修学旅行

第73話/自転車のサドル♡


「すまん!」

「え?」

「プレゼント渡せなかった」

「えぇ!? そんなのあんまりだよ!」


新学期が始まり、俺は朝から爽真を校舎裏に呼んで、プレゼントを渡せなかったことを謝罪して、プレゼントを返した。


「まぁ、今日から学校で朝宮に会えるんだし、自分で渡せよ」

「いや、こうなったら、修学旅行の告白のタイミングで渡すよ」

「おぉ、それはいいかもな」

「今日から修学旅行の話し合いが始まるから、計画通りやるよ」

「頼むぞ」

「うん!」


爽真が実行委員にならなきゃ始まらないけど、爽真がやるならみんなも納得するだろ。





朝のホームルームが終わり、さっそく話は修学旅行の話になった。


「まずは、修学旅行での班決めなど、話し合いの進行をしてくれる人を決めっ」


爽真は芽衣子先生が話している途中で手を挙げ、やる気を示した。


「それじゃ、爽真くんお願いね!」

「はい! ですが先生、修学旅行はどこへ行くんですか?」

「今からそのプリントを配ります」

「分かりました」


芽衣子先生は修学旅行のことが書いているプリントを配り始め、プリントを確認すると、冒頭に【奈良】と書いていて、奈良へ行くことがすぐに理解できた。

奈良なら、新日本三大夜景とか言われる、告白には良さそうなスポットがあるな。

前にテレビでやってのを見た時は、俺も行ってみたいと思った場所だ。

告白はそこでいいだろう。


「それじゃ、プリントに目を通して、爽真くんはこれを見ながら話し合いを進めてください」

「分かりました!」

「おっと、その前に、十月九日と十日の二泊二日ですが、十月の最後には文化祭もあります。今年はハロウィンと同時開催で、文化祭の後夜祭としてハロウィンイベントがあります。二年生は忙しい時期に入りますが、来年から受験です。今のうちに楽しんでください!」


二日目は俺の誕生日と被るのか。

にしても受験か。何も考えてなかったな。

朝宮は進学するのかな。


チラッと朝宮の方を見てみると、朝宮は絵梨奈から口に煮干しをグリグリされていた。

今日も変わらず仲良しですな。

朝宮は真顔だけど。


「まず班決めですが、今の席ごとの班の代表を決めて、代表のみんなで話し合いましょう!」


爽真はそう言って、俺の方をチラッと見た。


なるほど、俺が代表に‥‥‥いや、爽真お前、俺と同じ班だろ。アホか。

でも、陽大の班は陽大が代表、朝宮の班は絵梨奈が代表か。

陽大は俺と朝宮を気にかけてるから、多分爽真の意見を否定しない。

絵梨奈は朝宮と同じになれればいいと思ってそうだし、なんとかなりそうだな。


それから俺は、座り込んで話し合いをするみんなをよそに、プリントを眺めながら時間を潰した。





「てことで、私がリーダーになったから! よろしくー!」

「おう」


班は見事に計画通りに決まり、絵梨奈が班のリーダーになった。

ここまでは順調だ。


「一輝と同じ班になれてよかったよ!」

「俺も陽大となら楽しめそうだ」

「僕は?」

「誰だお前」

「爽真だよ!!」

「へー」

「へーって‥‥‥」

「それで、今からコンピューター室でパンフレットのコピーを取るんですよね」

「そう! 和夏菜さん、一緒に行こうか!」

「はい?」


うっわ。すごい冷たい目するじゃん。

俺が爽真なら泣きながら帰ってるよ。


「私と一緒に行こ!」

「絵梨奈さんとですか? なんか不安です」

「私パソコン検定五級だし!」

「それは無料で誰でも簡単に取れるやつです」

「いいからいいから!」

「さりげなく煮干し入れないでくれます?」

「残念! 今のはグミ!」

「本当に残念です」


二人はパンフレットのコピーを取りに、コンピューター室へ向かった。


「んで、俺達はなにすればいいんだ?」

「とりあえずは待ち時間だね」

「奈良の美味しいものってなんだろ!」

「鹿せんべいとかじゃね?」

「本当!? 食べてみよ!」


陽大なら本当に食べかねない‥‥‥。


「鹿は見に行きたいよね!」

「プリント見てないのか? それは学年全員で行くらしいぞ」

「有名どころはそうだよね」

「寺とかも行くみたいだから、自由行動はあれだな、買いたいものを決めて、目当ての店を決めておくか‥‥‥」

「掃除機くん? どうしたんだい?」

「朝宮と二人で行動しろよ」

「それ名案だよ!」

「和夏菜さんがオッケーくれるといいね」

「掃除機くんのことだから、なにか考えがあるんだろ?」

「んー、当日上手く誘導できたらする」

「期待してるよ!」

「陽大も協力してくれよ」

「絵梨奈さんの性格てきに、二人行動は無理な気がするけど」

「どうしてだい?」

「だって絵梨奈さん、あぁ見えて、みんなとなにかするとか好きだし。文化祭の時も、みんなで準備してる時が一番楽しそうだったよ? 大仏って決まった時以外」

「そっかー、問題は絵梨奈か」



日向と行動させればなんとかなりそうだけどな。





男チームで話しているうちに、二人はしっかり仕事をして教室に戻って来た。


「人数分コピーしてきた!」

「ありがとう!」


それから俺達は、パンフレットや地図を見ながら、班行動で行く場所を話し合い、シンプルに食べ歩きしながらショッピングを楽しむことになった。

詳しい場所はこれからゆっくり調べて決めたり、各自行きたい場所を提案する形に決まった。


それに話し合いの中で一人で考えていたが、班の自由行動ではなく、各自の自由行動で爽真と朝宮が二人で行動できなくても、十九時半までに旅館に戻れば良いとなると、夜に夜景の見える場所で待ち合わせして、二人きりにすることはできる。

どっちに転んでもどうにかなりそうだ。





今日一日は小テストと修学旅行の話し合いで一日が終わり、放課後になると、いつもすぐに帰る朝宮が、珍しく俺の席の目の前にやって来た。


「少し時間ありますか?」

「ない」

掃部かもんさんが忙しいわけないじゃないですか」

「はい、その通りです。なんでしょうか」

「咲野さんが私の自転車を乗っていました」

「き、気のせいじゃないか?」

「鍵に鈴のストラップが付いているので間違いありません。それに何故か、サドルに座りながら気持ちよさそうにしていました」

「咲野の性癖には首を突っ込むな。あれは危険だ」

「咲野さんなら私の私物を盗んでも不思議じゃないのですが、それを堂々と学校に乗って来ますかね」

「悪意はないってことだろ。満足したら返しに来るんじゃないか?」

「もう要りませんけど。なんか、咲野さんの良くないものが付いてそうですし」

「それは間違いないな。サドルとハンドルは危険だ」

「返す気ありそうなら、掃部かもんさんの方から必要ないと伝えておいてください」

「了解」

「それじゃ、また明日です」

「おう」


そんじゃ。咲野に電話しておくか。


朝宮が帰って行き、俺はすぐに咲野に電話をかけた。


「もしもーし」

「はぁ♡ はぁ♡」

「えっ‥‥‥」


電話が繋がると、咲野の息は乱れて、やたらといやらしいさを醸し出していた。


「なにぃ?♡」

「あ、朝宮がさ、もう自転車あげるってさ」

「えっ♡ 和夏菜ちゃんからのプレゼント!?♡」

「う、うん。よかったな。バイバイ」


なんかヤバかったから、すぐ電話切っちゃった。

さて、俺も帰るか。



まだガンガンに熱い中で自転車を漕ぎ、途中の自販機でエナジードリンクをチャージして家に帰って来た。

帰ってきたけど‥‥‥おいおい‥‥‥。


「なにしてんの!?」


朝宮は自分の自転車に跨り、真剣な顔で腰をくねらせたり揺らしたりしていた。


「咲野さんは自転車に乗って、なにをそんなに気持ちよさそうにしていたの気になったんです!」

「気にしなくていい! 早く中入れ!」

「んー、やっぱり咲野さんは特殊ですね」


焦った‥‥‥見ちゃいけないもの見たかと思ったけど、朝宮は無知故の行動だったみたいだ。


朝宮を家に入れて、変な興味から気を逸らすために、今日は特別に、市販のプリンを使った簡単なスイーツを作ってやることにした。


「修学旅行楽しみですね!」

「そうだな!」


リビングで音ゲーを楽しみながら会話するとか、随分器用だな。


えっと、皿にプリンを出して、周りに生クリームと切ったイチゴ。

そしてプリンの上にさくらんぼ。

本当簡単にできたな。


「朝宮、今日はスイーツを作ってみたぞ!」

「スイーツ!?」

「えぇー!?!?!?!?」


朝宮は俺の方を見ながら、二本指で音ゲーを続けているが、全くミスがない。

これか。これが朝宮が課金するほどハマってるゲームか。

もうプロじゃん。プロの基準知らないけど、見ないで二本指でミス無しはプロだよ。


「た、食べてみろ」

「はい! いただきまーす!」


えぇー!?!?!?!?

食べながらミス無しだー!!


「美味しいです! 修学旅行にも持って行きましょ!」

「無理だろ」

「でも、同じ班になれてよかったですよね! 一緒に奈良観光できますよ!」

「そうだな! 楽しもう!」

「はい!」

「でさ、朝宮って、自分の才能に気づいてる?」

「ちょっと待ってください。曲が終わりました」

「うん、それなんだけど、なんで画面見ないでそんなパーフェクトなわけ?」

「見る人なんています?」

「いるよ!! それが普通だよ!! 課金したら上手くなるとか、そういうシステムなのか!?」

「ププッ」

「‥‥‥いや、おい、馬鹿にした笑い方して、なにも教えてくれないのかよ」

「見事に引っかかってくれましたね!! これは他人の動画です! 私はCランクしか取ったことがありません!」

「‥‥‥日頃からさりげなくドッキリ仕掛けてくるのやめて? 分かりずらいし」

「嫌です! 私、掃部かもんさんの驚いた顔とか反応が好きなんです!」

「す、好きとか簡単に言うな! おやすみ!!」

「もう寝るんですか!? 夜ご飯は? 修学旅行の話しましょうよ!」


朝宮の『好き』って言葉に過敏に反応してしまった。

これは逆に恥ずかしいやつ‥‥‥。

あぁ‥‥‥死にたい‥‥‥。

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