第2話 聞かない話と回らぬ頭

「ようやく話を聞く気になったミアね。」

「泥酔野郎が一人でしゃべってるだけだよ。」

 目の前のピンク色の獣もとい、ぎゃあぎゃあ騒いでいた幻覚は「何とかミア」とかいう名前の妖精らしい。

 世界が大変になるとか、原因の悪党がいるとか、最近の学生はうんたらとか、酒を飲みすぎだとか、おまえのスマホゲームの課金額がおおいとか。まるで自分の親の代わりのように説教を始める。このままだと時間ばかりが過ぎる。ポケット瓶のウィスキーをひと煽りしたあと、意を決して妖精に語り掛けるように独り愚痴る。

「それで、なにをすればガチャに悪戯すんのやめるわけ??」

「よくぞ聞いてくれた光の戦士!」

 やっぱ反応すんだなこいつ。

「きみにして欲しいことはただ一つミア。変身して悪党を倒すミア!」

「そういうふわっとしたことは1 ml も聞いちゃいねえ。具体的に、どこで、だれに、なにを、どのように、いつまでにやりゃいいかって言ってんだよ。」

 俺はWhy以外の話の内容を4W1Hで聞き出す。このピンクの獣は顎に手をあて考えるふりをする。いや考えてなかったのかよと突っ込もうとしたその時、獣が口を開く。

「いまから、このコンビニから結構離れた人気のない海岸に行って、そこに現れる悪党幹部、同じくそいつの計画を、変身してやっつけるミア。」

 はいでました。『いまから』だと。こっちの面倒を考えてくれよ。疲れた帰り道にそんなこと言われたって『はいそうですか』って言うわけねえだろ。第一なんだ変身って、そんなことできませーん。

 だんだん話す幻覚にムキになりそうになるが、よく考える。こいつ今変身とか言った。なんで日曜朝にやってる子供向け番組の人気No.1の単語がここで出てくるんだろう。

「おまえテレビ、特撮とか知ってるの?」

「『とくさつ』?聞いたことないミア。『てれび』はたしか光る板ミアね。」


 ほおーん。このピンクの獣はとぼけているようにしか見えない。なんとなく今後の展開を察した。俺が見てるこの幻覚っぽい奴は、憎たらしいどっかの誰かが遠隔で動かしている。そんでホイホイ指示に従った結果『検証ー最近の若者はぬいぐるみの言うことを聞くのかドッキリ!成功しました~!!』とかいうあれだ。

 良くないことを思いつく。いい絵が取れた瞬間ブチ切れる。『SNSで広めて企画を台無しにするぞ、やめてほしいなら500円 払いな。』切れ方に対してバカみたいな少額に驚いた撮影側、もとい大事にしたくない配給会社は酒台をすんなり払ってくれるってわけだ。酔って疲れて回らないこの頭ではよく考えたもんだ。


「よしわかった。人気のない海岸に行けばいいんだろ?近づいたらてめえが案内しろよ。」

「良からぬことを考えてるミアね。ついてきてくれるのは助かるから今回は見逃すミア。」


そうと決まれば重い腰を上げる。今から酒代要求の散歩が始まるぜ!

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