第17話 商店街の中の映画館

 映画館の夢を見る時がある。


 自分が小学生の頃、映画館と言えば、そこだった。


 商店街の中にある映画館でドブ川の橋の袂にある映画館で隣はパチンコ屋だった。

 古い映画館だったがかなり中は広く、一般席の他に二階が特定席で入場料を払ってから、売店で特定席を再び買うシステムだった。


 チケット売り場から狭いか段を上り一般席と売店のあるフロアに出る。インベーダーゲームが流行った頃はフロアの片隅に設置してあって、併映の映画が詰まらない時はそこで時間を潰す。

 時間を潰す為の映画館で又時間を潰すというのは屈折しているが、アイドル映画全盛時代の頃はそれが普通であった。

 映画が目当てではなくて、アイドルが目当てなのだ。

 自分が近所に住んでいた小学生時代はチケット売り場横で立ち食い蕎麦とたこ焼きを売っていた。

 小遣いが入るとおやつ代わりに、立ち食いそばを食いによく行った。

 今から考えれば、客の殆どは隣のパチンコ屋の為のものだろう。

 中学の入る頃にそこは閉店させて、映画館のみになったが、何故かあの安っぽいそばを食いに行った。

 パチンコ屋の向こうは飲み屋街で子供が言ってはいけない所だったが、母親が旅館を止めてしばらく近所でスナックを開き、小学生がてらにうろちょろしていた。

 うちの母親の店はドブ川のもう一つ向こうの橋の袂に合った。

 その反対の袂に大衆食堂があり、そこでよく飯を食った。

 美味い不味いは別問題の労働者階級の腹を満たすだけの昭和の大衆食堂だった。

 周辺がそういう具合の映画館だったが、閉館したのは自分がその土地を離れて、10年ぐらいしてからだった。

 いわゆる、シネコンと言うものが出始めた頃で、近所の洋画のロードショーを放映していた映画館も次から次へと閉館したらしい。

 シネコンのスタイルから見れば、小汚い場所で映画を見るより、綺麗な環境で映画を見たいという「ファミリー層」の出現に負けたのだ。

 何度か、余計に払い特定席で映画を見た事があるが、大きい画面を見渡せてその価値はあったかなと思うが、自分以外は人はいなかった。

 そこは東宝系の直営館で、アーケードを抜けた大衆演劇の小屋みたいなのが、東映直営館だった。

 洋画は東宝直営館の近所にあって、何故かデパートの裏であった。

 だが、そこでスターウォーズを見た記憶は残っている。


 夢に出てくるのは、その猥雑な環境の夢だ。


 そこを徘徊しながら、目が覚める。


 もう一度、徘徊しようとしても、その光景には行きつけない。


 あの場所に行っても風景は変わってなくなってしまっている。


 目が覚めると、いい年をした大人なのに、迷子になって茫然している。

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