第82話/ヤンチャそうで怖そうなプリンさん


掃部かもんさん! 文化祭ですよ!」

「まだ起きるの早いだろ」


イベントがある時は毎回早くから起こされて、結構キツイ。


「なに言ってるんですか! お菓子作らなきゃいけないんですよ!」

「それって俺もなの?」

「軽く手伝うぐらいはしてください!」

「あー‥‥‥朝飯できたら起こしてくれ」

「分かりました! おやすみなさい!」

「おやすみ」

「起きてくださーい!!!!」

「うっせぇな!! できてからって言っただろ!!」

「もうできてますもん」

「はぁ‥‥‥分かった。起きますよー」

「はーい! おじいちゃん、ゆっくりですよー!」


朝宮に左手を引っ張られて起こされ、しかもおじいちゃんって、完全に介護じゃん。





「おはよう!」

「うぃー」

「おは!」

「おはおは」


早起きで学校へやってきたが、学校でも朝宮と一緒にいる時間が長いから俺もついに認められ始めたのか、最近は俺に対する風当たりがいい気がする。

話したことない人にも挨拶されるし、これが爽真が見てきた人気者の景色ってやつなのか。

悪くないな!!アーハッハッハッ!!


「なにニヤけてるんですか? 調理室はあっちですよ?」

「あ、はい」


朝宮と調理室へやってくると、クラスメイトがお菓子作りを進めていて、朝宮もさっそくお菓子作りに参加し始めたが、やっぱり俺にできることはなにもなく、すぐに調理室の隅に追いやられた。


そんなこんなで、出来上がったお菓子を教室に運び、文化祭が始まるまで、各自自由に待ち時間となった。


「朝宮」

「はい」

「寧々の教室に並んでおこうぜ」

「分かりました」


前もって一緒に周ると約束していたこともあり、スムーズに朝宮を誘って一階へやってきた。


「寧々さんの教室はなにをするんですか?」

「お化け屋敷」

「文化祭のお化け屋敷なんて、たかが知れてますね。いいでしょう」

「本当はビビってんじゃねーの?」

「そんなこと言って、ビビってるのは掃部かもんさんじゃないですか?」

「ふっ。まさか」


そんな会話をしているうちに文化祭がスタートし、一番乗りでお化け屋敷に入ることができた。


暗い空間に雰囲気作りのBGM。

そして‥‥‥「出たぁ〜!!」血塗れのお化け!!


「あ、朝宮!! 早く歩けって!!」

「肝試しの時のこともありますし、こうなるって分かってましたよ」


俺は朝宮の背後を前屈みになりながら歩き、情けなく朝宮の制服の袖をつまんでいる。


「お兄ちゃ〜ん‥‥‥」

「寧々だぁ〜!!!!」

「正体が分かったのに怖がるって、どういうことですか」

「だって頭から血出てるぞ!? 大丈夫か! 寧々!」

「怖がるかふざけるか、どっちかにしてください」

「朝宮〜!!」

「次はなんですか」

「いや、後で言う」


なんだか俺だけがビビり散らかして、カッコ悪いところを見せてしまった。


「ふぅー、やっと終わった」

「情けないですね。それで、さっきなにを言おうとしたんですか?」

「俺のシャンプー使っただろ」

「さ、さて、次に行きましょう」

「おい待て」

「あっ! 朝宮さんですよね!」

「貴方は?」


朝宮は他校から遊びに来た見知らぬ男子生徒達に囲まれてしまった。


「ファンです! 握手してください!」

「嫌です」

「写真だけでも!」

「嫌です。そもそも、私は目立つことをしていません。なぜ私を知っているんですか?」

「文化祭の宣伝チラシに、堂々と写ってましたよ?」


そんな会話をしている朝宮に気づき、逃げるように走っていく島村‥‥‥。

なるほど。あいつ、無許可でやりやがったな。


「そんなの知りません。道を開けてください」

「僕達が護衛します!」

「嫌がってるから離れてくれないか」

「は? 誰お前」

「わーお、急にお前呼ばわりかよ。いいのか? この高校は変わり者が多いぞ? 俺の一言でモンスターを召喚できる」

「厨二病かよ」


完全に舐められていて、イラッとした俺は、息を深く吸い込んで大きな声で言った。


「咲野ー!!!! 朝宮がナンパされてるぞー!!!!」

「ナンパしてるの君達?」


登場が早すぎて俺もビビるわ。


咲野は秒速で現れ、ニコニコしながら男子生徒達に詰め寄り始めた。


「手がいい? 足がいい?」

「な、なんのことですか?」

「どっちの爪剥がれたいか聞いてるの♡」

「‥‥‥」

「答えて? 黙ってたらどっちもいっちゃうよ?」

「す、すみませんでしたー!!!!」


男子生徒達は逃げていき、咲野は笑顔で朝宮を見つめた。


「これで大丈夫だよ!♡」

「ありがとうございます」

「あとで私のクラスでプロレスショーあるから見に来てよ!」

「どうします?」

「せっかくだし行こうぜ」

「ありがとう! 待ってるね!」


そう言って華麗に去っていった。あいつはある意味ヒーローだ。


「本当モテるな」

「嬉しくないです」

「まぁ、気を取り直して、チョコバナナでも買ってやろうか?」

「私はそんなもの」

「はいはい、行くぞ」


朝宮にチョコバナナとイチゴ飴とイチゴチョコがかかったドーナッツを買い、鶏小屋の裏にやってきた。


「はい、餌の時間だぞー」

「わーい!」

「素直か!!」

「んっ! このドーナッツ微妙です! 鶏小屋の匂いがします!」

「それはドーナッツと関係ないだろ」

「ちょっと鼻つまんでてくれませんか?」

「嫌だ。油が指に着く」

「私の鼻は綺麗です! 油なんて出ません!」

「どんな人間も出るわ」

「なら自分でつまみます」


朝宮は鼻をつまみながら、次はチョコバナナを食べ始めた。


「大変です!」

「どうした」

「無味です!」

「アホか!! にしても、いい加減みんなの前でも好きなもの食べられるようになれ」

「なんか嫌なんですよねー。子供っぽいとか思われたくないですし」

「なら、このイチゴ飴は没収な」

「酷いざんす!」

「誰だお前」

「そのイチゴ飴は食べない方がいいぜベイベー」

「だから誰だよ。あと食わねーよ。これは廊下を歩きながら食べろ」

「いじわるはベッドの上だけにしてくれます?」

「あたかもしたことある風に言わないでくれる!?」

「長っ、短い棒で」

「言い直すな。ぶっ飛ばすぞ」

「ちょっと! 行かないでくださいよ!」

「ついて来いっ!?」


俺は何もない場所で転んでしまい、イチゴ飴と右腕を守るために頭で受け身をとった。

もちろん死ぬほど痛い。多分頭からケチャップ出た。


「だ、大丈夫ですか!? こんななにも無いところで転んで、人生じゃないんですから」

「重い‥‥‥」


なんとか頭からの出血も無く、デカいたんこぶができただけで済んだ。

そして朝宮を連れて校内に戻ってきたところでイチゴ飴を返した。


「食べませんけど」

「食え」

「バカにされたら帰りますから」

「分かった」


朝宮は人目を気にしながらイチゴ飴を舐め始め、当たり前だが、それを見てなにかを言う人なんて居ない。


「だ、大丈夫みたいですね」

「やっと克服したな」

「はい」


人にどう思われるかを気にするあまりこうなったんだろうけど、これで、もっと文化祭が楽しめるはずだ。


「次はなに食べる?」

「三年生がメイド喫茶でパフェを売っています」

「行くか!」

「はい、早くいきましょ」

「おう!」


パンフレットで、プロレスショーまでまだ時間があるのを確認して、三年生がやっているメイド喫茶へやってきた。


「おかえりなさいませ! ご主人様! きゃー!♡ お嬢様ー!♡ こちらに座ってください!♡」

「は、はい」


朝宮は三年生女子からも人気あったのか。

俺に対する接客の温度差すごいな。悲しくなってくるわ。


「ご注文はなにになさいますか?」

「俺は大丈夫です」

「え? なんで来たの?」

「つ、付き添いです‥‥‥」

「わ、私はパフェを‥‥‥」

「はい!♡ サービスいたしますね!♡」


しばらくして、特大パフェが運ばれてきた。


「お待たせいたしました♡」


あまりのデカさに、朝宮は慌ててメニュー表を開いた。


「えっと、本当に六百円ですか?」

「はい!♡ サービスです!♡」

「よかったな」

「よかったですね掃部かもんさん。六百円で済みましたよ」

「ん?」

「お支払いはご主人様ですか?」

「はい」

「ん?」


すると、メイドさんはニコッと笑みを浮かべて俺を見つめた。


「お支払い、二千四百円になります!」

「えっ、待って?」

「はい! 待ちます!」

「六百円ですよね?」

「二千四百円になります!」

「サ、サービスはどうなったんです?」

「お支払いが和夏菜お嬢様の場合に限り有効になります!」

「うわぁ‥‥‥差別」

「区別です♡」

「ぼったくり」

「通常価格になります♡」

「ローンで」

「何回払いにします?」

「二千四百年払いでお願いします」

「かしこまりました! 今、上の者を呼びますね!」

「えっ」


すると、俺達の元へラグビー部のガタイの良い先輩がやってきた。


「おうおう。注文したのに払えないってか?」

「いや、えっと、その‥‥‥」


朝宮に目で圧力をかけると、朝宮はパフェを指差して言った。


「これ、無料になりませんか?」


無料!?六百円でいいんだよ!?

無料はさすがに怒られるって!!


「あ、はい♡ もちろんでございます♡」

「ありがとうございます」


ガタイのいい先輩も、朝宮のお願いなら聞いちゃうよね。そりゃそうだよね。


それから朝宮はパフェを食べ始めたが、さすがにいつもみたいに幸せそうに食べたりはしない。

でも、朝宮を見ていると、時々口元緩んでしまう瞬間があり、そういうとこも可愛い。





なんとか無料でメイド喫茶を出て、三十分後に控えたファッションショーのために、着替えと準備をすることになった。


「ファッションショー終わったら、すぐにプロレスショーの時間だからな」

「分かりました。包帯巻きましょうか?」

「大丈夫だ。包帯ぐるぐる巻に見えるコスプレ用意してもらったから」

「そうですか。それじゃ後ほど」

「おう」


正直、朝宮のブラックナース姿を見るためだけに、今日目を覚ましたと言っても過言では無い。

たまに家でコスプレはするけど、ブラックナースとか絶対エロいじゃん!

そんなの見ないで死ねるか!!


そして、ワクワクしながら男子更衣室へ向かっている時、明るめの茶髪で、頭にサングラスをかけたヤンチャそうな大人の男性が前から歩いてきて、俺は目を合わせないように床だけを見つめて歩いた。


「おい骨折坊主」


なのに声をかけてられてしまった。

本当ついてない。


「お、俺ですか?」

「お前が掃部一輝だな」

「えっ、は、はい」

「ちょっと校舎裏来いよ」

「な、なんでですか!? 俺、今から準備しないと間に合わないんですけど」

「いいから来い。大事な話がある」

「そもそも誰ですか!?」

「いいからついて来い。ここに長居はしたくない」


行かないと逆に怖そうだし、最悪の場合、咲野を呼べば‥‥‥いや、咲野にビビるような人じゃなさそうだし‥‥‥。

まさか、この人も朝宮のファン!?

付き合ってもないのに、最近イチャイチャムードを楽しんでたバチが当たったんだ!

嫌だ!まだ死にたくない!


「あら?」

「め、芽衣子先生!」


たまたま芽衣子先生が通りかかってくれた。

これは助けを求めるしかない!


「この人が校舎裏に来いって言うんですよ!」

「おう芽衣子、こいつ借りるぞ」

「うん」

「えぇ!?!?!?!? なに!? 先生の彼氏かなんかですか!? 嫌です! 怖い!」

「うるさい奴だな。俺は芽衣子の父親だよ」

「へ?」

「引っ張って行ってもいいけど、触られたくないんだろ? 和夏菜に見つかる前に行くぞ」

「は、はい」


朝宮のお父さん?

このヤンチャそうなイケメンが?

え?この人がプリン作ってるの‥‥‥?

似合わねー!!!!

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