第83話/二人はデキてる?
朝宮のお父さんと校舎裏へやってくきて、畑の縁のコンクリートに腰をかけた。
「いきなり来て悪かったな」
「い、いえ」
「そうだ! この前のプリン、お前は食ったか!」
「あっ、ゲットはしましたけど、あさっ、和夏菜さんにあげました」
「おぉ! 嬉しいことしてくれんじゃん!」
あれ?意外といい人感出てるな。
気のせいか?
「和夏菜が俺の作ったプリンを好きだって、芽衣子から聞いた時にな、すっげー嬉しかったんだよ!」
「和夏菜さんのこと嫌いなんじゃ」
「はぁ!? なに言ってんだ!!」
「えっ‥‥‥」
「俺は再婚する時、和夏菜もまるごと愛すって決めて再婚したんだ」
「なら、どうしてなにもしてあげないんですか? 父親らしいことというか、なんというか‥‥‥」
「俺、女の前だと上がっちゃうだよね」
「えぇ‥‥‥」
「一度離婚したのも、今みたいにプリンの会社が上手くいってなかったのが原因なんだけどよ。再婚して、和夏菜を目の前にした時、一言目は何を言えばいいのかとか、いろいろ考えたんだ。考えてるうちは何も言えなくて、気づいたら和夏菜のことだけ無視してる最低な父親みたいになってたんだよ!」
「それでここまで拗らせちゃったんですね」
「おい、言い方気をつけろ」
「す、すみません」
「謝れば良し。それでな、この前の限定プリンは俺からのプレゼントだったんだけど、和夏菜は気づいてたか?」
「気づいてないと思いますけど」
「なんだとー!!」
この人はきっと不器用なだけで、素直で良い人なんだろうな。
そんな気がした。
「そ、それで、どうして俺はここに連れてこられたんですか?」
「ん? 男同士なら素直に話せるからだよ」
「もしかして、お父さんの気持ち、先生とか奥さんも知らなかったりします?」
「当たり前だろ。つか、お父さんじゃねぇ。兄貴って呼べ」
「あ、兄貴」
「なんだ」
「なんでもないです」
「用も無いのに呼ぶな」
「はい、すみません」
「んで、俺はどうしたらいい。お前はどうやって和夏菜と仲良くなったんだ?」
「最初は和夏菜さんの方から声をかけてきました。というか、家に突撃されました。そのあとは時間をかけてゆっくりですかね」
「うん、参考にならん」
「普通に話しかければいいじゃないですか」
「それができたら苦労しねーよ!! どうするんだ!? 『貴方誰ですか?』とかあのクールな顔で言われたら!」
「それ、男子生徒によく言います」
「ぬぁー!! 無理だ! やっぱりプリンで釣るしかない!」
「いやいや‥‥‥あとで時間あるので、三人で話しましょうよ」
「お前いい奴だな! さすが我が娘の彼氏だ!」
「付き合ってませんけど」
「は? 付き合ってないのに一緒に暮らして、あんなことやらこんなことしてるのか。お前、俺の娘をなんだと思ってやがる」
「し、してませんから!」
「高校生の男女が二人暮らししたら、暇さえあればするだろ!!」
「暇さえあれば掃除してます!」
「うん、まぁいい、そろそろ和夏菜の出番か。晴れ舞台を見に行くぞ」
「え?」
「ファッションショーだよ!! こっそり見るんだよ!!」
「あっ!!!!」
ファッションショーのことを思い出して慌てて立ち上がった瞬間、体育館からアナウンスが聞こえきた。
「続いては! 二年A組のファッションショーでーす!!」
「終わった‥‥‥」
「どうした?」
「俺も出るはずだったんですよ!!」
「おぉ、マジか。急げよ」
「はい?」
まさかの無責任な反応に、さすがに苛立った俺は、朝宮の父親を睨みつけてしまった。
「す、すまなかったって! 今度プリン食わせてやるから許してくれよ!」
「とにかく、電話番号教えてください」
「おう! いいぜ!」
「時間ができたら連絡しますから、言った場所に来てくださいね」
「ありがとうよ!」
朝宮の父親に電話番号を聞き、俺は体育館に走り、慌てステージ裏に入った。
「ちょっとなにしてたの!」
「ちょっといろいろあって!」
ファッションショーはもう始まっていて、絵梨奈に遅れてきたことを怒られてしまった。
「もう始まってるよ?」
「ごめん」
「って、包帯は!?」
「あー‥‥‥やばい、忘れてた‥‥‥」
「ちょっと、和夏菜と一輝の出番ズラして!」
「了解!」
「うおっ! 和夏菜!?」
「えっ、下の名前で呼んでたっけ」
しまった!さっきまでの癖が。
「ま、間違っただけだ」
名前を呼んだ途端、朝宮に顔を逸らされてしまったが、朝宮のミニスカブラックナース姿が素晴らしすぎて、思わず名前を口に出してしまった。
毎日見てるはずなのに、服装が変わると綺麗な生脚から目が離せない。
「とにかく一輝はどうする?」
「どうするって?」
「制服では出れないでしょ」
「今からでも着替えに行くか」
「二分以内に戻って来れる?」
「無理だな」
絵梨奈と話し合っていると、急に朝宮がギブスに手を添えてきた。
「このままでいいです。
「わ、分かった」
「ちょっとそれ貸してください」
「いいけど」
朝宮はステージ裏でみんなを誘導している三年生から、下敷きボードとボールペンを借りた。
「なにに使うんだ?」
「
「なるほどな。それなら俺はただ骨折してる男子生徒でも大丈夫だな」
「反省してください」
「はい」
「二人とも、四分後出番だからスタンバイして」
ノリノリなBGMと歓声が聞こえる中でステージ袖にスタンバイしていると、慌ててまた絵梨奈が俺に声をかけてきた。
「ちょっと一輝!」
「次はなんだよ」
「一輝は左の袖から登場でしょ!?」
「あっ、忘れてた」
「バカ!?」
「三、二、一、出て!」
「あー! もう! 行った行った!」
俺のせいでグダグダになりながら、二人で同じ袖から登場してしまったが、朝宮効果で、歓声がさっきまでの比じゃない。
ライブ会場にいるような気分だ。
ステージを降りて、体育館の真ん中を歩き出すと、予定通り、朝宮が俺の腕を診断しているような動きをして、体育館中に『可愛い!』という言葉が飛び交った。
朝宮の父親もちゃんと見てんのかな。
そして、やっと折り返しに入り、ステージ上に戻った瞬間、照明が消えて、怪しげなBGMに切り替わった。
「こんなの予定にありません」
「え? そうなの?」
そして、またスポットライトが俺達を照らすと、俺達の前にしーちゃんが立っていた。
「新聞部のしーちゃんです」
みんながざわめく中、ステージ袖にいるクラスメイトは、この展開を知っていたかのような落ち着きっぷりだ。
これはなにか企んでるな。
「今からみんなが気になっていることを、私が代表して質問します。ズバリ、二人はデキてますか?」
「うぉー!!!!」
やっぱりそうきたか。最悪だ。
俺がなにも答えないでいると、異様な盛り上がりの中、朝宮がマイクを受け取った。
「和夏菜ちゃーん! 隠さないで教えてよー!」
「朝宮さんを助けた男なら文句なし!!」
え?マジ?みんなそんな感じなの?
俺も出世したもんだな。
「えー、こんな場でこんな質問、本当に迷惑な話ですが、そもそもデキてるってどういうことですか。子供はまだいません」
天然ドアホがこんなところで!!
「子供が居ないだけで、やっぱり
島村は朝宮にも伝わるように聞き直した。
頼む!ちゃんと答えてくれ!
「そうですね、ご想像にお任せします」
「はい!?!?!?!?」
「きゃー!♡」
「一輝! 俺はお前をみくびってたぜ!」
完全に誤解されてちゃったよ!!
嫌な気はしませんけどね!?
「さて、ふざけた演出した島村さん?」
「しーちゃんです」
「裏でしっかりお話しましょうね」
「あっ、やめて、引っ張らないで、あっ」
島村はちょんまげを引っ張られながらステージ裏に消えていった‥‥‥。
大盛り上がりの中、俺もステージ裏に戻ると、朝宮は島村と絵梨奈と爽真の三人を静かに怒っていて、この三人が仕掛けたんだとすぐに理解できた。
「よくもやってくれたな」
「ま、まぁまぁ、盛り上がったんだからいいじゃないか」
朝宮も朝宮で、なんであんなこと言ったんだ‥‥‥。
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