第54話/クッキリお尻♡


二年生なって二日目の朝、オーブントースターをいじる朝宮を見て声をかけた。


「朝宮ちゃーん」

「はい!? ちゃん!? 気持ち悪いです!」

「はい、すみません」


気分で呼んだだけなのに、そこまで言われるか。


「急になんですか?」

「放火未遂の前科持ちなんだから、トースター触るなよ」

「懐かしいですね! でも今回は、パンじゃなくてプリンを焼いてます!」

「プリン!?」

「焼きプリンです!」

「やり方合ってるのか?」

「分かりません!」

「まったく。今日は早めに学校行くから、本当、火事だけは勘弁してくれよ?」

「学校でなにかするんですか?」

「ちょっと新聞部に用があってさ、とにかくもう行くわ」

「分かりました!」


朝宮にオーブントースターを使わせるのは不安だけど、さすがに高校二年生だし大丈夫だろ。





学校に着いてすぐ、教室の掃除をして、一人で新聞部の部室へやってきた。


「おはよう」

「おはようございます」

「えっとー、昨日は悪かったな」

「大丈夫です」


特に変わった感じはないかな。


「昨日、一人じゃ無いって言ってたよな」

「‥‥‥」

「他に部員がいるのか?」

「‥‥‥」

「なにも言わないならそれでもいいけど、俺も情報屋雇って、詳しいこと探っていいか? してたことをされるだけだから、問題ないだろ」

「はい、そうなれば受け入れます。ただ、口は開きません」

「分かった」


島村に許可を得て、俺は部室を出て二階へ戻った。


昨日のあの反応は普通じゃなかった。

絶対なにかある。

解決できることなのか分からないけど、多分、それを解決しないと、陽大が新聞部に入ることすらできない。なにも始まらない気がする。

でも、情報屋とか誰がしてくれる?

人気があって、色んな話が入ってきそうな爽真に頼むか?


どうすればいいか考えている時「あーあ、また怒られたー」とダルそうに独り言を呟きながら廊下を歩く咲野とすれ違った。


「咲野」

「なに?」

「咲野って、島村と同じ中学だったよな」

「しーちゃん? そうだよ!」

「島村のことで、なにか知らないか?」

「なにか? いっぱい知ってるけど」

「全部教えてくれ」

「え? 嫌だけど」

「なんでだよ」

「めちゃくちゃ重いし」

「朝宮のパン」

「ツ?」

「は無理だから、髪の毛一本」


咲野が乗りそうな条件を出すと、咲野はあっさり口を開いた。


「大親友が死んだ」

「ちょっと待て? 想像の五億倍重すぎる。そんなのサラッと言うな」

「で? いつくれる?♡ 今日? 明日?」

「待て待て! そんなすぐに用意できるか分からない! でも約束はする! それより、詳しく頼む」

「私達の中学、特に私達の代は、この話をしないのが暗黙のルールなんだよね。この高校の二年生に、同じ中学だった生徒は他にも居るし、詳しいことはその人に聞いてよ」

「咲野にしか頼めない」

「え♡ 待って待って♡ なんか今のキュンってしたぁ♡」

「た、頼む」

「なら、報酬が先! 髪の毛二本! 一本は一輝くんのね♡」

「なんで俺のもなんだよ」

「二人の髪の毛を綺麗に結んでぇ♡ えへっ♡ ぐへへ♡」


気持ちわりぃ‥‥‥やっぱり狂ってる。

でも、髪の毛だけならいいか。


「分かった。明日持ってくる」

「楽しみだなぁ♡ 早く明日にならないかなぁ♡」

「あ、明日の朝、屋上集合で」

「はーい♡」


陽大のためだ。やるしかねぇ!!





新しいクラスメイトになかなか馴染めずに、一番前の席ということもあり、真面目に授業を受けているふりをして一日を過ごした。


そして家に帰ってきて、開いたオーブントースターを覗いて絶句中である。


溶けたプリンカップに飛び散ったプリン。

仕上げに『悪りぃね!』の置き手紙。

こうなるとは想像できなかったのか?

そもそも謝罪文が軽いんだよ!!!!



そんなこんなで全力でトースターを綺麗にし、夜までいつも通り過ごして、朝宮が風呂に入っている時、俺は作戦に移った。

使い捨て手袋を装着して、ジップロックまで用意し、朝宮の部屋に潜入して、枕元に髪の毛が落ちていないか隅々まで探すことにしたのだ。


だが、長くてすぐ見つかりそうなのに、なかなか見つけられない。


「くそ。なんで無いんだよ」

「わ、私のベッドになにしてるんですか?」

「朝宮!? 風呂は!?」


想定より早く戻ってきた朝宮に見つかってしまい、一気に冷や汗が止まらなくなってしまった。


「今日はシャワーで済ませたので。それで、なにをしていたんですか?」

「そ、掃除だよ! ほら、手袋してるし」

掃部かもんさんが本当に掃除していたなら、そんなに動揺しないと思うんですけど。お風呂上がりで、髪の濡れた女が実はパジャマの下に下着を身につけていない、このシチュエーションに動揺してるんですか?」

「ちゃんと着ろよ!!」


上は最悪透けるだろ!!透けろ!!


「そんなに胸を見ても、このパジャマは厚いので見えませんけど」

「み、見てないし?」


朝宮は自分のベッドを確認し始め、俺は部屋の入り口に立って朝宮の後ろ姿を見つめた。

今、一本引き抜くか?それはさすがにやばいか。

そもそも、朝宮に触ったことすらないのに、手袋してるとはいえ、ファーストタッチが髪の毛抜くって、それはさすがにな。

てか、前屈みでケツの形クッキリじゃん!!!!

下着履いてないとか、なんなんだよ!!

ありがとうよ!!


「なにもぶっかけられてないみたいですね!」

「なにをチェックしてんだよ!!」

「相手は男性です! チェックするならそこからですよ!」

「ったく、風呂掃除してくる!」


とにかくバレずに済んだし、いいもの見れたから、今日は良いとしよう。

いや待てよ?風呂なら髪の毛の一本や二本あるんじゃないか!?

人間は毎日髪の毛が抜けるし、風呂を掃除する前に探してみるか。


さっそく風呂で目を凝らすと、あっさり三本の髪の毛を見つけ、一本だけジップロックに入れてた。


なんか俺、さっきまで同級生の女が居た風呂で、そいつの髪の毛拾って大事に保管してるの‥‥‥控えめに言って人間失格な気がする‥‥‥。

シンプルにキモいし。





風呂も洗い終わって、俺も今日はシャワーで済ませて部屋に戻ってきた。

すると、次は朝宮が俺のベットになにかをしていた。


「俺のベットに触るな」

掃部かもんさんがぶっかけの意味分かってないと困るので、ぶっかけておきました!」

「はぁ?」


ベッドに触れてみると、ところどころ嫌な感じに湿っている。


「触って大丈夫ですか?」

「なにかけた?」

「おしっこです!」

「きったねぇー!!!!」

「アルコールスプレーですよ!!!! 私のは汚くありません!!!! デリシャスです!!」

「その逆ギレはマジで意味分からん!! 美味いわけあるか!!」

「さっき柚子ハチミツのジュース飲んだので、絶対それの」

「分かった分かった! それ以上言うな! アルコール消毒ありがとう」

「分かればいいんですよ。まったく、すぐに感謝してくださいよ」


いや、なんで?





翌朝、髪の毛の入ったジップロックを持って約束通り屋上にやってくると、屋上のベンチに座る咲野が股を押さえてモジモジしていた。


「お、おはよう。ヒィ!!!!」


声をかけると、凄まじい速さで俺の目の前でやってきて、とろけた目をして両手壁ドンされてしまった。


「ち、近い‥‥‥」

「早くちょうだい♡」

「ほら‥‥‥」


ジップロックを二つ渡すと、俺から離れて朝宮の髪が入ったジップロックを開け、中の空気を鼻から吸い込み始めた。


「はぁ♡ 和夏菜ちゃんのシャンプーの匂い♡」

「一本で分かるか?」

「分かる!♡ 勿体無いから閉めておこ♡」

「これで条件は満たしたぞ」

「うん! 教えてあげる! 中学の時のしーちゃんと、その相棒について」

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