第93話/子供を作るには!


夏休みも終盤。

俺は朝宮が付いてこないように、朝宮が寝ている時間から家を出て、公園で時間を潰しながらショッピンモールへやってきた。

そう、朝宮の十八歳の誕生日プレゼントを買いに来たのだ。

また会えなくなるし、プレゼントを見て俺を思い出してくれるような、そんな物がいい。


ショッピングモールへ着き、最初にアクセサリーコーナーへやってきたが、良い感じのものが見つからず、ぬいぐるみや小物入れなど、いろんなものを見て回ったが、ピンとくるものが全然みつからない。

毎回朝宮が欲しいものって分からないんだよな。


掃部かもんさん!」


背後から朝宮の声がして、慌てて振り向く。


「朝宮!?」


なんでここに朝宮が!?


「なんで一人でお出かけするんですか!」

「い、いや、なんでここが分かったんだよ」

「咲野さんからのアドバイスです! こっそり携帯のGPS共有して監視すべし!」


咲野の奴、余計なことを‥‥‥。


「そして、なにも言わずにどこかへ行った時は、喉に爪を立てて」

「ひっ!」

「浮気を疑え。これが咲野さんからのアドバイスです」


首に爪を立てられ、急に怖い顔をされてしまい、浮気していないのに、悪いことした気持ちになってしまう。


「どうしました? そんなに動揺して」

「う、浮気なんかするわけないだろ」

「さて、そうでしょうかね。まさか島村さんと浮気だなんてね」

「は?」 

「しーちゃんです」

「しーちゃん!?」


いつの間にか島村が俺の背後に立っていて、カメラを構えていた。


「浮気をされたらすべきこともアドバイスされてますが、実行していいですか?」

「な、なにする気だ?」

「男も女も埋めちゃえ♡ です」

「し、しーちゃん! 誤解を解け!」

「スクープです。この先を見たいです」

「いいから誤解を!」

「私はたまたま居合わせただけです」

「証拠はありますか?」

「ないです」

「埋めます」

「嫌です」

「嫌です」

「浮気していない証拠ならあります」

「なんですか?」

「私は掃部かもんさんが、これっぽっちもタイプじゃありません」

「なるほど。よかったです」

「良くないだろ。俺の心の傷はどうしてくれるんだ」

「彼女以外の女性に言われて傷ついているので、やっぱり掃部かもんさんは浮気をするタイプかもしれません」

「いやいやいや!」


また朝宮の鋭い目つき!!


「あ、朝宮だけです」

「なにがですか?」

「好きな人‥‥‥」

「シャッターチャンス」


島村は朝宮の顔が赤くなった瞬間を撮ってしまい、ちょんまげを掴まれてしまった。


「今の写真は消しなさい」

「は、はい‥‥‥」

「今日は陽大さんは一緒じゃないんですか?」

「一階でアイスを食べてます」

「陽大来てるのか。ちょっと会いに行ってくる」

「なら私は島村さんと」

「しーちゃんです」

「しーさん」

「ちゃん」

「しーちゃんと一緒にいますね」

「オッケー」


朝宮を島村に任せて、俺は陽大の元へやってきた。


「陽大!」

「一輝!」

「さっき、島村に会ったぞ」

「僕は和夏菜さんを見かけたけど」

「あぁ、一緒に来てる」

「そうなんだ! 会えてよかったね!」

「おう。でさ、急で悪いんだけど、朝宮の誕生日プレゼントのことで相談が」

「たしかにその時期だね! なんでも相談して」

「ズバリ、プレゼントはなににすべきか」

「やっぱり食べ物がいいよ!」

「それは陽大が欲しいものだろ」

「和夏菜さんなら、やっぱりプリン?」

「形として残るものがいいんだけど」

「んじゃ、二人は恋人だし、一輝が着てほしい下着とか?」

「絶対嫌だ」

「えー、んー‥‥‥あっ! ペアリング!」

「それだ!! ありがとう! もう一回アクセサリーの店見てくる!」

「またね!」

「おう!」


ペアリングなら、離れていても繋がってる感あるし、さすが陽大だ!

さっそく二階のアクセサリーショップへ戻ってくると、安いもので八千円という事実を知り、冷や汗が止まらなくなった。

そもそも、今の持ち金では買えないし、朝宮の指のサイズとか知らないし‥‥‥。


「ペアリングお探しですか?」

「あ、は、はい」


女性の店員さんに声をかけられてしまったが、今日は買えないし申し訳ないな。


「お相手の指のサイズは分かりますか?」

「それが分からないんですよね」

「一緒に来ていただければ、お調べできますが」

「できればサプライズで渡したくて」

「バレずにお調べするサービスもしております!」

「サービス?」

「はい! 日にちとお時間を教えていただければ、店の前にスタッフが立っていますので、お相手の方にバレないようにスタッフを見ながら軽く手を挙げてください! あとは上手くやりますよ!

「それじゃ、今からでもいいですか? モールのどこかに居るはずなので」

「はい! 是非! 店の前でお待ちしております!」

「ありがとうございます!」


そうと決まれば店を出て、すぐに朝宮に電話をかけた。


「もしもし」

「もしもし、今どこにいる?」

「お洋服売り場でナンパされてます」

「ナンパ!?」

「あっ、島村さんがカメラ構えたら逃げました」

「よ、よかった。モール内にゲーセンあるだろ?」

「はい」

「その入り口に一人で来てくれ。俺もすぐ行く」

「分かりました」

「んじゃ、そういうことで」

「はい」


店員さんを待たせないように、早歩きでゲームセンターの入り口へやってくると、朝宮はアパレルの袋を持って一人で待っていた。


「お待たせ、なにか買ったのか?」

「白のランジェリーです」

「ジュエリー? 宝石?」

「ランジェリーです。下着ですよ」

「そ、そうか」

「島村さんがこれを買えば、掃部かもんさんが喜ぶと言ったので」


え?なに?着てるとこ見せてくれたりするの?


「よ、よく分からないな。とりあえず今日は帰ろうぜ」

結局掃部かもんさんは、なにをしに来たんですか?」

「気分転換だよ」

「気分転換に私無しで遊びたかったと」

「違う違う!」

「やだ‥‥‥ずっと一緒にいてくれないと私死んじゃう‥‥‥」

「めんどくさい女ムーブやめろ」

「へっ」


そのまま朝宮と話しながら、さりげなくアクセサリーショップに近づき、店員さんを見て低く手を挙げた。

すると店員さんは笑顔で近づいてきて、朝宮に声をかけた。


「今、指輪のようにはめる、健康リングというものがありまして! よかったら無料で試してみませんか?」

「どんな効果があるんですか?」


よし、食いついた。


「主に血流が良くなります! 血流が良くなると、お肌も綺麗になりますよ! 物は試しです!」


店員さんは持っていた同じデザインの何個かのプラスチックの白い指輪を朝宮の薬指にはめようとし、ピッタリの指輪を見つけると、店員さんは朝宮に言った。


「八号がピッタリですね! でも、本来なら健康じゃない人がつけるとジンワリ色が変わってくるんですが、お客さんは健康みたいです! お肌も綺麗ですし、なにか特別なことしてます?」

「食べたいもの食べて、適度な運動だけです」

「凄いですね! 彼氏さんもはめてみますか?」

「俺は大丈夫です」

「分かりました! なにか気になることがあれば、いつでもお店へ来てください!」

「はい、ありがとうございます」


朝宮は八号!!

天才!!この店優秀!!

絶対この店で買う!!





俺達は家に帰ってきて、朝宮が早めに風呂に入った隙に、うんこクッションを抱えて家を出た。

近くのリサイクルショップに売って資金集めだ!!

新しい景品だし、欲しい人は欲しいだろうからな!

いい値段になるだろ!





「こちら一点で、百二十円になりますが、どうしますか?」

「あ‥‥‥はい、売ります‥‥‥」


八千円のペアリングを買うまであと四千四百円‥‥‥。

漫画アプリに課金しすぎた過去の俺を殴りたい‥‥‥。

寂しく百二十円を握りしめて、俺は店を出た。





「ただいま〜」


家に帰ってくると、二階からドライヤーの音が聞こえて、俺も二階へ向かった。

そして部屋の前まで来るとドライヤーが止まり、部屋のドアを開けると、刺激の強い光景が俺の視界に飛び込んできた。


「ただまーっ!?」

「まったく! また一人で出かけましたね!」


朝宮は俺の白いティーシャツを着て、白いタイツに白いガーターベルトが見えていた。

ティーシャツのサイズが大きくて、ギリギリ見えていないのが想像を引き立てエロすぎる!


「なんだその格好‥‥‥」

「こ、これは、今日買った下着を着ています」

「まさか、下に短パンとか履いてないのか?」

「島村さんが、そうすれば掃部かもんさんは喜んで、もっと私を好きになるって言ったので」


まさか‥‥‥今日ってそういう日!?


「あまり見ないでください‥‥‥」

「ご、ごめん!」


恥ずかしそうにモジモジする朝宮を見て、やっぱり今日はその日なんだと、緊張で唾を飲む。


「えっと‥‥‥ここから先ってどうするんですか?」

「へ?」

「島村さんは、この先は掃部かもんさんに全て任せれば、幸せになれるって言ってました!」


これ夏休みが明けたら、絶対変なインタビューされるな。

朝宮は朝宮で、俺に好かれるためにここまでしたけど、実際なにをするのか具体的なことは分かってはさそうだし、そもそも俺も経験ないし、今からこの先へ行くにはハードルが高すぎる。

だからといって、朝宮に恥をかかせるわけには‥‥‥。


「‥‥‥いいか、よく聞け」

「は、はい!」

「女がエロい格好して恋人に抱きついた場合、すぐに妊娠するぞ」

「えぇ!?」

「だから、タイミングは今じゃない!」

「大丈夫ですか!? 性知識学んでこなかったんですか!?」

「あれー!?!?!?!?」

「このままでは心配です! ちょっと待ってください!」


朝宮はパジャマのショートパンツを履き、俺を正座させた。


「いいですか? 子供を作るにはですね」


なんか保健体育始まったんだが‥‥‥。


「USBケーブルをUSBポートに挿して、データを転送してやっとできるんです!」

「オブラートに包むの上手いな」

「ちなみにUSBケーブルは防水じゃないと、水没の危険があります」

「生々しいわ!!」

「分かりましたか?」

「分かってるよ!!」

「まったく。そもそも、その気はありませんから!」

「嘘だ!!」

掃部かもんさんが狼みたいにがっついてきたら、そのまま大人しくしていたかもしれませんけどね」

「受け入れる気満々じゃん」

「受け入れません。生殺し宣言!」

「俺、可哀想だね‥‥‥」 

「十年後なら考えてあげてもいいですよ!」

「十年後とか、芽衣子先生みたいに色気出てそうだな」

「比べないでください! 姉と私は違います!」

「どの辺が?」

「私は純粋ですが、姉は男性と男性が絡み合う本をたくさん持っています!」

「知りたくなかった!!」

「嘘です!!」

「分かりづらい嘘つくな!!」

「それを持っているのは、絵梨奈さんです!」

「あいつ‥‥‥そうだったのか‥‥‥」

「人の性癖は海より深く、空のように広いんです! そして掃部かもんさんの性癖はハーレムということが分かっています。だから私は影分身を練習中です」

「ハーレムものの漫画読んでただけだろ。てことで、影分身どうぞ」

「シュッシュッシュッシュッシュッシュッ!」


朝宮は反復横跳びを始め、急にピタッと立ち止まってドヤ顔で俺を見つめてきた。


どうすればいいんだよ‥‥‥褒めるべき‥‥‥なのか‥‥‥?

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