第4話 変態男と精神攻撃
「オマエは『デス・インザ・モーニング』ミア!」
ピンク色が喚く。引き留められたことから、俺は海に身投げしようとしていたことに気付く。おかしい、普段あまり考えないことを頭に浮かべていた。
「そう。我が名は『午前の死』。世界中に二日酔いをもたらす悪魔。僕ちゃん、キミを探していた。」
丈の異常に短いスーツにハイレグパンツ白タイツという悪魔みたいな恰好をした男は、透き通る低い声で名前と野望を口にした。男は俺を見据える。恰好はともかく名前には聞き覚えがある。ヘミングウェイ考案のカクテルの一つ『午後の死』をもじったのだろうか。
「僕ちゃん、早速で悪いが苦しんでもらうよ。」
肩に置いた手を喉へスライドさせる。急な動きに何もできないまま、顎を高く持ち上げられてしまう。息はできるが苦しい。
「いますぐ放すミア!」
「心配するな妖精。別に殺しはしない。二日酔いになってゲロを吐いてもらうだけさ!」
最悪じゃねえか。そんな言葉は締め上げられた喉から出るわけもなく、ハイレグ男の言う通り悪心がはじまる。あまりの気持ち悪さに身をよじる。喉を締め上げる苦しさがさらに悪化する。尊厳に掛けてこんなところで吐きたくない。
「っくっく。我慢比べをするかね僕ちゃん。いいや選ばれた『光の戦士』クゥン!我は僕ちゃんが生きていて程よく苦しんでくれるほうが喜ばしいんだよ。そうだ、もっと精神的にいたぶってやろう!僕ちゃんが自殺すらできなくなるようにな!」
この男、俺を肉体的ではなく精神的に殺そうとしてくるのか。くっ,こんな奴に絶対に屈しないんだから!
「僕ちゃんが小学校3年生の時に考えた『さいきょうのひっさつわざ』。その名も『ダークネス・ドレイン』。聖なる力を歪んだ魔力に還る能力!その身に受けるのはどんな感想かね?!」
ぐうわあああああ!名前を聞くタイミング最悪だし精神的にくる。恥ずかしい。最強だわこれ。
「僕ちゃんが中学校のとき片思いしていた同学年の子。イケメン高収入子供の面倒見がよくって家事洗濯料理のできるいいとこどり彼氏と幸せな家庭を築けているようだな!もうすぐお子さんが小学生だって!」
ぐええええええ!!ヤメテ。俺の対偶みたいな存在を出すのを。そういうキラキラした存在をあえて見ないようにして生きていたのに。どうせ俺は醜い学生で子供嫌いのひげ面アルコール中毒ガチャ依存症だよ。自分で言っててかなりきつい。
「僕ちゃんの大学の卒業した友達、僕ちゃんが金銭的に行くのをためらったライブにボーナスで行ったんだってね!立派に社会人してるねえ?!」
ぐぅおおおおおお!今でも後悔してるんだよ。『お前もライブに来るなら後で打ち上げ行こうぜ!!』って言われたけど断ったの。そのあとに来た『そうか。大学院頑張ってな。』の一言がさらに俺を苦しめる。悪かった友人、忙しいなんて見栄張って。酒に金を使ってしまったんだ。
俺は完全に意気消沈した。喉から手を離されて無様に地面に倒れる。立ち上がることはおろか、むかつきに耐え切れず胃の中をぶちまけてしまう。
「大丈夫かミア!?」
幻覚のくせに心配なんて殊勝なことすんじゃねえ。黙ってろ。
「ックックック。やはり光の戦士だ吸い取れたエネルギーが素晴らしく濃密だ。毎年光の戦士の妨害で失敗していた世界征服も夢ではなかろう。」
酸により痛めつけられたガサガサの喉が声を出すのを妨げる。それでも奴に聞かなくちゃいけないことがある。大きく息を吸い込み、奴に問うた。
「てめえ、なんで俺をそんなに知っていやがる。」
「いい質問だ僕ちゃん、いいや元光の戦士君。教えてやろう。」
変態男は滔々と話し始める。
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