第65話/唾液垂らしたら面白そう


「おはようございます♡」

「‥‥‥」


朝宮が裸で俺の布団に入り、更には俺に抱きついている。

すぐに夢だと理解した。


そして俺は気を失ったが、気を失ったのに物事は考えられるという、夢特有の状況だ。

なんでこんな夢見てるんだ?とか考えちゃうぐらいに夢だと理解してしまっているが、こんな夢を見てしまったのは、昨日、朝宮の半裸を見てしまったからだろう。


「やったー!!!!」

「っ!?」


現実の朝宮の声で目を覚まし、ベッドの方を見ると、朝宮はまだ寝ていた。

とんでもない声量の寝言だったな。


「朝宮、起きないと遅刻するぞ」

掃部かもんさーん♡ えへへ♡」


は?なにこいつ。

なんの夢見てんの?こわっ。


「ダメですよー♡ ちゃんとスキンヘッドにしなきゃー♡」


マジで恐ろしい夢見てるじゃんかよ。

そう思った時、朝宮はゆっくり目を開け、眠そうな顔で俺を見つめた。


「どうして髪があるんですか?」

「現実だから」

「私、裸の掃部かもんの頭をツルツルにしてました」

「なんで裸なんだよ」


人のこと言えないけどね。


「しかも掃部かもんさん、日向さんと絵梨奈さんに踏まれて喜んでました」


最初の『やったー!!!!』はなんなんだよ。


「嫌な夢見るな。遅れるから準備するぞ」

「同じ部屋で着替えるのって、小学校低学年のプールの授業みたいですね」

「いや、俺は脱衣所で着替えるから、朝宮はここで着替えていいぞ」

「まさか! この部屋に隠しカメラが!!」

「ねーよ!!」


俺は制服を持って一階に降りてきたが、リビングに親二人がいるのが新鮮で、なんだか変な感じだ。


「おはよう! よく寝れたか?」

「まぁ」

「朝ごはんは魚を焼いたからね」


母親と顔を合わせるのが気まずい‥‥‥。

とにかく着替えてこよ。


さっそく風呂の脱衣所で制服に着替えて、歯を磨いていると、そこに母親がやってきた。


「朝宮ちゃんはまだ二階ね」

「うん。どうした?」

「これから私とパパは日本の病院へ仕事に行かなきゃいけなくて、帰りは夜遅くなるから」

「そうなのか」

「それまでに朝宮ちゃんを追い出しなさいね」 

「‥‥‥」

「ここに住まわせていても、なんの解決にもならないよ。一輝はあの子が大切?」

「そりゃ、一年も一緒に暮らしてきたから、なんとも思ってないことはない‥‥‥」

「なら、分かったわね?」

「‥‥‥」


どうして急にそうなる。

俺の口から帰れなんて言ったら、朝宮は‥‥‥。


それからすぐに二人は家を出ていき、その後すぐに朝宮がリビングへやってきた。


「ご両親は居ないんですか?」

「仕事に行った」

「そうなんですか。え!? 掃部かもんさんが魚を焼いたんですか!? お味噌汁も! 海藻サラダもあります!」

「母親だよ」

「こんな朝食久しぶりで嬉しいです! 帰ってきたらお礼言わないとですね!」

「そうだな‥‥‥」

「なんか元気無くないですか?」

「別に?」

「絶対元気ないです! 久しぶりにママと会ったのに、仕事に行っちゃって寂しんでちゅか?」

「んなわけねぇだろ!」

「大丈夫ぅ? 飲む?」


朝宮は自分の胸をくいっと持ち上げて見せてきたが、真顔で見つめると、恥ずかしかったのか、静かに味噌汁を飲み始めた。


「なぁ」

「い、今更飲みたいとか言ったら殴りますからね!」

「違うわ。今日、学校休もう」

「一緒にですか?」

「テストの日でもないし、ダメか?」

「そんなこと言うの初めてですよね。一日中飲みたいってことですか!? ごめんなさい嫌です!!」

「違う!! そもそも出ないだろ!!」

「出る体にしてやる!? プロポーズにしてはキモすぎます!!」

「言ってねぇ!」

「そもそも、一緒に休んだらみんなに怪しまれますよ? 二人でズル休みして、飲んでるんじゃないかとか思われますよ?」

「母乳から頭離そうな。最近は学校でも一緒にいることが多いし、どっちかの風邪が移ったとかあり得る話だろ」

「そもそも、休んでなにするんですか?」

「‥‥‥さっき、朝宮を家に返せって言われた」

「‥‥‥」


朝宮は露骨に悲しそうな顔をしてしまい、食べる手が止まってしまった。


「でも安心しろ。部屋に匿ってやるから、夜ご飯とか、今のうちにいろいろ買いに行こう」

「バレたら怒られてしまいますよ?」

「なら帰るか? 朝宮が辛くない方を選んでいい。もう、一年以上一緒にいるんだ。これからも朝宮の面倒見ることぐらい俺にはできる」

「‥‥‥面倒見られてあげます」

「よし。まず、夕方には風呂を済ませろ」

「そして、トイレはペットボトルですね!」

「同じ部屋で用を足すのだけは勘弁してくれ! 俺が親の目を盗んでトイレに誘導する」

「夜ご飯はどうします?」

「カップ麺が大量にあるから、しばらくはそれだ。部屋で使うポットをこれから買いに行く」

「分かりました!」


俺達は怪しまれないように、一定の時間を空けて学校に休むと連絡し、登校している生徒が居ない時間になったのを確認して家を出た。


「ズル休みしてお出かけだなんて、なんだかワクワクしますね!」

「あまりないよな」

「はい! このままお洋服とか見に行きません?」

「ダメだ。帰っていろいろ対策も練らなきゃいけないし」

「ぶーぶー」

「早く行くぞ、子豚ちゃん」

「おいこら」

「汚いお言葉遣いですこと」

掃部かもんさんと一緒にいるからですよ」

「あっ、ホームセンターまだ開いてないわ」

「無視しないでください!!」


まだ十時前ということもあり、ホームセンターが開いていなく、コンビニに寄り、朝宮が食べたいカップ麺を何個か選ばせて時間を潰すことにした。





そんなこんなでホームセンターも開店し、朝宮は、ホームセンターのペットコーナーから動かなくなった俺に付き合ってくれつつ、ポットを買って家に戻ってきた。


「帰ってきましたけど、ゲームでもしますか!」

「朝宮はまた課金したくなるからダメだ。それより、母親の部屋から朝宮の私物が少しでも無くなってないと変だろ。服だけでも俺の部屋に移動させろ」

「分かりました! 下着は見えない場所に仕舞いたいんですが、段ボールとかあります?」

「朝宮の方が持ってるだろ。よく通販使うし」

「昨日全部捨てられました」

「あぁー、ホームセンターから貰ってくればよかったな」

「なら、ベッドの下に仕舞います! 見ないでくださいね?」

「はいはい」


昨日、髪で隠れた上半身裸を見ちゃったし、今更下着ぐらいじゃ、俺は動揺しない。

下着姿となれば別だけど。





そして夜になり、朝宮はお風呂もご飯も済ませて、俺の部屋で息を潜めている。

そんな中俺は、リビングで二人と食事中だ。


「急に朝宮ちゃん帰せなんてごめんね?」

「いや、いいよ。残った私物は、またそのうち取りに来るってさ」

「それは全然いいよ」

「一輝」

「ん?」

「朝宮ちゃんと付き合ったりしないのか? 見てたら好きなのバレバレだぞ」

「バ、バカなこと言うなよ! 朝宮のことが好きな人は沢山いるし、俺の友達も朝宮のことが好きだ。そいつはイケメンで、ちょっと性格を直せば朝宮と付き合えるはずなんだ。だから俺はそいつを応援する」

「焦るとよく喋るよなー」

「朝宮ちゃんもアンタのこと好きでしょ、絶対」

「それは絶対ない」

「んー? 一年も一緒に生活して、少しぐらい心当たりあるんじゃないの?」

「‥‥‥」


両親との恋バナとか拷問だろ‥‥‥。


「どうなのよ」

「どうなんだ一輝」

「あ、あるかもな。でも、俺じゃ釣り合わないし、潔癖症のせいで朝宮を傷つけるかもしれない。だからこのままの関係がベストだ。本当に付き合う気はないんだ」

「分かる! 分かるぞ一輝! 実はパパは人間不信だった頃があってな」

「え? そうなの?」

「本当よ。私とパパはが出会った頃の話ね」

「俺はママに惚れてた! でも、信用はしてなかった。だから、好きって気持ちだけで近づけば、俺が傷つくかもしれないし、不安を口にして、ママを傷つけるかもしれないって思ってな」

「だけど私は寛大だから、受け止めてあげたんだよ」

「そうそう! だからパパはな、今でも女性はママのことしか信用してないってわけだ! 最初の一歩が大切だ。 踏み出して転んだら、またゆっくり違う道を探せばいい。転びそうな自分を受け止めてくる相手なら、きっとそれは運命ってやつだろうな!」

「ふぅー! パパかっこいぃー!」

「がはははははは!」

「朝宮が俺を受け止めてくれるわけないだろ。あいつはドアホだからな。ごちそうさま、歯磨きして寝るわ」


朝宮が物音立てる前に部屋に戻らないといけないと思い、二人と恋バナをするのも嫌だったこともあり、急いで歯を磨いて自分の部屋へ戻ってきた。


「おかえりなさい」

「ただいま」


朝宮はちゃんと囁き声で話してくれるし、状況はしっかり理解してるみたいだな。


そして、朝宮と暗い部屋で謎の見つめ合いが始まり、気まずくて俺が先に目を逸らしてしまった。


「な、なんだよ」

掃部かもんさんって、自分の優しいところが嫌いなんですよね」

「まぁな」

「私は‥‥‥」

「‥‥‥」

「もっと他にも嫌うべきところがあると思いますけど」

「シンプルにムカつくんだが」


特にすることもなくて、大人しく布団に入ると、朝宮は髪の毛が俺に当たらないように手で束ねながら、前屈みになって俺を見下ろした。


「今、唾液垂らしたら面白そうじゃないですか?」

「殺す気? つか、あまり喋るな」


その時、家のインターホンが鳴り、一階から寧々の声が聞こえてきた。


「お邪魔します」

「久しぶりじゃん!」

「はい! 一輝お兄ちゃんいます?」

「部屋にいるよ」

「それじゃ、ちょっと会ってきますね」

「どうぞー!」


その会話を聞いた俺と朝宮は目を見開き、朝宮は慌ててベッドに潜り込んだ。


「一輝お兄ちゃん」

「き、来たのか」

「うん。久しぶりにこの家来たよ」

「なんの用だ?」

「なんの用って、暇だったから遊ぼうかなって」

「もう夜だぞ。帰って寝ろよ」

「泊まるから大丈夫」


全然大丈夫じゃない。

大問題だよ!!!!

寧々には正直に話して味方につけるか?

いや、変に真面目なところがあるから、逆に危険か?

電気をつけられたらベッドの膨らみでバレそうだし、マジでどうする!?


そうだ!バレたら朝宮に女王様モードなってもらって、寧々を脅そう。そうしよう!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る