第10話 直感。ネリネの秘密。

次の日から、桔梗とネリネの新しい日々が始まった。

「こういう影とかのコントラスが良い感じ出すんだよ」

「そうなんだ。じゃあ、右から撮ればいいの?」

「そうだな。初心者には良いアングルなんじゃね?」

「そっか!えっと…このボタン押して…」

「そう。そこ回すんだよ」



桔梗がネリネから引き継いだカメラは、大きな望遠レンズのついた、デジタルカメラだった。だから、どんな写真が撮れたか、すぐ見る事が出来た。



「ん?」



ふいに、ネリネがなんとも言えない表情で、桔梗のすっとぼけた声に反応した。

「ネリネ君…ネリネ君が昨日まで使ってたのって、フィルムのアナログカメラじゃなかった?」








(気付かれた…)






「もしかして、これ、おさがりなんかじゃなくて、私の為に買ってくれたの?」


「…良いだろ!?俺が新しいの買いたくなったから、ついでだよ!」

ほとんど逆ギレだったが、ネリネはやっと、桔梗に

『誕生日、おめでとう』

が言えた。

いつものポーカーフェイスを何とか引きつりながら。



そんな、貴重な顔を残念ながら、見る事は出来なかった。

カメラを手にして、そのカメラにしか、目がいかなかかった。

「ありがとう…ありがとう!ネリネ君!私…私…無理かも知れないけど、いつかネリネ君みたいに、もっと花に詳しくなって、花の写真いっぱい撮って、カメラマンになる事、目標にする!」

キラキラ光る、桔梗の笑顔に、思わず、頬が赤いまま視線を送ってしまうネリネ。


その時、

「ゴホッ!ゴホッ!」

急にネリネが苦しそうに、咳き込みだした。

「ネ、ネリネ君?大丈夫?」

「あ?あぁ、平気平気。ちょっとむせただけ。ゴホッ!」

否、只むせたにしてはかなり苦しそうだ。

「ネリネ君?」

心配そうにネリネの顔を覗き込む桔梗。

そう言ったネリネのもう一つの変化に、桔梗は気が付いた。

ネリネの手の平から指先にかけて、赤いポツポツが出来ていた。

「ネリネ君、そのポツポツ何?」

「あー、これ?ただのアレルギー。俺、猫アレルギーなんだけど、今日学校来る途中に猫捨てられててさ、それ構ってたら、これ出た。心配ない。すぐ治る」

「そっか…」

「桔梗、教室行け。俺は今日さぼる」

「え?」

「じゃあな」



そう言うと、足早に、ネリネはその場を立ち去った。


その光景を、校舎の三階から見つめていた。




“何か私に言えない秘密がある”



桔梗の中で、そんな予感がした。

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