第9話/狂気的な笑み♡


街の掃除も前半の一時間が終わり、次は何故か俺と唯の二人で街を周ろうと唯が言い始めた。


「和夏菜ちゃんと爽真くんは二人で周って!」

「い、いいのかい!?」

「私は別に構いませんが、周りの生徒の目が気になります」

「大丈夫大丈夫!」


なにが大丈夫なのか全然分からないけど、これで二人がいい感じになれば、俺的にもありがたいな。


「行くぞ」

「はーい!」


俺は咲野を連れて先に歩き出し、朝宮と爽真を二人きりにした。


「川に架かる橋の下とかどうかな」

「あぁ、ゴミありそうだな。行ってみるか」

「うん!」


咲野に連れられて橋の下にやってきたが、想像に反して、ゴミ一つ落ちていない綺麗な場所だった。


「何もないな」

「ねぇ一輝くん」

「なんだ? っ!?」


咲野は俺の手を握り、急に顔を近づけてきたのだ。

これは軍手してなかったら気絶レベル!!


「な、なんだよ急に!」

「毎日お掃除してて偉いねぇ♡ あまり人とつるまないところとか、すっごく素敵♡」


急に顔が赤く火照って、目つきがとろけてる。

いったいなんなんだよ。


「そ、そうか。とにかく離れてくれないか‥‥‥」

「どうして? もっと近くで一輝くんのお顔が見たいなぁ♡ 見たい見たい♡」


咲野に、さらに顔を近づけられて、思わず呼吸を止めてしまった。

もうダメだ‥‥‥。鳥肌が尋常じゃない。


「私ね、一輝くんのことなんでも知ってるんだよー♡ 何時に家を出て、何時に部屋の電気が消えるかとか、ぜーんぶ♡」


それを聞いて、咲野がストーカーだと気づいてしまい、意識せずに脚が微かに震え始めた。


「さ、最近、ピンポンダッシュしてるのはお前か?」

「そうだよ♡ 気づいてくれたんだね! 嬉しい!」

「何が目的だ‥‥‥」

「私の行動で、一輝くんと和夏奈ちゃんがピンポンダッシュのことばっかり考えるようになって、二人の頭の中がそればっかりになったら嬉しいなーって♡ チャイムを押す私の指先が、二人に影響を与えてる♡ 嬉しいなぁー♡」


一緒に暮らしてるのもバレてるってことか‥‥‥。


「私はねぇ、二人がだーいすきなんだよ? 人とは違う雰囲気を出してるから、気になっちゃったの♡ 理解してくれるでしょ? 私は二人の頭が私でいっぱいになるように努力したんだ♡ それに、私の大好きな二人が、みんなには内緒で同居する関係で、学校でお互いに興味ないふりしちゃってー、私だけが知ってる二人の秘密だなんて、嬉しいなぁー♡」

「‥‥‥さ、咲野は、朝宮のストーカーか?」

「二人のだよ! それにストーカーとか酷いよ。私は二人の秘密を誰にも言わないで、二人を見守ってただけだよ?」

「ピンポンダッシュしたじゃんか」

「もうしないから安心して? 二人の秘密も、私だけのものだから誰にも言わないし!」

「は、話をまとめると、咲野は俺と朝宮の二人が狙いだったってことか?」

「そうだよ!」


咲野はやっと俺から離れてくれ、トングをカチカチ鳴らしながら話を続けた。


「大好きな二人が一緒に暮らしてるとか、なんて素敵なの♡ 二人はどういう関係? エッチとかするの?」

「一切してない!」

「なーんだ。してても複雑だけど、それはそれで美しいよね! 流れで私も混ざって、二人に体の隅々まで触られてさ♡」

「しねーよ」

「したくなったら遠慮なく言ってね♡」


なんか、ヤバい奴ではあるけど、悪い奴ではなさそうか?


「咲野って、男と女どっちもいけるってこと?」

「そうだよ♡ でも、一輝くんと和夏菜ちゃん、どっちかを選ぶ時が来たら、どっちかには消えてもらわなきゃね」


こーわい。すごい怖い。

なにその大きく見開いた目。


「今は安心して? 二人とも好きだからさ!」

「ど、どうも」

「その謙虚な感じ、かーわーいーい〜♡」

「と、とにかくさ、さっきも言ったけど、ピンポンダッシュはやめてくれ。朝宮もさすがに怯えてたから」

「え!? 私、和夏菜ちゃんのこと怖がらせてた!?」

「うん」

「そっか‥‥‥私が‥‥‥私が和夏菜ちゃんを‥‥‥ふっ!!」

「おい!?」


咲野はコンクリートの壁に自ら頭をぶつけ、おでこから血を流しながら笑顔で振り向いた。


「これで許してね♡ はぁ♡人にはなかなか見せない血液♡ 一輝くんに見られちゃったぁー♡ 一輝くんの目に焼き付けちゃったぁー♡」

「ほっ‥‥‥保健室行くか‥‥‥」

「気にしないで! 一人で行くから! あっ、早く和夏菜ちゃんと合流してくれる?」

「どうしてだ?」

「あのゴミムシと二人きりとか、なにするか分からないでしょ? また告白とかしたら、次は埋める予定だから。お願いね?♡」

「はい‥‥‥」


咲野は血を流したまま走り去っていき、俺はすぐに朝宮達を探した。





しばらくゴミを拾いながら歩いていると、二人が公園でゴミ拾いをしているのを見つけたが、二人の距離が遠すぎる‥‥‥。

まったく会話してないのか?


「どんな調子だ?」

「あれ? 唯さんはどうしたんだい?」

「ちょっと怪我して保健室に行った」

「怪我!? 大丈夫なのかい!?」

「多分心配ない。笑ってたし」

「それならよかったよ」


あの状況での笑顔は、もはや狂気なんだけどな。


「それより掃除機くん」

「ん?」


なんなもう、掃除機くんでいいや。


爽真は俺に近づき、コソコソと小さな声で喋り出した。


「和夏菜さんとなんの話したらいいかな」

「まさか俺が居ない間、全然喋ってないのか?」

「一言も」

「イケメンでもそういう時あるんだな。なんか嬉しいよ」

「酷いじゃないか! 君は和夏菜さんと友達なんだろ? なにかアドバイスしてくれよ」

「友達じゃないけどいいだろう。まずはあの髪を褒めろ。綺麗だねとか言っときゃいい」

「よし。行ってくる」


爽真はスタスタと朝宮に近づき、自然な感じて話しかけた。


「和夏菜さん!」

「なにか?」

「和夏菜さんって髪の毛綺麗だよね! いつから伸ばしてるの?」

「さぁ、忘れました」

「そ、そっか!」


そんな素っ気ない会話をして、爽真はまた俺の元へ戻ってきた。


「な、なんか冷たいんだけど」

「いつもあんな感じだろ」

「それじゃ、僕はちゃんと会話したってことになるよね?」

「お、おう‥‥‥」

「てか、まだ諦めてないのか?」

「当たり前じゃないか。僕はまたいつか気持ちを伝えるよ」

「頑張れよ」

「応援してくれるのかい!?」

「あぁ、是非とも爽真には朝宮と付き合ってもらわなきゃいけない」

「そうかい! 頑張るよ!」


告白したら、咲野に埋められるリスクもあるけど頑張れ。

さすがに本当に埋めたりしないだろうしな。

とにかく早く、朝宮にストーカーの正体を教えないと。





『終わったー!』


二時間の掃除も終わり、グラウンドではみんなが達成感に満ち溢れた表情で喜びの声を上げている。


その場で帰りの会が開かれ、帰りの会が終わると、みんなそのまま部活に行ったり、教室で雑談を楽しみ始めたが、俺は一人で新聞部の部室へやってきた。


「島村、居るか?」

「しーちゃんと呼んでください」

「しっ、しーちゃん」

「はい」


高校生にもなってちゃん呼びは変に照れるな。

それに相変わらず一人か。


「ストーカーのことだけど」

「ツインテールの生徒を絞り込みましたよ」

「それなんだけど、犯人が自分から名乗り出たんだ」

「なんてつまらないことをしてくれたんですか」

「え?」

「この静鐘しずかね高校に入学してから、初めての事件だったんですよ? もう少し楽しみたかったです」

「こっちは怖かったんだぞ。楽しむなよ」

「それもそうですね。それで、犯人は誰だったんですか?」

咲野唯さきのゆいだ」

「あぁ、咲野さんでしたか。あの方、中学の頃にっ、いや、タダで情報を教えるのはよくありませんね」

「中学の頃になに!? なんか凄い怖いんだけど!!」

「はい。あの方は要注意人物ですから、くれぐれも気をつけてください。それでは、またなにかあれば来てください」

「ありがとう」


とにかく、朝宮が怯えてるって言った時の咲野の反応を見るに、もう大丈夫だろう。

これで平和な日常が戻ってくるな。

いや‥‥‥朝宮がいる時点で平和じゃないのに、どうして平和とか思っちまったんだ!!

俺の馬鹿野郎!!





「おかえりなさいませ! 爽真さんに余計なことを言った犯人さん!」

「警察のコスプレでおかえりなさいませはおかしいだろ。って、聞こえてたのか」


家に帰ってくると、朝宮はお気に入りなのか、またミニスカポリスのコスプレをして俺を出迎えた。


「しっかり聞こえてましたよ!! 余計なこと言わないでください!!」

「悪かったって! でも爽真って、そんなに悪い奴か? 意外と純粋だと思うぞ?」

「知りませんよ。また振らなきゃいけないですし、また話題になったらめんどくさいです!」

「やっぱり振るのか」

「当然です! 掃部さんは罰として、外でストーカーを待ち構えてください!」

「あ、そうそう! ストーカーなんだけど、咲野だったわ」

「やっぱり! あの人、なんか怖いんですよ!」

「朝宮も咲野と二人きりの時、なにかあったんだな」

「はい! そんなことより、いつまで玄関に居るんですか?」

「外に居ろって言ったり、なんなんだよ」


靴を脱いで家に上がろうとすると、朝宮は大きく両手を広げて、頬を膨らました。


「な、なんだよ」

「お邪魔しますを言ってください!」

「ここは俺の家だ!!」

「なら早く入ってくださいよ」

「なんだお前」

「それよく言いますよね。もう一回言わせてあげますよ」


何言ってるんだと思いながら朝宮の後ろをついて行ってキッチンにやって来ると、割れた皿が床に落ちていて、朝宮はそれを指差して俺を見つめた。


「危ないので早く片付けてください!」

「なんだお前」

「ぷぷぷっ! やっぱり言いました!」

「あー!! ウゼェー!!」

「明日新しいの買ってきますよ! そんなことより咲野さんです!」

「あっ、そうだ」


俺だけが割れた皿を片付けながら、お互いに咲野と二人きりの時の出来事を教えあった。





「って感じだ」

「よく気絶しませんでしたね! 掃部かもんさんなら白目むいて気絶すると思いました!」

「朝宮のゴミ部屋よりはギリギリマシ。いや、同じぐらいか。てかさ、芽衣子先生と新聞部の島村と、咲野の三人にバレてるぞ」

掃部かもんさんがエロ本は買えないから、乳首描写のある全年齢対象の少年漫画を持ってることですか?」

「違くて、同居してることだよ。って、えっ」

「ベッドの下に隠すってことは、やましいって自覚があるんですよね! 恥ずかしいですねー!」

「バッ、バカか! たまたまベッドの下にあっただけだ!」

「綺麗好きな掃部かもんさんが、ちゃんと本棚に戻さないわけないじゃないですか! ちなみに私は、あの漫画を見て興奮しました!」

「なにカミングアウトしてんだよ! あと、俺の部屋に入るな!」

「えぇ!? 三人にバレてるなんてまずいじゃないですか!」

「今!?!?!?!? ま、まぁ、島村と咲野は性格上誰にも言わないだろうし、芽衣子先生は先生って立場上言わないだろ」

「それならいいですけど‥‥‥ヒィッ!」

「っ!?」


何故か急に驚いた朝宮の視線の先に目を向けると、窓の外から咲野が笑顔で手を振っていた‥‥‥。


「あ、朝宮開けろよ」

「かっ、掃部かもんさんが行ってくださいよ」

「ちょっと無理」

「私も嫌です」


次の瞬間、咲野は勢いよく窓を開けて、笑顔のまま元気よく言った。


「会いにきたよー!」

「鍵開いてるじゃねーかよ! 戸締りしろよ!」

「はい? 私はいつもしていますが」


朝宮の奴、急にクールになりやがった!!

ミニスカポリス姿じゃ、もう無理ありまくりだろ!!

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