第90話/久しぶりの会話がこれかよ!!
「芽衣子先生」
「なんですか?」
夏休み数日前に、俺は職員室に顔を出して、芽衣子先生に聞いた。
「夏休みに宮城行こうと思うんですけど」
「二人で話したの?」
「いや、電話しても喋ってくれなくて、メッセージ送っても、変なキャラクターのスタンプだけ返ってくる感じで、一回会った方がいいかなと思ったんです」
「もしかして、一輝くん嫌われてる?」
「え‥‥‥」
「新しい高校で、新しい恋してるのかも?」
「‥‥‥」
「若いですからね。心変わりも生きてる証ですね」
「あ、朝宮からなにか聞いてます?」
「滅多に連絡してこないから、なにも聞いてませんけど。でも、和夏菜ちゃんの方から会いにくるって言ってたんじゃないの?」
「そうですけど‥‥‥なんかここまでくると、本当に付き合ってるのかなって」
「待って!? 友達超えちゃった!?」
「知らなかったんですか!?」
「すっごい仲の良い友達止まりなのかと‥‥‥」
「なんかすみません」
「ま、まぁ、私だって彼氏いますから」
「絶対いませんよね」
「‥‥‥」
「それじゃ失礼しました」
芽衣子先生の負のオーラを感じて、逃げるように職員室を出ようとすると、芽衣子先生は俺の右手を掴んで足を止めてきた。
「待ちなさい」
「さ、触らないでください」
「一輝くんが毎日違う女の子と遊びまくってるって、和夏菜ちゃんに言っちゃおうかしら」
「なんでそんな嘘を!」
「二人を破局させるなんて簡単です。私には喧嘩を売らないことね」
「は、はい‥‥‥」
「私は?」
「え?」
「彼氏が?」
「できます。絶対に」
「根拠は?」
「美人」
「一輝くんに美人って言われたって、和夏菜ちゃんに送っておこーっと」
「ちょ!」
「あ、送信しちゃいました」
「そんなんだから彼氏できないで、妹に先越されるんですよ。二度と相談しませんから」
「‥‥‥」
「っ!?」
今にも泣き出しそうなウルウルした目で見つめてられ、俺は大人になろうと決めた。
「冗談です。芽衣子先生は優しくて大人の女性なので、絶対彼氏できます」
うわっ、めっちゃ笑顔になった。
もうなんか色んな意味で怖いし、職員室出よう。
職員室を出てすぐ、朝宮から電話がかかってきて、絶対喋らないくせにと思いつつ、廊下で電話に出た。
「もしもし」
「浮気者浮気者浮気者浮気者浮気者浮気者」
「なんか言ってるか? 声小さいんだけど。てか、やっと話す気になったか!」
「浮気者!」
「へ?」
「毎日、違う女の子と遊んでるなんて浮気です!」
「あれは芽衣子先生のイタズラだ!」
「お姉ちゃんに美人って言ったのはなんですか?」
「言わないと殺されそうだったからだ!」
「絵梨奈さんに聞けばすぐ分かりますからね」
「おぉ、聞けよ」
「もし浮気してたら、咲野さんに頼るしかありませんね」
「もししてなかったらどうする?」
「ふん! 愛でもなんでも伝えてあげますよ」
「分かった。んじゃ絵梨奈に聞いてみろ」
「分かりました」
なんで久しぶりの会話がこんな感じなんだよ!!
でも、久しぶりに声聞けて嬉しいとか思っちまった。くそ。
ひとまず教室へ行くと、絵梨奈が席に座って電話中で、歩く俺をずっと見てくる。
朝宮と話してるのか。
俺も席に着き、静かに絵梨奈と見つめ合っていると、絵梨奈は電話を切り、すぐに俺に朝宮から電話がかかってきた。
「はい」
「浮気してませんでしたね」
「だから言っただろ。んで? 愛でもなんでも伝えてくれるんだったよな」
「ちゅーき♡」
「‥‥‥」
「授業始まるのでさよなら」
「急に冷たっ! 夜に電話するから、ちゃんと話せよ?」
おいおい、問答無用で切るなよ。
でもいい!!可愛かった!!許しちゃう!!
※
今日は朝宮と話せて、一日機嫌よく過ごし、放課後になると、咲野と島村がそのベンチに座っているのを見かけて、なんとなく話しかけてみることにした。
「暑くないのか?」
「暑さも青春のうちだよ!」
「そんな青春いらん。しーちゃんが部室にいないの珍しいな」
「今日は部活が休みなので」
「そうか、お疲れ様」
「ありがとうございます」
「一輝くんはこれから帰るとこ?」
「そうだ。帰って朝宮に電話をかける」
「私この前ビデオ通話したよ!」
「マジ!? 俺なんて、今日やっと久しぶりに喋ったのに‥‥‥」
「そうなの? お風呂に入ってる時暇だから、お互いにビデオ付けて話したんだけど、画面録画してるのに最後まで気づかれなかった!」
「消せ!!」
「それは消すべきです」
「えぇー、和夏菜ちゃんのポロリが‥‥‥」
「ま、まぁあれだな! 一応消すべきか俺が確認する」
「
「そ、そんなんじゃないし!?」
「新聞にしますよ」
「そんな怖い脅し文句ある?」
「とにかく、なんかの拍子に流出したら大変です。消してください」
「しょうがないなー」
この中で、しーちゃんが一番まともだった‥‥‥。
あー、俺ともビデオ通話してくれないかな。
「とりあえず帰るわ」
「気をつけて帰ってね! 転んで怪我したら呼んで? 傷口舐めて消毒してあげるー♡」
「いつもより気をつけて帰るわ」
「さよならです」
「しーちゃんもじゃあな」
咲野がいろんな意味で羨ましい。
今日は絶対にビデオ通話まで持っていくぞ!!
※
そして夜になり、いつも朝宮が風呂に入っていた時間を見計らって電話をかけた。
「もしもし」
「デデン、第一問」
「は?」
「私は今、どこでなにをしているでしょう」
声が響いてないし、風呂ではないな。
「トイレでうんこ」
「正解!」
「えっ」
「そんなわけないじゃないですか。貴方誰ですか?」
「はっ!? 冷たくない!?」
「久しぶりにちゃんと話しますね。貴方誰ですか?」
「おい、言ってることめちゃくちゃだぞ。あー、分かった。久しぶりだから恥ずかしんだろ! 照れ隠しか!」
「う、うるさいです!」
「当たりかよ。そっちの学校には慣れたか?」
「はい、お友達もいます」
「よかったな。やっぱり、告白とかされてるのか?」
「されますよ? デートも行きました」
「さよなら」
「待ってください」
「なんだよ」
「私の通ってる高校って、女子校ですよ?」
「それを先に言って!?」
「あはは! 嫉妬するのが早いですよ!
「それなりに。なぁ、いつ会いにくるんだ?」
「さぁ? 知らん」
「冷たっ!! 着拒してたくせに! やっと話せたと思ったらなんなんだよ!」
「小さいことはいいじゃないですか」
「小さくねぇよ」
「いやいや、イチモツの話はしてませんよ? ムキにならないでください」
「俺もしてねぇ!」
着拒のこととか、段ボールのこととか、めちゃくちゃ怒ってやろうと思ってたけど、久しぶりに話せて、正直どうでも良くなっちゃったな。
相変わらずウザさは変わらないけど。
「そんなことよりですね」
「なんだ?」
「さっきからビデオ付けてるんですけど、画面見てもらっていいですか?」
「マジ!? わっ!!」
「ばぁー!」
朝宮はパックをつけた真っ白な顔で映っていて、普通に驚いてしまった。
「なにしてんだよ」
「フェイスケアです」
俺が望んだビデオ通話と違う‥‥‥。
いや待て!!!!
朝宮は横になっているのか、谷間が見えている。
これは俺の勝ちだ!!!!
「今、胸見ませんでした?」
「みみっ、見るわけないだろ!?」
「
「はい。彼氏ですもん」
「‥‥‥」
「あっ! 顔真っ赤ですよ!」
「あ、あっ! 顔真っ白だ!」
「照れ隠ししちゃって、可愛いですね」
「い、いいからさ、パック取れよ」
「嫌ですよ! あと十分はつけてないとなんですから!」
「一緒に暮らしてた頃は、そんなのしなかっただろ」
そう言うと朝宮は目を細めて、ジーっとカメラを見つめ始めた。
「な、なんだよ」
「ニキビができました」
「へー、朝宮もニキビとかできるんだな」
「よぉ! 坊主!」
「兄貴!?」
朝宮のお父さんが、突然笑顔でビデオ通話に割り込んできた。
「和夏菜のやつ、お前に会えない寂しさとストレスでニキビできたんだぜ!」
「ちょっと! なんでバラすのよ!」
え?本当なの?なにそれ可愛い。
もはや、そのニキビ見たいまである。
「いいじゃねーか。減るもんじゃあるまいし」
「減るわよ!
「へーい、バーカ」
「ムキー!!」
「怒り方猿なの変わらないな」
「俺の娘が猿だと!!」
「あ、いやっ」
「チンパンだろ」
「あはははははは!」
「ガハハハハ!」
「二人とも、いい加減にしないと本気で怒りますからね」
「兄貴、本気で怒ったら普通に怖いので謝った方がいいですよ」
「
「ごめんなさい!」
「んじゃ、俺は仕事あるし寝るわー」
「謝れよ」
「す、すまん‥‥‥」
仲良くなったのかなんなのか分からないな。
でも、朝宮は変わりなくてよかった。
朝宮の父親がどこかへ行き、朝宮はまた横になった。
「まったく」
「悪かったよ」
「もう会いに行ってあげませんからね」
「一回も来てないじゃん」
「来てほしいですか?」
「そ、そりゃまぁ」
「なんですか?」
「来てほしいけど‥‥‥」
「私も早く会いたいですが、ニキビが治らないと嫌です」
「そんなの気にするなよ」
「女の子は気にするんですよ」
「なら、早く治せよ?」
「頑張ります!」
「おう、待ってるからな」
「はい。あの、
「ん?」
「わ、私を彼女にしてくれてありがとうございます」
「こちらこそ、彼氏にしてくれてありがとう」
「い、嫌じゃなかったら、好きって‥‥‥言ってほしいです‥‥‥」
「‥‥‥あ〜!!!!」
まさかのこのタイミングで携帯の電源が切れてしまい、慌てて充電器を挿して電源をつけると【もう知りません】とメッセージが届いていた。
「違うんだぁ〜!!!! 朝宮〜!!!!」
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