二年生に向けて

第50話/新年!プライドゼロ土下座!

クリスマスから日も経って、今日は十二月三十一日。

リビングで朝宮と二人並んで椅子に座り、携帯でテレビ番組を見ながら新年を迎えようとしているが、俺はそろそろ限界だ。


「やっべ、寝そう」

「後二十分で年が明けますよ? 今寝たら勿体ないです!」

「朝宮は眠くないのか?」

「ワクワクして眠れません!」

「相変わらず、イベント大好きだな」

「楽しいことが嫌いな人はいませんよ!」

「そうだな。てか、年越し蕎麦って、食べるタイミング分からないよな」 

「私の家では、除夜の鐘を聞きながら食べてましたよ?」

「んじゃ、五分前に準備するか」

「年越し蕎麦作ってくれるんですか!?」

「当たり前だろ」

「やった! さすが掃部かもんさん!」

「調子のいい奴だな」


そんなこんなで五分前になり、年越し蕎麦の準備をする俺を見て、朝宮は冷め切った表情をしている。


「なんだよ。なんか文句あるのかよ」

「年越し蕎麦が焼きそばのカップ麺ってどうなんですか!! そんなのあんまりです!!」

「蕎麦は蕎麦だろ。辛子マヨ付いてる方、俺が食べていいか?」

「もうなんでもいいですよ」


朝宮の不貞腐れた表情を見て、普通に蕎麦を茹でてやるべきだったかと、少し後悔してしまった。





「いただきまーす」

「嫌なら食うなよ」


カウントダウン二分分前、朝宮は嫌そうに焼きそばを頬張った。


「んー!! この時間に食べる焼きそば、すごく美味しいです!」

「なんなんだよ。って、おいおいおい!」


朝宮はすごい早さで焼きそばを口にかきこんでいき、あっという間に焼きそばを食べ終えてしまった。


「ごちそうさまでした!」


次の瞬間、ゴーン、ゴーンと、遠くから除夜の鐘が聞こえてきた。


「鳴る前に食べ終えてどうするんだよ」

「細かいことはいいじゃないですか! 満足して新年を迎えられたことに意味があります!」

「ならいいけど。とりあえず、あけましておめでとう」

「あけましておめでとうございます! 今年もよろしくされてあげます!」

「はい、今年も世話を頑張ります」


そうして、その日は寝ることになり、すぐにお互いの部屋に戻った。





朝方目を覚ますと、朝宮の気配を感じてドアに視線を向けた。


「誰だ!?」


そこに居たのは、ショートボブで、縁の細い黒い丸眼鏡とマスクをつけた、知らない女だった。


驚いて体を起こすと、その女は何も言わずにゆっくりと俺に近づいてきた。


「く、来るな! 朝宮!! 助けてくれ!!」

「なにをどう助ければいいんですか?」

「‥‥‥へ?」


その女から発せられた声は朝宮そのもので、頭が混乱する。


「あ、朝宮?」

「はい」

「い、妹さん?」

「そうです」

「えっと‥‥‥何の用?」

「お姉ちゃんがお世話になっています。お姉ちゃんは初詣に行きましたよ」

「そ、そうじゃなくて、どうして君はこの部屋にいるの?」

「朝宮ですから」

「苗字が朝宮なら、出入り自由とかじゃないんだけど」

「私、朝宮和夏菜です」

「‥‥‥は!?!?!?!?」

「プププー! 騙されましたね!」

「その髪は!?」

「ウィッグです! 新しい変装スタイルですよ! 掃部かもんさんすら騙せるなんて、私すごい!」


たしかに目を見れば朝宮だけど、髪型と眼鏡とマスクのせいで、全然朝宮に見えない。


「これなら怪しい感じにならないですし、意外にこの私も可愛くないですか?」

「はいはい、可愛い可愛い」

「そんな可愛い私と初詣に行きましょ! 今の私となら、堂々と歩けますよ!」

「陽大の神社に行くつもりだったし、全然いいけど」


変装のクオリティーが上がりすぎて、声は朝宮なのに、朝宮と話してる感じがしない。

でも確かに可愛い。

マスクを外しても可愛いのは知ってるけど、美人がマスクを付けると尚可愛いな。

たしか、初めて変装を見た時も同じこと思ったっけ。


「早く行きましょ! おみくじ引くんです!」

「分かった分かった」





朝宮に急かされながら準備をして、真っ直ぐ神社にやってきた。


「結構並んでるなー」

「でも、私達も並びましょ!」

「せっかく来たし、お賽銭は絶対だよな」

「はい! 五円ください!」

「そういうのは自分の金でやらないと意味ないだろ」

「常識に囚われて生活していて疲れませんか?」

「まったく疲れない。お前はもっと常識を学べ」

「はい先生」

「俺はお前の先生じゃない」


二人で長い行列に並び、なんだかんだ話しているうちに三十以上経っていて、やっと俺達の番が回ってきた。


さっそく二人でお賽銭を入れ、俺は大きな鈴を鳴らすための紐のような物を指差した。


「鳴らしてくれ」

「こういうのは一緒に鳴らすんですよ?」

「常識に囚われて生活していて疲れませんか?」

「それはさっきの私のセリフです。後ろにもたくさん並んでるので、私がやりますけど」

「助かる」


こんな何百人も握った紐を触れるわけないだろ。

でも、今の考えは罰当たりか?

手を合わせて謝ろう。

神様、汚いとか思ってごめんなさい。

汚いのは人間です。よし。


「さて、おみくじ引きに行くか。陽大にも挨拶したいし」

「はい!」


お守りなどが売っている室内へやってくると、陽大がせっせと働いていた。


「よっ、あけましておめでとう」

「一輝! あけましておめでとうございます!」

「この人はあれだ、夏祭りで一緒だった」

「親戚の人ね! お久しぶりです!」

「どうも」


喋るとは思っていなく、一瞬で冷や汗をかいたが、やはり見た目が違うと分からないものなのか、陽大は朝宮だと気づいていないようだ。


「おみくじ引かせてもらうぞ」

「うん! ありがとう!」


俺が普通のおみくじを引いている横で、朝宮は何食わぬ顔でっと言っても、半分がマスクで隠れてるけど、恋みくじを引いていた。


「さぁ! 一輝は何が出た?」

「吉だ。一番リアクションし辛いな」

「そういうのは結んでいくといいよ!」

「そうするわ」



***



一輝が和夏菜を置いて外に出て、おみくじを結んでいる時、陽大は和夏菜の右手の小指にあるホクロを見て声をかけた。


「いいのが出ましたか?」

「大吉です」

「凄いですね! この神社は恋愛のお守りもたくさん種類があるので、よかったら見ていってください!」

「私は別に、好きな人とかいません」

「恋みくじ引いたのに?」

「はい。好きな人がいない私が引いて大吉が出るなんて、おみくじは嘘つきですね」

「内容は? なんて書いてあります?」

「どれを読めばいいですか?」

「アドバイスとか書いてないですか?」

「あります【場合によっては遠慮するな】それしか書いてません。すごく曖昧ですね」

「恋みくじは恋愛以外にも、対人関係の意味合いも含んでるから、恋愛だけで考えなくても大丈夫ですよ!」

「なぜアドバイスを読ませたんですか?」

「なんだかんだ一番大切だと思う箇所だからです! それじゃ僕は休憩だから、一輝によろしくお願いします!」

「はい」


陽大が裏に消えていき、すぐに陽大の父親がやってきた。

だが、一輝はおみくじを結んだ後も、お金を洗える場所で、洗う意味を間違えて、必死に小銭を磨き上げている最中だ。


「あれ? 久しぶりだね和夏菜ちゃん!」

「わ、分かりました?」

「もしかして変装のつもりだったかな?」

「は、はい」

「どうして変装してるかは聞かないであげるけど、私は人の目を見て話すようにしているからね。目が見えれば充分誰だか分かるんだよ! あっ、恋みくじ引いたんだね!」

「いや、これは」

「バイトしてくれたお礼に、はい! 恋愛成就のお守り、お年玉ということで!」

「ちゃんとお金払います」

「いいのいいの!」

「あ、ありがとうございます」


お年玉として恋愛のお守りを受け取った和夏菜は、おみくじと一緒にそれをポケットにしまった。


「そうだ、お雑煮食べるかい?」

「いえ、掃部かもんさんのところへ行かないといけないので」

「一輝くんも来てるのかい?」

「はい」

「なら、一輝くんにはこれを持っていってよ!」

「いいんですか?」

「二人はバイト頑張ってくれたからね!」

「ありがとうございます。渡してきます」

「はい! またおいでね!」

「はい」



***



「くそっ。十円の汚れが落ちねぇ」

掃部かもんさん」

「おう、来たか」

「洗いすぎです。周りが引いてますよ」

「え? あっ、す、すみません‥‥‥」


周りを見ると、何故だかみんなにドン引きされていた。

視線が冷たい。

本当になんでだ。


「これ、陽大さんのお父さんからお年玉です」

「え!? 金運のお守りじゃん! 礼言ってくる!」


陽大のお父さんにお礼を言い、しばらく世間話をした後、俺と朝宮はどこにも寄らずに自宅に帰ってきた。


「うぅ、寒い寒い」

「ウィッグは蒸れますね」

「そうなのか?」


靴を脱いで振り返ると、朝宮はウィッグを外していて、ネットで髪をまとめた姿が、まさに坊主のようで、思わず吹き出してしまった。


「ぶっ! あははははは!」

「どうして笑うんですか!」

「だってその頭!」

「あっ、み、見ないでください!!」


面白すぎる頭を隠すために、咄嗟にかぶったウィッグがズレまくっていて、それも面白かったが、朝宮は走って自分の部屋へ行ってしまった。





あっという間に一月八日、始業式の朝。

朝宮は朝から不満そうに食パンとホットココアを嗜んでいる。


「パン飽きたか?」

「そうじゃありません!!」

「なんだよ、デカい声出して」

「何回も初売りに誘ったのに、節約するから行かないとか言っているうちに、学校始まっちゃいましたよ!」

「一人で行けばよかっただろ」

「一人じゃつまらないじゃないですか」

「知るかよ」

「あーあ! ならいいですよ! 年が明けてから今日まで、私があえて言わないでいたことを今言ってあげます!」

「言わなかったこと?」

「冬休みの宿題」

「‥‥‥」

「それじゃ、私はお先に行ってきまーす」

「ま、待ってくれ! まだ行く時間じゃないだろ?」

「はい? そんなの知りませんけど」


またやってしまった‥‥‥。

冬休みの宿題、全く手をつけていない‥‥‥。


「と、十日まで初売りしてる店もあるにはあるはずだ! それに一緒に行ってやる!」

「一緒に行かせてくださいですよね?」

「一緒に行かせてください!」

「で? なんですか?」

「答えを見せてください!!」

「こうべをたれよ!!」

「はい!」


プライドゼロで素早い土下座。

ここまですれば見せてくれるだろ。


「あれれー? 頭がついていませんねー」


堪えろ‥‥‥女王様モードの朝宮にも耐えてみせろ俺!!


「よくできまちたねー」

「頼む‥‥‥答えを見せてくれ!!」

「見せて?」

「ください!」

「嫌でーす! 行ってきまーす!」

「‥‥‥え?」


いつもなら、なんだかんだ優しい朝宮が、本当に家を出ていってしまった‥‥‥。

そのせいで泣く泣く、一問も解いていない宿題を持って家を出るはめになってしまった。





「夏休みといい、冬休みの宿題もやらなかったんですか?」


そして当然のごとく、みんなの前で芽衣子先生に説教され中だ。


「な、夏休みはやりましたけど」

「今日から放課後残ってやって行きなさい」

「はい‥‥‥」


そう言われて席に着くと、ポケットに入れていた携帯が一瞬揺れて、こっそり通知を確認した。


それは隣に座る朝宮からのメッセージで『宿題が返ってきたら、答え見せてあげなくもないですよ』と送られてきていた。

なら朝見せろよと思い、すぐに朝宮を睨むと、朝宮は俺の方を向いて、芽衣子先生から顔を隠すように右手で顔を隠して、俺にしか表情が見えないことをいいことに、白目を向いて、完全に煽るようにバカにしてきた。

これが反抗期ってやつか。

白目向いても美人なの腹立つな!!!!

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