第32話 気づかない変化
「おはよーございまーす」
一週間後、何事も無かったかのようにミアが登校すると、教室内にいた生徒たちが異様な反応を見せる。
「えっ、普通に来てんじゃん。あれ嘘だったのかな」
「アードさんが嘘をつくとは思えないんだけど」
教室中でコソコソと噂話が始まり、それを聞いていたミアも、自分がその噂の渦中にいる事を自覚する。
(この前攫われたことが噂になってるな……)
サビを連れてきていないミアは、いつも彼を掴んでいる右手に寂しさを感じつつ、噂話をされているという恥ずかしさを押し殺して、自身の席に着く。
(そういえば、アルカ達は大丈夫だったのかな? 昨日攫われてから会ってないけど)
不意に、外出中に別れてしまった彼らの事を心配しながら、朝礼の開始の合図を待った。
◇
一限の授業が終了した後、ミアは次の授業の準備をするべく、バッグの中を漁っていた。
(あー、サビは置いてきたから、授業で使える兵器が無いや。誰かから借りようかな)
兵器を二つ以上持っている人を探そうと、教室内をぐるりと見まわす。しかし、他の生徒たちも兵器の準備をしてはいるが、二つ以上の兵器を持っている人は見受けられなかった。
(やっぱり、中々いないかー。あ、アルカなら持ってるかも)
アルカがいつも光束剣を二本持って戦っていたことを思い出し、足早に教室を出る。そしてアルカが先程まで授業を受けていたであろう教室へ赴き、扉を開けて声を上げた。
「アルカー、いるー?」
「ん? ああ、ここに────ミア⁉」
「あ、余ってる光束剣貸してくれない? サビは置いてきちゃったから、使う兵器がないんだー」
ミアを二度見し、大声を上げたアルカだったが、彼女はそれを気にせず、淡々と用件だけを述べていく。
しかし、彼はそれどころでは無くなっているようで、裏返った声で言葉を返す。
「いやそんなことより、無事だったのか⁉ ミアが攫われたあの日、転移先をカイナが逆探知して、先生や警察を連れて向かったらクレーターができてて心配だったんだぞ⁉」
「大丈夫大丈夫。あれやったの私だし」
ミアのその言葉を聞き、アルカが頭に疑問符を浮かべる。
「は……? 何言ってんだ? お前」
「だーかーらー、あのクレーター、閉じ込められてた場所から脱出するために、私がやったことなんだって。だから何も心配ないよ」
彼女のその言葉を聞いても、アルカは未だに納得できていない様子だった。しかし、彼女は次の授業があるためそれに付き合っていられず、急かすように言葉を続ける。
「そんなことはどうでも良いの。光束剣貸して。一本で良いから」
「……あ、ああ。まぁ、良いや……はい、これ」
「ありがと」
ミアは感謝を述べた後、踵を返して次の授業へ向かおうとする。
「……放課後」
「え?」
アルカが何か呟き、ミアはそれに反応する。彼の顔は少し悲し気で、何かを悔いているような感情が入っているように思われた。
「放課後、治療室に来てくれ。迷ったけど、お前には知らせておかないといけないことだから」
「うん、分かった。じゃあね」
「おう」
そんなアルカとは裏腹に、ミアは軽い調子で言葉を返し、足早にその教室から出ていった。
◇
「失礼しまーす」
放課後、アルカに言われた通り、淵駆から受けた怪我を治したりする治療室へ訪れたミアは、彼の姿を探そうと室内を見渡す。
「アルカいる?」
「お、ランドガルド。本当に無事だったんだな」
「あ、ゼンさん」
室内のベッドは全てカーテンで遮られており、誰が寝ているかを窺うことができない。その中の一つのカーテンから顔を出したゼンは、ミアを見て少し驚いた顔をする。
「どうしてここに?」
「アルカに来いって言われた」
「そうか。じゃ、こっちだな」
ゼンが手招きをし、ミアにカーテンの中に入るように指示する。何も変な事はされないと理解していた彼女であったが、からかってやろうと考えたのか、少し引き気味に言葉を返す。
「お、襲う気ですか……?」
「俺の戦闘力じゃ返り討ちに合うわ。良いからはよ来い」
「全然動揺しないじゃん。面白くない」
「お前キャラ変わったか?」
ゼンのその言葉を無視し、ミアは指示に従ってカーテンの中へと入っていく。
四方がカーテンで囲まれたそのスペースは閉塞感があるが、照明のお陰で陰気な雰囲気にはなっていない。
「誰か寝てるの……ワンダーズさん?」
「ああ、ランドガルドさん。本当に、無事だったのですね」
そのスペースに設置されたベッドの上に居たのは、容貌が大きく変化したカイナだった。
「それにしても、よく、私だと分かりましたね。」
「いや、そりゃあ、気配で……何があったの?」
カイナの顔は右半分が液状化し、溶けかかっていた。左半分も決して無事とは言えず、皮がベロンと剥がれている箇所も見受けられる。
「……超放射転移特定機」
「え?」
「知ってるだろ?」
「知ってるけど……まさか!」
「ああ。お前を探し出すために、その機械を使ったんだよ。お前は自力で脱出したようで、無駄になったけどな」
超放射転移特定機とは、特殊な電磁波を放つことで、残された転移痕から転移先を割り出す事の出来る機械の事を言う。その精度はとても高く、地球の公転、自転、そして宇宙の膨張など、様々な計算をすることで、地球上のどこに転移したかを求めることができる。
「それから出た特殊な放射能にやられたんだよ。幸い、命に別状はないし、あの時いた客の中にもその放射能にやられた奴はいない。」
「そう……」
「だが、あの機械の性質上、使用者は放射能から逃れられないからな。こうなっちまった」
「治せないの?」
「結構浴びたみたいだからな。もう少し浴びた放射能が少なければ、遺伝子の復元でどうにかなったらしいが……」
「気にしないで下さい。私が覚悟し、そして行動した結果ですから」
ゼンはなんともなさそうにしていたが、表情からはとても悔し気な感情が伺えた。それを見たミアは拳を握りしめ、二人に微笑みかける。
「……本当に、ありがとね。また、来るから」
「お気遣いありがとうございます。」
そう言って、ミアは治療室から出ていった。
◇
その夜、いつも通りサビを磨いていたミアは、ずっと暗い顔をしていた。
「なんだその辛気臭い顔は。部屋を汚されたのがそんなに堪えたのか?」
「違うわ」
彼女の悩みの種は勿論、カイナの体に関する事である。
超放射転移特定機により、致死量の30倍の放射能を受けた彼女は、余命は1週間ほどだという。それを聞いたミアは、彼女を心配する気持ちと、罪悪感で押しつぶされそうになっていた。
「……ねぇ、サビは、ワンダーズさんの状態は知ってる?」
「ああ。六神通で見ていた。それがどうした?」
「サビなら、ワンダーズさんを助けられる?」
「可能だがやらんぞ」
「は……なんで⁉」
サビが当然のことのように放ったその言葉に、ミアは怒りをあらわにする。
「お願い! 助けられるなら助けてあげて!」
「断る。私が命を助けるのは魔力持ちのみ。それ以外は助けない」
「なんでもするから! お願いだって!」
サビを両手で抱え、それに語り掛けるようにお願いをする。しかし、その願いも空しく、彼は感情の籠っていない声で言葉を返す。
「こればかりは、貴様の願いでも叶えてやることはできない。私は魔力持ちによって想像された身。それを絶滅させた人間を助けるなど、反吐が出る行いだ」
「別に、カイナさんが絶滅させたわけじゃないんだよ⁉ なんでそこまで今の人類を敵視するの!」
「敵視などしていない。だが、『親の因果が子に報い』という言葉があるだろう? それと同じだ」
「分からずや……ッ!」
ミアはサビを壁に投げつけ、鋭く睨む視線を向ける。投げつけられた彼はというと、特にその行動に対して怒りは抱いておらず、それどころか、ある提案をしようとしていた。
「それに、私が助けずとも、お主の力で助けられるのではないか?」
「……え?」
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