第3話 嫌われ者

「はぁー、研究者の人にも嫌われちゃった。ほんと、なんでこう初対面の人にも嫌われるんだろうなぁ」



 ミアは大穴の見回りを終え、それを報告した後、何かお腹に入れておこうと食堂に向かっていた。食堂までの道は殆ど廊下である。そのため生徒がちらほらと居るが、ミアはどの生徒にも避けられるような視線を向けられていた。



「性格がダメなのかな? 確かに独り言は大きい自覚はあるけど、それだけでこんなに嫌われるかな?」



 中で授業をしている教室の前を通る。普通であれば、一生徒が教室の前を通ることなど誰も気にしないが、ミアが通り過ぎようとした瞬間、授業を受けている生徒の顔が一瞬彼女の方へ向く。

 彼女にもそれは分かっているが、もう慣れているため気にしない。彼女の方を見た生徒たちは「嫌なものを見た」というように顔をそらし、意識を授業に向けなおす。



「考えてても埒があかないね。よし! ぱーっとステーキでも食べますか!今日は当番で変なもの見つけたしね!」



 ミアは廊下をスキップしながら食堂へ向かっていった。



★★★★★



「ん~、おいし~!」



 食堂についたミアは、五人前はあろうかという量のステーキを食べていた。周りはそれをドン引きするように見つめている。



「あーでも、こんなに食べたら太りそうだなぁ。後で演習場に行って運動するかー」



 彼女はかなりの量を食べるが、決して太らないわけではない。実際、自身の体に気を遣うようになるまではかなり太っていたし、そこから今の体のように痩せるまでは一年ほど掛かった。

 彼女は周りの目を一切気にしないが、自分の体がだらしないのは許せない性格なため、同級生の人一倍は自身の容姿に気を使っている。



「うん! おいしかった! 演習場行くか!」



 彼女は食器を食堂のカウンターに持っていき、それを片付けると、一目散に演習場に向かっていった。


 それを見ていた生徒は、彼女について話し始めた。



「やっぱり嫌な感じだね」


「そうだな。何故かは分からないけど、嫌な感じだな。どうしてだろう?」


「あー、性格の悪さが表に出てるからじゃない? 独り言うるさいし」



 その男子生徒の言葉に、周囲の生徒はコクコクと頷いている。それから、周囲の生徒からも彼女への不満がどんどん漏れだしていく。



「淵駆が出てくる時も自分だけ動いて協力しないからすっごくうざいよね」


「そうそれ。しかも俺たちの手柄を横から奪い取っていくしな」


「しかも少し怪我しただけで後ろに下がるしな。それくらい我慢しろって」



 実際は、彼女はそこまで協調性が無いわけではない。指示があるまでは動いたりはしないし、協力が必要であれば嫌いな人間の指示にも従う。淵駆狩りは手柄を立てた所で特別な報酬がある訳でもなく、淵駆によって負った怪我は、放置しているとその部位が壊死していくため、我慢したくてもするわけにはいかない。


 そんな生徒たちの自身に対する陰口を柱に隠れて聞いていたミアは、足音を立てずに演習場に続く廊下を走っていき、食堂が見えなくなった途端、また独り言を言い始める。



「そっか。私、協調性が無いんだ」



 ミアはか細い声でそう呟く。ミアは長いこと一人暮らしだ。親戚もおらず、頼れる大人がいない。幸い、籠亜高等学校は淵駆狩りに参加するという条件付きで、学費が無料になっているが、それでも生活費が必要なため、親が居なくなった日から様々なバイトをして生活費を稼いでいる。


 友達も居ないため、この辛さを共有することもできない。友達を作ろうにも、初対面からも嫌われる体質のせいで出来たことは一度もない。



「それさえ直せば、できるかなぁ………友達……」



 彼女は少しうつむきながらそう呟き、演習場へ向かう足を止める。周囲の生徒はそんな彼女を避けながら次の授業へ向かっている。

 しばらく俯いていた彼女は、頬を強めの力で叩き、前を向く。



「だめだめっ! やっぱり陰口を隠れて聞くもんじゃ無いね。メンタルやられちゃう」



 急に自身の頬を叩いた彼女を、周りは訝しげな眼で見つめている。前を向いた彼女の顔に涙が浮かんでいるのは誰の目にもハッキリと見えるが、それを見て心配する目を向ける人間は一人も居ない。



「体動かしてリフレッシュしよう! うん、そうしよう!」



 気を取り直した彼女は、生徒をかき分けながら演習場へ走って向かっていった。



    ◇



 演習場に着いたミアは、一番近くにあった卵型の装置に入る。その中にあったゴーグルを装着したミアは、意識が機械の中に入っていく。



「入った!」



 次に目を開けると、そこはどこまでも草原が広がっている平野だった。太陽は無く、それでも昼間のように明るい。演習用の装置のため、雲のような演出も無い。


 ミアが自身の体が思うように動くか確認していると、十メートルほど先の場所にミアの体を模した人形が現れる。



「きたきた! 武器はどうしようかな~」



 ミアは目の前にウィンドウを展開し、そのウィンドウの武器の欄を眺め始める。光線銃や宇宙船などの様々なエネルギー兵器を眺めていると、一つの新兵器が目に入る。それは体に直接光をまとわせ、武器の形をかたどらせて戦う兵器であった。



「あれ⁉ 新兵器出来てたんだ! 聞いたことなかったよ! これにしよう!」



 ミアは興奮しながら「光纏器』を選ぶ。すると、ミアにも人形の方にも目の前に指輪が出現し、人形は迷わずそれを右手の人差し指につける。ミアはそれを真似し、自身の指にも指輪を取り付ける。



「わっ! 光った! すごーい!」



 指輪を取り付けた手を光が包んだのを見て、ミアはそんな声を上げる。武器の形をかたどっていない光纏器は触っても負傷はしない。ミアは光纏器を眺めるのをやめ、武器の形のかたどり方を調べる。



「えーっと何々……あー、今の所は手刀にしかならないんだ。だとしたら結構接近しないとダメそうだなー。ま、いいや! 使ってみよ!」



 ミアは光纏器に手刀をかたどらせる。すると、ミアの右手が剣の形をした光が包む。その光は丁度ミアの手を覆うサイズであり、手を握ったりしたら光から手がはみ出してしまいそうだ。


 人形も光纏器に手刀の形をかたどらせる。それを見たミアは、それを準備完了の合図だと判断し、人形の方へ走って突っ込んでいく。



「まずはちょっと試し斬りっ!」



 ミアはそう言いながら、対して加速もつけず人形の首へと手刀を放つ。人形はそれを同じく手刀で防御する。すると『バチバチ』という激しい音を立てながら、ミアの手刀が跳ね返されてしまう。



「い、いいいい威力高くない⁉ 淵駆とか簡単に真っ二つに出来るよこれ!」



 ミアはあまりにも威力の高い光纏器に驚いている。剣の形をしたエネルギー兵器としてもう一つ『光束剣』があるが、それよりもエネルギーを一点に集めているせいか、光束剣よりも遥かに威力が高い(光束剣も金属を簡単に切断できる威力はある)。


 そうして驚愕していると、人形がミアへ突っ込んできていた。それに気付いたミアは人形の手刀の軌道上を避け、腕をめがけて手刀を振り下ろす。



「だめか!」



 人形はその攻撃を体を後ろに反って躱す。ミアの手刀は人形の眼前を通り過ぎ、虚空を切り裂いて彼女自身に大きな隙を作る。

 人形はそのままの体勢でミアの体を切断しようとする。ミアはその攻撃を見る前に後ろへ飛び、その攻撃を回避する。



「あっぶなー!『ザシュッ』っていくとこだったよ!『ザシュッ』って!」



 ミアは人形の攻撃に冷や汗をかきながら、どう攻めるかを考える。単純に突っ込んだだけでは攻撃は当たらないだろうし、何より反撃を食らいそうだ。反応速度では人形の方が上のため、同じステージで戦おうとしても負けるだろう。



「あー、もう!めんどくさい!」



 ミアはそう言った後、闇雲に突っ込んでいった。





機械説明:フルダイブ型VR機器(演習用)


 デジタル世界に制作された仮想現実への出入りを可能にするVR機器。

 意識だけがデジタル世界に送り込まれ、現実世界の本人の体は眠っている状態になる。仮想現実で運動している間、現実世界の体は動いていないが、脳は現実で動いている時よりもかなり負担がかかるため、長時間使用するとかなり疲れる。

 演習用のため、機器の処理能力の殆どが中の人物の動きに割り当てられている。

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