第52話/話したいことがあります


バレンインデーの翌朝、眠い目を擦ってリビングへやってくると、テーブルに昨日食べたチョコが置いてあり、怒られるかなと思いつつ、あの味が忘れられなくて、クマの形のやつを普通に食べ、ハートのホワイトチョコをココアに溶かして、パンを食べながら優雅な朝を過ごし始めた。


「おはようございます」

「おはよう。チョコ何個か貰っちゃったけど、よかった?」

「そんなに美味しかったですか!?」

「美味い」

「そんな掃部かもんさんに話したいことがあります」

「なんだ?」


珍しく真剣な顔をして椅子に座り、真っ直ぐな目で見つめられた。


「私は‥‥‥」

「‥‥‥」

掃部かもんさんが好き!!」

「ブッー!!!!」


衝撃発言で、ホットココアを朝宮の顔に吹きかけてしまった。


「な訳じゃありませんでした!!」

「はぁ? や、やっぱなんか変だぞ」

「そして気づいたんです! 自分の気持ちに!」

「話聞いてる?」

「だから言います!」

「はい、どうぞ」

「私は掃部かもんさんにイタズラしたかったんです! そのイタズラ心を、一瞬恋かとも思いましたが、冷静に考えて、掃部かもんを好きなはずがありません!」

「俺、告白してないのに振られたんだが。それに、イタズラってなんかしたのか?」

「そのチョコ、私の手作りです!」

「またまたー」

「本当です!」

「マ、マジ?」

「はい!」

「作る時、て、手袋付けてたんだろ?」

「素手です! 味見の時、思いっきり指突っ込みました!」

「うっ‥‥‥ト、トイレ‥‥‥」


衝撃的事実を聞いて、急いでトイレに駆け込んだ。



***



これでいいんです。

私が、掃部かもんさんのことを好きなはずがないんです。

そもそも、好きになる理由なんて‥‥‥割とそこそこあるかもしれませんが、私には無効です。

だって私自身が、ハッキリ好きだと認識していないし、どうしても友達としてしか思えません。

それに、掃部かもんさんが私を好きになることなんてあり得なくて、それなのに万が一私が掃部かもんさんを好きになってしまったら辛いだけです!

指一本も触れられないんですもん!

なんだか、考えてたらむしゃくしゃしてきましたね。

顔洗って、学校行ってしまいましょう。



***



「ふぅー。朝宮!」


トイレから出て朝宮を呼んでも返事がない。

よく見れば靴もないし。

許せねぇ。

絶対俺にしちゃいけないイタズラだろ。


でも、好きって言われた時は心臓止まるかと思ったぜ。

まさか、あれを言うところまでがイタズラだったのか?

ますます許せん!!





最悪なバレンインから月日は流れ、ホワイトデーの夜。

朝宮は、野菜を切る俺に、椅子に座りながらまた馬鹿なことを言い出した。


「バレンインのお返しまだですかー?」

「いや、バレンイン貰ってないし」

「食べたじゃないですか!」

「あれは罠だろ」

「しかも吐くなんて最低です!」

「それは‥‥‥そうだよな。悪かった」

「その包丁で切腹してください!」

「死ねってか!?」

「死なない程度にです! 死んだら私はどうやって生活していけばいいんですか!」

「自立しろよ」

「自立って言葉が一番嫌いです」

「大人になってから、ニートとかやめろよ?」

掃部かもんさんと結婚して養って貰います!」

「はいはい」

「本気です!」

「なに言ってんだか」

「苗字を変えるだけでニートになれるなら、苗字もらってあげますよ! やりたいことが見つかれば離婚します!」

「結婚詐欺だろ!!」

「結婚中、夫婦らしいこともしません! ですが掃部かもんさんは、高校一の美少女と結婚したと、同窓会で胸を張れます!」

「却下。朝宮と結婚する未来が見えない。それに俺が働いて、家事してくれない奥さんとか最悪だろ」

「掃除好きなんですから、いいじゃないですか」

「なら、来年結婚するか」

「するわけないじゃないですか!!」

「はい、解決」

「イライライライライライライライラ」

「口に出すな」


手っ取り早い話の終わらせ方を学んだ俺は強い。

朝宮は露骨に頬を膨らませてるけど、怒りたいのは濡らされた俺の方だ。

まぁ、これ以上機嫌損ねる前に話変えておくか。


「でさ、そろそろ卒業式じゃん?」

「そうですね」

「朝宮は仲良かった先輩とかいるのか?」

「一人もいませんね。学校で仲のいい人は掃部かもんさんぐらいです」

「本当悲しいやつだな」

掃部かもんさんも似たようなものじゃないですか」

「友達は陽大と朝宮。俺は二人もいる」

「なら絶交します!」

「おい。俺の友達も一人にしたいのかもしれないけど、俺と絶交したら、朝宮は友達ゼロ人だぞ」

「こ、これからも仲良くしてあげますね!」


本当単純馬鹿だな。


「とにかくだな、卒業式が終わったら、春休みもあっという間に終わって、二年生になるだろ?」

「なりますね」

「二年生になったらクラス替えがある!」

「だからなんです?」

「朝宮と離れられる!」

「で?」

「俺は嬉しい! ぶばっ!?」


朝宮は何故持っていたのか、無言で水風船を俺の顔に投げつけてきた。


「危ないだろ! こっちは包丁握ってんだぞ!!」

「中身は硫酸です」 

「ひぃ〜!」

「嘘です」

「だろうな!! 一瞬焦ったけど!! なんで水風船なんか持ってんだよ」

「こういう時のためです」

「本当油断できないやつだな。でも、クラスが別になればいいこともあるぞ?」

「例えばなんです?」

「ずっと同じクラスにいたら、いつか朝宮が素を出して、いろいろバレちゃうかもしれないだろ? それを回避できる」

「家以外の私は完璧です。なのでその心配はありません」

「なんなんだ? 俺と離れるのが嫌なのか?」


そう聞くと朝宮は、少し頬を膨らませて、俺から顔を逸らした。


「友達と離れたい人なんて、いるわけないじゃないですか」


わーお。

なにその反応。きゃわいい。

朝宮には悪いけど、同じクラスになって喜ぶ朝宮を見たい気持ちと、違うクラスになった時の朝宮がどんな反応をするのか見たい気持ちがある。

楽しみだな。

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