第64話/新しい同居スタイル...♡
亀甲縛りされた朝宮はリビングの椅子に座らされ、口元のタオルを外された。
「それで? どうして一年もこの家に住んでるの?」
朝宮が俺の前で本当のことを話すのか?
話さなきゃいけない状況だけども。
「家庭環境にうんざりして逃げてきました。逃げてきたと言っても、追い出されたんですが」
「暴力でも受けた?」
「いいえ、なにもされてません。本当になにもです。私には姉がいるのですが、私だけがお父さんと血が繋がっていないんです」
「貴方だけ、あまり愛情を受けてこなかったってことかな?」
「そうなるんですかね。家に居るのも苦痛で、お父さんが私に無関心なのが嫌で、わざと食器を割ってみたり、掃除をしなかったり、それでも怒って私を追い出したのは母親でした」
だから、いつもわざと掃除しなかったのか。
ただ、構ってほしかったってことなのかな。
「それで私の部屋も散らかっていたのね」
「すみません‥‥‥」
「一輝は愛をくれた?」
「‥‥‥は、はい」
なにこれ気まずい‥‥‥。
「
「そりゃ、私が死にかけながら産んだ子供だもん。優しくなかったらしばき回すよ」
「急に怖いんだが」
「まぁ訳は分かった。それで、二人は付き合ってどのくらい?」
「付き合ってない」
「分かってるわ!! 一輝がこんな美の頂点みたいな人と付き合える訳ないってことぐらいね!!」
「朝宮、俺の母親はこんな感じの人だから、肩の力抜けよ」
「縛られてて力すら抜けません」
「あぁ‥‥‥」
すると、母親が朝宮の縄を解いてあげた。
「あ、ありがとうございます」
だか母親はすぐに、油断した朝宮の耳を引っ張って椅子から立たせてしまった。
「いっ!? 痛いです!!」
「なにはともあれ、部屋を掃除しなさい!! 汚くて寝れないじゃない!!」
「ごめんなさい!」
母は強し。
それから朝宮と俺の母親は部屋を掃除し始め、一気に二階が騒がしくなった。
「ほら! ゴミ袋広げる!!」
「はい!」
「飲み物は最後まで飲みなさい!」
「ごめんなさい!」
朝宮が素直に掃除してるなんて、クリスマスの時以来だな。
「ん?」
裏庭が見える窓から俺を見つめる、ガタイのいいスキンヘッドマン。
俺の親父が俺を見ていた。
窓開けてやるか‥‥‥。
「なにしてんだよ‥‥‥」
「いやぁ、一輝お前大丈夫か?」
「は?」
「泥棒が入ってきたとか言うから、裏庭に避難してたんだよ!」
「そのイカツイ見た目でビビるのやめてくれ」
「ママは大丈夫か?」
「しかも女に任せるとか。母親なら泥棒と仲良く掃除中だ」
「なんだって!?」
「てか泥棒じゃない。俺のクラスメイトだ」
「なーんだ! パパうっかり!」
「頼む。見た目に合った性格になってくれ」
「俺の見た目で男らしかったら怖いだろ。眉毛もないんだぞ」
「生やせよ」
「髭の脱毛に行ったら、オーダーミスでやられたんだよ!! 十一回も!!」
「早い段階で言えばよかったじゃん。とにかく入れよ」
「そうだな! 一輝とは一年以上会ってなかったし、今日は徹夜でお勉強しよう!」
「嫌だ」
見た目のインパクトと中身が違いすぎて、親父だけは朝宮に会わせたくないな‥‥‥。
そんな願いも虚しく、親父とリビングで会っていなかった間にあった出来事なんかを話していると、両手にゴミ袋を持った朝宮がリビングにやってきてしまった。
「お前が朝宮か! こらぁ!!」
「ひぃ!」
「親父? やっぱり見た目に合った性格はやめておこう」
「だよねー! これじゃ、パパ疲れちゃうよ!」
「朝宮、この危ない仕事してそうなのが俺の父親だ。この見た目で医者として世界中飛び回ってる」
「は、はじめまして‥‥‥」
「じめー」
「省略するとこおかしいだろ」
「怖い人じゃないんですか?」
「全然怖いくない。母親もあんなんだけど、まったくだ。ちなみに母親は研究者をしてる」
「凄いですね。なんの研究してるんですか?」
「なに? 私の話?」
「あ、は、はい」
「詳しい話すると長いから、簡単に言うと医療系! どう? すごいでしょ?」
「はい!」
「そうでしょそうでしょ! って、そんなことは置いといて!!」
「え? なに?」
「このマッサージ機はなんだー!!」
あ、朝宮が変な声出しながら使うやつだ。
「朝宮が使うやつ」
「あっ、ごめんね? 年頃だもんね!」
「えっ? え?」
こういう時、男は気まずい。
そして朝宮よ、意味を理解してるくせに、猫被ってるな。
「とりあえず掃除も終わったし、朝宮ちゃんに料理でも作ってもらおうかな!」
「やめた方がいいぞ」
次の瞬間、表情で真面目スイッチが入ったのが分かった。
「やっぱり大丈夫だ」
朝宮は余りに余ったパスタを茹ではじめ、ベーコンも丁寧に切り、パスタ作りを進めた。
※
「できました」
「ありがとう!」
朝宮は一皿ずつテーブルに運び始め、俺のだけ手袋をつけてテーブルに運んできた。
「いただきます!」
「いただくね!」
「んー! これ、本当にレトルトかけただけ?」
「少し塩も使いましたが」
「美味しいよ! 一輝も食べな」
「いや‥‥‥」
「見てなかったの? アンタの分だけ別に、ずっと手袋つけて作ってたよ? お互いにいい理解者みたいじゃん」
「そうだぞ、食べないと性欲も半減するからな」
「別にそれは要らねぇよ」
チョコはなにも知らずに食べてしまったけど、ガッツリ料理したものはまだ食べたことがない。
怖いな‥‥‥。
「い、いただきます‥‥‥」
「は、はい!」
そんな嬉しそうな顔されたら、やっぱり無理とか言えないじゃんかよ。
目を閉じて、恐る恐る一口食べてみた。
美味い‥‥‥美味いけど‥‥‥。
全身に鳥肌が‥‥‥。
「美味い」
そう伝えると、朝宮は何も言わずに明るい笑顔を見せて、喜びを表した。
「今、あまりお腹空いてないから、朝宮食べるか?」
「いいんですか?」
「うん、全部食っていいぞ」
「ありがとうございます!」
それから四人で学校のことを話したり、朝宮が質問責めされたりしながらも、早くも俺の親と打ち解け始めてる気がした。
※
夜ら四人で焼肉をし、寝る時間になると、朝宮は敷布団を抱えて俺の部屋にやってきた。
「なにしてんの?」
「また日本を離れるまで、
「無理!!」
「しょうがないじゃないですか! トイレとお風呂の時以外、一緒にいることぐらい我慢してくださいよ!」
「ほぼずっとじゃんかよ!」
「ちなみに、私がベッド使っていいですよね?」
「いや、なんで?」
「それぇー!」
「おい!!」
朝宮は容赦なく俺のベットに潜り込み、俺が使えなくすることによって、強制的に俺は敷布団で寝ることになってしまった。
俺は泣く泣く敷布団に入り、朝宮は快適にベッドに横になりながら携帯をいじり始めた。
「
「変わり者だけどな」
「羨ましいとか思っちゃいました」
「日に日にウザく感じてくるから気をつけろ」
「私は気にしません。それより、おっぱいマッサージするのでこっち見ないでくださいね」
「え、な、なにそれ」
「柔らかくしたり、形が良くなったり、大きくなる効果があります!」
服を脱ぐ音が聞こえて、ゴクリと唾を飲む。
「今日もとても柔らかいです! でも大きいと、下乳に汗かくから嫌なんですよね」
「‥‥‥」
「あれれー? 体丸めてどうしたんですかー?」
「こ、こうすると落ち着くだけだ」
「そうですか! そういえば、しばらく大変ですね!」
「なにがだよ」
「右手の筋肉落ちちゃうんじゃないですか?」
「‥‥‥」
毎日朝宮が真後ろで服脱いで、俺は平常心を保つ日々‥‥‥この新しい同居スタイル‥‥‥思ったより地獄なんだけど!!!!
「男の人はいいですよね」
「な、なにが?」
「マッサージの効果がすぐに出て」
「ド下ネタやめて!?」
「きゃ!! 見ないでくださいよ!!」
「ごめん!!」
「アンタ達うるさいのよ!!」
突然入ってきた母親は、多分胸を丸出しにしている朝宮を見て、ニコッと笑みを浮かべて静かに扉を閉めてしまった。
「勘違いされたじゃねぇか!!」
「だから、こっち見ないでくださいって!!」
「ごめん!!」
「もうわざと見てますよね!」
「わざとじゃない!」
「まぁ、全身タイツですけどね!」
「また男の純情もてあそびやがって!」
そう言いながら振り返ると、朝宮は呑気に座りながら、両腕を天井に伸ばして背伸びをしていた。
なにこのエロすぎる格好。
二回目でも見慣れないんだが。
髪の毛で隠れてるのが妙にエロい。
全身タイツ考えた人って神だよな。
背伸びをやめた朝宮は、俺にガン見されているのに気づいて、ピタッと動きが止まった。
「あ、あの‥‥‥」
「なんだよ」
「全身タイツ‥‥‥その、嘘です‥‥‥」
「‥‥‥」
「‥‥‥」
俺は静かに布団に入り、頭まで掛け布団をかぶった。
「み、見えてました?」
「髪の毛で見えなかった」
「汚いものをごめんなさい」
「大丈夫、綺麗だった」
「それはそれでキモいんですけど! 綺麗だったってなんですか!?」
「うるせぇ! 寝ろ!」
「いーやーでーすー!!」
この生活、いつまで続くの!?!?!?!?
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