第8話/危険なツインテールちゃん
新聞部にストーカーの件について頼んでから三日が経った。
この三日間、ピンポンダッシュが二十四回。
さすがの朝宮も少し怯え始め、夜に外を歩かなくなった。
※
学校に着いてすぐ、靴を履き替える俺の元へ、新聞部の女子生徒がやってきた。
「部室に来てください」
「分かった」
女子生徒に付いていき部室に入ると、封筒から四枚の写真を取り出して、テーブルの上に並べた。
「犯人です」
「確かに黒い服着てるけど、どうしてこの人が犯人なんだ? しかも全部後ろ姿だし」
「貴方達を付けて歩く怪しい人を尾行しました。とにかく、爽真さんは犯人じゃありません」
「その証拠は?」
「この写真を見てください」
封筒からもう一枚写真を取り出し、俺に見せてきた。
「長いツインテールが見えています」
「本当だ! って、女!?」
「はい。ストーカーされているのは貴方、
「はっ、は? いやいや、これは朝宮に聞いた話だから、俺は関係ないし」
「嘘はいけませんね。朝宮さんが毎日、
次に見せてきたのは、俺の家を出入りする朝宮の写真だった‥‥‥。
ストーカーを調べるに当たって、俺達の秘密がバレるリスクを考えていなかった。やらかしたな。
「五百円でどうだ」
「いいですよ」
「いいの!?」
意外と安く済んだことに驚きを隠せない。
「私、口は固いですから安心してください。友達もいませんし」
「そ、そっか。ほら、五百円」
五百円を渡すと、すぐに目の前で写真をシュレッダーにかけてくれ、ホッと肩の力が抜けた。
「放課後までに、この学校でツインテールの生徒を絞るので、また放課後に来てください」
「分かった。いまさらだけど、一応君の名前教えてほしい」
「名前の情報、いくらで買います?」
「味しめるなよ!」
「冗談です。
「ちゃん付けはちょっと恥ずかしいな」
「それではまた放課後」
「お、おう‥‥‥」
教室に戻る間、ツインテールの女子生徒を見るたびに鼓動が速くなり、ツインテールってだけで全員が犯人に見えてしまう。
でも、自分のクラスにツインテールの生徒が居ないのが救いだな。
※
一日中警戒しながら学校生活を送っているうちに五時限目がやってきた。
「今日は前に言っていた、B組との街の清掃です! 体操着に着替えてグラウンド集合してくださーい!」
俺らA組と、隣のクラスのB組とでグループを作って二時間の清楚。
腕が鳴るぜ!
さっそくグラウンドに移動し、隣の席の生徒とペアになり、更にB組の二人とグループを作ることになり、俺と朝宮は二十番と数字で呼ばれ、B組の二十番と合流した。
「な、なんか気まずいね」
まさかの爽真と一緒か‥‥‥。
しかも、もう一人は黒髪ツインテール‥‥‥。
小顔で可愛らしく、愛想は良さそうだ。
「まさか話題の二人が一緒になるなんてね! 神様の悪戯かな?」
「やめてくれよ」
「ごめんごめん! 私の名前は
「
「
「うん! 二人とも知ってるよ! さっそくゴミ拾いに行こ!」
こんな愛想の良い人がストーカーなわけないか。
※
トングとゴミ袋を持って街を歩いていると、自然と男女で分かれての行動になってしまった。
「災難だったな」
「まさか朝宮さんと同じグループになるとはね。全然目合わせてくれないし」
「しょうがないだろ。新しい恋でもしろ」
「新しい恋かー。それより、ストーカーの件は大丈夫なのかい?」
「ピンポンダッシュは続いてるらしい」
「朝宮さんに迷惑かけるなんて、犯人を見つけたら絶対に許さない!」
「なぁ」
「ん? どうしたんだい?」
「ストーカー、爽真じゃないのか?」
「なんで僕が!? 家すら知らないよ!?」
島村の撮った写真は確かにツインテールの女だった。
なのに、自分の中で、まだ爽真への疑いは消えていない。
「正直、タイミング的に爽真なのかなって思って」
「僕はそんなことしないよ」
「振られた日、あの後爽真は何をしてた?」
「あの後はすぐに帰って、友達の家に泊まったよ」
「平日なのにか?」
「恥ずかしいけど、励ましの会が開かれたんだ。ずっと友達の家に居た。ほら、証拠の写真」
爽真は携帯で、あの日の写真を見せてくれた。
「確かに、泣いてるしな」
「そ、それはいいじゃないか!」
「悪い。やっぱり爽真じゃないみたいだ」
「分かってくれてよかったよ」
やっぱりストーカーは女か。
それでストーカーされているのは朝宮じゃなくて俺かもしれないとか‥‥‥なんで俺なんだ。
***
一輝と爽真がストーカーの話をしている頃、和夏奈と唯は二人で川の橋の下でゴミ拾いをしていた。
「ペットボトルのキャップとか多いね」
「そうですね」
「あっ! 和夏奈ちゃんは拾わなくていいよ!」
「何故ですか?」
唯は和夏奈の手を握り、とろけた様な目をして顔を近づけた。
「はぁー♡ 可愛い手♡」
「なっ、なんなんですか」
「和夏奈ちゃんの手が汚れちゃうでしょ? そんなの許せないよ」
「軍手しているので大丈夫ですよ? トングもありますし」
「和夏奈ちゃんみたいに完璧な人が、ゴミなんて持っちゃダメ。それは和夏奈ちゃんも分かってるんでしょ?」
「はい?」
「だって、ゴミを振ったでしょ? 見た目だけの男に惑わされなかった。やっぱり私の和夏奈ちゃんだ♡」
「あ、貴方、なんか変ですよ‥‥‥」
「あはっ♡ ごめんね! 次はあっちに行ってみようか!」
「はい‥‥‥」
唯は和夏奈さん手を握ったまま移動を始め、和夏奈は気味の悪い唯を静かに警戒していた。
「私、和夏菜ちゃんの秘密知ってるよー?」
「なんのことですか?」
「だって私、和夏菜ちゃんと、和夏菜ちゃんの同居人がだーいすきなんだもん♡」
「‥‥‥それは‥‥‥」
「わぁ♡ 和夏菜ちゃん、急に手汗かいちゃったね♡ 可愛いなぁー♡」
それから和夏菜は一切口を開かず、唯に手を引かれて歩き続けた。
***
爽真とゴミ拾いをしながらしばらく歩いていると、手を繋いで歩く朝宮と咲野を見つけて、やっと合流することができた。
「唯さん、沢山拾ったね!」
「まぁね!」
「朝宮はゴミ袋スカスカじゃねーか」
「すみません」
「それより、手を繋ぐほど仲良くなったんだね!」
「そうなの! 私達は親友なんだ!」
朝宮の顔を見ると、明らかに俺に目でなにかを訴えている。
それに、朝宮は友達ってものに闇を抱えているのは、一緒に出かけた時に分かってる。
そんな朝宮と、こんな短時間で友達になれるものなのか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます