第13話/声高らかにおっ◯い!!


七月に入り、肝試しまで残り十二日。

俺と朝宮は、未だにペアを見つけられないでいた。


「一輝! 一輝も書きなよ!」

「ん?」


登校してくると、昇降口前に立てられた竹に、みんなが願い事を書いた短冊を吊るしていた。

ちょうど陽大も書いている途中だったようだ。


「今日は七夕か」

「うん! さっき、和夏菜さんも書いて行ったよ!」

「朝宮はなんて書いたんだ?」

「あれだよ! あのピンクの短冊!」

「ピンク多すぎだろ」

「あれだよあれ!」


高いところを指さす陽大は、急に目の前を指差し始めた。


「あ、ごめん。これだった」

「全然違うじゃねーかよ」

「読んでみなよ」


朝宮が書いた短冊には、小さく綺麗な文字で【知りたい】とだけ書かれてある。


「なにを知りたいんだ?」

「僕に聞かれても困るよ。世界の秘密とかじゃない?」

「あー、言いそうかも」

「和夏菜さんがそんなこと言うわけないじゃん!」

「陽大が言ったんだろ。とりあえず俺も適当に書くか」

「一輝の願い事かー、気になる!」


今の俺の願いはただ一つ!


「よし! 書いた!」

「肝試しが中止になりますように!? ダメだよ! 僕、結構楽しみにしてるんだから!」

「島村と楽しめるのか? 多分あいつ、校内入ったら陽大と別行動で、カメラに集中すると思うぞ」

「それは悲しいかも」

「まぁ、陽大は陽大で楽しめ。とにかく教室の掃除してくる」

「頑張ってね!」

「おう!」


短冊を笹の葉にぶら下げて教室にやってくると、今日もめげない男子生徒達が朝宮とペアを組もうと必死にアピールしていた。

アピールされている朝宮はというと、周りを完全無視で小説を読んでいる。


俺が言えたことじゃないけど、このままだとボッチ参加確定だろ。


「一輝くん、ちょっといいかな」

「えっ、掃除しなきゃなんだけど‥‥‥」


どうして日向が俺に話しかけて来たんだ‥‥‥。

なにもしていないはずなのに、日向に話しかけられると、何故か自分が悪いことをしたんじゃないかと考えてしまう。


「机拭きながらでいいよ」

「そ、そうか。どうしたんだ?」

「肝試しなんだけどね、私とペア組まない?」

「‥‥‥な、なんで俺?」 

「どうせ決まってないんでしょ? 私じゃ不満かな?」

「不満っていうか、日向は嫌じゃないのかよ」

「私は一輝くんがいいと思ったから誘ったんだよ」

「‥‥‥んじゃ、まぁ、えっと‥‥‥よろしく」

「うん! よろしくね!」


断れなかった‥‥‥。

元カノとペアで肝試しとか気まずいけど、これで朝宮にボッチでバカにされることはないな。

でもどうして日向が‥‥‥。


隣の席で俺達の会話を聞いていたであろう朝宮は、一緒に暮らしてるくせに無関心なのか、はたまた男子生徒達のせいでそれどころじゃないのか、未だに小説を読んでいる。

俺は気づいているぞ。周りにバレない程度の貧乏揺すりを!

なかなかにイライラしてんな。





昼休みになると朝宮はチャイムと同時に立ち上がり、俺にアイコンタクトをして教室を出ていった。


少し時間を置いて俺も教室を出たが、一階の廊下のどこにも朝宮は居なく、電話をかけてみることにした。


「もしもし?」

「遅いです。早く来てください」

「はぁ? どこに居るんだよ」

「女子トイレです」

「行けるわけないだろ」

「なら、電話でお話しします」

「なんだ?」

「貴方、日向さんとペアを組んで、あぁいう女性が好みだったんですか?」

「なに言ってんだ? あいつのことは嫌いだけど、一応元カノだし」

「何にも言ってくれなかったじゃないですか。そんなの初めて知りましたよ」

「言ってなかったし。つか、なんだよ急に。なんで怒ってんだよ」

「私が誘っても断ったのに、日向さんの時はあっさりオッケーされたのが、なんかムカつくんです。それに掃部かもんさんは、自分のことをなにも話してくれません」

「それはお前も同じだろ」

「‥‥‥そうでしたね。ごめんなさい」

「いや、いいけど」

「続きは帰ったら話しましょう」

「分かった」


電話が切れると、女子トイレから朝宮が出て来て、俺の目の前で立ち止まった。


「短冊を見ましたか?」

「朝宮のか? それなら見たけど」

「いつか、貴方を知りたいです。いつかです。電話であんなことを言ってしまいましたが、今すぐというわけではありません。掃部かもんさんのタイミングを大事にします」

「あれ、俺のことだったのか」

「はい」

「なんか機嫌損ねたみたいだし、帰ったら一つ教えてやる」

「分かりました。それでは」

「おう」


めんどくさい奴だな。

でも確かに、誘いを断られて、目の前で他の人とペアを組んだら、誰だって嫌な気持ちにはなるか。





学校も終わり、朝宮の機嫌を取るために、コンビニでプリンとシュークリームを買って帰宅した。


「ただいまー」 

「おかえりなさい! さぁ! 掃部かもんさんの秘密を一つ教えてください!」

「元気そうでなにより。とにかくこれ」

「プリン! それにシュークリームも! 私に買ってくれたんですか!?」

「いや、自分で食べようと思ったけど、なんかやっぱり食欲無くなったから」

掃部かもんさんの食欲さん、本当にありがとうございます!」

「俺自身に感謝しろよ!」

「足を舐めなさい。そうすれば褒めてあげます」

「俺が吐くとこ見たいか?」

「見たいか見たくないかで言うなら、早くプリンが食べたいです!」

「見たいか見たくないかで言ってくれる!?」

「いいですか? 二つの選択肢を与えられた時、みずから三つ目の選択肢を導き出せる人間だけが高みへ行けるのです」

「誰だよお前。金持ちビジネスマンかよ」

「ただの家出少女です!」

「お前が一番高み目指した方がいいぞ。家出以外の選択肢導き出せよ」

「さて、リビング行きますよー!」


都合悪くなって逃げたな。


部屋にカバンなどを置いて、すぐにリビングへやってくると、朝宮は幸せそうにシュークリームを食べていた。


「美味いか?」

「はい! シュークリームの一口食べたところにプリンを乗せて食べると、プリンとシュークリームの味がするんですよ!」

「うん、当たり前だね」

「ん〜! 美味しい!」

「食べながらでいいから聞いてくれ、約束したやつ話すから」

「分かりました!」


向かい合うようにして椅子に座り、数秒沈黙の時間が流れた後、改めて話したくない過去を話すことの覚悟を決めて口を開いた。


「電話でも言ったけど、日向は中学の頃の元カノだ」

「あんなに潔癖症なのに、よく付き合えましたね」

「当時の俺は全く潔癖症じゃなかったんだ。俺もちゃんと日向を好きだったし、当たり前のように手を繋いでデートもした」

「どうして別れたんですか?」

「‥‥‥浮気された。挙げ句の果てに俺が悪いみたいにボロクソに言われたんだよ。それで俺は‥‥‥」

「人嫌いの潔癖症になったわけですね?」

「うん‥‥‥」

「でも日向さんって、悪い噂聞かないですよね」

「いやいや、お前いじめられてるだろ」

「絵梨奈さんにだけですよ? 私が見てるに、日向さんは自分の居場所を守るために周りに合わせているだけのように見えます」

「まぁ、中学の時も悪い噂はなかったけどさ。てか、浮気相手も誰だか分からなかったし、なに考えてるか分かんねぇ」

「本当に浮気したんですかね」

「知らね。もういいだろ」

「教えてくれてありがとうございます! 七夕の願い事が少し叶っちゃいました! お礼に私も一つ教えてあげますよ!」

「おっ、それは気になる」

「シュークリームは飽きました! プリン一筋です!」

「金返せ!!」

「嫌だと言ったら?」

「戦争だ」

「分かりました返します」

「なんだお前」

「あっ! それまた言いましたね! プリン美味しいです!!」

「お前の感情どうなってんの!?」

「次は焼きプリンでお願いします!」

「自分で買えよ!!」

「私の二つのプリンを堪能してもいいですから!」

「お、お前、それはちょっとあれだろ」

「なーにエッチなこと考えてるんですか? 売店の貰ったプリン二つあげるから、焼きプリンと交換って話ですけど」

「し、知ってたし!」

「私は胸のことを言う時は、ハッキリおっぱいと言います! 胸を張って! 声高らかに! おっぱいと!!」

「うるせーよ!!」


言いたくない過去の話をしたのに、朝宮のテンションのおかげで、なんかちょっと救われちゃったな。

マジでウザいけど。

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