家族

第63話/美少女の亀甲縛り!?


六月に入ると、俺と朝宮は学校でも、今まで以上に普通に話すようになってきたが、朝宮にたいするみんなのイメージがクールで淑やかで真面目という状況を利用して、朝宮はやりたい放題になっていた。


「朝宮!!」

「はい?」

「俺の昼飯盗んだだろ!!」

「なぜ私が盗みなんて」

「俺のおにぎりが無くなってんだよ!」

「和夏菜が盗むわけないじゃん」

「なんで絵梨奈が分かるんだよ」

「そうそう、理由も無しに疑うとか、一輝最低じゃね?」


なんか俺が責められてるが、いつも家に帰ると、朝宮のカバンから俺がコンビニで買った昼飯のゴミが出てくるんだ。

でも、それをここで説明できるわけもなく、俺は毎日朝宮に昼飯を奢っている形になってしまっている。

そして俺は割高の売店で昼飯を買わなきゃいけない。

こんなの許されないだろ。


ただ、そうなってからは、朝宮は毎晩俺が許せるやり方で、コンビニのサラダを皿に盛り付けてくれたり、たまに焼き鳥を買って帰ってきてくれる。

だから家では怒らないようにしている。

俺は寛大なのだ。


「まぁいいや。陽大、売店付き添ってくれ」

「僕は部室行かなきゃ」

「んじゃ、売店で飯買ったら俺も行くわ」

「分かった!」


朝宮を軽く睨んだ後、俺は売店に行ってクリームパンを買って、新聞部の部室へやってきた。


「うぃー、次の新聞はなんのこと書いたんだ?」

「最近仲のいい、一輝と和夏菜さんについて浮上してる、実は恋人説について!」

「へ?」

掃部かもんさん、取材させてください」

「えっとー、どうぞ?」


島村はノートとペンを持ち、クリームパンを食べる俺に質問を始めた。


「まず、二人がデキているという噂について、それは二人が恋人同士なのか、二人の間に子供ができたのか、どちらだと思いますか?」

「よ、陽大? しーちゃんってこんな人だっけ?」

「インタビューにもユーモアがあった方がいいって考えにしたんだよ!」

「へっ、へぇー‥‥‥まぁ、恋人かな?」

「それでは、掃部かもんさんは、朝宮さんと高野さんがデートしたことについて、どう感じていますか?」

「別になんとも? 爽真は一年の頃から朝宮のことが好きだし、よかったんじゃないか?」

「そうですか。ちなみになんですが、二人が私服で歩いている写真と、映画館から出てきた写真、そして商店街で喧嘩している写真がありますが」

「はぁ!?」

「新聞に使っていいですか?」

「ダメだ!!」

「なら、写真の撮り直しも可能ですが」

「週刊誌みたいなことすんな!」

「やっぱりあれですか? 綺麗好きな掃部かもんさんですから、夜の方もお掃除ほにゃららとかさせるんですか?」

「しーちゃん? 道を踏み外しちゃいけないぞ?」

「ちょっとエグいジョークです」

「エグかったら、ちょっととか関係ないから」

「でも、休日に一緒に映画を見に行く仲なのは間違いないよね?」

「友達だからだ。朝宮呼ぶから待ってくれ。とにかくこの新聞は無しだ」


電話で朝宮を呼び出すと、朝宮は俺が買ったおにぎりを持ちながら部室にやってきた。


「なんですか?」

「そのおにぎりはどうした」

「トイレで食べてる途中でした」

「そうじゃねぇよ。とにかく、この二人が俺達のことを新聞にしようとしてるんだよ。朝宮からもダメって言ってくれ」

「どのような内容ですか?」

「朝宮さん、掃部かもんさんはお掃除を要求してきますか?」

「掃除?」

「答えるな。この質問は罠だ」

「では、掃部かもんさんの一物のサイズはどれくらいでしたか?」

「このくらいです」


朝宮は指を広げてサイズを表してしまった。


「バカか!? もっとあるわ!!」

「そうでしたか?」


次の瞬間、島村はペンを床に落とし、陽大は空いた口が広がらなくなっていた。


「あっ‥‥‥違うぞ!?」

「そ、そこまで進んでたの!?」

「違うって!!」


島村はペンを拾い、早口でぶつぶつ言いながら、すごい速さでメモを取り始めた。


「朝宮さんは掃部かもんさんのサイズを知っていた。なのに二人は恋人同士ではない。朝宮さんは真面目だから、この場合、掃部かもんさんが朝宮さんを狂わせてしまったことになって、朝宮さんは掃部かもんさん無しじゃ生きられない身体にされてしまい、それでそれでっ!?」


朝宮は饒舌な島村のちょんまげを掴み、恐ろしいほどの無表情で島村を見下ろした。


掃部かもんさん無しじゃ生きられない身体ですって?」

「冗談です‥‥‥」

「川島さんと島村さんの熱愛でも書いたらどうですか?」

「和夏菜さん!?」

「私達はそんな関係じゃありませんよ?」

「そうなんですか? どちらの苗字にも島が付きますし、お似合いじゃないですか」


朝宮は知ってか知らずか、デリカシーのカケラもないな。


「島だけじゃないですか」

「シマシマコンビって良くないですか?」

「村が同じならムラムラコンビだったのか」

「‥‥‥」

「‥‥‥」

「‥‥‥」


えっ、なに?

高校生なら下ネタは笑うところじゃないの?


「なんかごめん」

「とにかく、私達に関する内容は却下です」

「分かりました。では、新しいネタをください」

「絵梨奈さんについてはどうですか?」

「絵梨奈さんですか」

「絵梨奈さんと咲野さんは仲が悪くて、近々決闘するらしいですよ?」

「殴り合いですか?」

「拳とカッターじゃないですか?」

「いや、止めろよ」

「咲野さんにはカッターは当てないように言ってあります」

「なら問題ないですね」

「問題ないの!? と、とにかく、俺達の記事は控えてくれると助かる」

「分かりました。でも、ビッグニュースだった場合は新聞にさせていただきます」

「分かった。あとさ、マラソンで俺が転んでるとこの新聞、そろそろ剥がしてくれ‥‥‥」

「あれは評判がいいので嫌です」

「私もあの新聞は携帯で撮りました」

「おい」


とにかく、なんとなく新聞部の部室に顔出してみてよかった。

じゃなきゃ、また勝手な記事書かれるところだったな。





放課後になると、朝宮は先に帰って行き、島村は、廊下で怒られる咲野と絵梨奈の写真を撮っていた。

結局、決闘しようとしたところで捕まった感じか。絡まれないうちに俺も帰ろう。


そして階段を降りて一階にやって来た時「一輝お兄ちゃん」と、寧々に声をかけられた。


「どうした?」

「今日帰ってくるんだってね」

「誰が? どこに?」

「一輝お兄ちゃんのお父さんとお母さんが家に」

「‥‥‥んっ!?」

「聞いてなかった?」


何も知らないで、朝宮が帰ってしまった‥‥‥。

それにあの部屋を見られたら‥‥‥。


「わ、悪い! ちょっと帰るわ!」

「私も後で行くね」

「来るな! 絶対来るなよ!」


俺は全力で自転車を漕いで帰宅して、慌てて玄関の扉を開けると、俺の目に衝撃的な光景が入ってきた。


朝宮は口をタオルで縛られ、亀甲縛りをされて涙目になっていたのだ。

そしてその背後に俺の母親‥‥‥。


「久しぶり! なんか不審者が入ってきたから縛り上げちゃった!」

「‥‥‥」

「美少女の亀甲縛りを目の前に言葉も出ない? 本当はすぐに警察に突き出そうと思ったんだけど、見れば一輝の高校の制服だったから、とりあえず亀甲縛りにしといたよ」

「とりあえずの意味がわかんねぇよ!!」

「部屋も荒らされてたし、こいつ、絶対泥棒だと思うんだけど、どうする?」

「‥‥‥はぁ‥‥‥一緒に暮らしてる‥‥‥」

「ん? なに?」

「一年前から一緒に暮らしてる」

「なに!? 一輝の彼女だったの!? なら、丁度縛ってあるし、このまま一輝に可愛がってもらいなさい」

「いや‥‥‥なに言っちゃってんの? てか、怒らないのか?」

「事情があるから一緒に住んでるんでしょ? ならすぐに怒っても仕方ないでしょ。とにかく話を聞く! 来なさい!」

「ん〜!」


朝宮はロープを掴まれて、亀甲縛りのままリビングへ引きずられて行った‥‥‥。

さすがの朝宮も、俺の母親には敵わなかったか。

んで、この緊急事態に親父はどこ行った。

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