第92話/不慣れなデート


やっとまともな服に着替えてきた朝宮は、やっぱり可愛いかったが、さっきのこともあって、特に褒めることもなく家を出た。


「どこに行くか決めました?」

「ゲーセン」

「いいですね! プリクラ撮りましょ!」

「プリクラって、女子高生が群がってるから苦手なんだよな」

「私と一緒なら大丈夫ですよ!」

「まぁ、行ってみてからだな」

「はい!」


ゲームセンターに向かっている途中で、暑過ぎてコンビニに寄ってアイスを買い、なんとか身体の熱を冷ましてゲームセンターにやってきた。


「ゲームセンターって、全然涼しくないですね」

「機械だらけだからな」

「あっ! プリクラコーナーありますよ!」

「ほら、女子高生の大群だ。って、絵梨奈だ」


絵梨奈も俺達に気付いて、笑顔で駆け寄ってきた。


「久しぶりじゃん!」

「お久しぶりです」

「いつ戻ってきたの?」

「半月前ぐらいですよ」

「もっと早く言ってよ!」

「ごめんなさい。一人で来ているんですか? 一人で」

「なんで一人というのを強調したんだ。可哀想だろ。一人でプリクラ撮ることのなにが悪い」

「あのー、カップルで私をいじめるのやめろ」

「で、誰と来てるんだ?」

「桜と来てるんだけど、唯としーちゃんの二人と会ってさ! 今、プリクラで落書きしてるよ!」

「んじゃ朝宮、三人を脅かしてこい」

「いいね!」

「どうやってです?」

「普通に絵梨奈が戻ってきた感出して、落書きコーナーに入れ」

「分かりました」


朝宮は絵梨奈が指差した場所に一人で行き、俺と絵梨奈は遠くから朝宮を見守った。


「よかったじゃん!」

「ん?」

「久しぶりに会えて!」

「それな! でも、夏休みが終わったら帰っちゃうんだ」

「次は一輝が会いに行けばいいじゃん」

「そうだよな」


咲野達は驚いた様子で、朝宮との再会を喜んでいる。

俺にも気付いて、手を振ってくれたし、島村はまた変なこと言ったのか、朝宮にちょんまげ掴まれてるけど、変わらず馴染めてる感じでよかった。


それから六人で少し話して、四人は俺達に気を遣ってどこかへ行ってしまった。


「久しぶりに友達と会えてよかったな!」

「はい! それじゃ、プリクラ撮りましょ!」

「お、おう」


二人でプリクラ機の中へ入り、珍しく朝宮が全てお金を出した。


「カップルモードにしますね!」

「それはダメだ!」

「押しちゃいました」

「変なことさせられるぞ」

「変なこと?」


スピーカーから女性の声で『二人の愛を確かめよう! さぁ、ハグして!』とポージングを指示され、やっぱりこういう感じになったかと、気まずさを漂わせていると、朝宮は躊躇なく横から抱きついてきた。


「この写真残るんだぞ」

「思い出ですから!」


それから変に緊張してしまったせいで、俺はずっと棒立ちで、朝宮だけノリノリでポーズをとっていった。

そしてやっと最後、機械はとんでもないこと言ってきた。


『これで最後だけど、二人の愛は永遠だよね! 最後はキスして終わろう!』

「‥‥‥」

「‥‥‥」


さすがの朝宮でもキスはしてこなく、二人で顔が真っ赤になったところを撮られてしまった。


『落書きコーナーに移動してね!』

「い、行くか」

「は、はい」


落書きコーナーに移動してきたはいいが、俺は潔癖症を発動してしまい、椅子に座らず、タッチペンも手に取らないで、朝宮が落書きするのを見ている。


「すごいですよ! タッチする度に目が大きくなります!」

「おいおいおい!」


朝宮は俺の顔を限界まで小顔にして、目を最大に大きくし、俺は宇宙人みたいな顔になってしまった。


「あははは! キモッ」

「お前がやったんだろ!!」


ムカつくけど、素直に楽しんでる朝宮が可愛く思えて仕方がない。





「出てきましたよ!」


プリクラが完成して、嬉しそうにプリクラを見つめる朝宮は、プリクラコーナーに置いてあるハサミでプリクラを切って、半分を俺にくれた。


「ありがとう」

「大事にしましょうね!」

「おう!」

「次はUFOキャッチャー見てみましょ!」

「俺、あんまり得意じゃないぞ?」

「彼女に取ってあげたくないですか?」

「朝宮が言うな」

「あっ! 豚さんのぬいぐるみ可愛いですよ!」

「陽大みたいだな」

「急に可愛くなくなりました」


ごめん陽大。


「あ、あれはどうだ? うんこのクッション。朝宮、うんこ好きだろ」

「私がいつ好きだって言いました?」

「冗談冗談! あのデカイゴリラは?」


冗談の連続で、とうとう朝宮に睨まれてしまった。


「あれが欲しいってことですね? 分かりました」

「え?」


朝宮は財布を取り出し、デカイゴリラのぬいぐるみが景品のUFOキャッチャーをやり始めてしまった。

まぁ、どうせ取れないし、一回やらせて謝ろう。


「取れました!」

「‥‥‥」

「プレゼントです! お部屋に飾りましょうね!」


よりによってゴリラかよ!!!!

一回で取れちゃう激甘設定にしてんじゃねぇ!!


「俺もプレゼント取ってやるよ」 

「本当ですか!?」

「任せろ」


朝宮が持っていた使い捨ての手袋を装着して、俺はうんこクッションを取ろうとUFOキャッチャーに挑み始めた。





俺、なんでこんなクッションに二千円使ったんだ‥‥‥。

朝宮はどっか行っちゃったし。


うんこクッションとゴリラのぬいぐるみを持って朝宮を探して始め、UFOキャッチャーコーナーをウロウロしていると、UFOキャッチャーをする朝宮を見つけたが、ちょうどなにかをゲットしたとこだった。


「取れたぞ。ほら、プレゼント」

「あっ、ハムスターのクッション取れたので要らないです」

「え‥‥‥」

「そのクッションは、掃部かもんさんが大切に使ってください!」

「う、うん‥‥‥」


完全にやられた‥‥‥。


それからなんだかんだゲームセンターを満喫したが、一つ分かったことがある。

多分俺達の相性は悪くないが、お互いにデートがド下手ということだ。





家に帰ってきて、部屋にうんこクッションとデカイゴリラのぬいぐるみを置いてみたが、この二つがあるだけで、変な圧迫感を感じる。


「オシャレな部屋になりましたね!」

「どこがだよ!! 宮城に持ってけよ。親へのプレゼントで」

「あっ!! 掃部かもんさんに宮城のお土産買ってきたの、すっかり忘れてました!」

「お土産? 今更思い出して、食い物とかだったら腐ってるだろ」

「食べ物じゃありません! ストラップです!」

「おっ、ご当地的な?」

「いえ! 熊のストラップです!」

「なんで熊?」

「黙って受け取ってください!」

「あ、ありがとう」


本当に熊のストラップを受け取ると、タグに地元の駅にある店のシールが貼られているのを見つけてしまった。


「すごいな! 宮城にはこんな可愛いストラップがあるのか!」

「はい! 気に入ってくれたみたいでよかったです!」

「ちなみに俺、嘘つきってマジで無理なんだ!」

「あっ、それ、近くの駅で買ったやつですよ」

「素直でよろしい。でもなんでだよ!!」

「駅についてから、お土産買ってないことに気づいたので」

「なるほど。まぁでも、買ってくれてありがとう」

「どういたしまして! それにしても、今日のデート楽しかったですね!」

「本当に楽しかったか? 途中、別行動とかしてたし」

「自由なのが、私達らしくていいじゃないですか!」

「それもそうだな」


デートが下手というより、俺達にゲームセンターが合わないのかもしれない。

そう思うことにしよう。


「でも、やっぱり夏は家に限るな」

「ですねー、明日はどこ行きます?」

「行きなくないの察して!?」

「嫌です! せっかく一緒にいれるんですよ? いろんなところに遊びに行きましょうよ!」

「んじゃ、どこ行きたいんだよ」

掃部かもんさんとなら何処へでも!」

「分かったよ。夏休み終わったら帰っちゃうんだもんな。残りの夏休みは、朝宮のわがままに付き合ってやる」 

「プリン買ってきてください」

「そういうわがままは却下だ!」

「そんなバナナ!」

「古いな」

「あらごめんなさい。掃部かもんさんの前でバナナとか言ったら、自分と比べて悲しくなってしまいますよね」

「そう言われたのが、なにより悲しいよ」

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