第22話/ド変態掃除妖怪ビンビン丸!!


「起きろ」

「ん〜‥‥‥朝からなんですか?」

「相変わらず汚い部屋だな」


今日はペットショップへ行くために、朝宮の部屋にやってきたが、相変わらず散らかっていて朝から気分が悪い。


「なら片付けてくださいよー」

「自分でやれよ。てか、今日はペットショップ行くんだろ?」

「そうでした!」

「なっ!?」


朝宮はいきなり起き上がり、白い下着姿が丸見えになってしまった。


「どうしました?」

「下着下着!」

「きゃ!!」


今更ベッドに潜っても手遅れだろ‥‥‥。


「珍しく私の部屋に来たと思ったら、これが狙いですか!」

「待て待て! 服着てないとか知らなかったし!」

「夏は暑いので下着で寝るんですよ!!」

「男と二人暮らししてるなら我慢しろ!」

「次からノックをしてください!」

「そ、それはそうだよな。悪かった」

「着替えて下行くので待っててください! このド変態掃除妖怪ビンビン丸!!」

「どんな悪口だよ!! サラッと下ネタ混ぜんな!!」

「出て行ってください!!」

「わ、分かったよ」


すぐに部屋を出て、玄関で朝宮を待つことにした。


はぁ、焦ったな。

俺が潔癖症じゃなかったら、朝宮も危なかっただろうに、本当に気をつけろよな。





朝宮は相変わらずマスクにサングラス姿でやってきて、さっそく自転車でペットショップへ行くことにした。


「少し遠いから自転車で行くぞ」

「私、自転車は家に置きっぱなしです」

「あっ、そっか。んじゃ一回取りに行くしかないな」

「嫌です」

「なんでだよ」

「帰りたくありません。もう歩いて行きましょ?」

「水槽買うんだぞ? 歩きはキツイって」

「タクシー呼びます?」

「金かかる」

「今まで触れませんでしたが、掃部かもんさんの家ってお金持ちですよね」

「多分、普通よりは」

「ならタクシーで行きましょうよ!」

「無理な理由はもう一つある」

「あっ! 当てたらなにかプレゼントしてください!」

「おう、いいぞ?」

「誰が乗ったか分からない座席には座りたくないんですよね!」


一発で当てやがった‥‥‥。


「正解ですか?」

「うん」

「やったやった!」

「んじゃ、もう歩いて行くぞ。クールスイッチ入れとけ」

「分かりました」

「マジで一瞬で入るな」


プレゼントも朝宮の給料から使おう。

でも水槽って幾らするんだろうな。





「はぁ、はぁ‥‥‥疲れた‥‥‥」


猛暑の中を歩きまくり、やっとペットショップに着いた。


「ペットショップってあまり涼しくないんですね」

「熱帯の生き物もいるからだろ」

「そういうことですか。さっそくアクアリウムコーナーを見てみましょう」

「だな」


奥のアクアリウムコーナーにやってくると、興味をそそる魚達が沢山いて、思わず目を奪われてしまう。


掃部かもんさん? 今は水槽ですよ?」

「あぁ、ちょっと待って」

「もう。勝手に選んじゃいますからね」

「うん」


金魚を持ち帰ってきた時はイラッとしたけど、こうやって見てみると、アクアリウムっていいな‥‥‥。

どうせなら金魚の水槽もレイアウトとかしてみようかな。


しばらくペットショップの魚に見惚れていると、小型水槽を持った朝宮が隣にやってきた。


「魚好きなんですか?」

「こうやって見てみるといいなと思って。このネオンテトラって言う魚とか、安いのに青と赤の宝石みたいで凄いよな」

「これは見惚れてしまいますね」

「だろ? 本当いいよな‥‥‥」


小さい頃は水族館が大好きで、何回か行ったことがあったけど、親が海外に行ってからは何年も行っていない。

別に魚に詳しいわけじゃないけど、成長した今でも、案外好きなものって変わってないのかもな。


「それより、この水槽はどうですか? 二千円でいろいろセットになってます」

「金魚は二匹だし、これくらいでも大丈夫そうだな。あとは餌と砂利だな。俺は店員さんに言って水草とか買ってくる」

「分かりました」


せめて簡単そうな水草レイアウトをしようと思い、店員さんに金魚用の水草を三本と、レイアウト用の石を二つ選んでもらい、先に会計を済ませた。


それから重たそうにカゴ持っている朝宮と合流すると、謎の液体を品定めしていた。


「なんだこれ」

「カルキ抜きです。水道水を魚が生活できる水に変えるやつです」

「詳しいな」

「魚飼ったことない人でも知ってると思うんですけど」


俺は見逃さなかった。

朝宮の目の前には、【魚を飼うなら必ず買って!】の見出しのポスターがあることを。

そして、カルキ抜きの説明も書いてあることを。


「‥‥‥お前、たまたまこの説明のポスター見たんだろ」  

「早く買って帰りますよ」


分かりやすく話し逸らしたな。


必要なものを全て買って朝宮の給料残り約六千円。

普通に受け取ってくれたら楽なのにな。





「あっちぃー!」

「アイスアイス!」

「アイス食べたら水槽の準備するからな!」

「はーい!」


やっと家に着いて、朝宮はすぐにアイスを食べにリビングへ行き、俺は玄関の棚の上に水槽を置いて、風呂で砂利を洗い、水槽に砂利を入れてしまった。

すると朝宮は、ソーダ味のアイスを食べながら玄関に来て、俺が作業しているのを静かに眺め始めた。


「食べてるうちに全部終わること望んでるだろ」

「はい!」

「素直でよろしい」


簡単なやつだけど、意外とレイアウトが楽しいしい、今日は許そう。


水草を植えて石を置くと、朝宮はバケツを持って風呂から水を運んできた。


「私が連れてきた金魚なので、水ぐらい私がやります!」

「偉い偉い。でも、永遠にリビングの隅でロボ犬死んでるけど、金魚の世話はできるんだろうな」

「馬鹿にしないでください! あんなロボットと、この子達は違います!」

「あぁ、やっぱりペットだとは思ってなかったんだな」

「あれは私の寂しさを埋める道具ですよ。アダルトグッズみたいなものですね」

「なに言ってんの!?」

「とにかく、あとは私がやっておくので、掃部かもんさんはゆっくりしていてください!」

「了解」

「あ! 今朝に言ったプレゼント覚えてますよね!」

「それだけど、行きたい場所とかないのか?」

「行きたい場所ですか?」

「うん。夏休み中、あと六千円使い放題させてやるよ」

「えぇ!?」


朝宮の給料が、あと六千円ぐらいだからな。

貯めておいても意味無さそうだし、バレないように夏休み中に朝宮自身がしたいことと欲しいものに使うのが一番だろ。


「正解には五千円九百円だ」

「どんな風の吹き回しですか! 水槽とかも全部買ってもらったのに!」

「気にしなくていい。行きたい場所か欲しいものあるか?」

「花火です!」

「したいのか?」

「見たいです!」

「見たいだけかよ」 

「はい!」


そういえば、夏休みの終わり頃にある花火大会で、お金払えば自分の花火を打ち上げてもらえるサービスがあったな。


「ちょっと待ってくれ」


すぐその場で受け付け期間と料金を調べたら、受け付けは明日の十九時までで、最低料金は八千円。

金額がオーバーしてるな。


「どうしても花火見たいか?」

「はい!」


ワクワクした様子で食い気味の返事‥‥‥朝宮になんの情も無いし、俺は人が嫌いなはずなのに、人が喜ぶのは嫌いじゃないという謎の気持ちから、オーバーした分を払ってもいいかなという気持ちになってしまった。


「よし、いいだろう」

「本当ですか!? やっぱり可愛いと生きてるだけで、こういう時得ですよね!」

「なんかうざいな。そういうつもりじゃないからな」 

「冗談ですよ! 掃部かもんさんの見返りを求めない優しさ、ちゃんと伝わってます!」


それは壮大に裏切ってやろう。

花火が上がる時、プラス料金でメッセージを読んでもらえるサービスを使って、日頃の説教してやる。絶対に。





だいたい一時間が経っただろうか、金魚を水槽に移し終えて、俺は今、朝宮と肩を並べて静かに金魚を眺めている。


「水槽とか買ってもらったお礼に、一つ教えてあげます」

「なんだ?」

「学校に私の姉がいます。そして私は、その人が大嫌いです」


きっと芽衣子先生だよな。

姉妹揃って美人で、先生と生徒の立場で一番の人気があるのは普通に凄い。


「なんで嫌いなんだ?」

「それを教えたら一つじゃなくなってしまいます! 欲張りさんですね!」

「気になるだろ!」

「本当に花火を見せてくれたら、また一つ教えます」

「そうか。ちなみお姉さんがいるって話は、朝宮にとって言いづらい話だったのか?」

「はい。私自身の話は全てそうです。ですが、掃部かもんさんになら教えても良いと思えました」

「なんでだよ」

「きっと私達は似ているからです。心の歪みとか」


それを聞いて、咲野が言っていた心の歪みの話を思い出してしまい、思わず体温が上がってしまった。


「そ、そんなわけないだろ! 似てねーよ、全然!」

「そんに慌ててどうしたんですか? 顔も赤くなってる気がします! あっ! 分かりました!」


朝宮はニヤニヤしながら俺を指差した。


「なんだよ‥‥‥」

「水槽に反射した私の谷間を見ましたね」

「見てない!!」

「まぁいいでしょう! 素直になれないんですもんね!」

「だから違うっての!」

「そんなことよりですね! 私は気になっているんです!」

「なにがだ?」

「なぜ掃部かもんさんは陽大さんと仲が良く、陽大さんを信頼しているのかです! 私にその信頼が向けられる日は来るのでしょうか!」

「来ない。じゃあな」

「ちょっと!!」


深掘りされたくない話しで、自分の部屋に逃げてきてしまった。

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