告白の下準備

第68話/わがままになろう


あれから朝宮はスーパー元気で、アメリカに戻る母親と親父を学校に行く前に二人で、家の前で見送った。


「行っちゃいましたね」

「だな、やっと静かになるわ」

「静かになると思いました? 残念! 私がいました!」

「あぁ、そうだったわ。朝宮が一番うるさかったわ」

「さーて、学校行きますよ!」

「一緒には行けないだろ」

「たまたま友達が通学路で会ったら、一緒に登校するじゃないですか。今更問題ないですよ!」

「それもそっか」

「真面目モード突入。キラーン」

「真面目な奴はキラーンとか言わねーよ」


そんなこんなで、初めて一緒に登校しているが、朝宮のせいで自転車登校できないのだけが不満だ。

もうなんなら、今年の誕生日プレゼントは朝宮用の自転車にしようかとも思うレベルだ。


とりあえず一緒にコンビニに寄ってから、学校を目指した。





校門を潜ったところで、一気にみんなの視線が集まった。


「校門くぐってから、視線が痛いんだが」

「下品なこと言わないでください。あぁでも、掃部かもんさんは汚物だから間違ってはいませんね」

「それ、校門違いだろ」

「なんのことですか? 変態ですね。気持ち悪いです」

「分かってんじゃねぇかよ」


そのまま朝宮に罵られながら下駄箱までやってくると、朝宮の下駄箱から大量のラブレターが雪崩のように落ちてきた。


「はぁ」


今まで同じタイミングで登校してこなかったから気づかなかったけど、これが毎日なのか。

でも、家でラブレターなんて見たことないけどな。

そう思っていると、朝宮は大量のラブレターをビニール袋に入れ、学校備え付けのゴミ箱に、ビニール袋ごと捨ててしまった。


なるほどな。

にしても容赦ないな。


それから教室に行くと、寧々が掃除を済ませてくれていて、快適な学校生活のスタートだ。

だが俺は動き出さなきゃいけない。


「爽真」

「どうしたんだい?」

「ちょっと自販機に付き合ってくれ」

「お昼以外に買うのは校則違反じゃなかった?」

「いいからついて来い」

「しょうがないな」


乗り気じゃない爽真を連れて一階に降りてきて、自販機の前までやってきた。


「先生に見つかる前に早くしてれよ?」

「本当は飲み物を買いに来たわけじゃない」

「僕をからかったのかい?」

「違う。爽真と朝宮が付き合えるように、俺がサポートしてやる」

「本当かい!?」

「静かに」

「そ、それで、どうするんだい?」

「爽真は急に告白とかするからダメなんだ。まずは朝宮の警戒心を解いて、普通に話せる仲にする。今日から昼休みは三人で飯食うぞ」

「わ、和夏菜さんとお昼!? 考えただけで緊張してきたよ‥‥‥」

「朝宮はいつも、話しかけられるのが嫌で、昼になるとすぐにトイレに行くんだ。だから今から教室戻って、爽真が誘え」

「断られたら?」

「心配するな。行くぞ」

「う、うん」


すぐに教室に戻り、爽真は絵梨奈と話す朝宮に声をかけた。


「和夏菜さん」

「はい?」

「今日のお昼、一緒に食べないかい?」

「それで絵梨奈さん、あの小説は読みましたか?」


朝宮の奴、一回反応しといて、堂々と無視か。


「う、うん。読んだよ!」

「感想は?」

「えっとー、主人公がカッコ良かったよね!」

「気弱な女の子が主人公なのですが」

「あれ?」

「わ、和夏菜さん? お昼‥‥‥」


よし、俺の出番だな。


「なんだ? 爽真と朝宮、一緒に昼飯食べるのか?」

「いいえ?」

「なんなら三人で食おうぜ。絵梨奈もどうだ?」

「私は桜と寧々の三人で食べるから」

「んじゃ、こっちも三人で」

「三人ならいいですけど」

「んじゃ、屋上集合な」

「はい」


これでよし。





そして昼休み。

予定通り屋上に集まった。


「いただきます」

「いただきまーす」

「いただきます! 二人はコンビニのおにぎりなんだね」

「楽だからな」

「和夏菜さんは梅のおにぎりが好きなのかい?」

「‥‥‥」


無視を貫き通すつもりか。

でも一日目はこれでいい。





「ごちそうさま」


結局朝宮は一言も喋らずに、先に教室へ戻ってしまった。


「ずっと無視されてたんだけど」

「今日はこれでいい。毎日今日みたいな感じで、グイグイいかないで、あくまでも自然にだ。今の目的は付き合うんじゃなくて、知り合いになることだからな」

「友達じゃなくて!?」

「朝宮にとっては、知り合いと友達の間には大きな違いがあるように見えるんだよ」

「さ、最近は絵梨奈さんと喋るようになったけど、絵梨奈さんは友達なのかな」

「絵梨奈も遠回りだけど、だいぶ努力したと思うぞ?」

「やっぱりそうなんだね」


実際、絵梨奈は粘り勝ちみたいな感じだけど、女同士ってのも、朝宮の心を開くにはプラスに働いたんだろうな。


「とにかく、後二日は三人で食う」

「分かったよ! 本当にありがとう!」

「おう」





そしてその日の夕方。


「なーんなんですか!? わざと三人で食べるように仕向けましたね!」


普通に朝宮にバレた。


「い、いや?」

「嘘です! 掃部かもんさんが、わざわざ三人で食べるわけありませんもん! 別にいいですけど、明日も私を誘ったら分かってますよね?」

「どうなっちゃうの?」

「あっ、なんにも考えてなかった! てへっ♡」

「わー、可愛いー」

「棒読みじゃないですか!!」

「あっ、棒読みになっちゃった。てへ」

「感情こもってないのでダメですね。このダメ男!」

「家事全般やってるやつに言う!?」

「元気出してください。きっと、掃部かもんさんを認めてくれる人は居ます」

「哀れみの目やめろ」

「人は星の数ほどいますからね! それにドッペルゲンガーって知ってます?」

「顔が同じ人間がこの世に三人存在してるって言うよな」

「そうです! 見た目は同じなのに、全く違う生き方をしているんですよ! もう一人の掃部かもんさんは、みんなに好かれて幸せな毎日送ってるかもしれませんね!」

「慰めたいの? 傷つけたいの?」

「お腹空いたの」

「聞いてねぇ」


両手でお腹を押さえて困り顔をする朝宮に、母親に教わったやり方で魚を焼いてやり、さっそく二人で食事を始めた。


「うみゃい!!」

「よかったな。つか、爽真と食べる時も普通に喋れよ」

「知ってますか? 食事中に喋るのはダメなんですよ?」

「そんなこと言う奴が、数秒前に『うみゃい』とか言わないんだよ」

「ゔっ、ひっ、いっ、あっ、んっ」

「えっ」


朝宮は苦しいような変な声を出しながら、指で喉をつまみだした。


「まさか骨刺さった!?」


静かに頷く朝宮を見て、俺は慌てて朝宮の箸を握った。


「ほら、ご飯噛まずに飲み込め!」

「‥‥‥うっ」

「ご飯詰まった!? 水飲め!!」

「うぅ‥‥‥はぁ」

「まったく、焦らせるなよ。消毒消毒」


朝宮はなんとか危機を脱し、俺はすぐに手の消毒をした。


掃部かもんさん!!」

「なんだ」

「あーんした後に消毒とか、雰囲気ぶち壊しです!」

「あの状況で、雰囲気もなにもないだろ」

「ありますよ! 口に入れる時も『あぁん♡』って感情込めなきゃです!」

「それ、どう考えても変な空気になるだろ。それに男がそれはキモい!」

「そもそも、骨は抜いてくださいよ!」

「なら缶詰の魚でも食ってろ!」

「上流階級の私が缶詰ですって? ふふっ。 笑ってしまいますわ!」

「誰だよお前」


爽真がいる時と違って、本当よく喋るな。





それから二日間、三人でお昼を過ごしたが、朝宮は一言も喋らず、とくになんの変化もないまま七月に入ってしまった。


「今月頑張れば夏休みです。夏休みが終わったら修学旅行の話し合いが始まるから、頑張りましょう」


芽衣子先生による朝のホームルームが終わり、俺は爽真を廊下に呼び出して、今日からの作戦を伝えた。


「今日の放課後から、夏休み前の肝試しの準備が始まるだろ?」

「うん」

「それで朝宮を手伝え。スマートに、さりげなくだ」

「分かった。でも、準備って言ってもあれだよ?」

「なんだ?」

「肝試しは一年生だけが対象だから、肝試しに使う物は基本使い回しらしんだ。だから当日まで、衣装のサイズ合わせとか、役割の分担しかしないらしいよ。あとは色々練習とかかな?」

「えっ、衣装も使い回し?」

「だと思うけど」

「えっと、当日はバックれるから、なんとか頑張れよ」

「え!? 参加しないのかい!?」

「何年にも渡って誰かが着た衣装なんて着れるかよ。しかも夏だぞ? 汗染み込みまくりだろ」

「君は相変わらずだね」

「とにかくだ、爽真は朝宮と同じグループになれるようにでも動け」

「頑張ってみるよ」


そんなこんなで、朝宮と爽真の距離が日々じわじわと縮まる中、咲野は俺の行動に気づいたのか、時々咲野の鋭い視線、圧のようなものを感じるようになった。


「それと、修学旅行までは告白みたいなこと絶対にするな。そんで、夏休み中、俺からの連絡には絶対反応しろ」

「任せてよ!」

「よし」


朝宮との夏休み、二人でいる時は、去年より楽しもう‥‥‥また流しそうめんもして、今年はちゃんとプールにでも連れて行くか。

それこそ、爽真を誘うべきか?

いや、きっと最後の思い出になるし、ここだけは、わがままになろう。

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