第47話/大きな靴下
初雪の夜、俺が壊れたテレビを見つめて絶望している間、朝宮はリビングの窓から見える裏庭で、小さな雪だるまを何個も作って遊んでいた。
「
そしてたまに窓を開けて、こうやって話しかけてくる。
「寒い。窓開けんな」
「そんな画面見つめてたら、本当に頭おかしくなりますよ?」
「年末から新年にかけて、見たい番組あったのに‥‥‥特番いっぱいあったのに‥‥‥」
「そんな時こそ遊んで忘れましょう! それぇ!」
「冷たっ!」
外から雪玉を投げられ、こういう時の朝宮は遊んであげないと、ずっとしつこいことも知っている俺は、厚着をして裏庭に回った。
「やっと出てきましたね! 一緒にかまくら作りましょ!」
「かまくら? どうせ中でミカン食べたいとか、そんな理由だろ」
「よく分かりましたね! 先に作っておくので、ミカン買ってきてください!」
「いつもパシリに使いやがって。たまには自分で行けよ」
「夜に女の子を一人で行かせる気ですか?」
「分かった分かった。ミカンだけでいいのか?」
「プリン! なんかこう、上にモンブランが乗ってるやつがあると思うんですけど、それがいいです!」
「コンビニにあるのか?」
「はい!」
「んじゃ行ってくるから、完成に近づけておけ」
「了解です!」
かまくらは朝宮に任せて、寒空の下を歩きながらコンビニへ向かった。
寒くて嫌だってのに、プリンにモンブラン乗ってるやつとか、ちょっと高そうなの選びやがって。
しかもコンビニのミカンって割高なんだよな。
※
不満を抱きつつもしっかり目的のものを購入して、早歩きで家に帰ってきた。
いったんプリンを冷蔵庫に入れてから裏庭へ行こう。
そう思ってリビングへ入ると、朝宮は椅子に座り、何故かタライに足を入れていた。
「なにしてんの? かまくらは?」
「飽きたのでやめましたよ?」
「それじゃ俺、何のためにミカン買ってきたの‥‥‥?」
「いいじゃないですか! 普通に食べましょ!」
「その足は?」
「足湯です!
「きったね」
「はい?」
「わーい、朝宮の浸かった足湯だー。わーい」
「そんなに嬉しいなら飲んでどうぞ」
「すみませんでした」
「はい。プリンありました?」
「あったぞ」
「ありがとうございます!」
朝宮は嬉しそうにモンブランプリンを開けて、プラスチックの小さなスプーンで一口分取ると、それを俺の口に近づけた。
「あーん!」
「やめろ」
「私はまだ食べてませんよ? 買ってきてくれたので、一口目あげます!」
「ど、どうも」
素直にモンブランプリンを一口貰うと、朝宮は当たり前のように同じスプーンでプリンを食べ始めた。
ド天然なのか、間接キスぐらい誰とでもするのか、そもそもなんにも気にしてないのか。
俺だけ変にドギマギしてしまう。
それはちょっと悔しい気もする。
※
テレビ破壊事故から四日が経ち、クリスマス五日前。
朝宮は自分で言った通り、毎日掃除をしてくれている。
「お風呂掃除終わりました!」
「どれどれ? おー! すごいじゃん!」
「えっへん!」
雑!!泡残ってる!!
そんなのが毎日だが、クリスマスが終わるまでは毎日褒めてやることに決めている。
褒めて伸びるタイプかもしれないし。
「さぁ、綺麗になりましたし、入って良いですよ!」
「ありがとうな!」
「はい!」
そして俺は一人になった瞬間、素早く追加の掃除をして風呂を沸かす。
それができたら、朝宮の部屋に行かなければいけない。
何故なら、朝宮が掃除しているのを俺に見せたいのか、ずっとドアの前で待っているからだ。
「あっ! 来ましたね! お部屋見てください!」
「おう」
朝宮がるんるんで部屋のドアを開けると、ペットボトルが部屋の隅にまとめられ、ゴミはゴミ箱から溢れている状態だったが、足の踏み場に困る今までと比べれば百点をあげたい。
まぁ、まとまったゴミが増えていくのを毎日見てる感じなんだけど。
「どうですか? これならサンタさんも入って来れますよね!」
「バッチリだな!」
「やったやった! これ見てください!」
「デカッ!」
枕元に下げられたドデカ靴下で、どれだけクリスマスを楽しみにしているのかが伝わってくる。
学校では大人で、家にいる時は本当に精神年齢が下がるな。
「これで準備バッチリです!」
「あとは掃除を毎日続けて、サンタを待つだけだな!」
「はい!」
こんなデカい靴下に写真立て一個って、なんかヘボく感じるな。
朝宮が欲しいものだから別にいいんだろうけど、写真立ては安そうだし、島村あたりに協力してもらって他にも買うか。
※
翌日、俺は朝から新聞部の部室へやってきた。
「よっ」
「ここに来るの久しぶりですね」
「ちょっと頼みがあってな」
島村は相変わらず、死んだ目をしながら新聞作りに励んでいた。
「情報屋ならやってませんよ」
「違う違う。ちょっと親戚にクリスマスプレゼント買わなきゃいけなくて、女の子が好きなものとか分からないからさ、一緒に選びに行ってくれないか?」
「そういうことですか」
「行ってくれるか?」
「今日の放課後ならいいですよ」
「ありがとう! んじゃ放課後にまたここに来るから」
「分かりました」
島村が協力してくれることになり、俺は教室に戻って陽大を廊下に呼び出した。
「どうしたの?」
「今日の放課後暇か?」
「雪で部活も無いから暇だけど」
「訳あって島村と買い物行くんだけど、陽大も行くだろ?」
「行く!」
「よし、んじゃ放課後、約束な」
「うん!」
これで陽大も島村との距離が縮まるかもしれないし、一石二鳥だな。
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