第62話/デートを尾行


膝の傷も癒えてきた頃、朝宮と爽真のデート当日。

魚に餌をあげていると、朝宮は制服姿で一階に降りてきた。


「休日のデートで制服かよ」

掃部かもんさんには関係ないです」

「はいはい、そうですねー」


マジで行くのかよ。

嫌なら断ればいいだけなのに、本当は朝宮も、イケメンとデートできて満更でもないってことか。

なんか面白くないな。

つか、なんで俺はムカムカしてるんだ。


「遅れちゃうので行きますね」

「いってらー」


朝宮が家を出て行き、俺はこっそり朝宮の尾行を始めた。


まったく、俺はなにをしてるんだか。


朝宮はそのまま歩きで公園へ行き、そこで待っていた爽真と合流し、俺はベタに電信柱の後ろに隠れて、二人の会話を聞くことにした。


「待ってたよ! 休日でも制服なんだね!」

「はい」

「とりあえず喫茶店でも行こうか!」

「今日はデートを断るために来ました」

「え? どういうことだい?」


断る?

本当にどういうことだ?


「デートは好きな人とするものですよね」

「そ、そうだけど、二人の仲を深めるためでもあると思うんだ」

「そもそも、なぜ私のことが好きなんですか?」

「それは」

「好きになるほど、私は貴方に優しくしましたか? 貴方の目の前で捨て猫でも拾いました?」

「一目惚れだから、だからこそ、もっと和夏菜さんを知りたいと思った」

「貴方の私に対するイメージはどんな感じですか? 貴方の理想の私は?」

「お淑やかで、何をするにも美しい!」

「仮に本当の私が下品だったら? 貴方はそれを受け入れて、それでも私を好きでいますか?」

「もちろんだよ!」

「なんでも肯定的な人ほど、信用できない人はいません。貴方は私とデートをした。周りにそう思われるだけでいいでしょう。貴方が好きなのは私を好きな自分。きっとお付き合いしてからも、貴方が好きなのは、私と付き合っている自分です」

「そんなことないよ! そんな、自分のステータスみたいに和夏菜さんを見たりなんかしてない」

「だとすればごめんなさい。ありがとうの一言で終わりです。その先はありません」

「‥‥‥」

「冷たくしてしまっていることはごめんなさい。好きになってくれたことは本当にありがたいと思っています。ただ私は、きっと貴方が思っているような人じゃ無いので、貴方のためにも、私達はただのクラスメイトでいるのが一番です」

「ならせめて、友達にはなれないのかい?」

「人は汚い。貴方が綺麗な人間だと分かれば、きっと私の方から友達になりたいと思うので、私との関係に焦らないでほしいです。私もしんどくなってしまいますから」

「そ、それは分かった、ごめんね。でも、掃除機くんと僕は、いったい何が違うんだい?」

「信頼関係だと思います。私の性格上、あまり人と関わりたくないので、新しく友好関係を作るという、一歩を踏み出すのは時間がかかります」

「和夏菜さんがそうなったのは、元からかい? それともなにか理由があるのかい?」

「過去にいじめられていたとか、そういうことではないので、深読みはしないでください。それでは私は帰ります」

「最後にもう一ついいかい?」

「なんですか?」

「望みはゼロなのかい?」

「出会い方次第だったと思います。会話もしたことがない段階で告白されてから、私の中で、貴方は危険人物認定です」


もうやめてあげて!?

このままじゃ爽真がショック死しちゃうよ!?


「さよなら」


朝宮が家とは真逆に歩いて行き、爽真は朝宮の背中を見つめた後、公園の中へ入っていった。


そして俺は、朝宮が見えなくなったのを確認して、何も知らないふりをして公園の前を歩いた。


「掃除機くんじゃないか!」

「あれ? デートは?」

「またしても振られちゃったよ」

「へー」


爽真はブランコに座っていて、そこまで落ち込んでる様子ではなかった。


「やっぱり君じゃないとダメなのかなー」

「俺と朝宮はただの友達だぞ」

「僕は友達ですらなかったんだよ?」

「グイグイ行きすぎなんだよ。あと告白しすぎな。くどい」

「気持ちは言葉にしないと伝わらないじゃないか!」

「すでに伝わってて、断られたところに対してしつこいって話だ。本当、イケメンなのにもったいないな」

「でも、僕が完璧になってしまったら、モテすぎて君達が困ってしまうじゃないか!」

「え、うざっ」

「え」

「え」

「そ、そういえば、どうしてマラソンで本気を出したんだい? あんなにすごいなら、陸上部に入りなよ」

「部活とかめんどいし、早く帰ってゆっくりしたい。義務じゃないことならやらなくてもいいだろ」

「本気を出した理由は? 君は、和夏菜さんのことが好きなんじゃないのかい?」

「‥‥‥なぁ爽真」

「なんだい?」

「俺達は友達か?」

「僕はそう思ってるよ!」

「そうか、なら教えといてやる。俺は朝宮のことを好きなんかじゃない。どうでもいい奴だと思ってるよ。マラソンで本気出したのは、なにかで爽真に勝ってみたかっただけだ」

「そうなんだね。よかったよ! 君みたいに、和夏菜さんと仲のいい人がライバルにならなくて!」

「おう‥‥‥」


それから爽真としばらく雑談をした後、俺は一人で、朝宮が歩いて行った方向に向かって歩き出した。

すると、朝宮から『デート楽しんでます!』とメッセージが届き、すぐに嫉妬させたいんだと理解してしまった俺は、それを無視して、散歩気分で歩き続けた。


すると、喫茶店でアイスココアを飲みながら、携帯をいじる朝宮を見つけたが、そもそもなんで朝宮を尾行して来たのか、心がモヤモヤして、声をかけずに家に帰ってきた。





「ただいまでーす!」


十六時に朝宮は帰ってきて、すぐ俺の部屋にやってきた。


「デート楽しかったですよ!」

「そうなんだ」

「手も繋いじゃいました!」

「へー」

「喫茶店で間接キスしちゃいましたし、私達、もしかしら付き合うかもしれないです!」

「よかったじゃん」

「くっ‥‥‥そうですか!! 分かりましたよ!! 一緒に暮らしてる女の子が他の男に取られてもいいと言うんですね!! よく分かりました!!」


勢いよくドアを閉めらたが、朝宮は俺の部屋の中だ。


「そこは部屋から出て行くところだろ」

「どうしてそんなこと言うの!!」


涙目で頬を膨らませたバブちゃん攻撃‥‥‥。


「はぁ‥‥‥明日はどこか出かけるか」

「えっ! 行きましょう! 駅待ち合わせで!」

「待ち合わせも何も、一緒に行けばいいだろ」

「気分の問題ですよ! 私が家を出てから、数十分後に家を出てください!」

「はいはい、了解」


なんとなく外出に誘い、朝宮の機嫌も一瞬で良くなってしまった。

めんどくさくて単純で、扱い辛くて扱いやすい。

要するに、やっぱりめんどくさい奴だな。





翌朝、予定通りに朝宮は先に家を出て行き、俺はその三十分後に家を出て駅にやってきた。


「お待たせ、待った?」


こう聞けと、朝宮に前もって言われているのだ。


「はい! 一時間ぐらい待たされたので、切符は掃部かもんさんの奢りでお願いします!」

「なんだお前」

「ほら、行きますよ!」


朝宮はデートごっこのつもりなんだろうけど、よっぽど優しい男じゃなかったら振られるだろうな。

いや、可愛いは正義が有効化されてるから、朝宮は無敵なのかもしれない。

まぁいい、昼飯は奢らせよ。





隣街までやってきて、朝宮が見たいと言った恋愛映画を、もちろん俺の奢りで見て、お昼は朝宮にラーメンを奢らせ、少し商店街を歩くことになった。


「朝宮」

「はい?」

「めっちゃ臭い」

「私ですか!?」

「ニンニク入れない方がいいって言ったのに、入れるからだろ。美少女から香っていい匂いじゃないぞ」

掃部かもんさんだって入れたくせに! 入れるの大好きで、いっぱい入れたくせに!」

「へ、変に聞こえるからやめろ!」

「入れて掻き回すだけ掻き回して、息吹きかけてから吸うとか、そんなの私だって我慢できなくなりますよ!」

「お願いだから静かにして!?」

掃部かもんさんだって臭いはずです!」

「俺は胃から消臭するやつ飲んだし、ガムも噛んだ」

「いいえ! 絶対イカ臭いです!」

「もうわざとじゃねぇか!!」

「まったく、女の子に臭いとか失礼ですよ」

「いや、マジで臭いぞ」

「ムカついてきたので、わざと息吹きかけていいですか?」

「唾飛びそうだからやめてくれ」

「なら黙ってろ」

「あ、はい」


急に口調強くなる時あるけど、絶対朝宮家はヤンキーの血引いてるわ‥‥‥。

マジで怖いもん‥‥‥。


でも、爽真とのデートは断ったのに、俺とはこうやって出かけてくれるのは、やっぱりちょっと、優越感だな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る