第3話 計画倒れとブルーな気持ち
酒代をもらえるとウキウキしながら足を運ぶ。このピンク色の幻想は幻想ではなく、ドッキリ用のおもちゃであると『分かってしまった』。なので積極的に話しかける。話の内容をふんふんと聞いているふりさえする。そのほうがドッキリとして映えるからだ。そうすれば撮影したやつも笑って金を払うだろう。金がもらえるなら恥も外聞も気にしやしねえよ。どうせ深夜のど真ん中、俺は大学からほど近い海岸へと向かった。
この途中でなぜ奴の話を聞いていなかったのだろうか。目的の場所についた今、風吹きすさぶ海岸には機材のセットも人影もなかった。
「なにを驚いてるミア?」
なんだてめえ。おれの悪だくみがおじゃんになったじゃあねえか。行き場のない苛立ちしか残っていない。喉元まで出かけた暴言をウィスキーと一緒に飲み込む。ドッキリじゃないと分かってしまった俺は今までの行為を後悔した。俺に話しかけているのはドッキリ用のおもちゃではなかったのだ。ただの幻覚。酔っ払いの幻覚。
「なにをどうしたらそんなに落ち込むミア。さっきまであんなにウキウキだったのに。『じょうちょふあんてい』すぎてオマエが心配になってきたミア。」
うるせぇ。ちくしょう。やけくそで最後の一滴を飲み干す。
段々と苛立ちが悲しさに変わっていく。アルコールは腹を満たさず、寂寥感が胸を満たす。風は強く当たる。夜明け前の寒さがより孤独を浮き彫りにする。寄ってきては引き返す闇が、俺を拒絶しながらも、どこか呼んでいる気さえもした。
波を眺めて、このピンクの奴が表れた衝撃で忘れていたことを思い出す。親のすねかじり、泥酔男、ダメ人間。ああそうだよ。受験も恋愛も学生生活もおじゃんにして、それでも太い実家だったからのうのうと学生しているような生きる社会ゴミだよ。ああ、そう思うとこのピンク野郎が死神に思えてくる。俺をあの世へ導く死神。
「本当急にどうしたミア?!海の中には用事ないミア!!」
幻覚がまた喚く。もう喉を傷めなくていい、おとなしく海に還るから。暗闇へ向かおうと試みる。
「違うミア!オマエを死なせるためにここに連れてきたんじゃないミア!!戻るミア!」
もういいんだ。ここ最近酒浸りだったからな。みんなに呆れられて、愛想をつかされて、友達はみんな就職して立派な社会人になった。安堵のような物を求めて、つめたい闇に受け入れられようと足を交互に動かし続ける。しかし不意に肩に置かれた手に止められる。
「その身を海に沈めるつもりなら、冥土の土産に話を聞きな。」
幻覚とはまた違った声に振り返る。大柄のそいつは夜の中でよく目立つ――よく目立つ白タイツでハイレグだった。
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