第23話 依頼

 翌日の昼間、学校にて。

 職員室にミア、アルカ、カイナ、ゼンの四人が呼び出しを食らっていた。



「……で、先生。用とはなんですか?」



 カイナが男にそう質問を投げかける。男は手にタブレットを持っており、その画面を操作して四人に見せる。



「依頼だ。今朝、北の方で十数体の淵駆が突発的に出現した。等級は三~五。今は山間部にいるみたいだが、いつ街を襲うか定かではない。よって、一年生である君たちに討伐を命ずる」


「……五⁉」



 男の話を聞いたカイナが、驚愕した様子でそんな声を上げる。他の三人も同様に驚いているようで、口をポカーンと開けている。



「まっ、ままま待ってください! いつも私たちが相手している淵駆は、等級が零なんですよ⁉ 急になんでそんな強個体を⁉」


「いけるいける。それに、一年生にもそれ位の経験は積ませないといけないし」


「そんな軽い感じ⁉」


「準備を済ませて、一時間後に加速室な。目的地に関してはそこにいるやつが説明してくれるだろうから、そいつから聞いて」


「適当⁉」



    ◇



 職員室から去り、四人が依頼の準備に向かっている道中、アルカは興奮した様子で声を上げる。



「遂に来た! 等級一以上の個体! 楽しみだー!」


「あああ……もうおしまいです。私たちは、この依頼で生を終えるんですよ……」


「そんなに数は多くないのか……じゃあ、バズーカ砲が適正かな……いや、ここは敢えてカノン砲でも……」



 三人が口々にそう零す様子を、ミアは無言で見つめていた。そんな中で彼女の腰に下げられているサビが声を上げ、問いを投げかける。



「等級とはなんだ?」


「淵駆の強さだよ。数字が大きくなればなるほど淵駆は強くなる仕組み」


「一等級でどの程度の差が生まれるんだ?」


「それは等級が大きくなる毎に大きくなっていくよ。零~一で五倍、一~二で十倍、二~三で十五倍くらいかな」


『ふむ……概ね同じか』



 ミアの等級に関する説明を聞き、音にならない声でそう呟く。その二人の会話を聞いていた他の三人は、サビに興味津々な様子でミアに声をかける。



「ランドガルドさんのそれ、やっぱりAIじゃないですよね。『分からないことを自分から質問する』なんてAI、少なくとも私は見た事ありませんし」


「火力の高そうな声だね」



 二人は疑問を抱いているが、ミアはその疑問に答えられるほど、サビの事を知っている訳では無い。そのため、自分もよく分からないという感情を出しながら返答する。



「私もよく分からないんだよね。エンチャントっていうのが関係してるってのは聞いたけど、あまりにも荒唐無稽で……」


「謎の存在なわけですね……それより、左腕は再生しないのですか? そのままでは不便でしょう?」


「いやー、お金が……」


「あー……高いですもんね。しかもランドガルドさんは一人暮らしでしたね。色々と大変なのではないですか?」


「そうだねー。この前色々あってバイトもクビになったし、仕事も早く探さないと」


「アルカの家に居候しては? あの人、お金だけはありますから」


「ん⁉ 急に俺⁉」



 カイナの急な提案に、ミアよりも先にアルカが反応する。しかし、その顔にはまんざらでもない感情が浮かんでおり、照れるように言葉を続ける。



「ま、まぁ、部屋は沢山あまってるし? 別に良いけど────」


「いや、家を離れる訳にはいかないから、遠慮するね」


「えっ、ああ……そうですか……」



 アルカが露骨にしょんぼりとする。

 その後、四人は解散し、各々武器や装備の準備を始めようと向かった。



    ◇



 一時間後、四人は再集合し、学校の地下室に来ていた。

 四人の正面には、人一人が通れる大きさの光の扉があり、その光は光り方を変えつつ蠢いているように見える。



「これから君たちにはこの『光速推進機』で百キロ先に移動してもらいます。依頼に関する詳しい内容は向こうの人から聞いてください。移動中は暴れず、できれば息をとめて目も閉じていてください。まあ、一瞬なのでそこまで苦しくはないと思います」


「はい」


「分かりました」


「よし行くぞ!」


「まだ撃っちゃダメですか⁉」


「駄目です。では、行ってらっしゃい」



 カイナは光纏器を、アルカは二本の光束剣を、ゼンは二丁のカノン砲を持ち、特別製の制服を着用して光速推進機に近付く。ミアも同じ制服を着てはいるが、持っている武器はサビのみであった。



「ランドガルドさんはその武器で大丈夫ですか? 随分錆びてますが……」


「馬鹿にするなよ畜生共っ! 私はこの状態でも貴様らの武器とは比べ物にならない程強力なのだぞ!」


「あはは……多分、大丈夫です」



 そう言って、三人の後に続くように光の扉をくぐっていった。


 少しの揺れと衝撃を感じたと思うと、目の前には先程と全く違う景色が広がっていた。正面には山脈が広がっており、近くには短時間で建設されたような建物がある。



「ここだよな?」


「あの山に淵駆がいるのか……山ごと吹き飛ばすのはダメなのか?」


「ダメに決まっているでしょう」


「今まで一度も使った事のない『アトミック・シャイニー』って武器があるんだよ。それならあれくらい楽勝だぞ?」


「名前からして危険なので絶対使わないで下さいね⁉」



 そんな会話をしながらも、近くにある建物へと近付いていく。扉の前には一人の男性が立っており、四人に向かって手を振っている。



「籠亜の皆さんですね? 僕はサイスです。これから淵駆がいる山へと案内します。極めて広大ですので討伐には日をまたぐ可能性がありますが、着替えとかは……?」


「あ、はい。一応ありますよ」



 サイスの確認するような言葉に、カイナが四人を代表して答える。

 その言葉を聞いたサイスは安心したような顔をし、一つのタブレット端末を渡す。



「良かったです。で、この端末にはマップが入力されています。その中で赤線で囲まれた地域、それが淵駆の出現予想地域です。遠距離の攻撃手段を持っている可能性があるので、その中では飛行は控えてください」


「徒歩で探すのが主ということですね?」


「そういうことです。かなり広い範囲ですが、体力的に大丈夫ですか?」


「三日は継続して戦闘できる体力がありますので、問題ないかと考えます」


「分かりました。夜になっても討伐を完遂できない場合は、一度こちらに戻ってきてください。宿泊施設を用意してますので」


「すみません、マップの赤と青の点はなんですか?」



 カイナがマップを確認すると、赤線の内側に複数の赤い点、外側に四つの青い点が光っているのが確認できる。先のサイスの話と位置関係から、それがなんなのかを予想する事はできるが、確認のために質問を投げかけた。



「赤が確認されている淵駆、青があなた方です。はぐれたり、淵駆の場所が分からない場合はそれで確認してください」


「分かりました。すみません、続けてください」


「大方説明は終わりましたが……あ、最後に」



 そう前置きし、サイスは先程と雰囲気の違う様子で語り始める。



「淵駆の出現は、ある民間人の死亡によって発覚しました。遺族ができればと言っている事ですが、可能であれば、その民間人の遺体を回収してきてほしいそうです」


「分かりました。頭に入れておきます」


「では、以上です。お気を付けて」


「はい」


「飛ぶぞー!」


「今日中に討伐だー!」


「ちょっと待ってよアルカ!」


「修学旅行じゃないんですよ⁉」



 そう言って、四人は指定された山間部の近くへと飛び立っていった。



    ◇



「ここですね……地形的にかなり谷が多いですが、ゼンであれば問題なさそうですね」


「なんで?」



 カイナの呟きに、ミアが疑問を投げかける。振り返ったカイナはゼンの武器を指さしながら、淡々とその理由を説明する。



「彼の持つ武器は極めて長射程ですから、山の頂上から撃てば大抵の敵には当たりますよ。本来は平地で使うのが良いのですが……」


「今日はこの武器を使いたい気分!」


「だそうです」



 カイナの説明の途中でゼンがそう主張する。カイナは若干あきらめ気味で、その様子をミアは苦笑いしながら見ていた。



「ミア、光束剣かなんかを一本でも持っといた方がいいんじゃないか? その剣を信用しているのは分かるけど、何事も予備は必要だろ?」


「舐めるな小僧!」


「私もそうしたいんだけど……サビがどうしても許してくれないから……」



 アルカがミアにそう提案するが、サビの怒声と共に、彼女が仕方ないという様子でそう返答する。アルカを含めた三人は若干呆れながら剣を見つめ、彼女を励ます。



「ミアも大変だな……」


「自分勝手な剣ですね」


「火薬詰めて弾丸にしてやろうか?」


「あはは……」




 キャラ紹介

 ―カイナ・ワンダード―


 性別は女性。黒髪のツインテール。身長百六十センチ。

 基本はどんな武器でも扱えるが、現在は光纏器を主に使っている。戦闘スタイルは武器によって変わるが、光纏器を使う場合は回避特化の前衛。


 戦闘の指揮にも長けており、長所は咄嗟の状況把握が可能なほどの冷静さ。

 好きな物は安全と安泰。嫌いな物は不安定なもの全般。


 座右の銘は「死なず死なさず」。

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