第20話/変態カップルだー!


「夏祭り行きますよ! 早く早く!」

「まだ八時間早い」


神社の夏祭り当時の午前十時、朝宮はまだ眠っていた俺を起こしに部屋にやってきた。


「十時からではやってないんですか?」

「やってるにしても昼からだろうな。でも、祭りは夜の方が雰囲気あっていいだろ」

「それもそうですね! お昼に家を出ましょう!」

「うん、聞いてた?」

「準備してきます!」


本当にイベント事が好きなんだな。

てか、一緒に行く気無いんだけど。





朝宮が部屋を出て行った後、俺は二度寝をして、また朝宮の声で目を覚ました。


「お昼ですよ! 早く行きましょう!」

「一人で行けよ」

「もう! 後で来てくださいね!」

「はいはい」


朝宮は一人で家を出ていき、夜まで行く気がなかった俺は、朝宮の部屋以外の家中の掃除をして時間を潰し、気づけば午後四時。

玄関の扉が開く音が聞こえ、朝宮が帰ってきた。


「一度帰ってきました!」

「すごい荷物だな」

「いろんなもの買っちゃいましたよ!」


キャラクターがプリントされた袋に入ったわたあめが二袋、クジのハズレ商品、水ヨーヨーとお面、焼きトウモロコシと金魚‥‥‥。


「金魚!?」

「はい! 一匹掬えたんですよ! 可愛いですよね!」

「そうじゃねーよ! なに金魚なんか掬って来てんの!? 水槽もないし!」

「お風呂で飼えるじゃないですか!」

「風呂入れなくなるだろ!」

「この子が幸せなら‥‥‥」

「俺は幸せになれないからやめてくれ」

「ならどうするんですか!」

「その辺に逃すわけにもいかないし、明日ペットショップ行くしかないな」

「水槽買いましょ!」

「うん。買ってやる」

「えぇ!? 本当ですか? 掃部かもんさんが私に!? もしかして口説こうとしてます?」

「してません」


朝宮から受け取った給料の使い所だな。


「あとこれ、わたあめ一つあげます!」

「おっ、どうも」

「私が触った袋ですけど大丈夫ですか?」

「うん」

「お給料の入った袋も普通に受け取ってましたけど、もしかして私が触ったものなら平気になりました!?」

「あの後、めちゃくちゃアルコール消毒してたからな」

「でしょうね」

「最近、強力な消毒液を手に入れてな! それがあると思うと、ギリギリ触れるようになったんだよ!」

「なら、私と握手してみてください!」

「生身の人間は無理。間接的な、それこそ封筒とかなら大丈夫って話だ」

「なるほど! なんか大変そうなので、わたあめは私が二つ食べます!」

「太るぞ」

「そうですか? まだ大丈夫だと思いません?」

「う、うん」


平気でお腹を出して見せてくるの、本当、他の男子生徒にバレたら俺が殺されそうだな。







十八時になり、朝宮はマスクとサングラスをして、髪をお団子ヘアーにし、俺と一緒に家を出た。


「昼に行った時は変装してなかったよな」

「一人でしたからね。それに、まだお爺さんお婆さんしか居なかったので、普通に楽しめました」

「夜は多分、静鐘しずかね高校の生徒も居るぞ?」

「だから変装してるんですよ。あっ、お面つければいいんじゃないですか。一回お家に戻ります」

「先に行ってるからな」

「分かりました」


マスクとサングラスより顔全体が隠れるだろうけど、逆に恥ずかしいだろ。

一緒に居るのがバレることはなさそうだから、いいと言えばいいけどな。





「陽大!」

「やっと来た!」


神社に着き、りんご飴を食べている陽大をすぐに見つけることができた。


「今年も賑わってるな」

「ありがたいことにね! そういえば、昼間に和夏菜さんが来たみたいだよ!」

「そうなのか」

「お父さんが唐揚げサービスしてあげたって! お父さんは美人に弱いからね!」

「あ、朝宮が夏祭りに来るのも意外だな」

「そうかな? 誰だって祭りは好きでしょ!」

「それもそっか。んで、今から暇なんだろ?」

「十分後にクレープ屋の手伝いがある」

「マジ!? 俺一人?」

「高校の人もちらほら見かけるし、声かけてみたら?」

「俺にそんなことができると思うか?」

「何とかなるって! とにかく十分は一緒に遊ぼう!」

「だな」


十分という少ない時間で、陽大と射的に挑戦し、屋台を見ながら歩いているだけで時間がきてしまった。


「それじゃ僕は行かなきゃだから、よかったら後で、クレープ買いに来てよ!」

「了解」

「衛生面気にして、手袋つけて料理してる店はクレープ屋とたこ焼き屋と、あと他にもあったはずだから、一輝も楽しめると思うよ!」

「大丈夫! 何も食わないから! あっ、クレープは食いに行く!」

「了解! 待ってるね!」

「おう!」


陽大がクレープ屋に行ってしまい、ついに一人になってしまった。


さて、どうするかな。

朝宮も既に来てるはずだけど、人が多くて見つけられないな。

人混みもキツいし、クレープだけ買って帰るか。

そう思い、クレープ屋を探して歩いていると、お団子ヘアーで魔法少女のお面をつけた人が、子供達に混ざって型抜きをしているのを見つけた。


あれ、絶対朝宮だよな。

他人のフリしよ。


他人のフリをして通り過ぎようと思い歩き出すと、あっさり朝宮に見つかり、無言で手招きされてしまった。

そして嫌々朝宮の元へやってくると、朝宮は小さな声で言った。


「型抜きやりましょ」

「やらん」

「私の千円を取り返してください」

「千円もやったのかよ」

「お姉ちゃん、どうしてお面つけてるの?」

「私は魔法少女なの」 


小学生ぐらいの女の子に聞かれて、小学生向けの返答をする朝宮。


「いい大人が恥ずかしの!」


え、今時の小学生って‥‥‥。

俺が小学生の頃なんて、ライダー物のベルトとかつけてたよ?


「お兄ちゃん達はカップル?」

「はい、そうです」

「はぁ!? なに言ってんだ!」

「チューとかするの?」

「はい、毎晩たくさんします」

「変態カップルだー!」

「あ、あさっ」


こんなところで朝宮の名前を呼ぶのはまずいか。


「魔法少女、もう行くぞ」

「え、はい」


朝宮を型抜きの店から遠ざけて、俺はこれでもかと朝宮を睨みつける。


「なんですか?」

「なに言っちゃってんの?」

「相手は小学生ですよ? 適当に盛り上がるように話しておけばいいんです」

「だからってお前な」

「あ、クレープがあります。行きますよ」

「ちょっと待てって!」


クレープ屋には陽大が居る‥‥‥。

大丈夫か?いやでも、見た目は変でも、今の朝宮はクールモードだ。

上手いことやってくれるか。


妙な緊張感を感じながらクレープ屋にやってくると、想像通り陽大は朝宮をガン見し始めた。


「か、隠し子?」

「デカすぎだろ」

「恋人!?」

「ありえない。こいつは妹だ」

「一輝、妹いないじゃん」

「は、母親の妹の娘だ!」

「そうなんだ! 祭り楽しんでね!」


そう言われた朝宮は甲高い声で言った。


「センキュー!」


外国人設定!?


「海外の方?」

「い、いや、ふざけてるだけだ」

「そっか!」

「イチゴクレープ一つオネガイシマース!」


カタコトやめて!?


「一輝は?」

「え、えっと、バナナで」

「了解! すぐ作っちゃうね!」


なんとか気づかれてないみたいだな。

あの朝宮がこんな声出すとは想像できないだろうし、意外といいのかもな。


そして朝宮がクレープを受け取る時、陽大は何故か、朝宮の手をガン見していた。


「陽大?」

「ん?」

「どうかしたか?」

「ううん! 何でもないよ!」

「そっか。んじゃまたな」

「うん!」


朝宮はトコトコと歩き出し、静かにそれについて行くと、誰もいない神社の裏に着いた。


「食べましょ」

「顔隠してると、いちいち大変だな」

「でも楽しいですから!」


クールモードでも、俺しか見てないと頬にクリームとか付けちゃうのね。

いや、今はクールモードじゃないな。

誰も見てないからか。


俺はポケットからティッシュを取り出し、朝宮に差し出したが、朝宮はそれを見て、俺の顔を真っ直ぐ見つめた。


「神社の裏に来たからって、さすがにそれは!」

「いいから早く抜けよ」

「‥‥‥あ、あの、本気ですか?」

「ティッシュ抜けって言ってんの」

「な、なぜいきなり! ま、まぁいいでしょう。タダで住まわせてもらってますから、早く脱いでください」

「は!?」

「見ててあげますから、逆立ちしながら一人でしていいですよ」

「何でちょっと特殊なんだよ」

「ただでさえ見たくないものなんですから、ユーモアを持たせてくださいよ!」

「もういいから、クリームついてるから拭けって」

「白いやつの隠語でクリームとか言うのやめてください! こっは食事中です!」


ダメだこいつ。

なに言っても俺が悪いみたいになる‥‥‥。


「イライラしないでください。おちょくっただけですから」

「まったく‥‥‥って、全部抜くな!」


朝宮はポケットティッシュを一回で全て引き抜き、ティッシュがなくなってしまった。


「私の手で、掃部かもんさんのがすっからかんになっちゃいました!」

「言い方に悪意しかないのやめろ! ったく、この後どうするんだ?」

「まだまだ楽しみますよ!」

「昼間に楽しんだんじゃないのかよ」

「夜は夜で雰囲気が違いますから、もう一度楽しむんです!」

「そうかよ。でも、なるべく早く帰るぞ? 思ったより同じ高校の奴らが多い」

「分かりました! 任せてください!」


不安でしかないんだが‥‥‥。


俺も早く食べてしまおうと、ニコニコしながら幸せそうにクレープを頬張る朝宮を見ながらクレープを食べていると、携帯の着信音が鳴った。


陽大?


「もしもし」

「大丈夫?」

「なにがだ?」

「日向さんが来てるから、会って気まずいことになってないかなって」

「まだ会ってない‥‥‥」

「ならよかった! なにかあったらすぐ言ってね!」

「おう。わざわざありがとうな」

「うん! それじゃ楽しんで!」

「うぃ」


日向が来てるのか‥‥‥尚更早く帰らなきゃな。

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