第18話/強がり朝宮ちゃん!
「とにかく掛け布団はかけろ」
「動きたくありません‥‥‥」
「んじゃ、ちょっと待ってろ」
俺は急いで使い捨てのゴム手袋を付けて、朝宮の体に掛け布団をかけてやった。
「大人しくしてろよ」
「こんな時もゴム手袋ですか」
「分かってたことだろ。喋んないで寝ろ」
「明日、行きますから」
「バカか! 来ても迷惑なだけだ」
「許可は貰ったんですか?」
「一応、バイトとして朝宮も行っていいことになったけど、風邪引いてるんだから行けないだろ」
朝宮は静かに目を閉じ、急に寝てしまった。
「‥‥‥黙ってれば可愛いのにな」
綺麗な寝顔を見て、思わずボソッと声に出してしまった次の瞬間、朝宮の目がガッツリ開いた。
「起きてたのかよ! 性格悪っ!」
「怖い夢を見ました」
「この数秒で!?」
「
「気持ち悪い夢見てんじゃねーよ」
「キモいので出て行ってください!」
「夢の俺とは関係ないだろ!」
「なんですか!? 私の寝込みを襲う気ですか!?」
「なんもしねーよ! もう看病とかしてやらないからな」
そう言い残して朝宮の部屋を出たが、あぁは言ったものの、さすがに本気で辛そうだったし、おかゆの作り方でも調べるか。
あとはヨーグルトとかも買ってきたほうがいいな。
寒気するって言ってたけど、そういう場合はおでこを冷やす必要はあるのか?
いや、朝宮にここまで優しくする必要ないか。
とりあえず昼寝しよ。
一度自分の部屋へ行き、ベッドに入りながら携帯でおかゆの作り方を調べていると、元々昼寝のつもりだったが、本当にどんどん眠くなっていき、気づいたら寝てしまった。
※
眠りから覚めて携帯を確認すると、時刻は午後四時。
「寝すぎた‥‥‥」
朝宮の様子を見ようと部屋を静かに覗くと、朝宮はしっかり眠っているようだった。
朝宮が居るのに静かな家。
朝宮には悪いけど最高だな!!
久しぶりに静かな時間を過ごせるぞ!!
それから俺は、すぐにヨーグルトなどの買い出しにスーパーへやってきた。
おかゆにワカメでも入れるか?
ふりかけでもいいかな。安いし。
「あれあれー? 一輝くんじゃん!」
「咲野!?」
「なんでそんなに驚いてるの?」
「いや、別に」
俺的、急に現れたら怖い人物ナンバーワンだからだよ。
「夜ご飯の買い出し?」
「そうなんだよ」
朝宮が熱出したって言ったら、家まで押しかけてきそうだし、ここは黙っておいたほうがよさそうだな。
「夜ご飯なににするの?」
「おかゆ」
「和夏菜ちゃんが熱出したとか!?」
「ち、違う違う!」
「嘘ついたら針千本ぶっ刺す」
「飲ますんじゃなくて!?」
言ってることも怖いけど、目を大きく見開いたその顔をやめてほしい。
すっごい怖いんだよな。あと圧がすごい。
「えー?♡ 一輝くんは飲むほうが好きなの?♡ なら飲ましてあげるね!」
「嘘じゃないからやめてください」
「ふーん。 でも、普段からおかゆ食べるの? おかしくない?」
「食の好みはいろいろだろ。咲野だったら、おかゆになに入れる?」
「和夏菜ちゃんの成分ならなんでもいい!」
「想像したら吐きそうになった。さっさと買って帰るわ」
「は? 吐くってなに? 和夏菜ちゃんから出るものとか全部綺麗だから」
「はい、すみません」
「あれとかすごく飲みたいし」
「うん、詳細は聞かないでおくわ」
「は? 聞きなよ」
「嫌だよ‥‥‥つか、咲野はなにしに来たんだ?」
「プリンとシュークリーム買いにきたの!」
「プリンとシュークリーム?」
「和夏菜ちゃんはその二つが好きでしょ? だからね、好きな人と同じ物を食べてぇ♡ 今同じタイミングで同じ物を食べてるかもとか考えるだけで嬉しくなっちゃうんだぁ♡」
「凄いな‥‥‥んじゃ今日はおかゆを食え」
「分かった!♡ あ、そうそう」
「えっ、なに」
笑顔から急に真顔になる咲野に、思わず後退りしてしまう。
「お金に困ったらすぐに言ってね。いいバイトあるよ」
「なんか遠慮しとくわ‥‥‥」
「大丈夫大丈夫。物を運ぶだけの簡単なお仕事だから」
「怪しすぎるだろ」
「和夏菜ちゃんの下着を一万円で買うからさぁ♡ 洗濯前ならもう少し頑張るよ? いい仕事じゃない?♡ あっ、でも、一輝くんが和夏菜ちゃんの下着を見て触るってことだから、お金を受け取ったら両目と両脚無くなるけど、それは大した問題じゃないよね? そうだよね?」
「大問題なんだが」
「大丈夫♡ 麻酔とかそういう知識ないけど、叫んでるうちに終わるからさぁ♡」
「叫ぶ前に死ぬわ」
「でもさぁ? 一輝くんは仮にも私が一度愛した人だから、また最後ぐらい愛してあげるよ? 血は大事に保管してあげるし♡」
「愛歪みすぎだろ!」
「歪んだ心を認め合える者同士がくっついた時、本当に心から愛し合えるの♡ 」
「理解できないな」
「ほら! パズルのピース一つ一つが人間の心だと思ってみてよ! パズルのピースって変な形してるでしょ? 言っちゃえば歪んでる! なのに、歪んだもの同士がピッタリ綺麗にくっついちゃうじゃん! 一輝くんの極度なまでの潔癖症だって、そうじゃない人からしたら歪みだよ? 歪んだ心を心から理解して認められるのは、歪んだ心を持った人間だけ♡」
「おー、良く分からないけど納得しちゃいそうだ。怪しい壺とか売る仕事向いてるかもな」
「あっ! そろそろ帰らなきゃ! バイバーイ!」
「急だな!」
相変わらず狂ってたな‥‥‥。
嵐のように去っていったし‥‥‥。
俺も買うもの買って帰ろ。
※
「ただいまー」
「あ、
家に帰ってくると、朝宮は玄関で靴を履こうとしているところだった。
「そんな体調悪そうな顔して、どこ行くつもりだよ」
「神社です‥‥‥」
「はい?」
「アルバイト‥‥‥」
「いや、それは明日だから」
「あれ? 寝て起きたから、もう日が変わったのかと‥‥‥」
「重症じゃねーか。 おかゆ作るから寝てろ。 それからプリンかゼリーかヨーグルトだな。 なにか食べれそうか?」
「‥‥‥‥‥‥」
「喋るのも辛いのか?」
「‥‥‥はい‥‥‥」
風邪は風邪でも重症だな。
インフルエンザとかじゃないだろうな。
「熱は測ったのか?」
「体温計の場所が分かりません」
「ちょっとそのまま座ってろ」
「‥‥‥」
片方だけ靴を履きながら、項垂れるように壁に頭をついて脱力する朝宮を見て、さすがに心配になってしまった。
すぐに体温計を持ってきて体温を測らせたが、朝宮は自分の体温を確認した後、体温計をポケットに入れてしまった。
「何度だった?」
「大丈夫です。平熱ですから」
「一丁前に気遣うなよ。バカはバカらしく人を頼れ」
「バカは風邪を引かないんですよ。あれ? ということは、私はバカじゃないということに‥‥‥えへへ‥‥‥」
「おいバカ。喜んでる暇あったら部屋に戻れ」
「肩を貸してください」
「‥‥‥ごめん、無理だ」
こんな時、朝宮の体を支えてやれない自分の薄情さに反吐が出る。
こうやって少しずつ自分を嫌いになっていくのが感じられて辛い。
「‥‥‥」
朝宮はゆっくり立ち上がり、本当に辛そうに階段を上がっていった。
「食べたいものあったら携帯にメッセージ送れよ」
「うなぎとお寿司とキャビアとファグラ」
「やっぱり重症だな。おやすみ」
結局その日は、俺が作ったおかゆは食べず、ヨーグルトを一つ食べて、朝宮は眠り続けた。
※
「完! 全! 復! 活!」
翌朝、朝宮は元気にリビングへやってきて、ルンルン気分で昨日の食べたなかった分のプリンを食べ始めた。
「昨日死にかけてた奴とは思えないな」
「昨日は昨日! 今日は今日の風が吹くんですよ!」
「お前がいると、我が家は毎日暴風警報だ」
「それは大変ですね!」
「人事じゃないからな!? まぁでも、元気になったならよかった。 おかゆもあるけど、食べるなら食べていいぞ」
「なら、帰ってきたら食べます! さぁ! バイトの準備しますよ!」
ん?あの朝宮がプリンを残した‥‥‥?
朝宮はマスクをつけて、バイトへ行く気満々だ。
「陽大に会うのに変装か?」
「はい!」
「変装なのに、サングラスは付けないのか」
「気分です!」
「そっか」
全然体調良くなってないだろ。
どうしてそこまでするんだ?
体調悪いって言えば、行かなくても陽大は怒ったりしないぞ。
まぁ、一瞬でも体調悪そうな素振り見せたら帰らせるか。
「うあぁ〜!!」
「どうした!?」
「昨日シャワー浴びてないので、私今、汗臭いかもしれません! ちょっと嗅いでみてください!」
「無理無理! 来んな!」
「あっ! 今から浴びればいいだけじゃないですか! 私のおバカさん♡ てへっ♡」
「ぶりっ子すんな」
「分かりました。 うおぁー! 何故だ! 何故昨日シャワーを浴びなかったんだ! 私としたことが、これじゃ朝からシャワーを浴びなくていけないじゃないか!」
「勢いよく普通のこと言ってどうした」
「普通‥‥‥普通ってなんですか‥‥‥普通、普通‥‥‥私は普通? もう分からないです‥‥‥」
「メンヘラモードやめろ」
こいつ、本当にバイトまで体力持つのだろうか‥‥‥。
俺の体力も心配だけど。
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