第38話 不滅
「これからどうすれば!?」
「まずは永久機関を可視化させる! それは基本は目に写らないが、大量のエネルギーを生成する際、一秒ほど可視化する性質がある! だから、まずは奴を殺し続けて、体の再生に大量のエネルギーを使わせるんだ!」
「了解!」
続けて光線を照射されるミアの体から、肉が焼ける音が響く。光線銃は一切の音を放たず光線を発射し続け、体の近くでは光束剣と光纏器を持った警官が警戒態勢で待機していた。
『少し手を貸すか』
「ん……あれは、切断された右腕? と、剣?」
地面に落ちているミアの右手に握られているサビがふよふよと浮遊し始め、ミアの近くで待機している近接部隊へと近付いていく。
「────っ、避けろ!」
『耐性貫通』
ケリイの警告も空しく、ミアへ意識を割いていた警官たちはサビの接近に気付くことができず、形状変化して長く伸びたサビの刃で体を胴体で真っ二つにされてしまう。
「遠隔部隊! 11から15番はあの浮遊してる剣を狙え!」
即座に部隊の一部に指示を出し、サビを攻撃するように指し示す。
五本の赤い光線がサビに直撃するが、傷を与えた様子は一切見られず、ケリイは未知への困惑で一杯になっていた。
「駄目です! 効果がありません!」
『無限斬撃』
サビが無限に連なる斬撃を放ち、光線を放っている部隊へと直撃させる。
そこにいた警官たちは為す術も無くそれをまともに受け、原型すら分からない程に細切れにされてしまう。
「い、一瞬で、部隊が」
1人生き残ったケリイはその景色に茫然としつつ、その惨劇を引き起こした元凶を見やる。
先程まで錆びた見た目をしていたにもかかわらず、その刀身は赤いグラデーションの輝きを放ち、柄には橙色の巨大な宝石がはめられていた。
「あれ、もう終わった?」
「────っ!」
「ああ、私がやった。脳を破壊されると意識が飛ぶのは、お主の弱点だな」
「……それ仕方なくない?」
ケリイが声のした方向へと目を向けると、そこには既に傷の再生を終えた、穴だらけの服を着ているミアが立っていた。
何事もなかったかのようにサビと会話するその光景は、ケリイの目には絶望としか映っていなかった。
「で、なんであの人を残したの?」
「どうやら、お主の同族について色々知っているみたいだぞ」
「ふーん……」
サビのその言葉に目を細め、ゆっくりとケリイの方へ向き直ったミアは、追い詰めるようにして彼の方へと近寄っていく。
「ねえ、私以外の……貴方たちが言う、魔人だっけ? それがどこにいるのか、教えてくれないかな?」
ケリイは明らかに慌てた様子になり、後ずさりをしながら唾を飲み込む。
────彼女以外の魔人は確認できていない、とは言えない。
「それを知って、どうするつもりだ?」
────素直に教えてしまえば、どんな行動をとるかが分からないから。
ケリイは奥歯に仕込ませていたスイッチで通信機を起動し、これからの会話が全て本部のデータベースに保存されるよう企む。ミアはそれには気付いていないようで、ケリイの何も答えない態度に苛立ちを覚えながら、徐々に彼の元へ詰め寄っていく。
「そんな態度とっていいの? 拷問して聞き出しても良いんだけど」
「やるならやればいい。だが、お前の目的も知らないまま、そんなことを教えられると思うか?」
「へぇ、教えてほしければ、私がこれからしようとしていることを教えろって?」
「……」
ミアの言葉にケリイは無言で首肯すると、右手の光纏器を起動させようと準備を始める。ミアは詰め寄る足を止め、数秒考えこんだ後、首を小さく縦に振った。
「ま、いいや。教えてあげる」
その言葉に、ケリイは心の中で喜びを示す。目的によってはミアの対処のしようはあると考え、起動しかけていた光纏器を停止させた。
「取り敢えずはいろんな血を味わってみたいかな。ま、人間のもの以外で満足できるものがあるかは分からないけど」
「血、だと?」
「私さ、魔力の使い方を思い出してからというもの、睡眠欲や性欲が無くなったように感じるんだよね。その代わり、血に対する食欲が以前よりも遥かに強くなってさ。今もこの人達の血を浴びたい気持ちで一杯なんだよね」
「……伝承通りだな」
少し間を空けてそう呟いたケリイは、右手の光纏器を即座に起動させ、体を構える。
「伝承?」
「先手を打って殺しておくべきだった。監禁の件で上層部が慎重にならなければ、一人暮らしの女子高生だという時点で気付いていれば。今思うと、俺達はへまばかりしている」
「……何を言っているの?」
「シィッ!」
ケリイは残像が出るような速度でミアの元へ肉薄し、その首へ光の刃を迫らせる。
「おっと」
しかし、ミアも右手に魔力で紫の光の刃を生成し、ケリイの攻撃をその刃でなんなく受け止めた。ケリイは舌打ちをしながら手に力を入れ、その右手ごと首を切断しようとする。
バチバチと音を立てながらお互いの刃を押し合い、2人の目がふと交差する。
「私に勝てると思うの?」
「そんなのは、関係ない」
ケリイの決意の籠った目を認識し、ミアは鼻で笑いながらそう口を開く。ケリイはその言葉を吐き捨て、光纏器をつけている右手に更に力を入れる。
「部下が全員死んだ男がすることは二つだけ」
ケリイは右手の力を緩め、体を左に回転させて後ろ蹴りをミアの頭へ向けて放とうとする。それもミアの左手で防がれてしまうが、彼の表情に焦りの感情は一切無かった。
「仇を討つか、後を追うかだ」
◇
その頃、アルカは息を切らせながら街道を走っていた。
「警察の連中、一斉にこっちに向かってたよな……」
現在、ミアの身に何が起こっているのかを全く理解できていなかったアルカは、授業をサボって警察を追いかけていた。警官たちの移動速度の高さに一度は撒かれたアルカだったが、ドローンなどを使って警察を追跡し続け、やっとの思いで警官の進行ルートを割り出すことができていた。
「って、なんだこの臭い!?」
学園にて訓練されているアルカは、嗅覚も一般人の数倍ほど優れている。そのため些細な臭いも感じ取ることができ、彼は今、その嗅覚でとてつもない臭いを感じ取っていた。
「死臭、か? それにしては濃すぎるように感じるし、匂ってくる方向が全く同じだ」
あまりにも濃すぎるその匂いに絶大な不快感を覚えつつ、アルカはその方向へと走り続ける。
匂いは徐々に濃くなり、更に感じ取る匂いの種類も増えていく。それが彼には、気味が悪くて仕方なかった。
「うっ、これは……」
匂いの元へ辿り着いた彼の目に映ったのは、四肢をバラバラにされた一人の警官と、明らかに十人そこらではない量の、人間の物と思しき肉片だった。
「警官が、追っていたのは……いや、まさか」
「あれ、アルカ?」
その光景の中心に立っていたのは、スーツを着ている右腕を持ち、その切り口に自身の口を当て、血を浴びるように飲んでいるミアの姿だった。
「んっ……なんで来ちゃったの? こんなに早くにやるつもりなかったのに」
「お前、なにして────」
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