第9話 桔梗、カメラマン!?

入学して、三ヶ月が経った頃、桔梗はネリネにこう尋ねられた。

「桔梗ってそろそろ誕生日なんじゃねぇの?」

「あ、うん。七月二十二日だよ。でも、なんで分ったの?」

「桔梗の最盛期は六月から七月だからな。間に合って良かった」

「え?間に合う?」


「ほれ!」


少し乱暴に手渡されたのは、カメラだった。

しかも、ネリネが昨日まで使っていたカメラだった。


「こっこんな大切なものもらえないよ!」

桔梗は慌てて返そうとした。しかし、

「いんだよ。俺はもっといいの買ったし、見ろよ、これ。恰好いいいだろ?」

「そ、それはもちろん格好良いけど…でも…」

「もらってやれよ、南田。ネリネがプレゼントなんてこれ逃したら、一生もらえないかも知れないからさ」



「なんだよ、桐也。お前には毎年やってるだろ?」

「あぁ、たっぷりもらってるよ。花の写真をたんまりとな」

「わ、私も写真の方が…」

「いんだよ。桔梗はカメラで。桔梗は勘だけど、いいカメラマンになれると思う」

「え?私がカメラマン?無理だよそんなの!今まで触ったこともないのに」



「これから触ればいい。いっぱい撮って、いっぱい良いものを見つければいい。桔梗は花嫌いか?カメラ、何の興味もなかったか?」


「それは…ネリネ君のおかげでお花大好きになったし、ネリネ君のファインダーに何が写ってるのか…悲しい花や、嬉しい花、笑ってるチューリップに、泥だらけの私の顔…。ネリネ君の世界に写るもの、見てみたかった」


「じゃあ、良いじゃん。俺と桔梗、どっちが有名なカメラマンになるか、競争しようぜ」

「え…もう!勝手に決めないでネリネ君にかなうわけないじゃん!」

「ははっ」





(笑った…ネリネ君が初めて笑った!)



この時、桔梗は、ネリネにもらったそのカメラで、ネリネが今までどんな花を、どんな気持ちで、撮っていたのか、無性に知りたくなった。

ネリネは、本当に花が好きで、カメラが好きなんだ。


この時、桔梗は、ネリネが言った、は冗談だと思った。でも、桔梗も、カメラで花を撮ってみたい、自分が育てた花々を、と。


カメラマンなんて、どうやったって出来ないけれど、自分の趣味で撮るのは誰にも何にでも、迷惑はかけない。じゃあ、良いじゃないか。と桔梗は決めた。



「ネリネ君、このカメラ、本当にもらって良いの?」

「あぁ。桔梗なら良い」

「じゃあ、使い方とか、撮り方のコツとか、色々教えてね」

「良いけど、朝だけだからな」

「うん!ありがとう」

「おい、南田まで俺の誕生日に花の写真たんまりと贈ってくんなよ?」

苦笑いしながら、桐也が言った。

「うん!ネリネ君みたいにいい写真撮れるようになったら贈るね」

「だから要らねぇの!」

三人は、お昼休みの校舎裏の日陰の花壇で、そんな会話を楽しんでいた。

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