文化祭

第25話/文化祭実行委員


***



新学期に入り、日向桜は朝から新聞部の部室にやってきた。


「あ、居た」

「なにか用ですか?」

紫乃しのちゃんって、情報屋もやってるって本当?」

「本当です。あと、しーちゃんと呼んでください」

「わ、分かった。でさ、依頼したことがあるんだけど」

「聞かせてください」

「この写真見て」


桜は神社の夏祭りで撮った写真をプリントし、紫乃に渡した。


掃部かもんさんですね。あとは妹さんですか?」

「うん。問題はこの仮面の人」

「正体を知りたいとかですか?」

「そう! お願いできる?」

「依頼料を頂きます」

「幾ら?」

「お金か、日向さんの秘密とか、なにかかしらの情報で手を打ちます。お金の場合は気持ちの額です」

「んー、私はCカップ」

「興味ないです」 

「ねぇ!! 酷くない!?」

「でも秘密と言えば秘密ですよね。いいですよ、調べます」

「ありがとう! あともう一つ!」

「なんですか?」

「肝試しの後、一人で帰ってだんだけど、コンビニで少し雨宿りしてから家に向かったのね」

「はい」

「そしたら、車で帰るって言ってた一輝くんが黒髪の女の子と、雨の中を走っていったのを見たんだよね。あれ誰なのかなって」

「今から新聞を張り出したりしなきゃいけないので、また後でお話ししましょう」

「う、うん。手伝う?」

「大丈夫です。それでは」


紫乃は受け取った写真をポケットに入れ、大量の新聞を持って部室を出て行った。



***



「早くしろよ!! 始業式の日に遅刻とか笑えないからな!!」

掃部かもんさんが夜中まで宿題手伝わせたからじゃないですか!」


昨晩、朝宮の書いた宿題の答えを移す作業をしていて、寝るのが遅くなり、二人して寝坊してしまった。


「お前はページめくってただけだろ!」

「それも掃部かもんさんが私の宿題を触れないからじゃないですか!! ただページをめくる仕事がどれだけ眠くなるか分からないんですか!?」

「はいはい! ありがとうございました!!」

「あー!! もう!! 早くパン焼いてください!!」

「食ってる暇ねーよ!! 先行くからな!!」

「私が先に行きます!!」

「行け行け!! あっ、待て!」

「なんですか?」

「花火見たんだから、姉を嫌う理由を教えてくれ!」

「今ですか!?」

「気になるんだよ」

「私の心を理解してくれないからです! 行ってきます!」


心を理解してくれないから?

確かに芽衣子先生はそうなのかもしれないけど、俺も全然理解してないと思うけどな。


「そんなこと考えてる場合じゃねぇ!」


急いで家を出ると、見事に俺の自転車が無くなっていた。

自分だけ遅刻を逃れようと、乗っていきやがったな‥‥‥。

サドルとか拭くのめんどくさいのに‥‥‥。





なんとか学校に着いたが、チャイムギリギリで、慌てて教室に入ると、小説を読む朝宮の机に日向が右手を着き、何故か朝宮を睨みつけていた。


「い、一輝」

「なにがあったんだ?」

「新聞見てないの?」


陽大はなんのこと言ってんだ?


「一輝、面貸せよ」

「えっ」


明らかに怒った表情の絵梨奈に言われ、シンプルに怯んだその時、ニコニコと不気味な笑みを浮かべた咲野がA組にやって来た。


「私の獲物にちょっかい出さないでくれるかな」

「獲物!?」

「は? なんだよ問題児」

「あんたに言われたくないんだけど」

「は?」

「は?」


なに?なんで喧嘩してんだ!?

男子生徒もめっちゃ睨んでくるし!!


「さて、よく分からないけど逃げます」

「待てコラァ!!」


全力で廊下を走り出すと、絵梨奈が追ってこようとしたが、咲野がそれを止めてくれた。


「待ってよ一輝!」

「待てない!」

「一輝!!」


陽大に呼び止められ、一旦落ち着いて立ち止まると、陽大は俺の目の前に新聞を広げた。


「マジかよ‥‥‥」


新聞の見出しは【肝試しで二股疑惑】とシンプルな見出しだが、俺と日向が肝試ししている写真と、俺と朝宮が肝試ししている写真の二枚とも使われていた。


「これで桜さんが和夏菜さんを睨んでたんだよ」

「俺、男子生徒に殺されるんじゃ‥‥‥」

「それより先に絵梨奈さんだよ。あぁいう人は友達想いで、ちょっと厄介だと思う」

「島村に撤回の新聞を書かせるしかないか」

「それがいいと思う。しーちゃんも、あれが部活だから、悪気はなかったと思うし、優しくお願いしなね」

「そうだな‥‥‥」


結局チャイムが鳴って教室に戻ってくると、日向は自分の席に座っていて、朝宮に関しては全く動じないで小説を読み続けている。


はぁ‥‥‥周りの目が怖すぎる。


それから朝のホームルーム中、芽衣子先生は俺を見て目を逸らした。

多分、先生の間でも噂になってるんだろうな。


朝のホームルームが終わると、すぐに始業式が始まり、体育館に全生徒が集まったが、やっぱり男子生徒からの視線が痛い。

それにコソコソなにか言われてるし‥‥‥。

またこれだ‥‥‥中学の頃に戻った気分だな。


「大丈夫?」


俺の元気が無くなったことに気づいたのか、隣に座る陽大が声をかけてきた。


「大丈夫だ。誤解を解けばいいだけだからな」

「僕も手伝うから」

「ありがとう」


陽大は中学の頃も、こうやって味方してくれた。

でも、それが原因で‥‥‥。





昼休みになると、A組に島村がやって来て、何かを確認するように朝宮を見つめて日向の席へ向かった。

そして写真のような物を渡して何か言った後、すぐにA組を出て行っていった。


朝宮がいつものようにトイレへ行こうとしたのか立ち上がると、日向が早歩きで朝宮の席まで来て、夏祭りの時、四人で撮った写真を朝宮の机に叩きつけた。


「なにか?」

「私が肝試しの誘いをした時、隣で聞いてたよね」

「聞こえてましたね」

「なら、私の気持ち分かるよね」

「いえ、理解できません」

「どんな顔してたの!? この写真の時、お面の裏でどんな顔してた!!!!」

「人違いじゃないですか?」

「小指のホクロ同じじゃん」


やっぱりホクロか‥‥‥除去するべきだったんだ。絶対に。

こんな分かりやすく揉めてるのに、芽衣子先生は見てるだけだし、絵梨奈は苛立ちを抑えてる感がすごい‥‥‥。

俺はどうしたらいいんだ。


「別に、私と掃部かもんさんはなんでもありません。新聞も誤解です」


そう言い残して、朝宮は教室を出て行ってしまい、日向は俺を睨んで絵梨奈と教室を出て行った。


かなりやばい雰囲気だな‥‥‥。


次の授業から、九月末にある文化祭の話し合いだけど、教室全体の雰囲気が重い。

こんなんでやっていけるのか?





結局昼休みは何もできずに、不安な気持ちのまま授業が始まってしまった。


「はーい、みんな! 今日から文化祭に向けての話し合いと準備をしていきます! そのためにまずは、文化祭実行委員を決めます。やりたい人は挙手」


誰も手を挙げないでいると、芽衣子先生は二つの小さな箱を取り出した。


「こうなると思ったので、男女別にくじ引きを用意しました。先生が引いちゃいますね」


頼む、俺以外!俺以外で頼む!


「和夏菜ちゃんと一輝くん! 今日から頑張ってください!」


まさかの最悪なペア!!

ふざけんなよ!!なんでくじ引きなんだよ!!


「二人とも前に来てください!」


指示されるがまま黒板の前へやって来たが、日向の席の方が見れない。

今どんな顔してるんだよ。想像もしたくないな。


「それじゃまずは、一年A組での出し物を決めてください!」

「‥‥‥」

「‥‥‥」

「二人ともやる気ある?」


無いから手挙げなかったんじゃないですかー。


「それでは、なにか案がある人は挙手をお願いします」

「はい!」

「どうぞ」


結局朝宮が進行してくれて、俺は横に立っているだけで時間が過ぎていった。


最終的に黒板に出揃ったのは、パフェ、タピオカ、たこ焼き、チョコバナナ、アイス、お化け屋敷、メイド喫茶の七つだけで、どれも無難で、メイド喫茶になれば、全部メニューとして出せそうなものばかりだった。


「この中から多数決でよろしいですか?」

「意義なし!」


良い空気を保つ為か、陽大が声を出して反応してくれている。

本当、心底優しいな。


「パフェ屋がいいと思う方は手を挙げてください」


飲食店では女子がちらほら手を挙げ、お化け屋敷が圧倒的に女子人気があったが、最後のメイド喫茶で男子全員が手を挙げた。

無言の団結力‥‥‥恐ろしいな。


「それではメイド喫茶で決定します」

「えー!」

「男子が見たいだけでしょ!」

「多数決なんだから仕方ないだろ!」

「どうせみんな、和夏菜ちゃん狙いでしょ? 盗撮とかやめてよね!」

「しないって!」


想像通りの反応だな。


すると、芽衣子先生が口を開いた。


「メイド喫茶は他のクラスもやると思うけど、差別化を図った方がいいんじゃないかな?」

「何か案のある方はいますか?」

「てかさ、さっきから一輝だけサボってね?」

「えっ」

「それなー」

「なんか案出せよ」

掃部かもんさん、なにかありますか?」

「‥‥‥動物のコスプレして、アニマル喫茶とか? ダ、ダメか」

「いいね! 信じてたぜ一輝!

「賛成!」

「俺も!」


絶対に俺のこと嫌いなはずなのに、都合の良い奴らだな。


それから、メニュー班、衣装デザインと衣装制作班、教室全体の店のデザイン班を決めて、各班ごとに話し合いが始まった。


俺と朝宮は、気づいたところを手伝ったりする役割りになり、俺はメニュー班の陽大と一緒にメニューを考え始めた。


「災難だったね」 

「実行委員とか最悪だよ」 

「放課後の話し合いとかもあるみたいだよ?」

「マジで最悪‥‥‥」

「一輝くん」

「は、はい!」


真後ろから日向に呼ばれて、キョドリマックスで振り返ってしまった。


「私に嘘ついてたことは、お互い様だから許すよ」

「そ、そうか」

「実際どうなの?」

「なにがだ?」

「和夏菜ちゃんとの関係」

「‥‥‥肝試しの時は、朝宮がペアがいなくて参加できないってなってて、泣く泣く俺がペアになっただけだ」

「祭りは?」

「えっと‥‥‥」

「祭りはあれだよ!」


言い訳でも思いついたのか、陽大が話に混ざってきた。


「陽大くん、なにか知ってるの?」

「うん! あの神社は僕のお父さんがやってる神社でね、夏祭りのバイトを募集したんだけど、たまたま一輝と和夏菜ちゃんがバイトで一緒になってみたいな!」

「そうなの?」

「そうだ!」


陽大は写真も見てないし、俺と朝宮が一緒に祭りに居たことは知らないはずだけど、今は細かいこと気にしてられないな。


「お面してた理由は? 一言も喋らなかったのは?」


すると、朝宮も話に入って来た。


「風邪の病み上がりで声が出ませんでした。お面は体調の悪い顔を見せたくなかったからです」

「そういうこと!? てことは、あの日二人はたまたま屋台のバイトで一緒になって、休憩時間に私と会ったってこと!?」


なんかいろいろ違うけどそれでいい。


「そういうことだ。肝試しのこともそうだけど、島村の新聞に踊らされるなよ」

「なんだ! ごめんね和夏菜ちゃん!」

「いえ。大丈夫です」


それを聞いていた男子生徒達も表情が明るくなり、なんとか島村に新しい新聞を作らせなくても大丈夫になりそうだ。

朝宮関連ならすぐに噂は広まるだろうし、ひとまず安心か。


「一輝! 先生が呼んでるよ!」

「今行く」


絵梨奈に呼ばれて廊下に出ると、絵梨奈は小さな声で俺に伝えた。


「ついて来な」

「お、おう」


そのまま教室の前を離れて二階に繋がる階段の踊り場までやって来た。


「芽衣子先生は?」

「あれは嘘。一輝さ、嘘がバレたらどうするつもり?」

「な、なんのことだよ」

「一輝も陽大も目が泳ぎすぎ! 分かるっての!」

「そ、それは‥‥‥」

「まぁなに? 桜が傷つかない嘘をついてくれたのはありがたいと思ってるよ」

「嘘だって、日向に言うのか?」

「言うわけなじゃん。可哀想でしょ」

「なんだ、意外といい奴なんだな」

「悪い奴だと思ってたわけ?」

「い、いや?」

「目が泳いでんだよ。ぶっ殺すぞ」

「怖っ」

「んで? 実際付き合ってるの?」

「付き合ってない」

「だろうね」 

「おい、なんか俺、失礼な反応されなかったか?」

「とにかく、私的にも文化祭は楽しくやりたい。文化祭って準備とかも楽しかったりするじゃん?」

「まぁな」

「だから、なるべくバレないように頑張りな」 

「なんかありがとうな」

「私は私のために一輝と話しただけ。友達が傷つかなくて、私が楽しければそれでいい。んじゃ、先に教室戻るから」

「了解」


なんだよあいつ。なんかカッケー!!





俺も少し遅れて教室に戻り始めると、廊下で島村に声をかけられた。


掃部かもんさん」

「ん?」

「日向さんの声が廊下まで聞こえてきました。大事にしてしまってごめんなさい」

「謝ってくれてよかったよ。朝宮にも謝っとけよ?」

「はい。咲野さんに脅されて、放課後に謝る予定です」

「あぁ、放課後は文化祭実行委員の会議があるらしいから、時間あるかな」

「なんか謝ります」

「分かった。じゃあな」

「ちなみに私、反省はしてもやめませんよ」

「やめろよ!」

「私は書き続けなきゃいけません。ごめんなさい」

「なにがお前をそうさせてんだかな」

「それではまた」


朝宮も未知数なところが多いけど、島村も大概だな。

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