第14話/無理無理!
「朝宮」
「どうしました?」
「肝試し当日だけど、結局ペアは誰にしたんだ?」
「ボッチです!」
「もう誰でもいいからオッケー出せよ!」
「今からでも私に乗り換えます?」
「もう無理だろ」
今日は終業式のためだけに学校に行って、午前中には帰宅し、夜にまた学校に集まるスケジュールになっている。
ペアが決まっていない朝宮は、どこか悲し気にも見えるけど、俺はどうすることもできない。
「私が一人を選んだだけなのでいいですけどね! それでも肝試しは楽しみです! 意外と、こういうイベントごとは大好きなんですよ!」
「そうか。楽しめたらいいな。ビビって漏らすなよ」
「ちゃんと我慢します! 我慢して、帰ってきた瞬間漏らします!」
「どっちみち漏らすなら外で頼む!」
「変態だと思われたらどうするんですか!」
「知るかよ! 先行くからな!」
「えぇ!? もう‥‥‥イクんですか?」
「なんか違う意味で言ってるような気がするのは気のせいだよな」
「はい! 気のせいです!」
「さよなら」
「また、遠い未来で会いましょう!」
「はーい」
※
そして学校でまたすぐに朝宮に会った。
朝のホームルームが終わると、すぐに体育館に移動し、終業式が始まった。
「えー、明日から夏休みですが、皆さん、問題を起こさず、真面目な休日を心がけてください」
絶対毎年同じこと言っているんだろうなと感じる退屈で長い話を聞き、終業式が終わると、全然夏休みが楽しみに感じないほどの大量の宿題が渡され、即帰宅となった。
学校を出て、校門を出ようとした時、昇降口から飛び出してきた日向に声をかけられた。
「一輝くん!」
「ど、どうした?」
「今日の夜楽しみだね!」
「お、おう」
久しぶりに目の前で笑顔の日向を見て、ふと中学の頃を思い出す。
付き合い始めたあの日、毎日が眩しく幸せだった頃‥‥‥。
こんなに日向のことが嫌いなのに、あの頃を思い出すと、切なさで胸が締め付けられる。
あの頃はよかった。
「先輩達、今から一気に準備するんだって!」
「それは大変だな」
「準備してたものを飾るだけだと思うけどね。先輩の教室にいろいろ置いてあったし!」
「ネタバレじゃん」
「ごめんごめん! 噂によると、昔の先輩が好きな人と近づくために恒例行事にしたって噂だよ。だから男女ペアなんだね!」
「‥‥‥聞いていいか?」
「なに?」
「どうして今更俺を誘ったんだ」
「やっと離れられたから、チャンスかなって」
「ごめん、意味が分からないんだけど」
「今は知らなくていいよ!」
「それじゃまた夜ね!」
「う、うん。分かった」
相変わらずなにを考えているか分からないけど、こうやって話してみると、意外と普通だな。
でもやっぱり、なんだか憂鬱だ。
できることなら日向とのペアを辞めたいと、静かに思う。
夜はさっと行って、さっと帰ろう。
※
一度家に帰ると、朝宮は縮こまって心霊動画を視聴していて、肝試しへのモチベーションを上げているようだった。
「そんなの見たら、余計怖くなるぞ」
「だって楽しみなんですもん!」
「しかも、朝宮は一人だろ? ギブアップとか情けないことするなよ?」
「分かってますよ!
「別にバカにされるとかはいいんだけどさー、やっぱり気まずいんだよな。今まで目を合わせることすら避けてきたし、今でもできるだけ話したくはない」
「だから私にしておけばよかったんです! 私になら気をつかう必要も無かったでしょうに」
「断れなかったんだよ。とにかく、さっさと終わらせて帰るから、夜ご飯はそれからパスタを作る」
「パスタなんて作れましたっけ!?」
「お前がキッチン汚すから勉強したんだよ!!」
「だったら、カルボナーラがいいです! 半熟卵を乗せましょう!」
「ソースはレトルトだからカルボナーラでもいいけど、半熟卵は自分で買ってこいよ?」
「分かりました!」
「あっ、間違っても生きたニワトリとか買ってくるなよ」
「どうして私の心を読めたんですか!?」
マジで言っといてよかった‥‥‥。
※
嫌な胸騒ぎを感じながら夜まで時間を潰し、十八時半に朝宮より早く家を出た。
学校に着くとすでに肝試しは始まっていて、外から真っ暗な学校を見るだけで、もう帰りたい。
「遅いよ!」
「ごめんごめん」
俺を見つけて日向が笑顔で駆け寄ってきた。
「来ないかと思っちゃったよ!」
「まさか」
「来てくれてよかった!」
「おっ、おう。それよりさ」
「ん?」
「同性のペア多くね? 男女ペアの方が目立ってるだろこれ」
「和夏菜ちゃんがほとんどの男子生徒を振ったから、割合が大幅に狂ったんだよ。芽衣子先生も、去年はこんなことなかったって言ってたよ」
「そういうことか」
それなら納得だな。
「
「ん?」
「ハイ、チーズ」
「おい! なに勝手に撮ってんだよ!」
島村がカメラを持ってやってきて、俺と日向のツーショットを撮られてしまった。
「男女のペアは一応、みなさんの写真を撮っています」
「ねぇねぇ! 新聞部だよね!」
「あ、はい」
「その写真欲しんだけど」
「明日から夏休みなので、新学期に部室に来てくれれば渡せますが」
「了解! 顔出すね!」
「分かりました」
日向はどうして俺とのツーショットを欲しがってるんだ。
てか、さっきから校内から聞こえてくる悲鳴‥‥‥そんなに怖いってことか!?
勘弁してくれよ‥‥‥。
「そういえば陽大は?」
「川島さんなら入り口付近で待機してます」
「えっ、入り口って昇降口じゃないのか?」
「昇降口は出口になっているようです。入り口は体育館の裏口です。校舎裏に行ってください」
「そうなのか」
「私は行きますね」
「おう」
島村が校舎裏へ走っていき、俺は朝宮が本当に来るのか気になって校門の方を振り返る。
すると、ちょうど朝宮がやってきて、誰とペアなのか気になってか、みんながザワザワし始めた。
それに朝宮は、俺に気づいてないみたいだな。
「私達も行こうか!」
「そうだな。早く終わらせよう」
「しばらく並んでないといけないみたいだよ?」
「マジかよ」
「雨が降るって予報だし、早めに入れたらいいね」
「雨!? 傘持ってきてないんだけど」
「私、持ってきては置いて行って、また新しい傘持って登校とかしちゃうから、帰りに降ってたら一本貸してあげるよ!」
「いや、大丈夫」
「‥‥‥私が汚いから?」
「‥‥‥早く行こう」
気まずい空気になってしまい、俺達は静かに校舎裏にやってきた。
「あれー? 桜と一輝じゃん! 二人がペアとか聞いてないんだけど!」
「今日まで秘密にしてたもん!」
俺達の前に並んでいた絵梨奈に気づかれ、俺は更に気まずい状況に陥ってしまった。
早く帰りたい。さっきから頭の中はそればかりだ。
「このまま復縁しちゃう的な?」
「あはは! 一輝くんが困ること言わないでよー」
「ごめんごめん! それより一輝!」
「な、なんだ」
「男なんだからちゃんとリードしろよ?」
「は、はい」
無理無理!
相手が相手だし、肝試しでリードだ!?
馬鹿言ってんじゃねーよ!!
「そうそう桜」
「なに?」
「この学校、マジで出るらしいよ!」
「ちょっと! 今言わないでよ!」
「なっ、なぁ、今の話、本当なのか?」
「なにー? 一輝も興味ある?」
「す、少しな」
絵梨奈はニヤニヤしながら三階を指差し、俺と日向は屋上を見上げた。
「昔あの屋上から、事故で落ちた人がいるらしいよ。元々柵が低かったらしくてね、よろけてドンッ!!」
「ヒッ!」
日向は体をビクッとさせて、声を出してしまった。
俺もそのリアクションになりかねないと思っていたから、絶対脅かしてくると踏んで、心構えをしていた。
じゃなかったら情けないところを見せてしまうところだった。
「んで、今一輝が立ってる場所に落ちて死んじゃったんだって!」
「‥‥‥へっ、へー‥‥‥」
「あはははは! 一輝の顔真っ青! ウケるー!」
「ちょっと? 一輝くんをいじめないでよ」
「やっぱりアンタ、一輝のこと好きでしょ!」
「そっ、そんなんじゃないって!」
「ま、前空いたからさ! 早く進めよ!」
「あっ、本当だ」
一秒でも早く、この場所から動きたくて、思わず少し大きな声を出してしまった。
今、日向が俺をどうとかどうでもいい!!
早く前に進め!!
「でさー、その死んじゃった人が、今でも落ちるのを繰り返してるらしいよ。時には校内を徘徊してるんだってさ」
「もうやめてよー、そういう話してると寄ってくるって言うし」
「そうだね! 怖い話はこの辺にして‥‥‥え‥‥‥? 一輝!! 足元!!」
「うわぁー!!」
「きゃはははははは!!」
「なにもいないじゃねーかよ!!」
「マジウケる!!」
絵梨奈‥‥‥俺はお前を許さない‥‥‥。
絶対に許さないからな‥‥‥。
「絵梨奈はいい加減にして!」
「分かった分かった! ちなみに全部作り話だから!」
「もう!」
あー、もうマジで許さん。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます