第21話/大恋愛のホクロ


「幸せそうに食べてるところ悪いんだけど」

「なんですか?」 

「日向が来てるらしいから早く帰りたい」

「嫌ですけど」

「俺と日向の関係分かってるだろ?」

掃部かもんさんもお面を買いましょう! 早くクレープ食べちゃってください!」


最悪お面で顔隠せばいいか。

なんか嫌だけど。


急いでクレープを食べてしまい、さっそく朝宮の案内でお面売り場にやって来たが、もう買う必要は無くなってしまった。


まさかの、お面売り場にいた日向とガッツリ目が合ってしまったのだ。


「一輝くん!?」

「お、おう。妹と来てるのか」

「うん!」


日向は小学生ぐらいの妹と手を繋ぎ、妹にお面を選ばせてあげている最中だったようだ。

問題は会ってしまったことじゃない‥‥‥型抜きの女の子、日向の妹だったのー!?!?!?!?


「あっ! さっきの変態カップル!」

「カ、カップル!?」

「違う違う! ただの誤解だ!」

「お姉ちゃん! 私この人のお面がいい!」

「え?」


妹は朝宮がつけているお面を指差し、そのせいで日向に朝宮の存在がバレてしまった。


「えっとー、知り合い? あっ、この人が恋人ってこと?」

「だから違うって。たまたま秋田に来てて、母の妹の娘」

「そうなんだ! はじめまして! 一輝くんと同じクラスの日向桜です!」


朝宮は無言でお辞儀をし、日向は喋らない朝宮を不思議そうに見つめる。


「人見知りなんだ」 

「そっか! 気にしないでください!」

「お姉ちゃん?」

「あっ、お面ね! これ一つください!」

「ありがとうございます!」


妹はお面を受け取ってそれを頭に身に付けると、嬉しそうに朝宮の手を握った。


「仲間だね!」


朝宮は無言を貫き通し、日向の妹の頭を優しく撫でている。

妹が人懐っこいのか、朝宮が小さい子に懐かれやすいのか分からないが、妹は頭を撫でられて、とても喜んでいる様子だ。


「みんなで写真撮りたい!」

「写真?」

「四人で!」


申し訳なさそうな表情で日向に見つめられ、俺は考えた。

後から写真を見られても、魔法少女の正体が朝宮だとバレる心配はないか?

服装は私服で髪型もお団子‥‥‥。

改めて考えてみても、朝宮の要素は無いな。


「写真ぐらいならいいぞ」

「本当!?」

「なんで日向が嬉しそうなんだよ」

「い、いや? それよりどこで撮る?」

「人の邪魔にならないように、あっちの池の前でいいだろ。周りに屋台はないし、休憩してる人しか見当たらない」

「そうだね! 行こ!」


ライトアップされた池の前までやって来て、日向の携帯で撮影が始まり、三人は当たり前のように密着するが、俺は一歩下がったところに立った。


「一輝くん、ちょっとしゃがんで?」

「はいよ」

「いい感じ! 撮るよー!」


久しぶりに日向と写真を撮った。

なんか変な感じだな。


「あとで送るね!」

「了解。んじゃ俺達は行くわ」

「うん! またね!」

「バイバーイ! へんたーい!」

「あはは‥‥‥」


日向達から離れると、朝宮はすぐに喋り出した。


「輪投げやりましょ?」

「なにか欲しいものあるのか?」

「あの三つセットのツナ缶です」

「普通に買えよ」

「輪投げでゲットするからいいんですよ」


そもそも、輪投げの景品がツナ缶ってなんでだよ。


朝宮が輪投げをするのを後ろで見守っていると、三つの輪のうち、一本目でツナ缶をゲットし、二本目でお菓子、三本目で小さなアヒルのマスコットフィギュアをゲットした。

才能と言うべきが、あいかわらずクールモードのときは完璧と言うか‥‥‥。


「パーフェクトじゃん」

「私、どっからどう見ても天才なので」

「そのお面つけながら言われてもな」

「とにかく、くじ引きとかは昼間にやってしまいましたし、金魚掬いをしましょう」

「やっただろ。もう増やすな」

「一匹じゃ可哀想ですよ」

「それもそっか。んじゃ、金魚掬いやったら帰るぞ?」

「はい」

「おぉ、素直だな。よし、行こう」


昼間に一度来てなかったら、まだまだ帰れなかったかもと思うとゾッとするな。


さっそく金魚掬いの店にやって来て、別々に四百円を支払い、二人で金魚掬いを始めた。


「あっ」


朝宮はすぐにポイを破いてしまい、お面越しに俺を見つめてくる。

なんか、悲しそうな顔が想像できるな‥‥‥。


「俺の分やるか?」

「いいんですか?」

「どうせ、一匹じゃ可哀想とか言って、本当はやりたかっただけだろ?」

「そんな子供じゃありません」

「いいからやっとけ」

「まったく。優しさしか取り柄がない人ですね」

「褒めてるフリして貶してるだろ」 

「集中するので静かにしてください」 

「はいはい」


女との夏祭りとか初めてなのに、なんだこれ‥‥‥全然楽しくないぞ。


「おっ、慎重にいけ」


朝宮が持つポイの真上に一匹の金魚がやってきて、朝宮は慎重にポイを上げ、なんとか一匹掬うことができた。

すると朝宮は、小さな声で「やった!」と言いながら俺の方を向き、素直にちょっと可愛いとか思ってしまった。


「よかったな」

「でも、穴開いちゃいました」

「もう一回やるか?」

「大丈夫です。帰りましょうか」

「そうだな」


こうして神社を後にし、帰り道の途中、朝宮は突然家とは違う方向に曲がった。


「おい方向音痴」

「スーパーに寄るんですよ! なんですか方向う◯ちって!」

「言ってねーよ! めんどくさいからクールモード解除すんな!」

「私達以外誰もいない夜道ですよ? いいじゃないですか!」

「分かった分かった。スーパーで何買うんだよ」

掃部かもんさん、クレープしか食べてませんよね」

「うん。帰ったらカップ麺で済ます」

「なにか買っていくので、お家で待っていてください!」

「んじゃ俺も行く」

「大丈夫ですよ?」

「優しくされると怖くなるっていうかなんていうか」

「人間不信ってやつですか?」

「どうなんだろうな」

「心配しないでください! 毒なんて盛りませんから!」

「そんな心配してなかったのに、なんか急に不安になるんだけど」

「私は私のために掃部かもんさんに優しくするんです! たまには優しくしないと、本当に追い出されちゃうので! それだけですよ!」

「なにより信じられる言葉だな」

「だから行って来ますね!」

「分かった。先帰ってるからな」

「はい!」


朝宮には振り幅の大きい二面性があるってだけで、正直信用に欠ける。

でも、自分の感情で人を傷つけるタイプには思えないのも本当だ。

芽衣子先生とのこととか含めて、むしろ帰ってくるなって言われて俺のところに来たってこと以外なにも知らないけど、きっと大丈夫だろう。

あー、ダメだダメだ。朝宮とて信じちゃいけない。もう傷つきたくないからな。



***



一輝が自宅に向かって歩いている頃、桜は焼きそばを食べている妹の横で、四人で撮った写真を見つめていた。


「焼きそば美味しいよ!」

「よかったね! (一輝くんとの写真‥‥‥嬉しいな。でもこのお面つけた子、本当に身内の人なのかな‥‥‥)」

「次はかき氷食べようよ!」

「まだ食べるの?」

「お姉ちゃんも食べよ?」

「うーん、そうだね! それ食べ終わったら買いに行こっか!」

「うん!」



***



家に着いて三十分以上が経った頃、日向から写真が送られてきた。

日向からの通知が鳴るとか、かなり久しぶりだな。


一応『ありがとう』とだけ返事を返し、朝宮ってバレる要素は無いか、写真の朝宮をアップにして、念入りにチェックしていると、初めて気づいたことがあった。

逆に、どうして今まで気づかなかったんだ。


「ただいまです! さぁ! 私の帰りを喜び、ひれふしてください!」

「なんでだよ!」


ちょうどよく朝宮が帰ってきて、写真で気づいたことを聞いてみることにした。


「朝宮って、右手の小指にホクロあるか?」

「ありますよ? 何故か、高校生になってからできました!」

「急にできたのか。んじゃ癌だな」

「怖いこと言わないでくださいよ!! でも私なりに調べたんですけど、右手の甲側の小指にできたホクロは、大恋愛の末に、好きな人と結婚できるホクロらしいですよ! 結婚した後も、結婚前と同じように熱々ラブラブが続くとか!」

「朝宮には無縁だな。あと、夏休み中にそのホクロ除去できないか?」

「どうしてですか!? 私の大恋愛を奪うことの責任分かってます? 掃部かもんさんが養育費振り込んでくれるんですか?」

「なんで子供いる設定なんだよ」

「私の養育費です。お菓子買ったりする」

「はいはいバブちゃん、ご飯はまだですか?」

「今用意します!」


朝宮は金魚の入った袋を、昼間に持ち帰ってきた金魚と同じ場所にぶら下げ、使い捨てゴム手袋をつけてキッチンに立った。

こういう時はちゃんと気をつかえるのはなんなんだよ。

そんなことより、さすがにホクロでバレたりしないよな‥‥‥。





「できましたよ! スーパーのサラダにツナ缶を足して、あとはスーパーの唐揚げ弁当です! 途中で咳き込んだので、私の唾液もブレンドされていますが!」

「食えるか!!!!」

「プレミアムブレンドですよ!?」

「手袋つけたから感心してたのに台無しだな!! あとツナ缶の空を燃えるゴミに入れんな!!」

「なら勝手に餓死しててください!」

「唐揚げ弁当だけ食べるからいい」

「まったく。お子ちゃまなんですから」

「お前にだけは絶対に言われたくない」

「はいはい、ばぶばぶ。ママー! おっぱーい!」

「うるせーよ!!」

「うるさいですって!? そんなママ嫌です!」

「俺はお前の母親じゃねぇ。早く風呂入って寝ろ」

「お母さんみたいなこと言ってますけどね」

「黙れ」

「はい!! 黙ります!! ちなみに黙るという意味を説明しますと、口を閉じて静かに」

「黙る気ある!? つか、やっぱり風呂の前にキッチン片付けろ!」

「‥‥‥」


朝宮は静かに風呂の方に向かって歩き出した。


「黙って風呂行くな!!」


あぁ‥‥‥どうして毎日毎日こんなに疲れるんだ‥‥‥。

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