第14話 四葉のクローバー

冬休みが半分過ぎた頃、ネリネは桐也を高校の校庭の桜の木の下に呼び出した。



「ここなんだ。」

「うん?」

「俺が桔梗に興味持ったの」

「そうか…」

ネリネは桐也に一枚の写真を手渡した。

「おお、奇麗な桜だな」

「ちげーよ!人間の方!」

「?…あ、誰?可愛いけど見た事ない」

「お前もよく知ってるよ」

「え?」

「桔梗」

「これが!?」



「その写真、校庭の桜の写真を撮りたくて撮ってたんだけど、なんかすっげードラマチックでさぁ…」

「…」

「その写真の女の子に…俺はどうしようもなく惹かれたんだ…」

「ネリネ…」

「それだけ。呼び出して悪かった…」

「…良いのか?」

「…あぁ…良い。桔梗の中ではいつまでもいつまでも俺は俺でいたいんだ。桔梗の事、頼んだからな」

「お前、俺に注文多すぎない?しかも難題…」

「だな。悪いと思ってるよ。高校まで俺に合わせてくれたのにな…」

「そうだよ、やっぱり南田には言うべきじゃ…」

「良いんだ。いつか忘れるよ、俺なんかの事。ほんのちょっとでも一緒に過ごせて良かった」

「ネリネ…」

「俺のメッセージは、きっと届くから。きっと、届くから」

“もう決めたんだ”

ネリネの顔は桐也と話している間中そんな決意に満ちたように見えた。






その日、ネリネが校庭から出て行くと、桐也は急いで職員室に向かった。

「失礼します」

「おぉ、なんだ、井上。登校にはまだだいぶ早いぞ」

「いえ、先生にお願いがあって…」

「願い?なんだ?」

「あ、はい。俺と、D組の南田を二年生になったら、同じクラスにしていただけませんか?」

「ん?なんだ?」

「ネリネ…遠野に頼まれているんです。俺、絶対南田を守らなきゃいけないんです。お願いします!」

そう言うと、桐也は深々と先生に頭を下げた。

「遠野か…、それは約束か?」

「はい」

「男同士の絶対の約束か?」

「はい!」

「ん」

「良いんですか?」

「ダメな理由はあるか?」

「あ、イエ…イエ!ありがとうございます!」




そんな会話が繰り広げられていたとは思わぬまま、あの神社へ逝った日以来、ネリネに会えないまま、冬休みが終わる前日、コンクールの発表展示会が開かれた。



その入り口で、桔梗は、心臓が止まりそうだった。本当ならネリネや桐也と一緒に発表を見にに来たかったが、二人ともその日は都合がつかないとかで、桔梗一人で、結果を観に行った。

桔梗の写真は入り口の隅に、


『まだまだですね』


とでも言われているかのように、飾られていた。

桔梗はショックを受ける間もなく、奥へ、少しずつ、少しずつ…近づいてゆく。




「!」




桔梗は、そこで、信じられない写真を目にすることになる。

ネリネの写真だ。




それは、ネリネと四回目に会話を交わした日に遡る。

あの日、ネリネが、急に体を半回転させて、その直後、四葉のクローバーを背中越しに、くれたあの日。



【幸運~私のものになって~】



と題された写真には、四葉のクローバーを嬉しそうに見つめる桔梗の笑顔が写っていた。

顔は泥だらけ。

手にはボロボロの軍手。

バックはまだ草をむしったばかりで、殺風景な花壇も写されていた。






「ネリネ君…」






桔梗は思わず嬉しくて泣いていた。こんなに自分が生き生きと写し出された写真は、初めてだった。

恥ずかしい…よりも、嬉しい…の方が、どんな言葉をかけられても、

〔恥ずかしいだろ?〕

〔みっともないじゃん〕

〔顔こんなでいいの?〕

〔泥まみれって何?〕



そんな言葉は、どの人の心に全く宿らない。

素直で、頑張り屋さんで、可愛くて、優しいんだな…。

そう、写真が語り掛けてくれる。





「ネリネ君…」





そして、その額の傍らには、【大賞】と金色の紙が貼られていた。

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