二年生編
死んだ目のしーちゃん
第53話/一人じゃない!!
「春休みが終わっちゃいます!」
「早かったなー」
卒業式は、三年生に仲良くしていた先輩がいなかったこともあり、寂しいとか感動とか、そういう感情を抱くことなく終わり、春休みも気づけは最終日。
朝宮は朝からずっとソワソワしていて、あとは寝るだけとなった今、全然俺の部屋から出ていかないで、無意味に歩きまわっている。
「寝なければ明日が来ない説に一票!」
「寝なくても明日は来る。だから人は寝るんだ。寝た方が得だからな」
「今日は一緒に夜更かししません?」
「明日遅刻したらヤバいだろ。早く寝ろ」
「遅刻どころか休みましょうよ!」
「まさかあれか? クラス替えの結果を知るのが怖くて一日中ソワソワしてたのか?」
「そんなんじゃありません!! おやすみなさい!!」
あぁ、当たりだったか。
明日の朝宮の反応が楽しみなのもあるけど、陽大と島村が同じクラスになればいいな。
※
翌朝、朝宮は眠れなかったのか、目の下に少しクマを作ってリビングへやってきた。
「おはようございます‥‥‥」
「だ、大丈夫か?」
「三十分ぐらいしか寝れませんでした」
「そ、そうか。パン焼いてあるから食べろよ? 俺は先に行くから」
「はい」
元気の無い朝宮が少し心配だが、クラス替えということは机と椅子が見知らぬ先輩の物に変わる。
綺麗にするのに時間がかかるし、俺は早く行かなきゃいけないんだ。
まだ桜咲いてないな、なんてことを考えなが自転車を漕ぎ、やっと学校に着くと、昇降口に生徒が集まっていた。
俺も自分のクラスを確認したかったが、人混みの中に入りたくないという理由で、しばらく自転車置き場で携帯をいじって時間を潰すことにした。
早く机とか拭きたいのに。
しばらくするとみんな、ガッカリしたり、友達と喜びあったりしながら校内に入って行き、人が少なくなったのを見て。俺も張り紙を見てみることにした。
「あっぶな!」
「おぉ、おはよう」
自転車小屋から出たタイミングで絵梨奈が自転車で登校してきて、俺の真横で急ブレーキをかけた。
その後ろに日向も乗っている。
「轢くところだった! 一輝も今からクラス確認?」
「そうだけど、二人乗りバレたら怒られるぞ」
「大丈夫だよ! バレないバレない!」
「ならいいけど。二人とも同じクラスだといいな」
「絵梨奈と違うクラスだったらどうしよー」
「ずっと一緒にいたし、先生も同じクラスにしてくれてるって!」
「そうかなー」
「そうだよ! そんじゃ、一輝も一緒に見に行こ!」
「おう」
三人で昇降口前にやってきたが、日向と絵梨奈が並んでA組の紙を見初め、俺はその横でB組の紙を見ることにした。
「一輝と一緒だ! 爽真くんもいるじゃん!」
「待って! 私の名前無くない?」
俺と絵梨奈はまたA組で、日向は離れた感じか。
「日向、B組に名前あるぞ」
「そんなー‥‥‥」
B組で話せる奴は日向と咲野か。
「陽大もA組じゃん!」
「おっ、ラッキー。でもあれだな、日向がB組に行くだけで、あまり代わり映えしないな」
「全体で見れば結構変わってるよ? あっ、でも和夏菜もA組だ!」
「‥‥‥」
「一輝くん? 顔色悪いよ?」
「い、いや、大丈夫だ」
「担任も芽衣子先生じゃん!」
これは芽衣子先生に仕組まれた。
そうとしか考えられない!!
今年も朝宮のお世話よろしく的な意図を感じられる!!
「私は先に教室行くね!」
「おう」
「桜も一緒に行こ!」
「嫌味?」
「あははー!」
悲しむ日向と、相変わらずの絵梨奈が行ってしまった後、すぐに朝宮がやってきた。
「俺はA組で、朝宮はBな」
「‥‥‥そうですか」
ちょっとした意地悪で、紙を確認すればすぐに分かることなのに、朝宮は悲しそうに、すぐに中へ行ってしまった。
俺も続くように校内に入り、A組に来て席を確認すると、一番左の一番前で、朝宮は廊下側の一番後ろだった。
席だけでも離れられたか。
でも一番左の一番前って、芽衣子先生の席の目の前じゃんかよ‥‥‥。
「一輝! また同じクラスだよ!」
「だな!」
陽大に声をかけられ、変わらない安心感に少しホッとした。
「しかも僕は一輝の後ろの後ろ!」
「同じ班じゃないんだな」
「和夏菜さんと絵梨奈さんは同じ班みたいだけど」
「へー」
席に座って他の生徒と話す絵梨奈に視線を向けると、後ろな扉から朝宮が入ってきて、一瞬俺をギロッと睨んだ。
だがすぐに、絵梨奈が朝宮に席を教えて、朝宮はすぐに席についた。
「一輝、なんかしたの?」
「ちょ、ちょっとイタズラしただけ」
「みんなおはよう!」
「爽真くんおはよう!」
「やぁ! やぁ!」
出たな、爽やか残念イケメン。
「和夏菜さんもおはよう! いや、君だけにおはようを言いたい! おはよう!」
「‥‥‥」
無視!?
「まったく和夏菜さんは照れ屋さんだね! でも大丈夫! これから二年間は同じクラス! ゆっくり仲良くなろうじゃないか!」
爽真のやつ、なんかキャラ変したな。
間違ってる。少し謙虚なぐらいでバランス取れてたのに、今の爽真はただただウザイ。
「やぁ掃除機くんと陽大くん!」
「おはよう!」
「おは」
「僕は嬉しいよ!」
「なにが?」
「和夏菜さんと同じクラスになれて! 咲野さんもいないしね!」
「廊下からすごい形相で見てるけどな」
咲野はキラキラした目で朝宮を見ては、イライラした顔で爽真を見てを繰り返して、忙しそうだ。
「さ、さて、僕の席はどこかな?」
「一輝の右後ろだよ」
「掃除機くんと同じ班! 素晴らしい! 本当なら和夏菜さんの隣が良かったけど!」
「きも」
「えぇ!? どうしてそんなことを言うんだい!?」
「高二デビュー、失敗してるぞ。あと、咲野の存在を忘れるな」
「そ、そうだね‥‥‥」
それから俺は、掃除をしながら陽大と話を続けた。
「ちょんまげちゃんは何組だ?」
「Cだよ」
「残念だったな」
「いいんだよ。僕、部活辞めたし」
「は!? あれマジだったのか?」
「うん! 新聞部に入る!」
「そこまで覚悟決まってるなら、マジで応援する」
「ありがとう。頑張るよ」
「おう!」
陽大は本気なんだな。
陽大には中学の時、助けてもらった恩がある。
絶対幸せになってほしい。
※
午前中は始業式やクラスでの自己紹介。
それに加えて、二年生になって早々、抜き打ち小テストが行われた。
そしてお昼を食べてすぐ体育館へ移動し、四十分後に入学式が始まり、新入生の名前が呼ばれていく途中で、俺は寝落ちしてしまった。
目を覚ますと、丁度入学式が終わったところで、あくびをしながら教室に椅子を運んだ。
ほとんど入学式の記憶が無い‥‥‥。
それからすぐに帰りの会が行われ、一年生が全員帰った後に、二年生と三年生も即下校となった。
「陽大」
「なに?」
「新聞部の部室行こうぜ」
「すぐ帰らなきゃいけないんじゃないの?」
「数分ぐらい大丈夫だって」
「そうだね! 分かった!」
多分、島村が部室に居るだろうと踏んで、陽大を連れてきた。
「島村」
「しーちゃんです」
「やっぱり居たか」
「二人で何の用ですか?」
「そうだ、一輝はなんで新聞部に?」
「陽大を新聞部に入れてやってくれ」
「あっ、えっと、テニス部は辞めたから、お願い! 協力させて!」
「入りたいと思った理由はなんですか?」
「えっとー‥‥‥それは‥‥‥」
間違ってもこの段階で好きとか言うなよ?
嘘でいいから、それなりのことを言えばいいんだ。
がんばれ!
「それじゃ、お断りします」
「まだなにも言ってないよ!?」
「理由が見当たらないなら、無理にやらなくて大丈夫です」
「そ、そうだ! いつも一人で頑張ってるから、手伝いたくて!」
「一人じゃない!!」
「え‥‥‥?」
表に感情を出さなそうな島村が大きな声を上げ、俺も陽大も唖然とした。
「すみません、なんでもないです。私は帰ります」
なにがなんだか分からないまま、最初のアプローチは失敗してしまい、俺は陽大と、途中まで一緒に帰ることにした。
「急に悪かったな」
「ありがたいよ! でも、しーちゃん大丈夫かな」
「分からん。体調でも悪かったんじゃねーの? それでイライラしてたとか」
「だといいんだけどね」
島村と陽大をくっつけるのは、まだまだ時間がかかりそうだ。
でも、陽大が手伝いたい気持ちは必ず伝わる。
正直、誰かとやるより、一人の方がいいって思ってるなら、その気持ちも分からなくないんだけど。
※
「ただいまー」
「ふふーん、ふっふー」
家に帰ってくると、階段から陽気な鼻歌が聞こえてきてた。
気になって階段を見上げてみると、朝宮は前屈みになりながら、俺の位置からはパンツ丸見え状態で階段になにかをしていた。
「な、なにしてんの?」
「あっ! おかえりなさいぃ〜!?」
「なっ!?」
朝宮は振り向き様に足を踏み外し、お尻をついて、そのまま滑り落ちてきた。
「止めてくださーい!! うっ!!」
迫ってくる朝宮を華麗に避けて、朝宮は床に倒れてしまった。
「お尻が割れました‥‥‥シックスパックです」
「そんなケツ嫌だ。で? なに悪いことしてたんだ?」
「掃除してました!」
「は? 朝宮が?」
「だって同じクラスですよ!? 私嬉しくて、なんだか普段しないことをしたくなっちゃったんです!」
「それで雑巾握ってるのか」
「はい! ちゃんと、カビを落とす泡を使ってます!」
「それ風呂のだろ!! 木に使っちゃダメじゃね!?」
「そんなことより! 私に嘘つきましたね!! B組で恥かきましたよ!!」
「そんなことよりじゃねぇよ! とにかく、皮膚についたら本気で良くないから、手足洗ってこい」
「なにから足を洗うんですか‥‥‥? 私、悪いことしてませんけど」
「どうしてそんな真面目な顔でボケれるの?」
「
「足の話だったよね? 俺の何を洗おうとしてるのかな?」
「タコさんウィンナーです♡」
「タコさんウィンナーです♡ じゃねぇんだよ!!!! 肌荒れするから早く洗ってこい!!」
「はーい!」
朝とは別人レベルでテンションが高いな。
まぁ昇降口前でのあの悲しそうな顔を見たら、同じクラスで良かったのかもな。
んで、俺がこの階段を拭かなきゃいけないわけね‥‥‥。
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