第70話/素直になっちゃう朝宮ちゃん!


「夏休みの宿題が終わったぞー!!!!」

「いぇーい!!」


朝宮のおかげで、夏休み初日の朝に全ての宿題を終わらせることができた。


「夏休み、遊びまくるぞー!」

「ぞー!」

「それじゃ」

「はい!」

「おやすみ!」

「おやすみなさい!」


俺達は朝からスッキリした気持ちで寝床に入り、目を閉じた。


「ダメだー!!!!」

「急に大きな声出してなんなんですか! もう!」

「今から陽大の神社でバイトだ!」

「きゃー!!」

「なんだ!?」

「地獄!!!!」

「帰って来たらすぐ寝るしかないな」

「もう、ベッドから動けません。今ならお触りされても、私は抵抗できません」

「触らないから安心して準備しろ」

「はい‥‥‥」


寝不足で頭がガンガン痛む中、ジャージに着替えて神社にやってきた。


「おはよう!」

「おやすみ」

「えっ」


神社に着いて早々、陽大の声でさらに頭が痛む。


「二人とも、クマが酷いです。大丈夫ですか?」

「しーちゃんも来てたんだ」

「神社の取材もさせてもらえることになったので」

「よかったな。爽真は?」

「今、骨組み組み立ててるよ!」

「朝宮は爽真のこと手伝ってこい」

「‥‥‥え? なんですか?」

「立ったまま寝てたのか? 陽大、案内してやってくれ」

「了解!」


朝宮は陽大と爽真に任せて、俺は一人で頑張るか。


掃部かもんさん」

「ん?」

「二人で寝ないでなにしてたんですか?」

「宿題してただけだ」

「性教育、実践版」

「変なことメモるんじゃねぇ」

「私は陽大さんとテントを作るので、掃部かもんさんも頑張ってください」

「はいよ」


ちょうど、朝宮と爽真が作業をする隣のイベントテントを組み立てることになり、二人の会話を聞きながら作業に取り掛かった。


「和夏菜さんは高いところ平気かい? もしダメだったら僕がやるよ」

「去年もやったので大丈夫です」

「それなら安心だね! そういえば昨日、体調悪くて肝試し来なかったよね。大丈夫なのかい?」

「平気ですから気にしないでください」

「よかった! 掃除機くんは平気?」

「あ? うん」

「な、なんで少しキレ気味なの?」

「気にすんな」


わざわざバイトに誘ってやったってのに、お前は朝宮に集中しろよ。

その怒りだ。


朝宮は爽真の何気ない質問に黙々と答えながら作業を続けている。

爽真も約一ヵ月で、朝宮と会話できるようになったのは感心だな。

でも今思えば、俺は最初から会話できたよな。

朝宮が弁当袋持ってトイレから出てきて、なんだっけ、話した内容はさすがに忘れたな。





「今年もありがとうね!」

「お疲れ様です」


バイトも無事終わり、陽大の父親から給料を受け取ると、朝宮は先に帰って行き、俺は爽真に声をかけられた。


「掃除機くん! 僕、たくさん話せるようになったよ!」

「そうだな。八月二十五日、まだ先だけど、朝宮の誕生日だ。プレゼント用意して学校に来い」

「分かった! 君の言う通りにしていれば、なんかいけそうな気がしてきたよ!」

「感謝しろ。じゃあな」

「うん! またね!」


俺と爽真が話している時、何故か陽大は心配そうな顔で俺を見つめていた。


そんなこんなで帰ってくると、朝宮は寝ているかと思ったが、むしろ元気に、リビングで変な体操をしていた。


「なにしてるんだ?」

「身体が引き締まる運動です!」

「寝ろよ。俺は寝るからな」

「変に目が覚めちゃいました! なので掃部かもんさんは、今から私と遊ばなきゃいけません!」

「嘘だろ‥‥‥?」

「嘘じゃありません! なにして遊びます?」

「寝る」

「ダメです!! せっかくの夏休みですよ!?」

「ならあれだな。流しそうめんやるか」

「今年もやるんですか!? やりましょ! 早く!」

「今年は竹じゃなくて、流しそうめんの機械を買った。夕方に届くから、それまで寝よう」

「そういうことならしょうがないですね! 先に寝た方がっ‥‥‥」

「えぇ!? 寝た方がなに!?」


朝宮は気絶するように倒れ込み、急にリビングで寝てしまった。


「寝たの!? 嘘だろ!?」


ガチ寝かよ!!


朝宮はビックリするタイミングで寝てしまい、俺はリビングの冷房の温度を下げ、わざわざ掛け布団をかけてやり、部屋でゆっくり眠りについた。





「むかーし昔!! あるところにー!!」


体感で夕方ぐらいだろうか、朝宮の馬鹿でかい声で目を覚ましてしまった。

最悪な寝起きだ。


「ちゃんちゃん!!」

「あるところになんなんだよ!!」

「あっ、おはようございます! 流しそうめんの機械届いたので起こしに来ました!」

「そりゃどうも!!」

「着払いで、バイト代を崩したくなかったので受け取り拒否にしちゃいました!」

「バカか!? ふざけんな!! 流しそうめんできないじゃんかよ!!」

「まぁまぁ、水に流しましょ! 流っ」

「流しそうめんだけにとか言ったらブチギレる」

「な、なが‥‥‥流れる時の中で私達は出会い、魔王を倒す旅に出た。そして」

「なんか始まったな」

「なんかめんどくさくなった私達は、流しそうめんを交わしながら二人で話し合いを始めた」

「そこは酒を交わしながらだろ」

掃部かもんさんは気怠げに箸を咥えながら天井を見つめ言った。『もう地元帰ろうぜ』それを聞いた私は悩んだふりをするために頭を抱えて呟く。『魔王退治は無かったことにしましょう。全部水に流すんです。流しそうめんだけに』ってね!」

「こらぁー!!!!」

「わぁー! 怒ったー! 逃げろー!」


朝宮は親と遊ぶ子供のように一階へ逃げて行き、俺はすぐに朝宮を追いかけた。


「朝宮!! お前はいつもいつも!!」

「いつも可愛いだなんて、そんな急に♡」 

「言ってねぇよ!!」

「そう喚くな。私は今、とても機嫌が悪い」

「なにキャラだよ」

「正しくは、機嫌が悪くなりそうです!」

「なんで?」

「高野さんと私を一緒にしようとするの、そろそろ辞めないと本気で怒ります。高野さんに頼み込まれかなんかしりませんけど、とても不愉快です!」

「でも、仲良くなってきたじゃんかよ」

「さすがにずっと無視をしていたら、気まずくなるかもしれないじゃないですか。何故だか咲野さんにも見て見ぬふりされてますし、夏休み中も私と高野さんを会わせようとするなら、私は今! 寝ぼけて掃部かもんさんのパンツを履いてしまっていることを掃部かもんさんに告げます!」

「告げちゃってるよ!? なにしてんの!?」

「実は過去にも数回あります! 掃部かもんさんは知らずに、私と下着をシェアしていることになります!」

「‥‥‥」


俺自身、間接キスすらしたことないのに、知らずにハイレベルな間接キスしちゃってたわけ?

考えたら全身に鳥肌が!!

脱ぎたい!今履いてるパンツを脱ぎたい!


「うっそぴょーん!」

「よし、殴る」

「やだぁ♡ 目覚めちゃう♡」


うっぜぇー!!!!

でもあれだ、朝宮は怒りつつも、空気を悪くしないようにしてくれてる気がするな。


「まぁ、流しそうめんは諦めて、明日プールでも行くか」

「プールですか!? でも、リビングでできますよ?」

「また水浸しになるからダメだ」

掃部かもんさん、プール入れるんですか?」

「いや、保護者目線で朝宮を見とく」

「私のどこをです!? ここですか!?」


朝宮は下半身を指差し、驚いたような顔をした。


「そこ指差すのやめて!? せめて上だろ!」

掃部かもんさんが入らないなら行きません!!」

「気にしないで遊べばいいだろ」

「おめーは、なーんにもわがってねっ」

「急に訛ってどうした」

「二人で遊びたいです!! 一緒じゃないと嫌なんです!」


えっ、なにそれ、可愛い度マックスちゃんじゃん。


「最近の掃部かもんさんは、学校でもあまり話してくれなくて、私に寄ってくるのは決まって高野さんです。なんかもう、寂しいです!!」


朝宮は自分が言っていることの恥ずかしさに気づいたのか、顔を真っ赤にして、次は二階へ逃げていった。


だが俺は朝宮を追わず、リビングの椅子に座って爽真に電話をかけた。


「あ、もしもし」

「どうしたんだい? なにかいい考えでも思いついたのかい?」

「すまん、全部逆効果だったっぽい」

「ど、どういうことだい?」

「とにかく誕生日も無しだ。修学旅行でいいシチュエーションは考えるから、ぶっつけ本番でいこう」

「そんなの困るよ!」

「自分が困るって理由で、朝宮を困らせたいのか?」

「わ、分かった。修学旅行は僕が班決めの権利を手に入れて、僕と陽大くんと君と、和夏菜さんと絵梨奈さんの五人班で変更はないのかい?」

「それでいい。悪いな」

「修学旅行、最高のシチュエーションを期待してるよ!」

「おう、任せろ。じゃあな」

「あ、待って!」

「どうした?」

「正直に僕は、君が最大のライバルなんじゃないかと感じてるよ」

「‥‥‥‥‥‥じゃあな」

「おやすみ!」


イケメンがライバルとか、負けフラグ立ちすぎてやってらんないっての。

修学旅行は俺にとってもケジメのタイミングでもある。

それを考えても、ライバルじゃダメなんだよ。

まぁ、何はともあれ、爽真には夏休み明けから修学旅行当日までを頑張ってもらって、夏休み中は俺の朝宮との思い出作りに集中しよう。

でもな、朝宮は本気で嫌がってたみたいだしな。

修学旅行で告白されたら、それこそ最悪か?

そもそも、そこでカップル成立しなかったら、俺は爽真にも、朝宮にも申し訳ない感じになる。

俺の自分勝手でこんなことしてんだもんな。

最悪、友達居なくなるかも。





それから俺は普段通り夜ご飯を作り、出来上がってすぐに朝宮を呼びに自分の部屋にやってきた。


「ご飯できたぞ」

「‥‥‥」


朝宮は枕に顔を埋めて、未だに耳を真っ赤にしていた。


「食わないのか?」

「食べます! 掃部かもんさんがお風呂に入ってる時!」

「一緒に食わないのかよ」

「なら、さっきの発言は忘れてください!」

「さっきの? なんのことだ? 聞き流してたから覚えてないわ」


気を遣った嘘をつくと、朝宮はケロッとした顔で起き上がった。


「なんでもないですよ? さぁ、食べましょう!」

「ほーい」


単純な朝宮と焼きそばを食べ始めたが、俺は朝宮と夏休み中にしたかったことが全部できなくなったことに焦りを感じていた。

流しそうめんはできない。プールは俺が入らないなら行かない。

いったい、なにで思い出を増やせばいいんだよ。


「今年は神社の夏祭り行くんですか?」


やっぱり、夏祭りしかないか。


「どうする?」

「私は行きませんよ?」

「はぁ!? なんで!? 祭り好きだろ!?」

「高野さんが来るので」

「三人で遊べばいいじゃん」

「やっぱり掃部かもんさんは何も分かってないです。二人で遊びたいのに‥‥‥」

「なんだって?」


最後らへん、ボソボソしてて聞き取れなかった。


「なんでもありません!」

「んじゃ、今年は夏祭りじゃなくて、海でも行くか」

「三人でですか?」

「いや、俺と朝宮で」

「行きます!」

「海なら入らなくても、一緒に遊ぶ方法はあるし、いいんじゃないか?」

「はい!」


よし、決まりだな。

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