男女ペアの肝試し

第12話/黒いの透けてるぞ!


「今日から夏服だからなー」

「はいはいはいはいはいはいはいはい」

「はいは一回でいい」

「はぁ〜い!」

「なんでオペラ調なんだよ」


あれから日は経ち、六月後半。

夏までまだ日があるというのに、今年はなかなか梅雨が明けなくて、ジメジメ暑い日が続いていた。

そして、やっと今日から夏服へ衣替えだ。


掃部かもんさん、すっかり私がいる生活に慣れたみたいですね」

「多少な。話はいいから、早く着替えてこいよ。遅れるぞ。てか、着替えてからリビング来いよ」

「着替えてくるので待っていてください!」

「早く行って掃除したいんだけど、なんで待たなきゃいけないんだよ」

「高校生になって、初めての夏服ですよ? なにか変だったら嫌じゃないですか! 掃部かもんさんだって、初めてで女の子に笑われたら嫌ですよね! それと同じです!」

「あー、はいはい。 早くしろよー」

「了解です!」


リビングで朝のニュースを見ながら、朝宮が制服に着替えてくるのを待つこと五分。

朝宮はしっかり夏服を着てリビングへ戻ってきた。


「変なところありませんか?」

「え? うん。 ッ!? イ、インナーを着ろ!」

「はい?」


ぱっと見普通だったが、ワイシャツから透けて、黒い下着が見えてしまっている。

これは確認のために待ってて、本当に良かったかもしれない。


「黒いのが透けてる」

「なっ! なにを言ってるんですか!」


朝宮は腕で胸を隠し、微かに頬を赤らめる。

前にガッツリ下着姿見たのに、今更透けてるぐらいで恥ずかしがるなよ。


「私のはまだピンク寄りですから!!」


またバカな勘違いして、言わなくていいこと言ってるな。


「いや、真っ黒だったぞ。墨汁でも塗ったのか?」

「そんなことするわけないじゃないですか! 本当に酷いです!」

「とりあえずティーシャツ着ろよー。お先に行ってきまーす」

「絶対に許しませんからね!!」

「ほーい」


なんか怒ってるけど、下着のことだって気づいたら、怒りも収まるだろう。





朝宮よりも先に学校に着き、掃除も終わらせて携帯をいじっていると、朝宮も教室へやってきて、夏服の朝宮にみんな釘付けだ。

それに、ちゃんとインナー着てるな。


パジャマのショートパンツで生脚は見慣れてたけど、たしかに制服姿での生脚は新鮮だな。

でもあまり見ない様にしよう。

気づかれたら帰ってからからかわれるしな。


「夏服の和夏菜ちゃん、すごく可愛い!」

「ありがとうございます」

「爽やか感じの朝宮さんもいいね!」

「みんな爽やかになったと思いますが」

「ポニーテールとかしてみたら? 絶対似合うと思うんだ!」

「ごめんなさい。貴方の趣味に付き合うつもりはないです。この髪型が一番落ちつくので」


相変わらずクールですこと。


「はーい! みんな席についてくださーい!」


芽衣子先生も教室に来て、朝のホームルームが始まるかと思ったが、出席を取ったあと、すぐにプリントが配られた。

芽衣子先生は俺の潔癖症にも理解があり、わざわざ俺の席までプリントを持ってきて、俺が構える透明のファイルにプリントを挟んでくれる。

しかも俺だけ特別扱いにならないように、わざわざ一人一人に歩いてプリントを配る、めちゃくちゃ優し先生だ。

申し訳ない気持ちしかないけど。


「みんなに配られましたね! 今配ったプリントには、夏休み前のイベントについて書かれています。この静鐘しずかね高校では恒例なんですが、夏休み前に学校で肝試しが行われます! 二年生と三年生が協力して、貴方達一年生を脅かしてくるから、遠慮なく楽しんでください!」


まずいことになった‥‥‥。

俺は心霊と人が大の苦手なんだ。

なのに、人間が幽霊役やる肝試しに参加だ!?

こんなの拷問だろ!!


「ちなみに、当日は男女ペアで肝試しだから、みんな夏休みに向けて清い感じでお願いしますね!」


男子生徒が一斉に朝宮に視線を移したが、朝宮はクールな表情のままプリントから目を離さない。


「他のクラスの人を誘うも良しです。ペアになれなかった人は同性同士での参加も許可していますが、他の生徒にあわれみの目で見られます。頑張ってください!」


俺はそれでもいい。陽大を誘おう。

絵梨奈とか日向は男女で形成された仲良しグループに属してるし、こういう時、深いこと考えないで友達ノリでペアを作れるからいいよな。





昼休みになると、A組の男子生徒はもちろん、他のクラスの男子生徒達が朝宮を肝試しに誘うために集まってきた。


「和夏菜! 肝試し、俺と一緒に行かない?」

「急に呼び捨てですか? 貴方誰です?」

「あっ、ごめん」

「んじゃ俺は?」

「ごめんなさい」

「俺とどうかな! 俺、怖いのとか全然平気だし、和夏菜さんをリードできると思うんだよね!」

「私も平気です」

「そ、そっか‥‥‥えっと、それじゃ、シンプルに二人で楽しもうよ!」 

「おい! お前のターン長すぎ!」

「いいだろ少しぐらい!」


次の瞬間、朝宮はスッと立ち上がり、コンビニのサンドイッチを持って教室を出て行った。

あれはトイレに逃げたな。


朝宮が居なくなっても、男子生徒達が教室を出て行く気配が無く、自分の近くに人集りができるのを避けたい俺は、陽大を連れて屋上にやってきた。


「さすがに爽真くんは、和夏菜さんのこと誘いに来なかったね!」

「二回も振られたら、さすがに諦めるだろ」

「一輝は誰と肝試し行くの?」

「陽大が大丈夫なら、陽大と行きたいんだけど」

「ごめん! しーちゃんに誘われてるんだ!」

「えっ、新聞部の? えっ、そういう関係?」

「なんか、僕にペアが居ないと、一輝が僕とペアになろうとするだろうからとかなんとかで」


やられたな。

俺と朝宮が一緒に暮らしてるのを知ってる島村が考えつきそうなことだ。

俺達が付き合うんじゃないかと思って、新聞の話題作りか。

もしくは、あの朝宮が男子生徒とペアを組んだだけでも話題になるしな。

ん?なんで俺は朝宮と行く前提で考えてるんだ?

絶対いやだ!!そうだ、爽真を誘おう!


「ちょっとB組行ってくる」

「え!? ご飯は!?」

「食っていいぞ」

「うぉー! さすが一輝!」


咲野も居るだろうけど、行くしかないな。


コンビニのおにぎりとサンドイッチを陽大に渡して、早歩きでB組の前までやってきた。


「あれー? 一輝くんじゃん」


教室を覗こうとしたタイミングで、運悪く咲野が出てきてしまい、ばっちし目が合ってしまった。


「さ、咲野か。 なんか‥‥‥機嫌悪いか?」

「和夏菜ちゃんに男が群がってるからさー。でも、和夏菜ちゃんに怒っちゃダメって言われてるし、我慢しなきゃね」

「そ、そうか。爽真いるか?」

「いるよ! 爽真くーん! 一輝くんが呼んでるよ!」

「は、はい! 今すぐ行きます!」


あー、なるほど。咲野は朝宮に手懐けられて、爽真は咲野に手懐けられたのか。可哀想に。


「な、なんの用だい?」

「肝試しなんだけど、ペア決まってないなら一緒に行こうぜ」

「残念! 私が爽真くんとペアになりましたー!」

「咲野が?」

「そっ、そうなんだよ! すまないね‥‥‥」

「お、おう」


完全に咲野からマークされてるじゃん。

俺に友達なんて、他に居ないぞ‥‥‥。





今日はペアを決められずに帰宅してきたが、肝試しまでまだ一ヵ月ぐらいはあるし、そこまで焦らなくてもいいか。


今日は珍しく帰ってくるのが遅い朝宮を待ちながらカップ麺を食べていると、朝宮は十九時過ぎにクタクタな様子で帰ってきた。


「ただいまです‥‥‥」

「どうした?」

「学校のほとんどの男子生徒に声をかけてられて、なかなか帰れませんでした」


疲れた様子で冷蔵庫からプリンを取り出し、俺の目の前に座ってプリンを口に運ぶ。


「復活です!」

「いい体だな」

「セクハラですか!?」

「便利な体って意味だよ!!」

「やっぱりそういう目で見てたんですね!! もう出ていきます!!」

「よっしゃー!!」

「止めてくださいよ!!」

「なんで? 出てけよ」

「私が出て行ったら大変なことになりますからね!」

「なにがどう大変か言ってみろよ」

「家事洗濯料理! いったい誰がやるんですか!! このバカちん!」

「やってから言えよ!! つか、ペアは決まったのか?」

「全員お断りしました」

「んじゃ、女と行くのか?」

「それは嫌です! 憐れまれたくないですもん! 私はこう見えてプライドが高いんです!」

「学校での朝宮は、どう見てもプライド高そうに見えるけどな。あと一応言っとくけど、俺は朝宮とペア組まないからな」

「またまた冗談とあの日でお腹がキツいですよ」

「寝とけ」

「最後のは冗談です」

「冗談かどうか分からない冗談言うな」

「そんなことより! 私と掃部かもんさんが一緒に行くのが無難ですよ!」

「なにがどう無難なの!? 俺は話題になりたくない! それに男子生徒を敵に回すことになる!」

「だから良いんじゃないですか! 私のせいで掃部かもんさんが傷ついても、よちよち♡ って甘えさせてあげられます!」

「もっと嫌だわ!! とにかくお前とは組まない! 絶対にだ!」

「ちょっと待ってください!」

「なんだよ」

「私は‥‥‥掃部かもんさんだから‥‥‥そ、その‥‥‥誘ってるん‥‥‥ですよ?」


えっ、なにこの雰囲気‥‥‥。

なんで恥ずかしそうにしてるんだよ‥‥‥嘘だろ?


「今、どうせ嘘とか思いましたよね‥‥‥」

「ま、まぁ‥‥‥」

「本当に‥‥‥本当に‥‥‥本当に嘘です!!」

「はい、おやすみ」

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