第12話 コンクール、頑張ります!
―次の日―
やっぱり桔梗は朝早くから校庭に来ていた。
昨日、ネリネと一緒にレンズを向けた梅の花が寂しそうにひらひら風になびいていた。
「ネリネ君…もう七時なのにまだ来ない…。やっぱり風邪拗らせちゃったのかな?」
すると背後から、
シャッターを切る音が聴こえた。
“まさか!”
と思い、振り返ると、
「ネリネ君!」
「はよ」
「ごめんなさい!」
桔梗はネリネのに申し訳なくて、挨拶する前に頭を深く深く下げた。
「何が?」
「え…だって、私がネリネ君風邪ひいてたなんて知らなくて、こんな寒い所でお昼食べようなんて言ったり、放課後写真撮ろうなんて言ったりしたから…」
「別に気にしてねーよ。俺自身も、写真撮るのに夢中になってたから、しゃーないの!桔梗は全然悪くない」
「うん。でも、ごめんなさい」
「おう。んじゃ、ちょっと俺の新しい挑戦、手伝ってくれ」
「挑戦?」
「“花と人”、俺、今度の県の写真コンクールに応募しようと思ってんだ。それで、花だけなら今までも出したことある日、あんま評価されなかったから、今度は“花と人”をテーマに撮ってみようと思ってさ」
「解った!私は何をすれば良いの?」
「なんもしなくていい」
「へ?」
「そのまま花にカメラ向けてて」
「それで…どうすれば…」
「だから、桔梗がモデル!花を撮るお前を撮る!」
「…え―――――――――!!??」
「…うっさ…」
桔梗のあまりの叫びっぷりに、ネリネはぼやいたが、どうしても桔梗を撮りたかった。
「無っ無理だよ!私がモデルなんて!お化粧も入学式の時だけだし、スカートも短くないし、つけまつげなんてつけた事もないし!」
「ク…」
「あ、今ネリネ君馬鹿にした?」
「してねーよ。お前のJKってそういうイメージなんだな」
「そうだよ!もっといいモデルさんが居るって!」
「いんだよ。そのままの桔梗で」
「でも…」
「こんな寒い中、昼飯食わせたり、放課後写真撮るのに付き合わせたせいなんだろう?」
「え?」
「お前がこんなだだっざみい所で飯食おうなんて言わなきゃ、放課後のお前の飽きない写真撮影に付き合わなきゃ、俺、風邪拗らせなかったのにな…」
「う…」
「あーまだ熱っぽいかも」
「うぅ…」
「寒気もとれやしねぇ」
「解りました!やります!やらせていただきます!」
今度、脅迫したのはネリネの方だった。
…桔梗の脅迫より、質は悪いが…。
「あ、始業のチャイム!教室行こう!ネリネ君」
「おう」
二人は慌てて教室に向かった。
(コンクールか…それって、私みたいな素人でも出して良いのかな?)
と言っても、桔梗は花以外撮ったことがなかったし、それもいちいちネリネに審査してもらって“やっと”と言った感じだった。でも試してみたい…そんな想いが湧いてきた。
お昼休み、桔梗はネリネを探して、学校中を駆け回っていた。
すると、視聴覚室でパンをむさぼるネリネを見つけた。
そして、何の躊躇もなく、桔梗はネリネに言ってのけた。
「ネリネ君!私もコンクール、応募しても良いかな!?」
「は?」
「ダメ…かな?」
「グ…」
(あ…この壊れかけたポーカーフェイス…笑ってる証拠だ…)
馬鹿にされたと思った。
しかし―…、
「なんで俺の許可いんだよ。出したいなら出せばいいだろ?」
「でも、私本当に素人だし、センスとかも全然解らないし…」
「いいんだよ。自分が良いと思うもの出せば。色んな感性で審査するんだ。どんな写真が審査員の目に留まるかなんて、誰にも解んねぇんだから」
「そう?本当にそう?」
「うん」
「そっか…そうだよね?うん。解った!私も出してみる!」
「何題材にすんの?」
「もちろん花だよ。私、ネリネ君に花の撮り方しか教わってないもん!」
「でも、カメラは色んな…」
「良いの!初めて花の魅力に気付いたのがネリネ君のおかげで、そのネリネ君にもらったカメラで、何を撮るかなんて、もう花しかない!」
「桔梗らしいな」
「うん!」
桔梗の意気込みが、写真よりネリネに注がれているような気がして、ネリネは、赤い頬を隠す為、桔梗に背を向けた。
こうして、二人のコンクールの題材が決まった。
その日から、桔梗は勉強や、環境委員の仕事も、ちゃんとこなしながら、四月にあるコンクールまで花の写真を撮りまくった。
そんな桔梗を特別な眼差しで見守り、桔梗は自分の撮影だけで気付かなかったが、ネリネは、シャッターを切る事はなかった。
そう。ネリネの作品は、もうずっと前から出来上がっていたのだ。
桔梗も知らないところで…。
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