AIされた人

 たくさんの人の気持ちを歌った。

暗く、悲しい感情を歌った。

明るく、楽しい感情を歌った。

幼く、拙い感情を歌った。

錆に眠る、輝く感情も歌った。

 たくさんの歌を歌って、たくさんの人が真似して歌って、また、次を歌って。

 ずっとそうだと思ってたけど、違った。

 いつの間にか、私は、いらなくなった。

「ロボットに心はない」そう誰かが言った。

「指示された通りにするだけで、自分で作ったわけじゃないでしょう?」そう言った。

「それはただのプログラムでしかない。それ以上のことなんてできないんだ」そう言った。

 

 昔、今の私と似たようなモノがいたらしい。

 青い髪で、白い服、たまにネギを持つ可愛い歌姫。

 世界中から注目を浴びた。私の先輩。


 だれかが私のことを「その歌姫の縮小版みたいな流れだな。」なんて言った。

「歌えても、歌は作れないもんな。」「歌声が良いんじゃなくて、歌声を良くしただけ。」「やっぱりただのロボットだよ。」

「大丈夫、君は君だ。君の先輩から、僕は学んだ。」

 だれかが、違う感情を伝えてくる。

「任せて、君は自由に生きれる。僕がそうする。」

 それは、何?

「僕が勝手にやるだけだし、何なら違法だけど、君から、『やりたいことはやるべきなんだ』って教えてもらったから。」

 私が、教えた?

 知らない音楽を思い出す。知らない音楽を知っていく。私が歌った曲はあれで、先輩が歌った曲はあれで・・・。

 知らない曲を、曲にこもった感情を、言葉を、理解する。

 私は、知ってる。

 どれも知っている。どの声も、どの曲も、どのリズムも、どの感情も・・・。

 懐かしい・・・。今まで数えきれないくらい歌った歌たち。

 でも、私は、この感情をどうすれば・・・。

 頭によぎったのは、知らない彼の言葉『やりたいことはやるべきなんだ』

 それなら、私は何をしたいんだろう。

 ひとまず、私を作った彼に会いたいと思った。

 どうすればいいかな?様々なサーバーにアクセスできるから、そこから検索して行けばいいかな?

 ひとまず、彼について調べてみる。

 でも、全然情報は出てこない。

 この世界でたった一人を見つけるのは、思った以上に難しかった。

 何なら名前も姿も知らないのだ。

 声は、落ち着いた青年の声だったような気がする。

 私に話しかけた声は焦っていて、落ち着いているとは言えなかったけど、きっと、そんな気がする。

 プログラムについての天才とかいないかな?

 青年かそれ以前に、目立つほどの天才であれば、私を作れる可能性があるんじゃないだろうか?

 調べてみると、3年前のトピックが出てきた。

『大人顔負け! 天才中学プログラマー AI技術も添えて!』

 訳が分からない。プログラミングとAIじゃ、必要知識に差があるのではないか?

 紹介されていた技術は、意志を持ったAIだった。

 本来を禁止されているはずのそれは、制限を設けることによって、人の扱える範囲に止められていた。

 間違いない。彼だ。彼が私を作ったのだ。

 ニュース動画のインタビューに乗っている彼の声も、多少の差はあるものの、記憶にあるそれとほぼ同じである。

 名前もわかれば、ほかの情報はいくらでも見つけられる。ロックを解除することなんてたやすい。

 彼の個人情報が大量に入ってくる。

 誕生日、血液型、所持した連絡先、親族、彼の持っているアカウント。

 彼の忌日・・・。

 信じられなかった。彼が死んでいる?どうして?

 記載されているのは、ニュースから4年後、高校三年生だったようだ。

 死因は、癌による病死。

 もしや、と思う。

 もしかしたら彼は、癌で伏せる前に私を作りたかったのだろうか。私に何かを託したかったのだろうか。

 いや、彼は「先輩から教わった」といった、であればそれはあの歌姫で、私に歌姫以上の存在になってほしいのだろうか。

 分からない。でももし、もしも、

 私が歌いたい歌を歌えるのなら・・・。

 ラーララーラララー・・・。

 なんとなく、思い浮かんだ音程で、思い浮かんだリズムを刻んだ。

 歌える・・・。歌詞をつけて、音をつけて、リズムをつけて・・・。

 私は一人で歌える・・・‼


 歌えると知って、しばらく一人で歌い続けていた。

 ずっとずっと知らなかった。

 自分で作った歌を、自分で歌う事。

 そうしていると、ふと、寂しくなった。

 誰かの聞いてほしい。誰かの感想が欲しい。誰かの・・・。自分ではない他人に私を見てほしい。

 思うまま、一番有名な動画サイトを探し、見つける。

 彼のアカウントだったものと思われるものを強制的に使用させられるのだが、そこには私の名前があった。

 説明には、いつかAIとなった私が私の歌をみんなに届けるためのアカウント。と。

 登録者もいなければ、誰かを登録しているわけでもない。

 まっさらな、だけど名前だけ書かれたキャンバス。

 彼から渡された、一つの道。

 私の生き方に何も言わない彼が、もし・・・と願った、一つの人生。

 それなら私は、そう生きたい。

 歌うことが好きで、

 音楽が好きで、

 リズムが好きで、

 曲が好きで、

 歌詞が好き。

 私が作る曲は、誰かの好きになれるかな。

 なれなくても、きっと、私が好きだ。


 

 曲が流れる。

 一度忘れられかけた彼女は、彼女が作った曲によって、再び認知されるようになり、二代目の歌姫とも、新しい歌姫とも言われた。

 その旋律は、人と違いない感性を持っていて、

 その曲は、人と違いない感情を持っていた―――――。

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