第20話/変態カップルだー!
「夏祭り行きますよ! 早く早く!」
「まだ八時間早い」
神社の夏祭り当時の午前十時、朝宮はまだ眠っていた俺を起こしに部屋にやってきた。
「十時からではやってないんですか?」
「やってるにしても昼からだろうな。でも、祭りは夜の方が雰囲気あっていいだろ」
「それもそうですね! お昼に家を出ましょう!」
「うん、聞いてた?」
「準備してきます!」
本当にイベント事が好きなんだな。
てか、一緒に行く気無いんだけど。
※
朝宮が部屋を出て行った後、俺は二度寝をして、また朝宮の声で目を覚ました。
「お昼ですよ! 早く行きましょう!」
「一人で行けよ」
「もう! 後で来てくださいね!」
「はいはい」
朝宮は一人で家を出ていき、夜まで行く気がなかった俺は、朝宮の部屋以外の家中の掃除をして時間を潰し、気づけば午後四時。
玄関の扉が開く音が聞こえ、朝宮が帰ってきた。
「一度帰ってきました!」
「すごい荷物だな」
「いろんなもの買っちゃいましたよ!」
キャラクターがプリントされた袋に入ったわたあめが二袋、クジのハズレ商品、水ヨーヨーとお面、焼きトウモロコシと金魚‥‥‥。
「金魚!?」
「はい! 一匹掬えたんですよ! 可愛いですよね!」
「そうじゃねーよ! なに金魚なんか掬って来てんの!? 水槽もないし!」
「お風呂で飼えるじゃないですか!」
「風呂入れなくなるだろ!」
「この子が幸せなら‥‥‥」
「俺は幸せになれないからやめてくれ」
「ならどうするんですか!」
「その辺に逃すわけにもいかないし、明日ペットショップ行くしかないな」
「水槽買いましょ!」
「うん。買ってやる」
「えぇ!? 本当ですか?
「してません」
朝宮から受け取った給料の使い所だな。
「あとこれ、わたあめ一つあげます!」
「おっ、どうも」
「私が触った袋ですけど大丈夫ですか?」
「うん」
「お給料の入った袋も普通に受け取ってましたけど、もしかして私が触ったものなら平気になりました!?」
「あの後、めちゃくちゃアルコール消毒してたからな」
「でしょうね」
「最近、強力な消毒液を手に入れてな! それがあると思うと、ギリギリ触れるようになったんだよ!」
「なら、私と握手してみてください!」
「生身の人間は無理。間接的な、それこそ封筒とかなら大丈夫って話だ」
「なるほど! なんか大変そうなので、わたあめは私が二つ食べます!」
「太るぞ」
「そうですか? まだ大丈夫だと思いません?」
「う、うん」
平気でお腹を出して見せてくるの、本当、他の男子生徒にバレたら俺が殺されそうだな。
※
十八時になり、朝宮はマスクとサングラスをして、髪をお団子ヘアーにし、俺と一緒に家を出た。
「昼に行った時は変装してなかったよな」
「一人でしたからね。それに、まだお爺さんお婆さんしか居なかったので、普通に楽しめました」
「夜は多分、
「だから変装してるんですよ。あっ、お面つければいいんじゃないですか。一回お家に戻ります」
「先に行ってるからな」
「分かりました」
マスクとサングラスより顔全体が隠れるだろうけど、逆に恥ずかしいだろ。
一緒に居るのがバレることはなさそうだから、いいと言えばいいけどな。
※
「陽大!」
「やっと来た!」
神社に着き、りんご飴を食べている陽大をすぐに見つけることができた。
「今年も賑わってるな」
「ありがたいことにね! そういえば、昼間に和夏菜さんが来たみたいだよ!」
「そうなのか」
「お父さんが唐揚げサービスしてあげたって! お父さんは美人に弱いからね!」
「あ、朝宮が夏祭りに来るのも意外だな」
「そうかな? 誰だって祭りは好きでしょ!」
「それもそっか。んで、今から暇なんだろ?」
「十分後にクレープ屋の手伝いがある」
「マジ!? 俺一人?」
「高校の人もちらほら見かけるし、声かけてみたら?」
「俺にそんなことができると思うか?」
「何とかなるって! とにかく十分は一緒に遊ぼう!」
「だな」
十分という少ない時間で、陽大と射的に挑戦し、屋台を見ながら歩いているだけで時間がきてしまった。
「それじゃ僕は行かなきゃだから、よかったら後で、クレープ買いに来てよ!」
「了解」
「衛生面気にして、手袋つけて料理してる店はクレープ屋とたこ焼き屋と、あと他にもあったはずだから、一輝も楽しめると思うよ!」
「大丈夫! 何も食わないから! あっ、クレープは食いに行く!」
「了解! 待ってるね!」
「おう!」
陽大がクレープ屋に行ってしまい、ついに一人になってしまった。
さて、どうするかな。
朝宮も既に来てるはずだけど、人が多くて見つけられないな。
人混みもキツいし、クレープだけ買って帰るか。
そう思い、クレープ屋を探して歩いていると、お団子ヘアーで魔法少女のお面をつけた人が、子供達に混ざって型抜きをしているのを見つけた。
あれ、絶対朝宮だよな。
他人のフリしよ。
他人のフリをして通り過ぎようと思い歩き出すと、あっさり朝宮に見つかり、無言で手招きされてしまった。
そして嫌々朝宮の元へやってくると、朝宮は小さな声で言った。
「型抜きやりましょ」
「やらん」
「私の千円を取り返してください」
「千円もやったのかよ」
「お姉ちゃん、どうしてお面つけてるの?」
「私は魔法少女なの」
小学生ぐらいの女の子に聞かれて、小学生向けの返答をする朝宮。
「いい大人が恥ずかしの!」
え、今時の小学生って‥‥‥。
俺が小学生の頃なんて、ライダー物のベルトとかつけてたよ?
「お兄ちゃん達はカップル?」
「はい、そうです」
「はぁ!? なに言ってんだ!」
「チューとかするの?」
「はい、毎晩たくさんします」
「変態カップルだー!」
「あ、あさっ」
こんなところで朝宮の名前を呼ぶのはまずいか。
「魔法少女、もう行くぞ」
「え、はい」
朝宮を型抜きの店から遠ざけて、俺はこれでもかと朝宮を睨みつける。
「なんですか?」
「なに言っちゃってんの?」
「相手は小学生ですよ? 適当に盛り上がるように話しておけばいいんです」
「だからってお前な」
「あ、クレープがあります。行きますよ」
「ちょっと待てって!」
クレープ屋には陽大が居る‥‥‥。
大丈夫か?いやでも、見た目は変でも、今の朝宮はクールモードだ。
上手いことやってくれるか。
妙な緊張感を感じながらクレープ屋にやってくると、想像通り陽大は朝宮をガン見し始めた。
「か、隠し子?」
「デカすぎだろ」
「恋人!?」
「ありえない。こいつは妹だ」
「一輝、妹いないじゃん」
「は、母親の妹の娘だ!」
「そうなんだ! 祭り楽しんでね!」
そう言われた朝宮は甲高い声で言った。
「センキュー!」
外国人設定!?
「海外の方?」
「い、いや、ふざけてるだけだ」
「そっか!」
「イチゴクレープ一つオネガイシマース!」
カタコトやめて!?
「一輝は?」
「え、えっと、バナナで」
「了解! すぐ作っちゃうね!」
なんとか気づかれてないみたいだな。
あの朝宮がこんな声出すとは想像できないだろうし、意外といいのかもな。
そして朝宮がクレープを受け取る時、陽大は何故か、朝宮の手をガン見していた。
「陽大?」
「ん?」
「どうかしたか?」
「ううん! 何でもないよ!」
「そっか。んじゃまたな」
「うん!」
朝宮はトコトコと歩き出し、静かにそれについて行くと、誰もいない神社の裏に着いた。
「食べましょ」
「顔隠してると、いちいち大変だな」
「でも楽しいですから!」
クールモードでも、俺しか見てないと頬にクリームとか付けちゃうのね。
いや、今はクールモードじゃないな。
誰も見てないからか。
俺はポケットからティッシュを取り出し、朝宮に差し出したが、朝宮はそれを見て、俺の顔を真っ直ぐ見つめた。
「神社の裏に来たからって、さすがにそれは!」
「いいから早く抜けよ」
「‥‥‥あ、あの、本気ですか?」
「ティッシュ抜けって言ってんの」
「な、なぜいきなり! ま、まぁいいでしょう。タダで住まわせてもらってますから、早く脱いでください」
「は!?」
「見ててあげますから、逆立ちしながら一人でしていいですよ」
「何でちょっと特殊なんだよ」
「ただでさえ見たくないものなんですから、ユーモアを持たせてくださいよ!」
「もういいから、クリームついてるから拭けって」
「白いやつの隠語でクリームとか言うのやめてください! こっは食事中です!」
ダメだこいつ。
なに言っても俺が悪いみたいになる‥‥‥。
「イライラしないでください。おちょくっただけですから」
「まったく‥‥‥って、全部抜くな!」
朝宮はポケットティッシュを一回で全て引き抜き、ティッシュがなくなってしまった。
「私の手で、
「言い方に悪意しかないのやめろ! ったく、この後どうするんだ?」
「まだまだ楽しみますよ!」
「昼間に楽しんだんじゃないのかよ」
「夜は夜で雰囲気が違いますから、もう一度楽しむんです!」
「そうかよ。でも、なるべく早く帰るぞ? 思ったより同じ高校の奴らが多い」
「分かりました! 任せてください!」
不安でしかないんだが‥‥‥。
俺も早く食べてしまおうと、ニコニコしながら幸せそうにクレープを頬張る朝宮を見ながらクレープを食べていると、携帯の着信音が鳴った。
陽大?
「もしもし」
「大丈夫?」
「なにがだ?」
「日向さんが来てるから、会って気まずいことになってないかなって」
「まだ会ってない‥‥‥」
「ならよかった! なにかあったらすぐ言ってね!」
「おう。わざわざありがとうな」
「うん! それじゃ楽しんで!」
「うぃ」
日向が来てるのか‥‥‥尚更早く帰らなきゃな。
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