三年生編

会えない時間

第89話/切れる電話!!


朝宮が居なくなってから月日は経ち、俺達は三年生になった。

俺は窓際の一番後ろの席に座り、隣には朝宮が使っていた机があるが、今は誰も使っていない。

恋人が転校したということもあって、みんな俺を気にかけてくれるが、朝宮そっくりな芽衣子先生が目の前に居るのが、なんだか変な感じがする。

それに朝宮の奴、着拒したままで一切連絡取れないし、こんな寂しいことあるかよ。

まっ、必ずまた会えるんだ。

明るくいこう。


「掃除機くん変わったよね」

「え? 変わった?」

「変わった変わった!」

「絵梨奈まで、俺のなにが変わったんだよ」

「急にテストで学年一位取るようになったし」

「なんか表情も明るくなったしね!」

「後輩から密かにモテモテだしねー」

「え? 一輝は元々こんな感じだよ? 中学の頃に戻っただけだよ!」

「そうなの!?」

「そうそう、陽大の言う通り、俺は元々優秀でよくモテる」

「うわー、なんか嫌な感じー」


教室でいつものメンバーで話していると、そこに日向がやってきた。


「なんの話してるの?」

「一輝が変わったよねって話」

「元に戻っただけじゃん!」

「へー、桜が言うなら本当なんだ」

「な?」

「んー、なんか納得できない」

「認めろ。俺が実は爽真よりポテンシャルある男だったってことを!」

「僕は認めてるよ?」

「あ、どうも」

「元に戻ったのって、やっぱり和夏菜と付き合ったから?」

「そうかもな」

「寂しくないの?」

「ちょっと絵梨奈? そういうこと聞いちゃダメだよ」

「あっ、ごめん」

「いいよ」

「でもあれだね! 潔癖症は治ってないよね!」

「なんでそんなに嬉しそうなんだよ。まぁ、確かに治ってないけど、俺はこれでいいと思ってる」

「どうして?」

「俺の父親は元々人間不信だったらしくてさ、今でも女は俺の母親のことしか信用してないらしんだ。それでも幸せそうだし、人を信じられるようになるんじゃなくて、誰を信じてしまったか、その先でその人が優しさで包んでくれたかが大事なんだって、教えられた気がしたんだ」

「要するに、遠回しの惚気かい?」

「惚気だね」

「うっせーな! 陽大と爽真も早く彼女作れ!!」

「そうだね! 寧々ちゃーん!」

「おい待て爽真。寧々はやらんぞ!!」

「あはは‥‥‥」


こんな感じで、朝宮が居なくても、なんだかんだ賑やかな毎日を過ごしてる。


ただ、家に帰ると‥‥‥。





「朝宮、今なにしてんだろ‥‥‥」


朝宮が置いて行った写真立ての写真を見て、朝宮のことを考えながら退屈な時間が過ぎていく。


今日も変わらず退屈な時間を過ごしていたその時、家のチャイムが鳴って、誰が来たかも確認せずに玄関へ走った。


「宅配便です」

「あっ‥‥‥はい‥‥‥」


チャイムが鳴るたびに期待するの、そろそろやめなきゃな。


「着払いで、千八十円になります」

「着払い!?」

掃部かもんさんのご自宅でお間違いありませんよね」

「は、はい。お釣り出ます?」

「大丈夫ですよ」


代金を支払って、やたらデカイ段ボールを受け取ったが、ビックリするぐらい軽い。

てか、どこからだ?


送り主を確認すると、朝宮の名前が書いてあった。

朝宮からだと分かり、俺はワクワクしたながら玄関ですぐに段ボールを開けた。

すると中には紙が一枚入っていて、それをめくると【これを見たってことは、ただの段ボールにお金払いましたよね。バーカ】とだけ書いていた‥‥‥。


「おい‥‥‥なんだよそれ‥‥‥」


なんだよこのイタズラ!!!!

直接文句も言えないし、あいつはなにがしたいんだ。


そう思いながらまた段ボールを見ると、内側の左側に、少し大きめの封筒が貼り付けてあるのを見つけた。

どうせまたくだらないことを書いていると思って封筒を開けると、中から一枚の写真が出てきた。


「‥‥‥そっか。上手くやれてるんだな」


新しい高校で、女子生徒達に囲まれて笑顔を見せる朝宮の写真だった。

きっと俺を安心させたかったんだと思えば、着払いも‥‥‥許せるわけねぇよ。

でも朝宮、見ない間にますます綺麗になったか?

やっぱり綺麗な顔してるな。

この写真も部屋に飾っておこう。





段ボールが着払いで送られてきてからは音沙汰なしで、気づけば七月。

俺は朝宮が転校してから、初めて芽衣子先生に生徒指導室に呼び出された。


「なんですか?」

「いやー、ね? 和夏菜ちゃん、嫌われてるんじゃないかって、凄い不安がってたよ?」

「え? どうしてです?」

「一回も電話かけてこないし、メッセージすら送られてこないって」

「はい!? ブロックされて着拒されたままなんですけど!! もしかして朝宮、忘れてるんですか!?」

「そういうこと?」

「はぁ、本当アホだ」

「私の方から解除するように言いましょうか?」

「お願いします」

「分かりました!」

「今日中に言っておくから、夜にでも電話かけてみて?」

「了解です。それじゃお願いしましね」

「はい!」


あのバカ!!

でも、これでやっと朝宮と話せる!

声が聞ける!

そう思っただけで、暑くても一日の授業を頑張れた。





そして待ちに待った夜になり、早くお風呂を済ませて、自分の部屋で携帯を握った。


よし‥‥‥かけるぞ。


毎日話して一緒に寝ていた相手に電話をかけるだけなのに、やたらドキドキしてしまう。

やっぱり後でにしようかな。


「あっ、やべ! 着信押してっ!」


着信ボタンを押してしまい、慌てて切ろうとした瞬間、朝宮は電話に出てしまった。


「も、もしもし?」

「‥‥‥」

「朝宮?」

「‥‥‥」

「はぁー!?!?!?!? なんで切った!?!?!?!?」


もう一回電話をかけると、また電話には出たが、朝宮は何も喋らない。


「朝宮? おーい。いや! だからなんで切るんだよー!!!!」


せっかく声が聞けると思ったのに、なにがどうなってんだ。



***



私は二回も電話を切ってしまい。ベッドに寝そべりながら枕に顔をうずめている。


「ん〜!!」


話したいのに‥‥‥久しぶりすぎて、掃部かもんさんの声を聞くとドキドキしちゃう。

私からマスク越しにキスしたこととか思い出しちゃうし‥‥‥恥ずかしくなっちゃって話せない!

もう‥‥‥やっと話せると思ったのに、私のバカ‥‥‥。



***


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