夏休み

第17話/リビングバカンス!


「起きてくださーい!!」


夏休み初日、めちゃくちゃ寝てやろうと思っていたのに、朝早くから朝宮が部屋に突撃してきて、イライラしながら目を覚ました。


「なんだよ」

「夏休み初日ですよ!? なにを寝ているんですか! 海! プール! 水族館! どこに行きます!?」

「夢の中」

「なに言ってるんですか! 私と暮らすという、夢のような日々を送っているじゃないですか!」

「地獄の間違いだろ」

「そんなことより勉強はやったの? あんたいつもギリギリになってやるんだから!」

「急な母親キャラやめろ! あー、なんか目覚めちゃったし、朝宮の部屋の大掃除でもするかー」

「ダメです!」

「自分じゃやらないだろ」

「ダメなんです!」

「理由は?」

「私の隠し事がバレてしまいます!」

「その素直さはどうなんだよ。変なことしてないか、部屋に入らせてもらう」

「か、掃部さん!」


俺の歩みを止めようとする朝宮を華麗に交わし、朝宮の部屋のドアを開けた。

すると、相変わらずイライラするレベルで散らかっていて、脱ぎ捨てらた服や、散らかったゴミの中で一際目を引いたものがあった。


「そのビニールプール。まさか室内でやらないよな」

「屋内プールという言葉を知らないんですか?」

「知ってるわ!」

「とにかく、バレてしまっては仕方ないですね! 本当はサプライズにしようと思ってましたが、今発表します!」

「はい、どうぞ」

「一緒にバカンス気分を味わいましょう!」

「断る!」

「なら、私が床を濡らさないように見張っていてはどうでしょう!」

「それなら、まぁいいけど」

「それではリビングで待機していてください!」

「汚さないのが絶対条件だからな」

「分かりましたって!」


本当に大丈夫かよ‥‥‥。





不安を感じながらもリビングで朝宮を待っていると、白いレースの付いた水着姿でビニールプールを持ってリビングへやってきた。


「お、おまっ、その格好!」

「どうですか? 似合います?」


笑顔でクルッと回る朝宮を見て、悔しいけどドキッとしてしまった。

朝宮のプリンとプリンがプルンプルンで、引き締まったウエストとセクシーなお尻。

生脚も制服の時に見るのとは見え方がまるで違う。

やっぱり朝宮は、見た目だけならパーフェクトビューティフル。


「聞いてます?」

「あぁ、別に普通」

「これならどうですか? このヒラヒラ外れるんですよ!」


上下のフリルを外すと、谷間がモロ見えになり、Vラインもクッキリと‥‥‥。


「こっちの方が似合います?」

「お、おう」


ヤベッ‥‥‥思わず頷いてしまった。


「やったやったー! 掃部かもんさんはエッチな方が好きってことですね!」

「ちげーよ!」

「違くありません! とにかく、今からホースを使ってお水を入れます!」

「はいはい。どうぞどうぞ」

「リアクション薄くないですか?」

「諦めムードってやつだ」

「まったくー。一緒に楽しみたくなったら言ってくださいね?」

「はいはい」


朝宮はビニールプールに水を溜め、自分の部屋からビーチにありそうな白い木製の椅子と、自立型の日傘を持ってリビングへ戻っきた。


「本格的だな」

「サングラスもいい味出してると思いませんか?」

「悪くないな」

「さーて! さっそくダイブ!!」

「おいコラァ!! さっそくリビング濡らしてんじゃねぇ!!」

「気持ちいいですよ! やっぱり暑い日はプールですよね!」

「冷房効きまくってますけど!?」

「グラスにジュース注いでおいてください!」

「なんで俺がやらなきゃいけないんだよ」

「ちょマジでぇ〜、早くしてくんなーい? ウチめっちゃ待ってるんですけどぉ〜」

「ビーチのギャルみたいなのやめろ」

「あーもう、日焼けしちゃうー」

「ったく、なに飲むんだよ」

「そりゃビールしょ!」

「ねーよ! しかも未成年だろ!!」

「オレンジジュースでお願いします!」

「かしこまりましたー」


少しおままごとに付き合ってやるか。


ガラスコップにオレンジジュースを入れ、朝宮が持って来た椅子の上に置いた。


「お待たせしましたー」

「ありがとうございます!」


朝宮はプールから出て、幸せそうにオレンジジュースに手を伸ばしたが、体も拭かずに出たことに、俺は静かに苛立ちを覚えながらも、もう、最後にちゃんと拭けば許してやるという寛大な心で受け止めることにした。


「ジュースを飲みながら日光浴! 最高ですね!」

「太陽どこだよ。まさか夏休み中、ずっとこんな生活するつもりじゃないだろうな」

「まさか! 明日はどこかへ行きましょう!」

「お一人でどうぞ」

「それじゃ、二人で昆虫採集でも行きますか!」

「虫かー、却下」

「どうしてですか!? 男の子ってカブトムシとおっぱいが好きじゃないですか!」

「おっぱい関係ないだろ! そもそも俺は明日予定があるから、朝宮も一人でどこか出かけてこい」

「予定ですか?」

「陽大の家が神社やってるんだけど、そこで夏祭りがあってな。それの準備の手伝い。バイト代出るし」

「私も行きます!!」

「来んなよ!」

「手伝います! 私はやれます!」

「ちなみに手伝うとしたら、クールモードか?」

「当たり前じゃないですか! 完璧美少女モードです!」

「自分で美少女って言うなよ」

「そうと決まればもう一度プールで体を涼めますか!」

「勝手に決めないで!?」


一応、陽大に連絡だけしとくか。

でも、朝宮と暮らしてること知らない陽大に、なんて言えばいいかな。


そして朝宮がまた水に浸かると、お尻の部分からブクブクと空気が出てきて、真っ赤な顔で股の部分を押さえながら素早く俺を見た。


「ち、違いますからね!?」

「美少女も出すんだな」

「違うって言ってるじゃないですか!! ちゃんと嗅いでみてください!」

「なに言ってんの!?」

「少し緩くて空気が溜まってただけです!」

「腹に空気?」

「水着です!! 緩くて空気が溜まるのが分かるので、触ってみてください!!」

「触れるか!!」

「触りたいくせに!!」

「汚い。無理」

「潔癖症を責めるつもりはないですけど、こういう時本当にムカつきますね!!」

「悪かったな!!」

「さっさとアイス持って来てください!」

「どういうこと!?」

「食べたいからです! はぁ、ほんとムカつきます!!!!」

「わ、分かったから! アイスだな?」

「はい!!」


おならじゃなかったことは分かってるけど、ここまで怒るかね。

違うか。汚いって言ったことにか?

とにかく俺のお気に入りアイス渡しとくか。


「ほら、俺のバニラアイスだ」

「下ネタですか!? 私がそれをペロペロしてるのを見てなにをするんですか!?」

「うるせーな!! さっさと食え!!」

「さっさと咥えろって! 掃部かもんさん! 見損ないましたよ!」

「黙んないと明日行かせないからな」

「明日までいかせないとか、どんな焦らしプレイをするつもりですか! しかも無理矢理!」

「お前、マジでいい加減にしろよ」

「はい」


さすがに俺の怒りオーラが伝わったのか、朝宮は静かにプールに入りながらアイスを食べ始めた。

その間俺はタオルを持って来て椅子に置き、しばらく朝宮が遊ぶのを見張ることにした。


本当に俺は、何歳児と暮らしてるんだ‥‥‥。





「はぁ! 楽しかったです!」

「さて、後片付けの時間だ!」

「よろしくお願いしまーす!」

「さて、説教の時間だ!」

「か、片付けますよ!」

「一緒にしてやるから、ちゃんとしような」

掃部かもんさん、少し変わりました?」

「どこがだ?」

「なんとなく、やっぱり少し優しくなりましたよね」

「馬鹿なこと言ってないで掃除だ」

「はい! お水抜きますね!」


朝宮だって、俺が怒ったとはいえ、掃除に参加するとか少しは変わったじゃねーか。


次の瞬間、俺の足元に水が伝って来て、プールを見ると、朝宮はリビングでプールの栓を抜いていた‥‥‥。


「なに‥‥‥してんだ‥‥‥」

「庭にお水を捨てようと思ったんですけど、重かったのでここで半分抜こうかと! 私って天才ですね!」

「やっぱりなにも変わってねーな!!」

「てへっ♡」

「わざとやってんだろ」

「てへへっ♡」

「あっ、咲野だ」

「さぁ、掃除の時間ですよ」

「いねーよバーカ」


あ、ヤバい。

これ怒ったな。


「めっちゃ睨むじゃん。ごめんじゃん」

「私こそごめんなさい」

「え?」

「いつかこの家は無くなると思うので、先に謝っておきました!」

「許せるか!!」

「明日頑張りましょうね!」

「陽大には言っておくから、ちゃんとしろよ」

「はーい!」


え?待って?

流れで二階に行きやがった‥‥‥。

結局俺が片付けかよ。


さすがに呆れて、片付けをする前に、一度陽大に電話をかけることにした。


「もしもし? 一輝?」

「おう」

「どうしたの? あっ、明日よろしくね!」

「それなんだけど、さっき朝宮に会ってさ」

「和夏菜さん?」

「うん。なんか、短期でバイトしたいらしくて、明日連れて行ってもいいか?」

「助かるよ! 一人来れなくなった人がいるから大歓迎!」

「そうか、伝えておく。ありがとうな」

「こちらこそ!」

「んじゃ、また明日な」

「うん! バイバイ!」


なんとか誤魔化しながら陽大に許可を取り、さっそく片付けに取り掛かった。





「二時間も掛かっちゃったな。朝宮! 椅子とか部屋に持ってけ! ‥‥‥朝宮?」


二階に呼びかけても朝宮から返事が無く、部屋に行ってみると、朝宮は掛け布団もかけずにベッドに横になり、何故か顔はほてり、ゆっくり目を開けて静かに俺を見つめた。


「どうした?」

「寒気がして動けません‥‥‥」


昨日あんなに雨に当たって、今日は冷房の効いた部屋でプール。

そりゃそうなるか‥‥‥。

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