第19話/好きです‥‥‥♡


朝宮と二人で陽大の父親がやっている神社にやってくると、俺達を見つけた陽大が荷物を持って駆け寄ってきた。


「おはよー!」

「おはよう」

「和夏菜さんもおはよう!」

「おはようございます」

「マスクなんてして、風邪でも引いたの?」

「日焼け防止です」

「和夏菜さん、美意識高そうだもんね! あっ、これ新品の軍手だから使って!」

「ありがとう」

「今日してもらうのは、屋台をするためのイベントテントの組み立てだから頑張ろう! 大きい声では言えないけど、二人は僕と同じクラスってことで、給料頑張るってさ」

「助かるよ。その分働くからなんでも言ってくれ」

「うん!」

「和夏菜さんも頑張ってね!」

「はい」

「それじゃ、あとは周りの人に聞いてお願いね!」

「ほーい」


陽大は自分の持ち場へ戻っていき、俺はさっそく作業をしているおじさんに声をかけようと歩き出すが、朝宮も俺の横をついて来た。


「別行動しろよ」

「手伝います」

「一人じゃできないだけだろ」 

「貴方よりはできると思いますけど」


たしかに、クールモードの朝宮ならできちゃいそうで何も言えない。


結局二人で作業中のおじさんに説明を聞いて、そのまま二人でイベントテントを組み立てることにした。


掃部かもんさん、もっと力入れてください」

「やってるって」


朝宮に指示されながら骨組みを組み立て、次に、脚立で骨組みの上にテントの屋根を張る作業に入るが、朝宮が脚立に登り始め、俺はすぐにそれを止めた。


「降りろ」 

「できます」

「ダメだ。降りろ」


一瞬眉間にシワを寄せて降りて来た朝宮は、不満そうに言った。


「私ならできます」

「体調悪いのに来てるだろ」

「‥‥‥」

「なんでそこまで頑張るのか知らないけど、昨日は動くのがやっとだったじゃんか。落ちられても、全体の迷惑になるんだよ」 

「頑張らせてくださいよ」 

「陽大のことが好きなのか? それなら取り持ってやるから、今は言うことを聞いてくれ」

「違います。勝手に決めないでください」

「んじゃどうしてだよ」

掃部かもんさんにだけは、今は絶対に教えたくありません」

「そうかよ。とにかく脚立は俺が登る。朝宮は下から紐を引っ張ってくれ。朝宮が引っ張ってくれたら助かるから」

「それなら分かりました」


朝宮は働きたがってるし、今みたいに頼りにするような言い方の方が良いみたいだな。





「みなさん! 今日はありがとうございました!」


なんとか朝宮も倒れたりせずに一日限定のアルバイトが終わり、陽大の父親が一人一人にバイト代を手渡しし始めた。


「これ、一輝くんの分ね!」

「ありがとうございます!」

「これは和夏菜ちゃんの分!」

「ありがとうございます。またいつでも呼んでください」

「本当かい? 助かるよ! 二人とも、当日の夏祭りにも是非遊びに来てね!」

「はい」


アルバイトが終わると、何故か朝宮は走って帰って行き、だいぶ遅れて家に着くと、玄関の中でのたれ死んだように朝宮が倒れていた。

  

「おい」

「限界です‥‥‥」

「どうして無理してまで行ったんだ?」

「肝試しの時の恩返しを、どうしてもしたかったんです‥‥‥掃部かもんさんを手伝いたかったんです」

「だから、あの日はたまたま」

「それでも、私は嬉しかったから‥‥‥このお給料、全部あげます」 

「う、受け取れない!」 

「受け取ってください! じゃないとこの場で裸になって、犯罪臭たっぷりの状況で野垂れ死ますからね!」

「やめて!?」

「受け取ってください‥‥‥」

「わ、分かったよ」

「ありがとうございます!」


体調悪いくせに、そのキラキラした笑顔はなんなんだ。

でも、朝宮は俺の知る女の中で一番分かりやすく良いやつだったりするのかもな。


一応給料が幾らだったのか確認するために封筒を開けると、中から一万円札一枚と、百円玉八枚が出てきて驚いてしまった。

当初聞かされていた額の二倍だ‥‥‥。


「あ、朝宮? やっぱり受け取れないわ」

「あー! もう! 脱ぎます!」

「待て待て! ズボン下すな!」

「見ないでください!」

「裸になるのに!?」

「受け取ってくださいって言ったじゃないですか!」

「わ、分かったよ‥‥‥」

「分かればいいんです!」

「とにかく騒がないで寝てろ。な?」

「分かりましたよ」


朝宮の給料は、そのうちなんらかの形で、朝宮のために使うとするか。





翌朝、朝宮は食欲も回復して、本当に復活した様子だ。


「いやー、お騒がせしまた!」

「いいけど」 

掃部かもんさんにも移らなくてよかったです! あ、でも、もしかして私に看病してほしかったですか?」

「絶対に嫌だ!!」

「よちよーち! ミルクの時間でちゅよー。 こら! 噛んじゃダメでしょ! って」

「‥‥‥看病じゃなくて特殊プレイだろ」

「ナース服買って、ちゃんとしてあげますよ? 体拭きますねーって! そしたら掃部かもんさんが『ご、ごめんなさい』とか言っちゃうんです!」

「なんで俺が謝るんだよ」

「ん? 『大丈夫ですよー。大きくなっちゃう人、よくいるので』って言ってあげますね!」

「生々しいわ!! そんなのどこで覚えて来た!」

掃部かもんさんが隠し持ってる、下ネタ満載の漫画です!」

「‥‥‥なんかごめんな」

「大丈夫ですよ? 生理現象ですから!」

「そっちの話じゃねーよ! まぁでも、元気になってよかったな」

「はい!」

「話は戻すけどさ、俺には移らなかったけど、陽大に移ったっぽいんだよ」

「へー、別にどうでもいいです」

「罪悪感とか無い系!?」

掃部かもんさんに移らなければいいんですよ。それにマスクして行ったのに、私から移るなんてことありますかね」

「さぁな。なんで俺には移ってほしくないんだ?」

「それは‥‥‥えっと‥‥‥女の子の口から言わせるんですか?」

「え‥‥‥?」


なんで恥ずかしそうにしてるんだ?

嘘だろ?一緒に暮らしてるうちに、そういう感情が芽生えちゃったのか?


「だ、だって‥‥‥掃部かもんさんが倒れたら‥‥‥誰が私のご飯を作るんですか!!」


もしかして好きなのか?とか思った俺が馬鹿だった。


「あぁ、はいはい。でしょうね」

「もしかして告白されると思いましたー?」

「思ってねーよ!!」

「‥‥‥好きですよ」

「はっ、はい?」

掃部かもんさん」

「‥‥‥」 

「の」

「の?」

「料理」

「はい。ありがとうございました。さよなら」

「どこ行くんですか!」

「学校」

「私服でですか?」

「制服に着替えるに決まってんだろ」

「でも、どうして夏休みに学校へ行くんですか? まさか、好きな子のサドルを盗みに?」

「しねーよ! 好きな奴もいないし、ただの補習だよ」

掃部かもんさんかっこわるーい!」

「うるせーな」

「それじゃ私はお留守番してますね!」

「よろしくー」





学校に着いて教室にやって来たが、まさかの補習組は俺だけ‥‥‥。

そして、黒板には芽衣子先生からの張り紙が一枚。


【先生は他の学校へ会議に行くことになりました。先生の机に入っているプリントをしておいてください】


なんて適当な先生なんだ‥‥‥。


まぁ、一人でやる方が気楽でいいけどね。


「一輝くん!?」

「ひ、日向も補習か?」

「そうだよ!」


まさかの日向もかよ!!

来るんじゃなかった!!


「そ、そういえばさ、肝試しの帰り、迎えに来てくれた?」

「お、おう」

「ふーん‥‥‥一輝くんてさ、まさか今付き合ってる人とかいる?」

「居ないけど、なんでだ?」

「い、いや? いたらペアになったの申し訳なかったかなーって」

「気にするな」

「うぃー! あれ? 一輝もいんじゃん」


絵梨奈も来ちゃったぁ〜!!

そりゃそうだよな。どっからどうみても補習顔だもん。

絵梨奈が補習じゃないわけないんだよ。


「お、おはよう」

「おは! てかさー、二人とも肝試しどうだったわけ? 付き合えた?」

「絵梨奈! なに言ってるの!?」

「だって、元恋人同士がペアになって、桜は一輝のことまだ好きじゃん? 付き合うでしょ普通。桜可愛いし」

「‥‥‥」


デリカシー皆無妖怪。

この点に関しては朝宮より酷いなこいつ。

日向黙っちゃったじゃんかよ。


「まさか一輝! 桜のこと振ったわけ!?」

「ま、まぁ、多分そうなる」

「はぁー、キモ」

「ドストレートすぎるだろ。男でも泣く時は泣くんだぞ」

「ねぇ桜、マジでこいつのどこが良いわけ? 私にはちっとも分かんないんだけど」

「じ、実は優しいところもあるんだよ?」

「そうだぞ。俺は割と優しいほうだ」

「お前は黙ってろ」

「はい、すみません」  


やっぱり女ってこえー。


「全部私が悪いからしょうがないんだけどね。中学の頃、一輝くんに嘘ついちゃって、でもこれから、いろいろ信じてもらうために頑張るの」

「一輝」

「はい?」

「桜を信じろ」

「強制!?」

「強制」

「いやいや‥‥‥ちょっとトイレ行ってくるわ」

「行っトイレ〜」


中学の頃を思い出して息苦しくなり、トイレと嘘をついて教室を出た。

すると、俺が居なくなった教室から二人の会話が聞こえてきた。


「そういえば桜アンタ、一輝のこと嫌いって言ってなかったっけ」

「嫌いだよ?」


は‥‥‥?


「なに企んでんの?」

「別に? 好きなのも本当だし、ただ、一輝くんが掃除してるのを見るたびにムカつくだけ」

「なんで? 前にゲーセンで感謝してなかったっけ」

「一輝くんが掃除をしてるのを見る度にね、私って嫌われてるんだって実感するから」

「へー、難しい話は分からないや」

「絵梨奈は分からなくていいの」

「でも応援するよ! なんかあったら私がぶっ飛ばしてやるから!」


いやいや、俺ぶっとばされちゃうの?

どの基準で?日向を信じなかったらとか?

勘弁してくれよ。


「ありがとう!」


感謝するなよ。

なんかもう教室戻るの気まずいよ。

こういう時はそうだな‥‥‥よし、帰ろ。





「ただいまー」

「早くないですか!? そうろっ」

「芽衣子先生居なかったからな。あと、最後の言うのやめたのは偉い」

「当然です! 私はエロい!」


朝宮のシンプルなボケを無視して、リビングの椅子に座って脱力する。


「あー、なんか疲れたわ」

「そんな! お出かけしましょうよ!」

「どこ行くんだよ」

「秋葉原です!」

「一応聞くけど、ここどこか分かってるか?」

「東京ですよね?」

「うん、秋田な」

「飽きた!? 私との会話に飽きたって言うんですか! それに秋田だって割と都会です! 東京みたいなものです!」

「県の秋田って分かってるじゃんかよ。なんだお前」

「そりゃ普通分かりますよね。大丈夫ですか?」


あぁ、やばい。怒りで脳みそはち切れそうだ。


「あー、それより、神社の夏祭りは行くのか?」

「はい! もちろんです! 夏祭りデートしてあげてもいいですよ!」

「別行動でよろしく」

「今後できる彼女のためにも経験しておいた方がいいですよ? 神社の裏でチョメチョメとか」

「なんの経験値上げようとしてんの!?」

「冗談に決まってるじゃないですか! なんで私が掃部かもんさんなんかに初めてを、しかも外ですか!? 趣味悪すぎます!」

「え? なんで俺が責められてんの?」

「責められる方が好きなんですか? なるほど、掃部かもんさんはドMなんですね」

「会話にならないから部屋に行くわ」

「いつものことじゃないですか! 慣れてくださいよ!」

「自覚あったのかよ!!」

「夏祭りの準備してきますね!」

「逃げんな!」


夏祭り来週だしな。


それにしても、問題は日向だ。

親が迎えに来たのか聞かれた時も、微妙な反応だったし、仮にもまたやり直したいと思っている相手を嫌いとか言うか?

俺が潔癖症になったのは自分のせいだって分かってはいるみたいだし、次に肝試しの時みたいな話になったらハッキリ断ろう。

絶対断るぞ‥‥‥できるかな。


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