第10話 倒れぬ魔人と逃走劇
「ぬおおおおおぁああああああああ!!!」
変態野郎が光に叫ぶ。捨て身の必殺技が来るとは思わなかったのだろう。直後、10万ルーメンの光が俺を吹き飛ばす。砂地をゴロゴロ転がっていく。力を使い果たしたのか,来ていた服は私服へと戻る。砂に顔を突っ伏した今,正直ここで意識を手放したいところだ。ピンクの獣はこれで追い払えるとは言った。言う通りであればここで寝落ちしても問題ないだろう。だが俺はそこまで油断しない。こんなこともあろうかと、ウィスキーを買うついでに、二日酔い対策で買ったウ〇コの力と栄養ドリンクを持って来ておいたのさ!【大嘘】。小さなドリンクを二つとも焼けた喉に流しこむ。盛大にむせる、が吐くよりかましだ。後はもう走るだけ。なけなしの体力を絞り出し、駆け足でその場を一目散に去る。変態もピンク色もそのままに。
あばよとっつぁん、ずらかるぜ。家に帰って寝不足の幻覚とはおさらばだ。
にぃ~げるんだよォ~。
△
不意につかまれた足首。それだけなら何もないが、そこから己の出せる最大の魔力を打ち出す大胆さ。完全に油断していた。光と力の奔流である爆発。我は直撃し、彼は吹き飛んだ。我が圧倒的に優位であった初戦闘は、辛くも彼の逃走、いいや勝利で幕を閉じたようだ。
彼の体力の損失から、逃げれる範囲は限られる。そう考え追って捕まえようも、砂場の足跡の先はアスファルト。こちらの魔力は防御で使い切り、彼の足止めはもはや不可能であった。
「やるな僕ちゃん。また会いましょう。」
口にした再開。その場所と時は戦場か、彼のプライベートか。我は作戦を練り始める。今度こそ奴を確実に捕まえるため。今度こそ奴を屈服させるため。
*
起きる。明るい。日はまだ高い。時計をみる。午後。14時。完全に土曜日を潰した。用を足す。歯磨きする。水を飲む。寝不足だったせいか、奇妙な夢にうなされていたのか。体と脳はさらなる休息を訴える。
俺は「ノブオ」。研究・就活に失敗して酒浸りのどこにでもいる大学院1年生。
学部の友人はみな就職して、面接だけで入れると先輩にそそのかされて院進した。日本の未来を暗くする怠惰で無気力な学生の一人。酒におぼれ、インターンと面接、自己分析に疲れてしまう。社会人や奨学金をもらっている同期と比べ、親の脛をまだ齧ってる。ダメな自分に嫌気がさす。しかし思いだけでは日常は変わらない。気持ちだけでは自分は変わらない。ぐるぐる頭を回りだすネガティブな言葉。いつもの朝。いつもの寝起き。
「早く顔をあらうミア。」
幻想にまで説教垂れられる昼下がり。いや、お前は夢で海岸に置いてきた。うん。
「なんでいるの?」
お前は夢で海岸に置いてきた。夢じゃなくても置いてきた。
「ミーは聖霊ぞ?普通についてきたミア。戦いも終わってないし、これからもっと忙しくなるミア!」
思わず顔が引きつってしまった。もうあんな吐き気はごめんだ。何とかしてこいつを成仏させなければ、平穏な日常はやってこない。
「オマエ、確か呼び名なんかあったよな。なんだっけ。」
これは単なる思いつきである。正しく呼んでやればこの幻覚は成仏してくれるかもしれない。
「よくぞ聞いてくれた!ミーの名前は―――」
日常は変わる。思いだけじゃなかったから。
俺も変わる。気持ちだけじゃなかったから。
泥酔から始まった出会いと行動は、俺を巻き込んでいくだろう。
始まるのはきっと、不快で不潔で、でも自分のやった行動にどこか心がスカッとする話。窓から差し込んだ日光が俺を照らしてくれた。
少女ヒーローアニメ妖精と日中泥酔ダメ男 完
「勝手にエピローグ入れるなミア!!」
【大嘘】次回予告
現れた宿敵。定められた運命。命を削って手に入れた自由。青年は戦士への覚醒とともに、
次回! 少女ヒーローアニメ妖精と日中泥酔ダメ男 第拾壱話
斥
候、襲 来
髭男,徹夜して泥酔したら魔法少女になりました。 サボテンの汁 @sabosabotenten
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