第18話 不思議な体質
翌日、ミアがいつも通りの生活をしている中、サビはずっと話を聞かせようと騒いでいた。
「小娘ぇ! 話を聞かんか!」
「やーだよ! サビの話ったら長いんだもん! 聞くのが面倒くさい!」
「むうぅぅぅ!」
ドスの効いた声でサビが唸る。彼はどうしても自身の話を聞かせたいようで、登校中や授業を受けている間もずっと説得を試みていた。
「気にならないのか⁉ お主の先祖にも関わることだぞ!」
「別に? 死んじゃった人なんか気にしてても仕方ないでしょ」
「私の持つ力にも大きく関係しているのだぞ!」
「でも、話を聞く限り今はその力の大半が使えないんでしょ? 教えてもらっても仕方ないじゃん」
「あ、ああ言えばこう言う……!」
サビにはどうしてもミアに話を聞かせたい理由があった。しかし、ミアからすればそれはどうでも良いことで、彼女は小難しい彼の話を聞く気は一切無かった。
サビは「こうなったら……。」と呟き、ミアに向けてあることを伝える。
「お主、自身が嫌われている理由が知りたくないか?」
「だから────えっ?」
ミアの食事をする手が止まる。頬張ろうとしていた肉もフォークからぽろっと落下し、しかしそんなことは気にしない。
「嫌われてるって……皆から?」
「そうだ。知りたくないか? 知りたいだろう?」
確認をとるように聞き返したミアに、サビはニヤついてるような声でそう返す。心の中では「これだ!」と思っており、彼女もその言葉に心を揺さぶられているようだ。
「……い、家に帰ってからね」
「ふむ……ま、いいだろう」
◇
そして帰宅後、サビを磨き終えたミアは、彼の傍らで話が始まるのを今か今かと待っていた。
「……ほら、今日の分も終えたし、早く教えてよ」
「少し雑なように思えたが……ま、良い」
サビは切っ先を下に向けてミアの前に立ち、数秒程時間を置いてからその理由を語りだした。
「お主、魔力漏れを防ぐ訓練はやったのか?」
「……なにそれ?」
「やはりか。それが原因だ」
サビはため息をつくような、呆れた声でそう呟く。ミアは首を横にかしげながら、頭に疑問符を浮かべている。
「息を止めてみろ。一分ほどでいい」
「え?」
「早く」
「わ、分かったから……んっ!」
大きく息を吸ったミアは、口と鼻を完全に塞いで空気の逃げ道を塞ぐ。最初の数秒はとても余裕そうで、口の中で歌を歌っていたりもした。
「んんんん……ぅぅぅ」
しかし、わずか十秒ほどで顔が青くなりはじめる。そして二十秒もすると限界を迎え、口と鼻を塞いでいた手を離してしまう。
「はっ! はぁ、はぁ、はぁ……うぇぇぇ」
「どうだ? 何か感じたか?」
咳き込んで苦しんでいるのだが、サビは容赦なく彼女にそう問いかける。しばらく咳き込んだのち、ミアは彼を睨みつけながら喉を押さえる。
「体中が痛い」
「はぁ……」
「なにこれ?」
「貴様の中の魔力が腐っているということだ。だから、これからはそれを治療するためにあることを続けてもらうぞ」
「サビってひょっとして嫌な奴?」
「そう褒めるな。だが、周囲から見たらお主の方が嫌な奴に見えると思うぞ。なんせ、畜生どもがお主に抱く印象はゴキブリと大差ないからな」
「何それ嫌だ!」
ミアが本気で嫌そうな顔をする。それなら嫌われても仕方ないと言えるが、それが事実なのであれば、ミアは一刻も早くそれを治したいと考えた。
「どうやったら治るの!」
「一時間」
「え?」
「一日に一時間ほど息を止めて過ごせるようになれ。継続してな」
ミアの顔が青く染まる。サビを嫌悪の籠った目で見つめ、その言葉に嘘偽りが無いと確認した瞬間、彼女は口を大きく開く。
「サビのバカ!」
「やるのか? やらないのか?」
「やるし!」
ミアが嫌そうにそう呟いたのを確認し、サビは心の中でほくそ笑む。そして切っ先で彼女の事を示し、宣言するように話し出す。
「いいか? これはまだ序章も序章だ。その腐り切った魔力を元に戻すには、一日中ぶっ続けで息を止められるようにならなければいけない」
「は⁉」
「だから、精々頑張れよ。ま、一年もあれば大丈夫だろうがな」
その言葉に、ミアは頭を抱える。可能であればやりたくないと思っているようだ。しかし、嫌われる理由を無くすためにはサビの言ったことを実行しなければならない。
彼女は悩んだ末、サビの方に向き直って宣言する。
「一年もいらない! 半年でやってやる!」
「粋がるではないか小娘。精々足掻け」
彼女は、短期間でこれを終わらせることを目標にした。
◇
「やだ! もうやりたくない!」
「ならばどうする? 内にある魔力をどんどん腐らせ、周囲の家畜共に嫌われていくか? そうすると最終的に、貴様は初対面の相手にも殺意を抱かれるようになるぞ?」
「頑張る!……ふぅっ!」
翌日、ミアは早速この特訓を嫌がっていたが、サビの言葉で瞬時にやる気を取り戻した。
息を止めていられる時間は伸びているのだが、如何せん体の痛みに慣れる事ができていない。サビはそれを好転反応だと彼女に伝えているが、それで納得できるほど素直な心を彼女は備えていなかった。
『綺麗な魔力があれば空気も栄養も必要ないというのに……ミアの親はそんなことも伝えられていないのか?』
サビが音にならない声でそう呟く。彼はミアの両親に落胆するとともに、かすかな疑念を感じはじめてもいた。
正面でミアが苦しみながら授業を受ける。それを横目に見ながら、サビはこの世界のどこかにいる彼女の両親を探すべきではないかと考える。
『六神通で探してもいいが……いや、無暗に力を使う訳にはいかない。ミアを説得して世界を旅するか……?』
様々な案が思い浮かぶ。しかしどれもが、彼にとっては欠陥だらけの策としか考えられなかった。
「……まぁまずは、小娘が魔力を清純にすることが先決だな」
「ぷはっ! やった! 最高記録の五分だ!」
「二人ともうるさいですよ!」
ミアが息を吐いた後、授業をしていた教師が、サビとミアにそう注意を飛ばした。
◇
「はぁぁぁぁぁ……左腕は無いし、息は止めなきゃいけないし、体は痛いしで散々だよ」
「ほら、息を止めろ。それと、早く私の体を磨かんか。」
「ちょっとだけ休憩! それに、サビを磨いてる間に息を止めてたら、きれいに磨けなくなっちゃうよ?」
「……それは困る」
「ほら、私左腕無いんだから、ちゃんと私の膝にきて」
ミアが正座し、手のひらで太ももをペチペチと叩く。サビは磨かれるのが好きなのか、意気揚々と彼女が示した場所へ向かう。
「頼むぞ。最近磨き方が雑になっているからな」
「そりゃあ左腕ないからね」
ミアはそう言い返し、金属のブラシに薬品をつける。そしてそれを使い、通りサビの柄から刀身を満遍なく磨いていく。サビはとても気持ちよさそうにし、表には出さないが若干喜んでいた。
「……ねぇ、サビ」
「ん? どうした」
磨かれていたサビはミアの方を見やり、そして彼女の暗い顔を認識する。それ自体は彼にとってはどうでもいいが、自身を磨く手が適当になられてはたまらないため、彼女の言葉をしっかり聞くことにする。
「サビは左腕を生やせないの?」
「ふむ……私の力が無くとも、畜生共の技術でどうにかなるのではないか?」
サビはラックの事を思い出す。彼はサビに腕を斬られながらも、まるで慣れているかのように極めてスムーズに止血を行っていた。更に、覗いた彼の記憶からもそのような装置を発見できた。そのため、自身の力を使わずともミアの腕を生やす事は可能なのではないかと考えたのだ。
「無理だよ。お金が無い」
「金銭か……なら仕方ないな」
「────まさか!」
「いや、現在の私では不可能だ」
ミアは期待するような眼差しをサビに向けるが、続く彼の言葉で一気にそれを失う。しかし、数秒の沈黙の後に彼の言葉の一部に反応し、元気を取り戻したかのように顔を上げる。
「『現在の』?」
「私の力は現在、この錆びた体のせいで大幅に制限を受けている。使える力は『次元切断』、『六神通』のみ。幸い切れ味は全盛期となんら変わりないが、それでも全体の力の一割しか今は扱えないのだ。私の自我も合わせて、正確には三つ使えているがな」
主人公の能力説明
・六神通
リミットエンチャント。魔力のポテンシャルの最大。あらゆる移動、感受、聴取、察知を可能にし、天眼と漏尽を得る。
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