第5話 命がけの帰宅
錆びを落とすための薬品を渡され、その使い方も教えてもらったミアは、学校から帰る準備をしていた。と言っても、荷物はそれ程多くは無い。これは籠亜が教科書を使わないなどの理由ではなく、ミアが今日は大穴の当番だったため、授業が免除されているからだ。
ミアは錆びた剣を入れたケースを持ち歩きながら、校舎の玄関へ向かう。一方、剣である彼はミアを観察し、自身の使用者として相応しいかを見極めようとしていた。
『身体能力はこの年齢にしては優秀なようだな。ただ………』
彼はミアの記憶や心の中を覗き見る。見ると、ミアは友人がいないことや頼れる大人がいないことに酷く悩んでいるようだった。
『初対面の相手からもなぜか嫌われる、か。やはり、自身に魔力があることには気付いていないみたいだな』
ミアは大昔に絶滅させられたはずの人間の生き残りの一人だ。彼はできればミアを助けてやりたいと考えていたが、こうも情けない人間となると助ける価値はあるのかと悩んでいた。
『まあ、死んだらその体を貰おう。錆びを取る手立ても立てたようだしな』
「あー、また今日も死ぬ気で帰らなきゃダメなのかなぁ」
『ほう?』
ミアは校舎の外に出ると、憂鬱だといったようにそんな言葉を漏らす。大きなため息をついた後、最大まで警戒しながら自宅までの帰路をたどる。
彼はその言葉に興味を持ち、ミアの独り言に耳を傾ける。
「今の所は誰にも尾行されてない、かな? 今日は現れないと良いなぁ、あの人達」
『一体何があるというんだ……ああ、記憶でものぞいてみるか』
彼はミアの記憶を覗き見て、今のミアと一致するような状況を探す。
『ほう、すぐに見つかったな。つまり、この者にとってはかなり印象に残っている出来事ということか』
彼はその出来事の一部始終を閲覧する。記憶が元になっている映像のため少々画質が荒いが、誰が何をやっているかは判別できるレベルのため、彼は画質を気にしない。
見ると、ミアはかなり必死に何かから逃げているようだった。映像として見ているミアの視界がかなり揺れ、長時間走っているためかかなり息も荒い。
『これは………この者を追っているのは複数か。しかも全員がこの者よりも年上と。何故だ?』
ミアの視界が一瞬後ろを向く。そこには黒いスーツを着た大人が二人ほどおり、どうやらミアはその大人から逃げている様だ。
ミアは目の前の曲がり角を右に曲がり、少し細めの路地に入る。
『悪手だな。行き止まりだ』
曲がった先にあったのは塀だ。飛び越えた先には他人の家があるだろう。ミアは飛び越える訳にはいかないと考えたのか、映像がブレるほどの速さで周囲を見回す。
『なるほど。それを選択したか』
ミアは隣にあった五階建てのビルを見つけると、足につけている装置を起動し、そのビルの屋上へと大きくジャンプする。
ミアが屋上に隠れながら先程まで自身がいた場所を観察していると、塀の向こうからも四人ほど大人が現れる。その大人も黒いスーツを着ているため、ミアに対しての追手だろう。曲がり角からも大人が二人追い付いてきて、その六人は顔を合わせると何かを話し始めている。
『流石に音までは拾えなかったか。だが、大体は把握した』
あれから暫く歩いているミアだったが、彼が記憶を見ている間に尾行され始めたようで、かなり速足で細い路地を歩いていた。
『記憶の中で見た人間と同一人物だな。何らかの組織のようだが………まあ、興味ないな』
彼は追手の記憶を覗き見ようとしたが、見たところで何かが変わる訳でもないので、記憶の閲覧を取りやめる。
「今日も来てるよ………あっちも武装してるだろうから戦っても勝てるわけないだろうし、やっぱり逃げるしかないよね」
そう呟くと、ミアは路地を凄い速度で走り出した。それを見た追手も走り出し、ミアを捕まえようと追跡する。
『なんらかの機械を使ってるわけでもないのに、この速度で走るか。流石魔力持ちだな。やはり畜生どもよりは数百倍の価値がある』
「どうしよう。いっつも屋上に逃げてたらいつかバレそうだし、あいつらが立ち去るまでの隠れ場所をもっと増やさなくちゃ」
ミアは走りながら辺りを見回し、隠れるのに最適な場所を探す。路地を走っているためゴミ箱などがちらほらと置いてあるが、それに隠れるのは最終手段だと決意していたミアはゴミ箱から目をそらす。
「光学迷彩だとバレそうだし、空を飛んで逃げてもすぐに発見されそうだしなぁ。あ!」
どうするかを悩んでいたミアの目に、一つのマンホールが目に入る。ミアは後ろに大人が追い付いていないことを確認すると、マンホールを片手で開き、中に入って蓋を閉じる。
しばらく息を潜めていると、地表を複数の足音が走って通り抜けるのが聞こえる。それから一時間ほど息を潜め、追手は消えたと判断したミアは、マンホールのふたを開け、地表へ顔を出す。
「ぷはっ! あー、臭いしきっつ! この手はあまり使わないようにしよう。」
一時間もマンホールの中にいたことで、ミアの体からは謎のにおいが漂っている。ミアはゴミ箱に隠れた方がましだったかもしれないと後悔しながら、体の匂いを除去する機械を使う。
『まあ、上々だな。魔力持ちなのだから魔力の無い人間など簡単に殺せるはずだが、この時代の兵器はまだまだ未知数だからな。もしかしたら奴らが武器を持っていた可能性もある』
「さ、匂いも落ちたし、帰るか!」
そう言うと、ミアは足早に自宅のある方向へと歩いて行った。
自宅に着いたミアは靴を仕舞い、家の中の照明を点ける。家は広いわけではないが、それは家族で暮らす場合であり、一人で暮らすにしてはかなり広い。
そのため掃除が行き届いていない部屋が二つほどあるが、それらは両親の部屋のため、ミアは別に掃除しなくていいだろうと考えていた。
「ただいまー。誰も居ないけど、ただいまー」
ミアは自分の部屋に真っ先に向かい、錆びた剣を自身の部屋の中に置く。倉庫に持っていこうかと考えてもいたが、また外に出るのは面倒くさかったらしく、自身の部屋で錆びた剣を管理することにした。
錆びた剣を部屋に置いたミアはキッチンに行き、夕食の準備をする。外は既に茜色に染まっており、時刻は既に六時を回りそうだった。
「夕ご飯どうしよう。あー、こういう時家政婦AIがいれば楽なのにな」
ミアは愚痴りながら冷蔵庫の中身を確認する。食材は沢山入っているが、何を作るかは一切思い浮かばず、冷蔵庫を開けたまま二分ほど唸りながら悩んでいた。
「もう良いや! 適当にパスタでも作ろ!」
★★★★★
夕食を食べ終わったミアは、風呂に入った後、すぐに就寝の準備をしていた。
「明日も授業かぁ。しかも演習無しとかやる気でないよー」
いろんな人に嫌われているミアにとって、学校はとても憂鬱だ。できれば辞めてしまいたいが、淵駆狩りで得られる報酬はミアの生活の支えとなっているため、やめる訳にはいかない。
「あっ、そうだ。寝る前に錆び落としでもしとこう」
ミアは、研究者の男性から一日一時間ほど錆び取りをすれば一年で完全に錆が取れると言われていた。ミアは暇つぶしが増えたと喜んでいたが、錆び取りに一年もかかるという事実に面倒くさく感じてもいた。
「えーっと? この専用のブラシと薬品を使って磨けばいいんだっけ?」
ミアは渡されていたブラシと薬品を取りだし、薬品を剣に少しづつ零しながらブラシでまんべんなく磨いていく。
「何か凄く不安だなぁ。こんなので特殊プラスチックより硬い錆が取れるのかな」
ミアは黙々と一時間ほど剣を磨いていった。
主人公の能力説明:
・破壊不可エンチャント
五レベルエンチャント。常時発動型。付与された物の破損、破壊、劣化、変化を防ぐ。「形状変化」のエンチャントがあれば、変形させることはできる。
破壊の出来ない物とは、それだけで凶悪な兵器となる。
・常時発動型エンチャント
所有者がいる場合しか発動しない。
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