文化祭カミングアウト

第79話/スキンシップも大変


ハロウィンの日にある文化祭に向けて、急ピッチで準備が再開されたが、俺は骨折しているということもあって、何もしなくても許されるという、ある意味最高の特権を手に入れた。

楽って一番の娯楽だよな。


「朝宮」

「はい」


俺は席に座ったまま、作業をする朝宮を呼んだ。


「どうしました?」

「文化祭はファッションショーって話だけど、俺だけなんの話にもなってないんだよ。私服でいいのか?」

「いいえ? ちなみに掃部かもんさんは、私と一緒に出ることになりましたよ」

「一緒に出る?」

「はい。私がブラックナース服で、掃部かもんさんが包帯ぐるぐる巻きの人です」

「おかしいだろ。それと今更だけど、A組の出し物って後夜祭の仮装パフォーマンスと内容被らないか?」

「文化祭ではパフォーマンスはしません。ただ音楽に合わせて歩くだけです」

「まぁ、店やるよりは楽でいいけどな。でも当日、この教室はなにに使われるんだ?」

「本当に人の話聞いてないんですね。お客さん達の休憩室として使われます。そのために私達A組が無料のお菓子作りもするんですよ?」

「へー、初知りだ」

「まったく。私は忙しいですから、お昼にまた教えます」

「あーい」


修学旅行が終わってから、朝宮は毎日お昼のおにぎりを握ってくれていて、それも、俺が片手で食べられるようにと、コンビニに寄る手間を無くすための朝宮の優しさだ。

そして、いつも屋上で二人で食べているが、周りのみんなもそれが当たり前になって、あまりなにかを言ってくる人も少なくなっていた。





お昼になり、いつも通り屋上に小さめのレジャーシートを敷いて、食事が始まった。


「今日は昆布とたらこのおにぎりですよ!」

「たらこか。いいね」

「それで、文化祭の話ですが、A組のファッションショーはハロウィンの仮装パフォーマンスへの伏線です。今年はA組全員で仮装パフォーマンスをして、優勝を目指すんですよ」

「そんな話したっけ?」

「しましたよ。まったく、人の話は聞きましょうね?」

「分かったって。んで? 仮装パフォーマンスはなにするんだ?」

「次々とステージに出て行って、文化祭と同じじゃんと思わせてからの、最後に先生と私がある衣装を着て登場です」

「先生って、芽衣子先生か?」

「はい。そこで多少盛り上がるでしょうが、そこから私と先生以外の全員が早着替えで同じ衣装に変身して、ダンスを披露します」

「俺、ダンスなんてできないぞ」

「みんなできませんよ。明日から他の生徒に見られないように、屋上で練習です。A組以外の生徒に話しちゃダメですよ?」

「分かってるけど、右腕使わなくてもできるダンスかな」

掃部かもんさんは違う役割があるそうですよ? 詳しくは知りませんが」

「ダンスとか恥ずかしいし、逆に助かるな」

「そんなことより、ご飯粒付いてますよ」


朝宮は俺の口元に付いたご飯粒を取ろうと、手を伸ばしてきた。


「いっ!! 米粒取ろうとして指突き刺す奴がいるか!!」

「痛かったですか?」

「当たり前だ! 爪が刺さったわ!」

「なら自分で取ったらいいじゃないですか」

「言ってくれたら自分で取るっての」


次の瞬間、朝宮は俺の左腕をガシッと掴み、ニコッと笑みを浮かべた。


「さぁ、早く取ってください」

「お前な!」

「どうしました? 自分で取れるんですよね?」

「力強いんだよ。お前はゴリラか」

「触れるのが当たり前になった今、ウザさが増して大変ですね」

「お前が言うな!」

「私が取ってあげますから、力抜いてください」

「分かった分かった。早く取ってくれ」


結局朝宮に取ってもらい、朝宮は気にする素振りも見せずに、俺の口元に付いていたご飯粒をパクッと食べてしまった。


「お前なー‥‥‥」

「はい?」

「いや、なんでもない」


スキンシップが取れるようになったのはいいけど、それはそれで疲れる。


「ちなみにゴリラじゃありません」

「今かよ!!」





おにぎりも食べ終わり、屋上から校庭を見下ろして、たわいもない会話をしていると、屋上に島村がやってきた。


「取材いいですか?」

「あぁ、約束してたもんな」

「はい、さっそく質問です。爽真さんへの取材で分かっていますが、爽真さんが朝宮さんの体を支えようとした時『触るな!!』と言ったようですが、それは何故ですか?」

「や、やっぱり一人でいる時に取材してくれ」


朝宮がいる時には、ちょっと気まずい質問を一発目からぶつけてきたな。

もう、教室に戻ろう。


後片付けを朝宮に任せて階段を降りていると、島村はトコトコと俺の後ろを付いてきた。


「なんだよ」

「判決、自分の恋心に気付いた」

「裁判長さん」

「なんでしょう」

「今は何も言いたくない。ただ、結末ってのがあるなら、その時に新聞にしてくれ。途中経過を新聞にされ続けたら、俺も気まずいしさ」

「文化祭で出す記事にピッタリだと思っていたんですが」

「文化祭は恋愛とか関係なしに、朝宮特集でも組めばいいだろ」

「朝宮さん、最近は私の質問に答えてくれません。掃部かもんさんと同じ気持ちなんですかね」

「さ、さぁな。それは知らない」

「まぁ、無理には聞きません。文化祭は咲野さんの性癖特集にします」

「先生に剥がされて終わりだろ」

「見出しを【咲野唯の美学】にすればバレません」

「そりゃいい。咲野なら、しーちゃんの質問になんでも答えてくれるだろうからな。あと、陽大に恋愛の質問するのも面白いかもよ。じゃあな」


頭にハテナを浮かべたような顔をした島村を置いて教室に戻り、文化祭の準備を楽しむみんなを眺めているうちに一日が終わってしまった。





掃部かもんちゃーん! こっちへおいでー!」

「はいはい」


俺が骨折してから、朝宮に面倒見てもらっているような状況が続いているせいで、朝宮は完全に調子に乗っている。

母親面して俺に接してくるという、ウザさマックス状態に突入しているのだ。


「今日はラーメンですよー! お箸は大変だから、私が食べさせてあげまちゅからね!」

「フォークで食うわ!!」

「はーい、座ってくださーい!」


朝宮を睨みながら椅子に座ると、朝宮は箸で麺を掴み、俺の顔の前に麺を持ってきた。


「ふー、ふー。はい、あーん!」

「いやあの、ふーふーしないでくれる? まだちょっと抵抗ある」

「火傷したら大変ですよ? あーん!」

「あー、あっちー!!」


わざと麺を鼻につけられて、鼻先を火傷してしまった。


「あら、ごめんなさい」

「わざとだろ!!」

「わざとだピョン♡」

「かわい子ぶれば許されると思うなよ!!」 


可愛いけどね!?

手をウサギの耳に見立てた姿とか、めちゃくちゃ可愛いけどね!?


「いいか!! 腕が治ったら覚えとけよ!!」

「いやん♡ 触れるようになったからって、無理矢理はダメですよ♡」

「無理矢理鼻からラーメン食わせてやるよ」

「こうですか?」

「ぬあぁ〜!!!! テメェー!!!!」


早く‥‥‥早く治ってくれ‥‥‥ギブス外した瞬間に黒神龍とか目覚めて、朝宮を懲らしめてくれ‥‥‥。


「美味しい!」

「おいこら、俺のラーメン食うな。自分の食え」

「はーい! 間接キスでちゅよー!」

「やめろ!! それはダメだ!!」

「関節はポッキリいくのに、間接キスはできないだなんて、実に哀れですねー!!」

「あ、怒ったわ」

「あ、逃げよ」

「待てコラァ!!!!」

「へーい! こっちですよー!」


俺、もっと優しくされていいと思うんだけどな‥‥‥。

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