居ないと寂しくて、だから一緒に居てほしい」

「しょ、しょうがないですね」

「ありがとう! んで‥‥‥みんなの前でなに言ってくれてんだ!!!!」

「赤ちゃんプレイですか? なんなら本当に好きになれば問題ないじゃないですか!」

「はぁ!?」

「はーい♡ ミルクの時間でちゅよー!」

「来るな!!」

「待て待てー♡ おむつ変えてあげまちゅねー♡」

「うぉー!! 土足で入ってんじゃねぇ!!」

「あらごめんなさい。最近までアメリカに居たので」

「宮城ってアメリカなんだ。初めて知ったわ」

「なに言ってるんですか? 馬鹿なんですか?」

「なんだお前」

「掃部和夏菜です!」

「なに言ってんの?」

「結婚したらそうなります!」

「苗字と名前合わないから、結婚しない方がよさそうだな」

「はい? 私と結婚しないとか、掃部かもんさん一生独身になってしまいますよ? たから婚約指輪ください!」

「気が早い! あっ、いや、ちょっと待ってろ」

「はい」

「あと靴脱げ」

「はい」


婚約指輪と聞いて、ペアリングの存在を思い出して、急いで自分の部屋からペアリングを持ってリビングに戻ってきた。


「渡したいものがある」

「なんですか!?」

「誕生日プレゼントのつもりだったけど、そ、そういう意味にする」

「どういう意味ですか?」


朝宮の右手の薬指に指輪をはめて、自分の指にも指輪を通した。


「こ、婚約指輪‥‥‥」

「‥‥‥私‥‥‥」

「一生よろしくな!」

「シルバーアレルギーです」

「‥‥‥」

「これは飾っておきますね!」

「ふざけんなぁ〜!!!!」

「まぁまぁ! はい、ちゅー!」

「やめろ! 恥ずかしい!!」

「んじゃ、ぎゅー!」

「はい、ぎゅー‥‥‥」

「本当に婚約ですからね? 私と一生一緒にいる覚悟できてます?」

「当たり前だろ」

「‥‥‥もう、掃部かもんさんの前から居なくなったりしません」

「頼むぞ?」

「はい! ずっと愛してます」

「俺もだ」

「ちゃんと言ってください」

「愛してる」

「あ、ちょっとトイレ」

「空気壊すなよ!!!!」

「なら、トイレを我慢しながら、もう一度言わせてください」

「はいどうぞ」

「愛しています」

「身体震えてるぞ。早く行け」

「ダッシュ!!」





その日の夜、朝宮はずっとペアリングを眺めて一人でニコニコしていて、俺はそんな光景を見守りながら思った。


クールでアホ丸出しな清楚系美少女が俺の家に住み着いてから、毎日が幸せです!!

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